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異界の住人たち  作者: misato
Ⅱ. 吊られた男~寄生
23/53

ii.

 私は慌てて後ろに下がった。

 ショートカットで色白の女の人が出てくる。どこかで見たような、と思い驚いた。学校の家庭科担当の教師だった。

 向こうも私を認め、私以上に驚いた。あなた、斎木さいきさん、といった。

「青山先生」

 先生は気まずそうに目を伏せた。

 私はにっこり笑って、こんにちは、といった。教師が雑貨店に来てはいけない、という法はない。

 続いてドアの陰から、背の高い人の姿が現れた。

「あ、いらっしゃい」

 私を見て、穏やかな声でいう。店長だった。

 青山先生は、明日よろしくね、と小さい声でいいながら脇をすり抜けた。店長が、ありがとうございました、と彼女を見送って、ドアの『Closed』を『Open』にひっくり返した。

「どうぞ」

「いいんですか」

「うん。もしかして、覗いてた?」

 おかしそうに笑う。見られていたのかな、とちょっと恥ずかしくなった。

「あれって、マジックミラーですか」

「そう。中からしか見えない。よくないよね。時々、外であれを見て身だしなみを整えている人がいて、びっくりする」

「お店、お休みだったんじゃ」

「ああ、今の人が占いしてほしいっていうから。今おれ一人しかいないでしょ。占い中にお客さん来てもレジできないから、閉めてたんだ」

 ずいぶん商売気がない話だ。だけど、さっき来たときも閉まっていたようですが。

 まさか、ずっと占いしていたとか? 

「放課後も菜摘たちと寄ってみたんだけど、そのときも閉まってて。今日はお休みの日かなのかなって思いました」

 ああ、と店長は思い至って、「そのときは、大学」

 大学?

「本業は学生なんですよ、おれ。ここはバイト。できるときだけ、店を開けてるの」

 そうなんだ、この人、大学生だったんだ。そういえば、まだ二十一っていってたっけ。

「今日はゼミの集まりがあって、いつもより遅かったんだ。さっき戻ったところ」

 ゼミの集まり。よくわからないけど、いかにも大学生っぽい響きだ。店長は、話しながら占いスペースに消えた。

 あのさ、とすぐに中から声がした。パーティションの向こうを覗くと、店長がタロットカードを持ったまま立っていた。

「今の人って、知り合い」

「青山先生のことですか」

「名前は知らないんだけど」

「学校の家庭科担当の先生です」

「そっか」

 彼の顔に、気遣わしげな表情が浮かんでいるのに気づいた。

「先生がどうかしたんですか」

「うん」

 店長はタロットカードに目を落とす。彼に近づくと、その図柄が目に入った。

 奇妙な絵だ。男の人が縛られてつるされている。昔の拷問とか、そんな感じだろうか。

 なんにしても、これも『死神』と同じく、いい意味のカードではなさそうだ。先生の占いの結果はよくなかったようだ。

 いや、店長は別に本物の占い師ではないのだっけ。となると、このカードには特に意味などないのかもしれない。

「ちょっと気になってね」

 店長がいった。

 この人が気になる、ということは。

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