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異界の住人たち  作者: misato
Ⅰ.死神~闇のストーカー
19/53

xviii.

 店長は意表を突かれた顔になった。

 少しして、不思議な人だね、君は、といった。

「不思議、ですか」

 ええと、褒められている、わけではないような。

「怖がるかと思ったよ。この力のこと察したり考えたりした人は、だいたいそうだから。あるいは嫌だとか、気持ち悪いとか」

「でも、わかる方だって苦しいです、きっと。人の気持ちって、いいものばかりじゃないから」

「うん、まあね」

 彼は小さく頷く。

「でも、人のこと勝手に覗くんだからなあ。覗かれる方の視点が普通だよ。中身がひどいもので、それを見てこっちの具合が悪くなったとしても、見た方が悪い──きっと皆そういう」

 それはまあ、そうかもしれない。

 やっぱり私は、普通の人と認識がずれているのだ。

「たまに、羨ましいって思う人もいたりするけど」

 店長は、了解しかねるといいたげに首を振って、

「でも、自分が見られる立場になるって考えれば、やっぱり、ね」

「羨ましいなんて」

 それこそ変わっている。

 人の本当の気持ちなんて、私は見たくもないし知りたくもない。たとえ知ったところで、どうなるものでもないとも思う。

「世の中には、知らない方がいいこともたくさんあるのに」

 私がいうと、店長はまた少しだけ笑った。優しげな微笑だった。

 そうして笑うと爽やかさが増して、年も二、三歳くらい下がって見えることに、不意に私は気づいた。

 この人、こんな顔で笑うんだ。

 だけどまさか、笑顔が素敵ですね、ともいえない。私は黙ったまま彼をみつめていた。

 それがもうひとつの彼が抱えているもの。そして、逃げ出したかったり、もう嫌だって思ったもすること。そういうこと、なんだ。

 だけど人は、怖がったり嫌がったりもするっていう。なんだか切ない。

 あれ、でも、ってことは、もしかして。

 だったら、もしかしてこの話ってとんでもない秘密、なのでは。

そう思い当たって、私は落ち着かない気持ちになった。

「あの、どうしてそのこと、私に」

 ためらいつつ訊ねる。

「どうしてかな」

 店長は、自分でもよくわからないというふうだった。

「たぶん、君も話しにくいことを話したから、かな。お互いさまってことで」

 確かに母の言葉を口にしたとき、私はとても苦しかった。

 だけど、それは私が勝手に話したことだ。質問したのも私だけど、でも別に彼に答える義務はない。黙ってたって誤魔化したって、構わないのに。

 この人は、それなのに、私にちゃんと応じてくれた、のだろうか。

 今までそういう人に会ったことがないので、よくわからなかった。

 そういうことですか、とも訊けなかった。

 不思議な人。そう、あなたこそ不思議な人じゃないか、と私は思った。

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