xviii.
店長は意表を突かれた顔になった。
少しして、不思議な人だね、君は、といった。
「不思議、ですか」
ええと、褒められている、わけではないような。
「怖がるかと思ったよ。この力のこと察したり考えたりした人は、だいたいそうだから。あるいは嫌だとか、気持ち悪いとか」
「でも、わかる方だって苦しいです、きっと。人の気持ちって、いいものばかりじゃないから」
「うん、まあね」
彼は小さく頷く。
「でも、人のこと勝手に覗くんだからなあ。覗かれる方の視点が普通だよ。中身がひどいもので、それを見てこっちの具合が悪くなったとしても、見た方が悪い──きっと皆そういう」
それはまあ、そうかもしれない。
やっぱり私は、普通の人と認識がずれているのだ。
「たまに、羨ましいって思う人もいたりするけど」
店長は、了解しかねるといいたげに首を振って、
「でも、自分が見られる立場になるって考えれば、やっぱり、ね」
「羨ましいなんて」
それこそ変わっている。
人の本当の気持ちなんて、私は見たくもないし知りたくもない。たとえ知ったところで、どうなるものでもないとも思う。
「世の中には、知らない方がいいこともたくさんあるのに」
私がいうと、店長はまた少しだけ笑った。優しげな微笑だった。
そうして笑うと爽やかさが増して、年も二、三歳くらい下がって見えることに、不意に私は気づいた。
この人、こんな顔で笑うんだ。
だけどまさか、笑顔が素敵ですね、ともいえない。私は黙ったまま彼をみつめていた。
それがもうひとつの彼が抱えているもの。そして、逃げ出したかったり、もう嫌だって思ったもすること。そういうこと、なんだ。
だけど人は、怖がったり嫌がったりもするっていう。なんだか切ない。
あれ、でも、ってことは、もしかして。
だったら、もしかしてこの話ってとんでもない秘密、なのでは。
そう思い当たって、私は落ち着かない気持ちになった。
「あの、どうしてそのこと、私に」
ためらいつつ訊ねる。
「どうしてかな」
店長は、自分でもよくわからないというふうだった。
「たぶん、君も話しにくいことを話したから、かな。お互いさまってことで」
確かに母の言葉を口にしたとき、私はとても苦しかった。
だけど、それは私が勝手に話したことだ。質問したのも私だけど、でも別に彼に答える義務はない。黙ってたって誤魔化したって、構わないのに。
この人は、それなのに、私にちゃんと応じてくれた、のだろうか。
今までそういう人に会ったことがないので、よくわからなかった。
そういうことですか、とも訊けなかった。
不思議な人。そう、あなたこそ不思議な人じゃないか、と私は思った。