xvii.
店の前を歩く子供たちの楽しげな話し声が聞こえてきた。無邪気な声が遠ざかると、店内の静けさが増した気がした。
私は店長をみつめる。今日は黒い七分袖のタートルネックにジーンズという服装だった。秋口だものな、と場違いに思った後で、小さく頷いた。
「聞かせてください」
よくわからないけど、なにかすごく大事な真面目な話をしようとしているのではないかという気がした。
店長はまた逡巡した後、話し始めた。
「あのとき」
思い出すように視線を上に泳がせる。
「君が倒れそうになって後ろから支えた。それであの男が見えた」
私はまた首を傾げた。
まるで禅問答だ。私が倒れそうになったとき男は既にいなくて。それで支えてくれたときには見えて。
それから、と彼は続けた。
「タロットをしたとき。君が、あの男につけ狙われていると感じていることがわかった」
それは、死神の絵がストーカーを連想させて──思ったところで思考がとまった。
それは私が考えただけのこと。口にはしていない。占いのとき、私は自分の問題について具体的にはひとことも説明しなかった。なのになぜ、彼はそれを知っているのだろう。
「おれね」
店長は、一瞬いいよどんだ後で、
「人や物に触れると、そこにある感情や記憶が見えてしまうんだ」
私はきょとんとした。人や物に触れると? それって、もしかして。
「え、超能力、ですか」
その言葉はすごく嘘っぽく響いた。自分でもいってて馬鹿みたいだと思った。
店長も僅かに笑う。だけど、うん、といった。
え、本当に?
「そうだね。世間一般ではそういうね、たぶん」
いや、世間一般では、そういう能力は架空のものだ。
私は店長を見つめながら考える。超能力。さっきまでの話でさすがにもう尽きたと思っていたのに、驚きの種がまだ残っていたとは。
魔物と魔物退治と超能力。どれも奇想天外で信じがたい話だというのに、なぜそれが、三つも揃って私のところに現れたりするのか。
人の感情や記憶が見える。見えてしまう、と彼はいった。
「ずっとですか」
「え」
「それって、子供の頃から」
「ああ、うん、そう」
店長は少し笑って、
「子供の頃は、それでほとんど幼稚園とか学校に行けなかった。なににも触れないからさ。小学校の担任はそれを見て、不潔恐怖だと思ったみたいで。病院へ行った方がいいって、何度も母親にいってたんだ。あれには閉口したな」
おかしそうにいう。
「笑いごとじゃないです」
私は驚いていった。
「そんなの、つらすぎる」