xvi.
だって人って、苦手だ。
容姿をほめるか意地悪するか、あとは無理にキスしようとしたりとか、そういう腹立たしいことばかりの男の子たちも苦手。
男の子たち以上に私の容姿を気にして、褒めつつたぶん嫌がっている女の子たちもそう。
誰も私の話を聞かないあの家族たちも、みんなみんな苦手だ。
けれど苦手といっても逃げ出す場所もない。男の子たちは、それでも近づかなければなんとかなるけど、家族や女の子たちはそうはいかない。
だから私はいつだって、ほとんど自分の意見はいわずに、相手のいうことに大人しく従って、話を合わせながら生きてきた。子供のころから、ずうっとだ。
その上、そんな努力にも関わらず、私はいつもなんとなく周囲から浮いているのだ。どこへ行ってもどこにいても、なにかがずれている。皆が夢中になって楽しむことも、全然楽しいと感じない。ごく当たり前の皆の世界に、きちんとはまっていない気がしていた。
どうしてなのかは、まったくわからない。たぶん母がいうように、他の皆ができている『なにか』が『ちゃんと』していないのだろう。
私がこんな気持ちでいることは誰も知らない。特に知る必要もないはずだ。
最近の私は、人だけでなく私をはめ込んでくれないこの世界さえ苦手になっている。世界はいつだって私の味方をしないのだと思えてならない。きっと私は、人も世界も信用していないのだ。
そのことに改めて気づき、私は愕然とした。なんとも救いようのない感じだった。
君は悪くない。店長はそういったけど、きっと儀礼的ななぐさめだろう。彼の沈黙がまだ続いているのが、その証拠だ。続きの言葉が見つからないのに違いない。
私は再び椅子から腰を浮かせていた。
心の中は後悔でいっぱいだった。社交に惑わされて、個人的なことをいったり訊いたりするべきではなかった。私の話も質問も、この人にはどうだっていいことなのに。
「君が」
店長が不意に口を開いた。
私はびくっとして、また座った。
「あいつに狙われてるって、どうしてわかったと思う」
「それは」
おずおずと店長を見ながら、初めて会ったときのことを思い出す。
「あのとき見たからでしょう、小路にいた男を」
「違うんだ。おれが見たときには、もう誰もいなかった。魔物の気配は確かにあったけど」
私は首を傾げた。
店長はなにをいいたいのだろう。意味を計りかねた。
彼は私から視線を逸らした。なにか迷っているように見えた。再び私に目を向ける。
「さっきより更に信じられない話になると思うけど、いいかな」といった。