xv.
「結局、ストーカーじゃなかったんですね。見た目は関係なかった」
私は思わず呟いた。
「え」
「いえ、なんでもないんです」
「ああ、君、きれいだからね。よくないやつに遭うことも多いんだろうね。つらいよね」
店長は優しい口調でいう。私は続けずにはいられなかった。
「お母さんは私のせいだって。私がちゃらちゃらしてるから、そういう目に遭うって」
「まさか。君は悪くない。悪いのは抑制のきかない連中の方だろ。それに、全然ちゃらちゃらなんてしてないし」
「でも、いつもいわれてて。ちゃんとしなさいって。ちゃんとってどういうことなのか、私、わからなくて」
こうして口にしてみると改めてひどいことだという気もした。涙が出そうになったけど堪えた。
泣いたってなにも変わらない。なにひとつ解決しない。我慢するのが一番だ。それがもっとも簡単で安全な策なのだ。
十五年と数ヶ月の短い人生だけど、私はそのことをよく知っていた。
「君は悪くない」
店長は再びいった。
「でも、悪くなくても嫌な思いをすることはある。人は自分が持って生まれたものとつき合っていかなくちゃいけないからさ。わかる?」
わかりたくはないけど、それは事実だと思った。持って生まれたものとつき合う。そう、私が私から逃げ出すことはできないのだ。
わかりたくはないけど、でもこの人にいわれると、なんとなく納得できる気もした。
どうしてだろう。
そうか。
たぶんこの人も、同じようにつき合っていかなくちゃいけないものを抱えているから、かもしれない。だって魔物が見えるなんて、きっとすごく大変なことだもの。
だけどこの人は、もう嫌だとか逃げだしたいとか、思ったりしないのかな。
私はつい、その問いを口にしてしまった。
彼は、うん、まあね、といった。
「魔物のことは、それほどでもなかったけど」
それから、はっとした様子になって口をつぐんだ。
なんだろう、と私は思った。まだ他にも抱えているものがあるの?
彼は困ったように沈黙した。余計なことをいってしまったんだろうか、と私は怖くなった。
「あの、いいんです。すみません、変なこと訊いて」
慌てて謝った。
助けてもらったりして気が緩んでいたけど、考えてみればこの人は全然知らない人だ。
その上私は今まで、男の人と──どころかほとんど『人』全部と、ちゃんとした話をした経験がないのだ。