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異界の住人たち  作者: misato
Ⅰ.死神~闇のストーカー
14/53

xiii.

 私は彼を見たまま言葉の意味を反芻した。

 人間じゃない。人間じゃ──。

 私は頷く。頭のどこかで、薄々そう感じていたことに気がついた。

 あの不気味さ。禍々しさ。およそ人とは思えなかった。あれが普通の人間だという方がよほど怖ろしい。

「ってことは、幽霊、かなにか」

「うん、いい線いってる」

 私が、彼のいったことを頭から否定したり、とり乱したりしなかったからだろう。驚きと感心が入り混じったような口ぶりで店長は応じた。

「この世のものじゃないっていう点ではね。幽霊は違うけど」

「じゃあ、なに」

「オーラ・ヴァンパイア。魔物だね」

 なにをいわれても、さっきの消失場面目撃よりは驚くまい、と思っていたけど、さすがにこれにはびっくりした。

「魔物? ヴァンパイアって、吸血鬼のことですよね」

「そう。でも、あれが吸うのは血じゃない。オーラ、まあ生体エネルギーとでもいったらいいのかな。それが主食」

「主食って」

 男の手が私にのびてきたことを思い出す。あれに捕まっていたら、エネルギーを吸われていたということか。

 生体エネルギー。私が生きている力、みたいなものだろう。それを吸われたら、どうなっていたんだろう。

「危ないところだったんだよ。あの手に触られたら、場合によっては一瞬で心停止」

 店長は穏やかな笑顔でいう。そんな顔でいわれても。

「死んじゃうんですか」

「必ず死ぬとは限らないけど。可能性は高いね」

 背中に鳥肌が立った。

「でも運がよかったよ。場合によっては、助けることだって無理だったかもしれない」

「どういう意味ですか」

 本当に運がよければ、こんな目には遭わないだろう、と思いながら私は訊いた。

「ああいう弱い魔物は、普通の元気な人間を一気に襲うことはできない。だから目をつけた後、しばらく怖がらせたりして、相手を精神的に弱らせる。で、適当なところで襲う」

 それはまさに、さっきまでの私の状況? 

「つまり、狙われてから襲われるまでに多少時間があった。その間に気づいたから助けられたんだ。もっと力の強い魔物だったら、そんな手間はかけないよ。目をつけた瞬間にもう襲ってる。助けるのはほとんど無理だ」

 無理って。

 改めてぞっとする。やっぱり運がよかったのかも。でも。

「目をつけられたって。なぜ。私のせい?」

「連中が狙うのは大抵、十代の子なんだ。彼らの目的は相手を殺すことじゃなくて食事だからね。なるべく効率よく、楽にいきたい。ティーンエイジャーってだいたい、身体のエネルギーは充分だけど、精神的にはまだ発達途中で不安定でしょ。ちょっとしたことでネガティブな感情を抱きやすい。そういう感情って魔物と親和性が高いから、襲いやすいんだよ」

 そうなんだ。

「その上、君の場合、最近なにか悩みごとを抱えていたんじゃない。あの男のこと以外で」

 きっと母の別居のことだ。私は頷いた。店長も頷くと、たぶんそのせい、といった。

「それで気持ちが落ち込みがちになっていて、魔物の目に留まったんだ。最初から弱っていれば、余計襲いやすいからね」

 そうだったんだ。

 どうにも信じられない話だけど──。

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