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異界の住人たち  作者: misato
Ⅰ.死神~闇のストーカー
11/53

x.

「明日はお昼過ぎに出るから」

 夕食のとき母はいった。私は黙って頷く。父は今日も遅いらしい。食卓には三人しかいなかった。

 普通に起きて見送るべきか、寝過ごして(あるいは、そのふりをして)不満の意を表するべきか。

 私は迷ったけれど、よく眠ることもできず、結局普段より早起きしてしまった。寝過ごしたふりをしたところで、意を酌まれなければ単なる寝坊でしかない。淡々と午前中を過ごした。

 出ていく二人にかける言葉にも迷った。いってらっしゃい、は帰ってくる人にいう言葉だし。さよなら、もさすがに変だ。面倒になったので黙っていた。向こうは、じゃあね、といって出ていった。

 私は閉まったドアを見つめた。家の中が急に静かになった。耳が痛くなりそうなくらいの静けさだった。家には私以外誰もいない。父もゴルフかなにかで、とうに出かけていた。

 これからどうしようか、と思った。恐ろしいくらいに自由だった。私がこれからなにをしようが、当面誰も気にしない。どうでも好きにしていいのだ。

 といって、なにか楽しいことを思いつくわけでもなかった。仕方なく、洗濯しながら掃除をすることに決めた。

 洗濯物は二人分ではあまりに少なすぎたので、自分のシーツやパジャマも放り込んで洗濯機をまわした。家中を掃除機とモップで綺麗にしたところで、洗濯機が終了を知らせてくる。二階のサンルームに洗濯物を干した。

 私はいったいなにをしているんだろう、とも思った。置いてけぼりにされたというのに、こんなに冷静に家事などしていていいのか。それよりも、怒り狂って家中のガラスを叩き割るとか、家具を投げつけるとかする方が正しいのではないかという気もした。

 だけど、そんなことをしたって、片付けるのは結局自分だ。憂さ晴らしにさえならないだろう。これが現実なのだ。冷静なわけではない。他にどうしてみようもないだけだ。

 それに、もし父一人になったとしたら、この家はたちまち荒れ果ててしまうに違いない。あまり家にいない人ではあるけれど、子供の頃父は、どちらかといえば姉よりも私を可愛がっていた。母が私を置いていったのは、そういう理由もあるのかもしれない。子供が二人いるんだから一人ずつ、というのは、単純に言葉どおりの意味なのかもしれなかった。

 洗濯物を干し終わる。今日も天気がよかった。昨日に比べるとかなり気温が低いらしく、陽だまりの暖かさが心地よかった。そういえば、週明けにはもう十月に入る。秋だからこんなに空が高いんだ、と窓から外を見ていたら、一人きりがいたたまれなくなってきた。

 やることもなくなったし外出でもしよう。

 視線のことを考えると怖かったけど、もうどうでもいいという気持ちもあった。これ以上家に一人でいては、どうにかなってしまいそうだった。

 一応は用心して裏口から外に出た。昨日は慌てて家に入ってしまった。もしもあの男がずっと見張っていたとしたら、家までわかってしまったかもしれない。

 そうだとしたら困ったことになるだろう。馬鹿だったなと思ったけど、あのときは他に方法も考えられなかった。仕方がない。

 もしかしたら気づかなかっただけで、もっと以前から見張られていたという可能性もある。家なんてとっくに知られているのかもしれない。だからあの男は家の近所をうろついていたとか。

 いずれにしても推測でしかなかった。そうすることにどれだけの意味があるのかよくわからなくなりつつ、とりあえず裏口から外を窺った。なぜ自分の家から出るのに、こそこそしなければならないのかと腹立たしくもなってくる。

 男は見当たらなかった。外に出て歩き始めた。

 だけど、どこへ行こう。

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