序章。好きな物
親父が財閥で、その配偶で私は屋敷の中でたくさんのヒツジやメイドに囲まれて育った。
学校は普通の身なりをして、自転車を使って普通に登校し。狭い空間で同じくらい時を過ぎた人々と学ぶ。
幼い頃から勉強を身に付けられたているので、暗記も得意で。考えるものもソコソコは良かった。
友人も作り。たくさんのアニメやゲーム。ドラマ。恋。将来について話した。
全く知らない。と言うことはなかった。
情報に疎いヒツジが居るので、インターネットに付き合わせて何が今起こっているか。調べる方法を教えてもらった。
テレビは見る時間が勿体無いので、またドラマ好きのメイドを介して情報を得ていた。
何とはなしに変わることなく続く話。
何時の間にか……
一人…二人……と離れていく。
ひとりになった。
それは学校以外で遊ぶことも無く。友人同志で遊んで友情を深める瞬間にいなかったからかもしれない。
毎日のように続く何の変哲も、感情の歪みなく続くのが。面白くないという気持ちが伝わったのかもしれない。
いつの日だったろうか。
私は家に帰ると。
寝室にこもり、昔読んだ童話を思い出しながら。
涙を流しながら眠りについた。
音が消えた大きな部屋は自分を苦しめる世界へと変わった。
胸が苦しく頭が熱く。
最悪な目覚めのあとは
意味のない扉を作ったり、集めたりした。
大きい物から小さい物。形の可笑しな物。洗練された鋼鉄の扉を発注することもあった。
全ては寝室の壁という壁に貼り付けた。
ヒツジから聞かされた息子の奇怪を父は心配したが、私は変わりなく学校にも行き。ただの趣味だと言って誤解を解いた。
扉は可能性への期待だった。
扉を開けばあるのは壁だ。
けれど、私が大きな寝室で静かな時を過ごしている時。
たくさんの扉が私を囲んでいるのだ。
夢の中。私はどこへでも行けた。
大きな虹を渡り、深海へと身を投げてたくさんの綺麗な魚を見た。
時には雲に乗って空を。
鳥たちはじゃれあって楽しそうで、いつも秋の山は木々が薄く鮮やかな落ち葉を落としていた。
いつか聞いた。水を統べるスイクンというアニメのキャラクターを思い出す。
思っていると、秋の山に強い風が吹いて。木々は青くなり、少し湿っていた土は清清しい水が束になって地を走った。
それを追うかのように水の上をスイクンが駆けてくる。
チラッと私を一瞥して大空へと消える。
夢が終わる。
部屋へと戻った私は、学校の宿題をするために寝室を出て、自室へ向かう。
メイドが水とタオルを持ってくるので、それを飲む。
自室に入ると、学校を思い出す。
今日起きたこと、学んだことを思い出す。
机に向かい黙々とやり始める。
「出来ました。」
と、私がヒツジに頼んだ。略式の挨拶を聞くとノートを閉じて後を追う。
食事はよく喋るメイドと昔から慕ってくれるヒツジとする。
父はいつも屋敷にいることはなく。彼らとするのが普通だ。
いつものように、メイドの方はコンビニの食事で。ヒツジは店に注文をする。
ヒツジとは今日あった夢についてはなしたり。メイドの話を聴いたりして食事を過ごした。
終えた私は自室に戻り、宿題を早々と済ませて。シャワーを浴びる。
風呂場の中で鏡をふと見る。
鏡はいつも通り自分を移していた。
温かい湯が入った大きな浴槽に入り、鏡を遠くから見つめる。
何となく核心を得たような気分を持って風呂場を後にして、扇風機の風に当たりながら何とはなしにプロペラの回転を見ながら、パジャマに着替える。
寝室に入る前に、庭に出て外の空気を吸う。
これで少し胸の苦しみは大空に溶ける。
紺色の空に微かに見える地平線に消えて行く雲を目に収めると館に戻り。
いつのまにいたのか玄関で待っていたメイドの前を通りベットに潜り込む。
浅い眠りなのは分かっている。
一度寝たのだから。
二度目の眠りは自分の思い通りにすることが出来た。
けれど、最初に見た夢とはほど遠い現実を模写したかのようなつまらない夢だった。
こうして私の一日は終わる。