今日 ④
「はぁ・・・はぁ・・はぁ・・・・ううっ・・・くさい・・・うぅっ・・」
涙が出そうだった。
こんな事ってあるのだろうか。
他人の吐瀉物にまみれることってあるのだろうか・・・・。
いや、現に私は吐瀉物まみれだ。
これでは私まで・・・・貰いゲ・・・,
それだけは絶対に駄目だ。
とりあえず、汚物にまみれたフード付きの外套を投げ捨てた。
本当にありえない。
目の前で気絶しているこの男は、色々とありえない。
威嚇目的で少しばかり力を見せたのにも関わらず、この男は折れなかった。
そこは称賛に値するが・・・・・、
いくらなんでも女性に対してゲ○を吐くなんてありえるのだろうか!!?!?!
もう一秒でも早くお風呂に入って臭いを落としたい。
髪も酷い・・・・・酷い・・・酷い酷い臭いだ・・・!!!
心の底から沸いて出てくる軽めの殺意を抑えながら、
仮面を地面から拾い上げてつけながら宿屋へと急いで戻った。
夜になってから相当時間が立っていた為、開いているか心配だったが、
「あらあら、遅かったですね・・・・ってどうしたんですかそれっ!?
それに酷い臭い・・・お風呂をすぐに沸かしますから待っていてくださいね!!」
手厚い対応に涙が出た。
□□□□
「は~・・・極楽ぅ~・・・・」
湯船につかりることで、臭いもイライラも取れていくようだ・・・・。
ヒノキの風呂にはゆずが浮かんでおり、この香りがまた癒しを与えてくれている。
本当にこの宿の主夫婦には頭が上がらない。
心が落ち着いてくると、やはり疑問が生まれてくる。
気を一瞬にして消失させたあのゲ○男は、一体どういった理の持ち主のだろうか。
そしてなにより、仮面の下を見られた時のあの言葉、
『目茶苦茶普通じゃねぇかよ!!!!』
ありえない発言だ。
だけども、嘘を言っている様子は無かった。
『傾国』がもたらす力は大きく2つある。
国を滅ぼす程の大量な気を操れる力と、男女問わずに”容姿で魅了”する力。
特に男の場合、全てを投げ打ってでも自分のモノにしたいと思わずにはいられない程に
この容姿は相手を虜にさせてしまうのだ。
故に、特殊な技術が施されたこの仮面を付け魅了する力を抑えていた。
しかしあのゲ○男は私を直視したのにも関わらず、魅了を受けた様子が全く無く、
むしろ、無防備な私に対して構わず殴りかかってくるような鬼畜っぷり。
この事から導き出させる答え・・・・・あのゲ○男は・・・・、
私の理が一切通用しない
そういう相手と言う事になる。
果たして私だけの理が通用しないだけなのか、それとも全ての理が通用しないのか、
もし、全ての理が通用しないとしたら・・・・あのゲ○男は・・・、
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
いやいや、今なにを考えた。
あの男は私にゲ○をかけたのだ。
これは通常なら不敬罪所ではすまない。
私にゲ○・・・を・・・・またいくつかお姫様レベルが下がってしまっただろう。
しかしあの力は、私が進むべき道にとって大変役に立つのではないだろうか。
いやでも・・・私にゲ○・・を・・・、
いやでも彼は私に魅了される事がないのだから協力者としてはうってつけ・・、
いや・・・でも・・ゲ○を・・・、
いや・・・でも・・・あの力は・・、
いや・・・・・・でも・・・いや・・・・・、
□□□□
結局、またここに戻ってきてしまっていた。
あのゲ○男はまだ地面に倒れている。
恐らく気絶後、そのまま眠ってしまったのだろう。
脳内会議の末、非常に不本意・・・・・・・・だけども!
このゲ○男を協力者として起用する事にした。
『甲乙の指輪』
我が国が産み出した恐ろしい技術の試作品で、それを一組拝借した物だ。
甲の指輪と乙の指輪の2つからなるそれは、二人の人間にそれぞれ嵌める事で
恐ろしい契約を結ばせる。
甲の指輪を嵌めた者は、乙の指輪を対象者に嵌める事によって
二人の契約が結ばれた事となる。
甲は、自分の持つ気を使い乙の体を自在に操る事ができ、かつ、
乙の持つ気は全て甲のものとする事が出来る。
こんな馬鹿げた技術をわが国は産み出したのだ。
一体どういった経路でこれを造りだしたのかは不明だったが、
流石に量産する事が出来ないようで、
これを作っていた場所が判明した時点で私が潰した。
しかし、製作者までは判らなかった。
いつ何時これが私につけられるかわからない。
その為に国から一旦遠ざかる事にした、もし私の理が自在に操れるようになれば・・・、
考えたくもないが、この指輪が存在している以上ありえない話ではない。
しかもこの指輪、まだ実験段階だったようで、甲側にもリスクが伴う。
製作者もやっきになってこれを完成させようとするはずだ。
その問題もなんとかしなくては・・・・・。
甲の指輪を右の薬指に嵌めた。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・よし。
ゲ○男の右腕を持ち上げ、手を掴む。
乙の指輪を・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・くぅ・・・。
薬指に嵌めた。
二つの指輪が光輝き、一筋の光が指輪同士を繋ぐ。
指輪がまるで脈を打っているように感じる。
これにて契約は完了である。
試しに私の気を込めてみた。
が、反応は無い。
やっぱり何かの力で私の気は打ち消されているようだ。
試しに気を奪い取ってみる。
これは反応があった。
気が身体に満ちていく。
一方ゲ○男の方は、
「うぅ・・・ぅ・・ぅ・・」
魘されていた。
いい気味である。
辺りも白んできたし、そろそろ起こして状況説明といこう。
□□□□
「ちょっと何言ってるかわかんないっす」
「だから、私に協力しなさいと言っているの。貴方の力は正直言って使えるわ。
人間性諸々と好きになれないし、本当は生き地獄を味あわせている所だけど
その力に免じて許してあげる。だから私に協りょ――、」
「断る!ろくな説明も無く、爆睡している人間に対して起きるまで顔面を殴打。
つーか起きてもしばらく殴りまくってた奴に誰が協力すんだよクソが」
「貴方は本来縛り首にされている所よ?その程度で許された事に感謝しなさい。
まぁ、正直この指輪がある限り貴方に拒否権は無いのだけれどね」
そう言って手を男に向け、指輪を見せた。
「おいおいなんだそのセンスの無い指輪。おもっくそに「甲」って書いてあんぞ。
マジだせー・・・・・っておぃいいいいいい!?なにこれ!?なにこれ!?
俺の指にもなんかあんぞ「乙」ってなんだオイお疲れ様でしたって感じか?
こんな指輪外・・・外す・・・あれ?・・・あれ?なにこれ外れねぇええええ
なにこれもうマジうぜえええええええ」
「五月蠅いわよ黙って話しを聞きなさい。その指輪は甲乙の指輪と言って・・・・、」
簡単に説明を終え、最後にこう締めくくった。
「悪徳商法みたいなものね」
「悪質すぎるわ!あ~もう付き合ってらんね。勝手に国でも世界でも救っててくれ、
俺はとっとと帰って寝る。この国の未来はお前に託した!頑張ってくれ!」
立ち上がりながら衣服の誇りをはらっている。
そのまま立ち去ろうとしている男に私は、
「」
契約に違反するとどうなるかを淡々と告げた。