1ヶ月前 ①
ザワザワ・・・ザワザワ・・・ザワザワ・・・・
周りの喧騒が激しい。
無理もない。というより、俺が表だってザワザワ言いたいくらいだ。
長期的休みが明けて、久しぶりの登校初日。
学校の第3ホール。200名の同学年達が一斉に集まっていた。
6年間ある学校生活最後の年。
自らの成績と実績を存分に前面に出しての、就職戦争は中盤戦にさしかかった。
我先にと、良い職にありつこうとする者が大半いる中、
親のコネやまたそれに準ずる何かで既に職につけている者もいる訳で、
世はまさに大・・・(以下自主規制
そして今、とある就職戦争の一つが終戦を迎えた。
『独立機動七師団隊 第一師団』
この国イニトルタモベで一番有名な部隊名である。
その入隊試験が今回、何年かぶりに行われたのだ。
いつその名を噛んでもおかしくない部隊名だなという感想しか沸かないが、
就活戦隊6年ジャーの前で、それはまさしく新たなる境地。
というか、マジで冗談無しにヒーローになれる。そんな就職先である。
で、現在ここに集まっている理由は一つ。
合格発表。
6年ジャーもとい6回生は全員で200名いる訳で、
単純に番号が200番まであるのだが、
張り出されていた番号はたったの一つ。
『81番』
どう見ても俺の番号である。しかもめちゃくちゃでかく表示され張り出されていた。
我が軍は圧倒的ではないか、流石だぜ俺。
なんて思っている場合では無い。
ここから早く逃げなければ捕ま―――、
「「「「逃がさんぞ、81番んんんん!!」」」」
既に数人に囲まれていた。
手にはそれぞれインクのついたペンが握られている
それで何をするつもりだ。おい先をこっちに向けるんじゃないやめろ。
合格発表しか無いはずなのに何故持っている筆記用具!
「退路を塞げぇ!!」
「出口の施錠完了ぉ!!」
「囲め囲め囲めぇ!!」
「喉は潰すなよ! 情報を吐かせてからだ!!」
悪の軍団ここに推参である。
6年間で培った経験をここにきてまで発揮する事はないんじゃないかと思う。
「合図をしたらペンを投擲!! 諸君!奴の履歴書を黒く塗りつぶしてやれ!!」
「「「「オオオオオオオオオオ!!!!」」」」
もはや言っている事も意味不明であり、なんなんだこのテンション。
お前ら周り見ろよ、雌ぶ・・・・女子の方達が引いているぞ。
ここは一つ、説得を試みるしかない。
「いいかお前らー、まずは落ちつ「投擲開始ぃいいいい!!」話を聞けやぁぁあっ!!」
せまり来るは大量のインク付きペン。
四方八方から飛んできており、避けられそうにもない。
「おのれぇぇええええ6年ジャーあああああああああ」
結論、今日は厄日である。
■■■■
「酷い目にあった・・・・」
制服の所々についている点々からちょっと垂れた様なあとから全てがインクだ。
あれからすぐさまトイレに向かい、水で濡らしたのだが全然落ちない。
そして、濡れた制服が冷たい。教室の空気も冷たい・・・・。
「あぁ・・・お前・・・・汚されちゃったんだな」
「いちいち言い回しがキモイ!! そもそも先導!そして統率!全てお前だろうが!!」
いきなり声を大きくした為に数名が俺の方を見てきたが、そんな事気にしていられない。
というか叫びたくもなる。目の前にいるこのふざけた野郎こそ、先ほどの主犯。
ロワイン・バイエこと、俺のクラスメイト。
「そりゃぁ、発狂もするわ。独立機動隊ってだけでえらい事なのに、
その中の第一師団だぞ?軍の花形!エリート街道まっしぐら!
羨むなってのが無理があるっつの。
つーわけで、試験の時どんな感じだったのか詳しく話せやコラ」
「だから・・・このやりとりも何回目だよ、言ったろ普通だったって!
お前らと一緒だよ一緒」
「俺も何回でも言おう。一緒ならお前が受かってる道理が通らん。とな!」
実際の所、試験内容は本当に一緒だったのだ。
試験課題が一緒なのは当たり前な話だが、俺が言っているのは『内容が一緒』
簡単に要約すると、
「実技でボコられた上に、その後の面接でボコられた感想を言わされた。
何かお前と違う所あるか? この説明自体も何人に言ったかわかんねーよホント」
「あぁ、悲しいくらい一緒だよ。だがしかしっ!実の所、お前は隠していた実力があって
『ククク・・・俺を本気にさせた奴は久しぶりだ。
いいだろう本当の力と言うものが何なのか教えてやる。
さぁ始めようか・・今から俺がお前の試験管だ(裏声』
なんて事を言いながら右手の力を開☆放!!!みたいな事をやっ―――、」
「ったわけねーだろ!!恥ずかしい!その振り付けは見ててとても恥ずかしいです!」
「そうじゃないと説明つかねーっつの! いいから隠された能力発揮しろやぁっ!!」
「上等ぉお!!冬休み中じいちゃんのとこでようやく習得した
座禅技術見せたるわぁ!!」
「ちょっ座り方やばっ!!どうなってんだよそれ!?
美しいってレベルじゃねぇぞ・・・お前まさかその綺麗すぎる姿勢で
『ククク・・・俺を本気にさせた奴は』ってのを!!!」
「座りながら!? シュールすぎるっ!」
「貴様ら、授業は始まっているんだが? これは反逆行為として
受け取っても構わないんだな?」
冷や汗がブワっと吹き出た。
『蛇に睨まれた蛙』という言葉が”古代語”としてあるが、その言葉の如くと言った感じ。
突如横に現れたのは我がクラス担当の教官。
騒ぎすぎた為に気づくのが遅れた俺らのミスだ。
逆らえばどんなペナルティが与えられるかわからない。
無論、授業妨害など言語道断である。
6年間という期間の中で調教された身はもはや強張るばかりで・・・・、
否!
動かせ身体を!!
出すんだ全力を!!!
『所詮この世は弱肉強食。弱い者は死に、強い者が生き残る』
なんて、大昔にミイラみたいな男が唱えていたという伝承がある。
俺は・・・強者になる!!
腕は水平にビシっと決める。
指はビシっと相手を指す。
当然、姿勢の正しさは修行の成果を発揮している。
後は声を高らかに、強く、伝わりやすく、そして丁寧に!!!
今ここに顕現しろ、絶望の状況を打破せし希望の言霊よ!!
「全て、こいつのせいです!!!!!」(こいつのせいですつのせいですせいです)
改心の一言を解き放った。
若干スベった感があり、周りのドン引きっぷりも感じるがまぁいいだろう・・・。
残響効果をも付加したこの言霊は脳内に響き渡り、我に希望をもたらせてくれる。
完全☆勝利・・・ククク・・・ハハハ・・・・ハァッーッハッハッハ!!!
■■■
「ねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち?自分だけ助かろうしたのに
自分だけ罰を受けるのってねぇどんな気持ち?ねぇねぇったらねぇ」
笑いを堪えきれていないロワインの顔が目の前にあった。
「友人だけに罪を押し付けるとは何事だ!!恥を知れっ!!」
俺の渾身の言い訳を聞き取った教官はそう怒鳴ると、遠慮なく手に持っていた警棒で
俺の横っ面を強打。
若干気を失いかかった俺はそのまま成すすべなく、ズルズルと体を引きずられ
廊下へと連れて行かれると、強制的に正座させられた。
しかも膝の上には、気留石で出来た別名『懲罰板』と呼ばれる薄い正方形の板を載せて。
「ぎりぎり貴様が耐えられる重さまで、私の気を貯めておいた。気が抜けきるのに
大体1時間くらい必要だろう。それまでそこに座っていろ・・・・いいな?」
逆らえば何をされるかわからない。
肯定の答えを出すしかない。
気の力で身体強化を図り、重さに耐える事だって出来るが、
過去にそれをやった生徒は星になったそうだ。
「ほらどうした?・・・膝が震えているぞ?」
やけに声を低くして挑発してくるアホが本当にウザイ。そうだシカトしよう。
しっかし、未だに信じられんが・・・・何で独立機動隊の試験に俺だけが合格した?
自分で言うのもあれだが、今いる6回生の中で成績は良い方だと思う。
が、あくまで良い方であって俺より上は普通にいる。
このアホが言うように、本当に俺は特別な事をしただろうか?
冬休みに入る直前にあった入隊試験。丁度俺がある事で絶望している時だ。
■■■■
「次! 81番入れ!」
流れ作業の様に試験は行われていた。
試験内容は1分間の間に自分の得意な得物をもって、試験官と模擬試合する。
ちょっと小さかったが、待ち時間の間生徒の呻き声と絶叫しか聞こえてこなかった。
1分も経たずして終わった試験もあったんじゃないかと思う。
どんな戦闘が繰り広げられてるかは簡単に想像出来た。
元々やる気自体無かったので、番号を呼ばれてからも
なんかどうでもいいやって感じのまま試験会場へと足を踏み入れた訳だ。
第1アリーナと呼ばれるその場所は、学園長が己の趣味で造らせた円形の闘技場だ。
上級学校に在籍する全ての人間が入ると言われる広大な観客席は無人。
アリーナ中央にある闘技場の中心にポツンと一つの人影があるだけだった。
人影はこう言った。
「闘技場に足を踏み入れた瞬間に試験は開始する」と
だが俺はそれどころ・・・・試験どころでは無かった。
「時間がもったいない。早く上がってきなさい」
人影は俺をせかしていた。
だが俺は本当にそれどころでは無かったのだ。
冷や汗が額、首、背中、いや、もはや体中全てにびっしりと湧き出ていた。
それでも一歩ずつ中央の闘技場を目指したのは、
あの時の俺は本当にどうかしていたんだろう。
さっさとあの場から逃げれば良かったのだ。
冷や汗は一向に止まらなかった。
あの時の場景を例えるならそうだな・・・・急な便意に襲われているが
それを行う事が出来ないだがもうすぐ出そう! そんな感じだった。
体中がヤバイと感じていた。
油断ではない、思い込んでいた訳だ俺は。
独立機動隊という有名な部隊だ。
試験官はめちゃめちゃゴツイ野郎で、生徒をぎっては投げ、
ちぎっては投げしているんだろうな、と。
でもその人影は違った。
試験官は”女”だった。
気づいたら闘技場に足を踏み入れていた。
「試験を開始する」
うろ覚えだがそう言っていたと思う。
瞬間、俺は闘技場の地面に体を叩き付けられていた。
一瞬とはああいう事を言うのだと思う。
今思い返してもあれはどうなっていたのか全くわからない。
とりあえず、その一撃で肺の空気が一気に持っていかれていた。
必死に酸素を取り入れよう口をパクパクさせていたのを覚えている。
でも俺はまだ”耐えられていた”
立ち上がり、女を見据えた。
女は最初の位置から1歩も動いてはいな――、
と思った瞬間だった。
腹部に強烈な衝撃が走った。
感じただけで3発は貰っていたと思う。
いつの間にか、女は俺の背後で立っていた。
まだ”耐えられていた”
そこからは良く覚えていない。
俺が覚えているのは、ようやく終わった・・・という安堵感と、
アリーナをぼろぼろな体でびっこを引きながら寮へと帰った。という事だけだ。
冷や汗は止まっていなかったが。
それかれ2日くらいして、今度は面接試験があり、
「模擬試合の感想はどうでしたか?」
と、眼鏡をかけた頭の良さそうな野郎が質問してきた訳だが、
まだ回復しきれてない体だったので、
「とても痛かったです」
とだけ答えてその場から退出した。
それから冬休みに入り、じいちゃんの所である修行を頼み込んで目茶苦茶頑張った。
とりあえず絶望から少しでも抜け出そうと試みた訳だ。
が、結局抗えず仕舞い。
まぁある程度は精神的に持ち直したので、冬休みが終わって学校へ登校すると、
今朝の『81番』の張り紙。
全くもって理解不能だ。何をもって合格としたのか、やっぱり謎すぎるぞ独立機動隊。
「ほれほれぇ~ 動けないな?動けないだろ~ ほれほれぇ~」
さっきからうざすぎるアホは、俺の両頬を片手で掴みタコの口みたいなのを作っている。
丁度、懲罰板の重さが無くなったのでヒョイっと掴み、
それで振りかぶって角の所で―――、
流石に可哀想だったので平面の方で勘弁してやったが、
ぶっ叩かれて奴は涙目になっていた。
■■■
「今しがた、脱走を確認した。よもやこの様な行動を取るとはな・・・・
シェリス・イリューゲル、君には彼の追跡及び捕縛を頼みたい。
君の力なら難なくこなせるはずだ。お願い出来るかな?」
「お任せ下さい。我が愚兄は朝日が昇る前までに捕らえてみせましょう」




