始まりの日 1日目
顔がズキズキする。
痛みを感じ目が覚めてみれば、マウントポジションを取られ「起きなさい起きなさい」
と連呼しながらボコボコ殴ってくる女が目の前にいた。
この女は、昨晩の仮面女であり、何故か今は仮面を外しているが、
いやそんな事どうでもいい。
とりあえず眠っている相手に対して非道な行いすぎたので、
こっちからも腹に思いっきりの一撃をいれて悶絶させてやった。
マジざまぁである。
言い合いをしていると、何故か女はドヤ顔で指輪を見せてきた。
右手の薬指に嵌められているそれは、銀細工では出来ているものの、
指輪の顔というべき表面に「甲」と思いっきり刻まれていた。
こいつどうやら壊滅的なセンスの持ち主のようだ。
あんな指輪つけながらドヤ顔で見せてくるこの女は非常に残ね・・・ん?
「っておぃいいいいいい!?なにこれ!?なにこれ!?
俺の指にもなんかあんぞ「乙」ってなんだオイお疲れ様でしたって感じか?
こんな指輪外・・・外す・・・あれ?・・・あれ?なにこれ外れねぇええええ
なにこれもうマジうぜえええええええ」
俺の右手の薬指には同じ銀細工の「乙」と刻まれた指輪が嵌められていた。
これではまるでやつのセンスと同等扱い。
イヤ過ぎる。
そして何故抜けん!?
「五月蠅いわ、黙って話しを聞きなさい。その指輪は甲乙の指輪と言って・・・・、」
またしても長ったらしい説明だったので、要約してまとめると、
このセンスの無い指輪は『甲乙の指輪』という物らしい。
これをつけると、乙側は甲側に言い様に使われる奴隷みたいなものであり、
『お前の物は俺の物。俺の物は俺の物』なんていう偉大な故人の言葉を
思い出さずにはいられないレベルの身勝手指輪。
なにより乙側から指輪を外す行為、つまり契約を破棄する事は出来ない。
「悪徳商法みたいなものね」
「悪質すぎるわ!!」
そう突っ込まずにはいられなかった。
もう付き合ってられない、さっさと宿に戻って暖かい布団で寝ようと立ち上がり、
色々汚れている衣服をはたいてここから立ち去ろうとした時、
「爆発するわよ」
物凄く不吉な言葉を淡々とした口調で呟かれた。
「え?ゴメンちょっと良く聞こえなかったわ。もっと大きな声で喋ってくんない?
なんかこうテロリズム的発言が聞こえた気がして色々ヤバイんだけど」
「グチャグチャになるわ」
「もはや事後!?なにその擬音、原型を留めてない感じなんだけどどう言う事だオイ!」
「この指輪はまだ試作段階でね、制約が強いみたいなのよ。
指輪をつけている者同士がある一定の距離を離れると、指輪が所有者の気を全て
”一瞬で”吸い込んで一気に放出する仕組みになっているわ」
「つ、つまり・・・・どう言う事だってばよ・・・」
「貴方と私の距離で色々ヤバイって事よ。
私の指輪も同じ反応をするからそうね・・・半径2Km級の穴が出来るくらいかしら?」
女は表情変えずにそう言い切っていた。
そこには恐怖などなく、ただ聞かれたから答えた。と言わんばかりである。
これが本当なら、正気の沙汰では無い。
ほぼ赤の他人に対して、こんなリスクの大きい事を行う理由が思いつかない。
「理解してくれた?貴方は私に協力せざるえないという事をね」
いや、これはやはりブラフ。この女のはったりである。
なら、これにのっかってやる形で少し試してみる他ない!
「つまり・・・俺が勝手に動けばお前は俺について来るしかなくなる。
さっきわざわざ説明してくれた指輪の話と違って、何故か俺の身体を
自由に動かす事が出来ないみたいだし?俺は俺で勝手な行動が取れるって事だよな?
つーわけで、死にたくないなら俺について来いよ」
これでコイツの嘘は暴けるし、もし万が一に本当の事だったとしても、
コイツは俺についてくるしか無くなる。
半径2km級の大穴が開くような爆発だとカシゴテンオの半数近くの人間が犠牲に
なってしまうからだ。
この女は絶対にそんな事はしないだろう。
だからこの指輪の契約違反が真実の場合・・・・主導権は俺が握ってやる。
取っていた宿の方に足を向ける。
さっさと布団に潜り込んで寝るとしよう。
一歩、また一歩と少しずつ離れていく距離。
あいつは動く気配を見せない。
やっぱりハッタリだったか・・・・?
気にせず歩く。
2、300m程は離れただろうか。
カシゴテンオの入り口の門に差し掛かった。
あいつは元の位置から動く気配を見せていない。
やっぱりハッタリだったようだ。
くだらん話を聞いたよホン・・・ん?
指輪が光りだした。
熱も持っている。
あ・・・あれ?なにこれ、なんか物凄いヤバイ感じがするんだが。
後ろを振り返る。
アイツの指輪も光だしていた。
しかし、一歩も動く気配が無い。
ミンチになると同時に、あいつの指輪で跡形も無くなるコースな気がしてならない。
ならば俺に出来る事は一つ。
気を取り込み・・・・・・・・・・、
全速力で―――、
□□□□
「お早いご帰還ね」
「うるせぇよ!!」
「大方、主導権を握るつもりだったんでしょう?最悪ハッタリかどうかもわかるし
悪くない手だったと思うわよ?」
完全に見抜かれていたらしい。
「つかお前さ、今自分がやった行為理解してる?
俺に思いっきりの良さがあったら、冗談じゃすまない結果になってたじゃねーかよ。
○にたく無いとかほざいていたくせに、なんなのこれ優柔不断なの?」
「自分で決断した行為でそうなるのだとしたら、私は快く受け入れるわ。
それが責任というものでしょう?まぁ貴方がチキンだという事を再確認した所で、
もう一度言うわ」
不敵な笑みを浮かべて、女こう続けた。
「私に協力しなさい」
どうやら厄日は続きそうだ。
□□□□
「つまりなんだ・・・・アンタは・・・国王の2番目の娘・・・お姫様ってこと?」
流石に寒くなってきたので、一旦俺が借りている宿へと移動していた。
一人用の机に仮面女が座り、俺は地べた。
床から伝わってくる冷たさが肌にしみる。
「そういう事ね、名はいらないわね。聞いたことくらいあるでしょう?」
「まぁそんな事よりも、『私、姫なの』とかいう自己紹介の仕方は
正直どうなのっていう突っ込みから入れようと思うんだが、どう思う?」
「何か問題でも?」
疑う事すらばからしくなってくるくらいシレっと言われたので、とりあえず
流す事にした。
「私の力の都合上、協力者は難しいと思っていたけど・・・とんだ拾い物をした
ものだわ。人間的に絶えて欲しいと願う所だけど、そこは目を瞑りましょう」
「おいどういう意味だそれ、絶滅しろって事か?大型爬虫類と同じ末路を辿れという
事ですか?」
「いちいち横槍を入れないで頂戴。大体、王族と聞いたら普通畏まるでしょうに。
懲罰というのは好きでは無いのだけれど、貴方だけは絞首刑にしてやりたいわ」
こ、これだから王族ってやつぁ・・・・。
「とりあえず整理というか、確かめたい事があるのよ。貴方、『理』持ちよね?」
「一応な」
「私は結構な量の理の名を知っているつもりよ。その中に一つでも
相手の気を消失させてしまう理なんて聞いたことがないわ。
だから教えて頂戴。貴方の理を名を」
まぁ確かに、相手の気を消失させる理なんて聞いたことが無い。
だが実際俺はあいつの気を消失させていた。
適当な名をでっちあげるか?いやそんな事をしてみ意味ないか・・・。
おれ自身この理の力は、女相手に強気になる。だけだと思っていた。
本当の力を知るいい機会になるかもしれない・・・・。
ここは嘘はつかずに・・・、
「俺の理の名は『男尊女卑』女よりも男の方が秀でているというやつかな。
この力を持ってから俺はそう感じるようになったし、結構女を下に見るようになった。
っていうか実際、女は男の為に生きているようなもんだろ?」
「・・・・クズすぎる・・・sねばいいのに・・・・・・、
とりあえず、その理が私の気を消失させ、私を見ても魅了されない原因と考えて
よさそうね。男尊女卑という事だから・・・女にしか対象されない理なのかしら」
ボソっと最初辺りに何か聞こえたが気のせいだろうか。
きっと気のせいだろう、っていうか、
「魅了・・・?なんだそれ・・・え?何お前まさか自分の顔が絶世の美女で、
『私を見る物全てが私を欲しくなるのよオーッホッホ』的な事思ってるの?
現実と鏡を見なよ、お姫様。そこに真実があるからさ」
「はぁ・・・そんな事思っている訳無いでしょう。けどこれは事実なのよ。
私の理『傾国』はこの容姿全てで相手を魅了させるわ。
それこそ、国を捨ててでも欲しいと思ってしまう程にね。
実際、何人かの人間を魅了した事があるし、その末路がどうなったか知っている。
だから私は仮面をつけて一番目につく素顔を隠しているのよ。けども貴方は、」
女は仮面を外し、俺をまっすぐ見る。
「私の素顔を見ても魅了されない。そんな貴方だから言うのよ。協力しなさいとね」
「ようするにだ。俺にその魅力(笑)が通じないから手伝えと言っている訳だな?」
「いちいち皮肉を織り交ぜないといけない病気にでもかかっているのかしら?
まぁ、端的に言えばそういう事になるけども、ホント好きになれない人種ね」
「で、俺に拒否権はこの指輪のせいでないだけども。何処まで協力すればこの指輪を
外してくれるんだ?ってか協力っていっても何が――、」
「戦争の回避」
「は?」
「戦争の回避よ。それが貴方にに協力して欲しい事。
この国は東の国アンダギサタに戦争を仕掛けようとしているわ。
それを私は回避したい。なるべく血を流さずにね」
こいつは何を言っているんだろうか。
戦争?・・・なんだそれは。
とてもじゃないが本当の事とは思えない。
長い戦争の歴史からすれば、停戦協定を結んでからの100年なんて
とてもじゃないが、長いものだとはいえないかもしれない。
が、それでも100年だ。戦争をしていた世代が変わってしまっている。
それに今では、両国の丁度中間に辺りに中立都市なんていう両国から
沢山の人が集まり賑わっている大都市すら存在しているくらいだ。
まだまだ蟠りはあるかもしれないが、着実に薄れつつあるこの時代に
今更何故戦争をふっかける必要があるのだろうか。
「理解してなさそうな顔ね、ちょっと考えればわかることよ。
国を潰せるほどの力を持った者が味方としているのだととしたら、
それを使わない手はないとは思わない?自分と同じくらいの力を持った国が
自分の領土となれば、その国はどれだけ繁栄するか、どれだけ豊かになるか、
少し考えればわかることよ」
「え、なんだ。つまりあれ?アンタの『傾国』の力を使ってアンダギサタを
陥落させようとしているって事なの?この国は」
「なんだ、考える力はちゃんとあるじゃない。
少しは人間らしい事も出来るのね、見直したわ」
非常にバカにされている気がするのだが、気のせいだろうか。
いや気のせいではないだろう。
だって今、鼻で笑ったもんな、そして口の端がつり上がってるもの・・・。
「いやいやいや。それなら姫さんがそれに加担しなければ万事オッケーじゃね?
これにて戦争回避ってあれ?・・・俺これ天才なんじゃね?」
「馬鹿につける薬って飲み薬らしいわよ」
「つけるタイプって言っているのに!?つかなんで今そんな発言を!?」
「ほらお馬鹿さん。貴方の指についてるそのセンスの悪い指輪を見なさい。
なんとか考える事が出来るその脳みそをフル稼働させて答えを導きだしなさい。
そしてついでに飲んできなさい」
「何をだよ!!オイまさか馬鹿につける薬か?飲み薬タイプの馬鹿につける薬か?」
「甲乙の指輪の効果は説明したでしょう?これさえあれば他人の力を
命令一つで自由に操る事が出来るようになる。
それが私につけられたら、まず確実に戦争回避は不可能となるわね」
「じゃあ、その指輪をつけられなければいいじゃねーか。
あんたの理は、ほぼ最強クラスといっても過言じゃない。
大抵の奴に遅れを取られることもないだろ?」
「それだって絶対では無いわ。だから私はひとまず王都から離れたのよ。
一応この指輪を作っていた工場は潰したのだけれど、製作者がわからない以上
何度だって複製出来るわ。それに―――、」
「こいつよりもやっかいなのが作られるかもしれないかもしれないって事か。
ま、確かに王都にいたら四六時中気が抜けないわな。
だったらまず王様とかにさ、協力要請すればいいんじゃね?
現国王はほら、歴代の中でも凄く穏やかって話じゃ――、」
「その国王が首謀者なのよ、まぁ他に誰がいるの?って話だし、
我が父ながらなんの捻りもない黒幕っぷりだけど、かえって分かり易くて楽よね」
この国終わった気がする・・・。
ん・・・・ちょっとマテよ。
「そんな簡単に黒幕が誰だとかほいほい話しなんかしたらさ・・・、
俺ってちょっとそのなんだ・・・命とかね。ほらなんだ良く昔から言うじゃん・・、
『ここまで知られてしまっては仕方ない・・・口封じの為に・・・』みたいな・・ね?
そんな展開がこれから繰り広げられようとしてるんじゃ―――、」
「だから全部隠さず話しをしたのよ?後に引けないようにね」
別に・・・泣いてしまっても・・・かまわんのだろう?