プロローグ
人々が深い眠りに付く闇夜、空に浮かぶ真っ赤な月の月明かりだけが照らされるとある街道を二人の人間が何かに追われながら走っていた。
「はっ…!はっ…!おいやべ〜よぉ〜…!どんどん近付いて来てるぜぇ〜ギゲン〜…!」
「うるせぇギカク!文句言ってる暇あるならフラフラせず走れ!追いつかれんぞ!」
「わかってるぜぇ〜…ギゲンこそ挑発し忘れんなよぉ〜…!」
「任せろ!!」
否、実際にはレザーパンツを履き、ライダースジャケットを着こなしている痩せ細った長身の男がフラフラとしながらも、長柄の片刃の両手斧を片手にカーゴパンツを履いてハイウエストジャケットを着ている小柄な少年を肩に担いで走っていた。
肩に担がれている少年はマシンガンを握り、自分達を追っている謎の存在に弾丸をばら撒いている。
血の様に真っ赤な髪を左側頭部を刈り上げ、右目を前髪で隠した長身の男の名はギカク。そのギカクに担がれている真っ青なショートヘアをしている少年の名はギゲン。
彼等は今現在、とある仕事で怪物に追われていた。
「【暗黒生物】はどれぐらいの距離だぁ〜…?ギゲン〜…?!」
「だいたい20mだ!おら急いで走れ!追いつかれ始めてんぞ!!」
「わかったぜ〜…!!」
ちらりとギカクが後ろを見ると、ドロドロとした粘液を体中から噴き出しながら、腕の様な形状をした何かを大量に体から生やしているナニかがドドド!と地響きを鳴らしながら追いかけて来ている。暗黒生物、そう呼ばれている存在である。
「ア゛ア゛ア゛ァァァ!!」
顔と思われる場所からガバリと巨大な口腔を開き、不快な鳴き声を出すそれは生物と言うには余りにもかけ離れている。
「!おいギカク!もう少しで合流地点だ!」
「おぉ〜…!やっとかぁ〜…!」
周囲には既に人の生活感が消えた廃墟の建物ばかり。そんな中、とある十字路の交差点が見えて来た。事前に決めていた合流地点だ。
「!おいギゲン〜…!合流地点が見えたぜぇ〜…!」
「なに!よしギカク!手筈通りにやるぞ!」
「分かったぜぇ〜…!」
合流地点である交差点まであと50m…40m…30m…あともう少し…!そんな時だった。
「ギェェェェ!!」
暗黒生物が先程とは違う叫び声を上げ、口腔内から真っ黒の舌を伸ばす。先端が鋭く尖ったそれはギカクの背目掛けて物凄いスピードで突き進む。
「やべっおいギカク!」
「うおっ…!?」
暗黒生物の動向を警戒していたギゲンがその動きに即座に気づき、警告を出すとギカクは即座に身を躱す。しかしその時にバランスを崩してしまう。
「…っち!オッラァ〜!!」
「ちょ、ギカクお前ぇぇぇぇぇ……!!」
このままでは二人共倒れてしまい暗黒生物に追い付かれる…それだけは避けなければいけないために、ギカクは担いでいたギゲンを十字路に面している建物の3階目掛けてぶん投げた。
「おっとと…後は俺だけだなぁ〜…」
崩れたバランスをなんとか立て直し、暗黒生物から距離をとるギカク。手にしていた両手斧を担ぎ直す。
「来いよぉ〜…ゲテモノぉ〜…テメェのその汚ったねぇ歯ぁ叩き折ってやるぜぇ〜…?」
暗黒生物に中指を立て、ベロを出して挑発する。それに対し暗黒生物は怒りを顕にするように怒声の様な鳴き声を上げた。
「けっ…人間様の残留物から産まれたくせによぉ〜…一丁前に感情でもあんのかよぉ〜…」
煽る。あともう少し近づいて来れば…そう考えるギカクに応えるように暗黒生物がギカク目掛けて突進をする。
「!今だぜぇ〜!!トーノの兄貴ぃ〜!!」
バックステップをしながら叫ぶギカク。その瞬間、側に建っていた小さな廃墟のビルの屋上から一つの人影が飛び出した。
「オオオォォォォォ!!!」
雄叫びをしながら猛スピードで落ちて来るソレは手にしている巨大な大剣を暗黒生物目掛けて振り下ろす。
大剣が暗黒生物の頭に叩き込まれる。バゴォーン!と大きな激突音が次の瞬間、人気のない廃墟の街に鳴り響いた。
「ギェェェェェェ!?!?」
頭から大剣を叩き込まれた暗黒生物は頭からパックリと真っ二つになっている。その断面からはベチャベチャとした黒い血液の様な液体が噴き出す。
叫びながらのたうち回るが十数秒後、動きが鈍くなっていき、遂には動かなくなる。
「さ、流石だぜぇ〜…トーノの兄貴ぃ〜…!!あんなデケェ怪物を一撃で仕留めるなんてよぉ〜…!!」
「ふぅ…怪我ないか?ギカク」
トーノの兄貴、そう呼ばれた男は大剣を地面に突き刺しながらギカクの安否を確認する。肩まで伸ばした黒い髪を後ろで纏め、黒いフード付きのタクティカルジャケットを前を開けて着込み、ロングブーツにダメージジーンズを着ている。
「あぁ、俺は何ともないぜぇ〜…」
「そうか。ギゲンは何処に…「おいゴラァギカク!!人を投げるんじゃねぇー!」あそこか」
投げ込まれたビルの窓から顔を出して声を荒げる姿を見付け、苦笑いをするトーノ。
「すまねぇなぁ〜…あぁするしか無かったんだよぉ〜…」
「こんの…!すまねぇで済んだら警察いらねぇんだよこのバカ!!」
窓から飛び出してビル3階と言う高さから飛び降りて来るギゲン。ドンッと着地した後直ぐにギカクへと詰め寄って行く。
「どうどう。落ち着けギゲン。ギカクもお前を守る為にやったんだ。許してやれ」
「ぐっ…!トーノの兄貴がそう言うなら…今回だけだからな!次からは前もって言えよ!」
「分かったぜぇ〜…次からはちゃんと言うよぉ〜…」
三人は顔見知り…いや仲間であった。トーノの事を兄貴と呼び付き従う弟分のギカクとギゲンの三人組…それが三人の関係性だ。
「ソレより、さっさとチームに合流するぞ。仕事も終わりだ」
「おぉ〜…あっちの方も討伐終わったのかぁ〜…」
「ッケ!彼奴等俺達にデカブツ押し付けたんだ。終わってなきゃ文句言ってやる!」
「やめろギゲン。チームなんだからもう少し仲良くしろよ」
彼等三人には他にも仲間が居た。その仲間の元へと帰っていく。夜はまだまだ始まったばかりだった…。
翌日、日が昇った頃。
「トーノ、ギカクにギゲン。君達はこのチームから抜けてもらう」
「は?」
ソレは唐突だった。
魔法と科学が入り混じる世界。その世界では魔法を使った際に発生する廃棄物の残留物から産まれる怪物、暗黒生物の脅威に晒されていた。




