転生王子は最推し悪役令嬢からの『ざまぁ』を回避したい! 〜リアコではない!……はずだったのに最近可愛く見えて仕方がない〜
顔を上げると目の前にいた彼と目があった。
その瞬間、パチパチっという小さな衝撃と共に全身の熱が一気に顔に集まった気がした。
彼の綺麗な金髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝いていたのを覚えている。
多分きっと、私はあの時から彼のことをー。
…………となるはずだったのだが…。
俺は、目の前で優雅にお茶を飲む少女、アーデルハイド・ロスシーをチラリと見ながら思った。
『花ヒロ』の中で語られる通りだと、アーデルハイドは初めて目があった瞬間この国の王太子ヴィクトルに、俺に一目惚れしたはずだ。
そう。一目惚れしたはずだ。はずなのだが…。
初めてアーデルハイドと目があった時、彼女の目の中に写っていた感情は無、以外の何ものでもなかった。
推しの想い人に転生できるなんてラッキー!前世交通事故で死んだとか、そんなことチャラにできるレベルでマジラッキー!とか考えていた俺のメンタルはそこでボキボキに折られた。
まさかあんな、死んだ魚みたいな目で見られるなんて…。
たしかに、貴族の子女は感情を表に出さないようにと幼少期から教え込まれる……が、ここまで塩対応だと流石に少し凹む。泣いてしまうよ。
しかし落胆する俺と反対に、その後も彼女は一切の感情も見せず、後は若いお二人で…的な状況の今に至る……が、
「ロスシー嬢は語学に長けていると聞いたのだが、外国のことついて興味があったりするのかな?」
「そうですね、少し」
「そうなのか。俺は語学の勉強があまり得意ではなくてね。何か上手く勉強するコツとかあるの?」
「いえ、特には」
いや、質疑応答かよ。
何とか気を取り直してハイディに話しかけた俺のメンタルは、いくら何でも"脈なし"すぎる彼女の返答に再度破壊された。
美しく整備された王宮の庭に気まずい沈黙が流れる。
俺の目の前には、彼女と、このお茶会のために準備された、我が国屈指のパティシエの自信作がある。
もう話しかけるHPも残っていない俺は、それを少しずつ口に運び、何とかこの沈黙を乗り切ろうとしたが…。それも長く続けられそうに無い。
はぁっとバレないようにため息をついて、空を見上げて思案する。
それにしたって一体どう言うことなんだ?アーデルハイドはヴィクトルに一目惚れするんじゃ無いのか?
なーにが「全身の熱が一気に顔に集まった」だよ。全身に熱、分散しまくりだったじゃないか。
もしかして、俺が勝手に『花ヒロ』のヴィクトルに転生したと思い込んでいただけで、実はそうではなかったのか…?
お茶を飲みながらもう一度こっそり彼女の様子を伺う。
ーーいや、やっぱりどう見たって『花ヒロ』のアーデルハイド・ロスシーだ。
容姿以外の、語学が得意であるところも、母親が隣国の王女であるところも、本当にあのアーデルハイドとしか思えない。
何より俺が推しを見間違うはずがない。
でもそれにしてはハイディの様子が予想外すぎる。何でだ??
もしかしてこの世界は『花ヒロ』そっくりなだけで、実は別の世界なのか??
ぐるぐると色々考えるが、一向に考えが纏まらない。頭がショートしそうになった俺は、考えるのを諦めた。
……まぁ、いいか。
一旦、この世界が『花束をヒロインへ』であること、目の前の彼女が悪役令嬢アーデルハイド・ロスシーであるとしよう。うん、もう分からないからそういうことにしよう。
そうとなれば、やっぱり目の前にいる推し、アーデルハイドと仲良くなりたいな。せっかく推しがいる世界に転生できたのだから。
それにしても、原作のヴィクトルはどうやってアーデルハイドに好いてもらったのだろうか。
もしかして、原作に書かれていなかった「何か」を言ったから仲良くなれたとか…。
そうであれば仲良くなるために、俺の言葉で何か言わないと…。
俺は軽く息を吸って、ニコッと笑みを浮かべた。
「とにかく、語学に強いのは心強いよ。これから一緒に頑張って良い国をつくっていこう。そうだ、折角だからハイディと呼んでも良いかな?俺のこともヴィルと呼んでくれ」
うん。我ながらなかなか良いんじゃないか?名付けて、あだ名で呼び合っていれば自然と仲も良くなるんじゃないか大作戦だ。
現代日本でもあるあるだよな、変に気を使いすぎたらかえって仲良くなりづらいこと。それならいっそ、最初から「馴れ馴れしいな」と思われるくらいでいったほうが良かったりするよな。
ちなみに、「ハイディ」や「ヴィル」というのは『花ヒロ』ファンの中で浸透していた、アーデルハイドとヴィクトルの愛称だ。
良さげな作戦を考えたことに満足しきっていた俺は、チラリとアーデルハイドの様子を伺った。
俺はぎょっとした。彼女は何か、信じられないようなものを見たような表情を浮かべながら、唇を震わせている。
しまった。もしかして「ハイディ」って地雷だったか??確かにオタクの独自の呼び方を原作に持ち込むのはまずい気が…。
どうしよう、とオロオロしていた俺は、そこでふとあることに気がついた。
ーー違う。彼女の唇は震えているのではない。何か言っている。
小さくて細いその声と、唇の動きが俺に答えを教えてくれる。
「…なの、こんなの、知らない」
……え?
知らない?どういうことだ??
「こんなの知らない」ってことは、「こんなの」以外の何かは知っていたということ、だよな…。
こんな展開以外の何かを。
……予想もしていなかった可能性がひとつ浮かび上がる。
そんな、まさか。いや、でも…。
糸の端を手繰るかのようにある仮説を導き出した。
……もしかして、彼女も俺と同じなのか…?
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『花束をヒロインへ』略して『花ヒロ』。
とある異世界の学園に入学した平民の少女が高位貴族の令息と身分違いの恋に落ちる……的な前世で、日本で流行っていたラノベである。
当時高校生だった俺は、クラスにちょっと気になっている女の子がいた。どうやらその子もこのラノベが好きなようだ。
もしかして、このラノベについて詳しくなればあの子とお話しするチャンスができるんじゃないか?
という天才的な考えを思いついた俺は、早速ラノベを読みはじめた。
まんまとハマった。
そんなの読んでるの?お兄ちゃんキモーい。的な視線を3つ下の妹から浴びたが、そんなこと気にも留めないレベルでのめり込んだ。
ちなみに、俺の推しはアーデルハイド・ロスシー。メインヒーローである王太子様の婚約者で、ヒロインとヒーローの恋路を邪魔する、いわゆる「悪役令嬢」だ。
普通は嫌われることの多いキャラクターだが、俺はどうにも、彼女だけが100%悪いとは思えなかった。
だって身分差の恋って幸せなの本人たちだけだろう。周りの大人や領民、王国民はたまったものじゃない。
ましてや王太子とヒロイン(平民)との恋なんてもってのほかだ。
王太子様のパートナーなんて、マナーや礼儀作法は分からないけど愛嬌満点!で乗り切れる役割ではない。そんな者に国政を任せてはいけない。
それなのに、あの色ボケ王太子、ヴィクトルときたら、アーデルハイドと婚約破棄してヒロインを選ぶわ、アーデルハイドを国外追放にするわで…。
アーデルハイドの何が悪いって言うんだ!ちょっと言葉がキツいこともあったかもしれないが、国民と、一目見た時からずっと大好きだったヴィクトルを思っての行動をしていただけじゃないか‼︎
というか、そもそも婚約者がいるのに他の女を好きになるヴィクトルが1番の元凶だろ!!
そんなこんなで俺はアーデルハイド、ハイディ推しを拗らせていた。愛する王国と婚約者のために身を滅ぼしたハイディが、たまらなく可哀想で可愛かった。決してハイディが当時好きだった子に似ていたからとかではない。
余談だが、俺がラノベにハマっている間に、好きだった子は一個上のサッカー部キャプテンと付き合っていた。
ちょっと泣いた。
泣きながら帰っている時、周りをよく見ていなかった俺はトラックに轢かれ、そして目が覚めたら……
ラノベで見た通りの、ヴィクトルの部屋に居た。
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そんなこんなで俺はヴィクトルに転生した。
転生したと自覚したばかりの頃は「なんで俺がハイディを追放したやつに!!!」なんて思ったが、そこではたと気づいた。
まてよ、ヴィクトルってもともとハイディに好かれてたよな。……てことは、俺はもうハイディに好かれることは確定してるわけだし、これ勝ち確では??
ルンルンで今日のお茶会に来たのだが、まさかハイディも転生者&別に俺のこと好きじゃなさそうとは。
がっくりと項垂れる俺の耳にハイディの声が届く。
「………して、原作と違う?…計画どうしよ……」
計画?『花ヒロ』の中にハイディが計画を立てる場面なんか出てきたっけ?いや、なかったはず……だとしたら一体…。
そこでまたもやひらめく。前世で『花ヒロ』と同時期に流行っていたラノベ、たしか『ざまぁ系』だったよな……。
………………まずいまずいまずいまずい!もしかしてハイディ俺に『ざまぁ』する気じゃないか⁉︎このまま行くと俺が国外追放されるんじゃないか⁉︎
それは嫌だ!無理!国外追放とか!今まで王宮でぬくぬく育ってきたのに、そんなことされたら生きていけない!
と、とにかく!今日ハイディに好印象を与えないと!敵意はないと伝えないと!
そこでぱっと背筋を伸ばした俺はハイディにニコリと笑いかける。
「そういえば!来週は学園の入学式だね。一緒に学園に通えるのが楽しみだよ。そうだ!入学式の日は一緒に行かない?馬車で家まで迎えに行くよ」
矢継ぎ早に話をした俺に、ハイディは少し驚いた顔をしながら「ーーえ、えぇ。お待ちしておりますわ…」と答えた。
よっしゃぁ!!心の中でガッツポーズを掲げた俺は、ハイディと少し会話を楽しんだ後、笑顔で別れる。
ハイディを見送った後、急ぎ早に自室に戻った。
さて、これからどうしようか。まずは来週の入学式、『花ヒロ』のプロローグであり、俺とヒロインが出会うタイミングだ。うまく切り抜けないと……。
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王立学園の入学式当日。煌びやかな馬車が一台、校門で止まった。
扉が開くと、中から白い制服を着こなした金髪の美男子が1人降りてくる。
周囲の女子生徒からキャァっと黄色い歓声があがった。
「まぁ、見て!ヴィクトル殿下よ!」
「素敵!どうにかしてお近づきになれないかしら…」
渦中の男子生徒、ヴィクトルはそんな声気にも留めずに、馬車を降りるとくるりと振り返って手を出した。その手をとって1人の女生徒、アーデルハイドが降りてくる。
またもや周りの女子生徒からキャァと声が上がる。が、今度は黄色くなく、どちらかというと悲鳴に近い。
「え、えぇ。あの方って、ロスシー家の」
「どういうこと?なんでお二人が一緒に…」
「もしかして、ご婚約なさったとか…」
いやぁっ!と声が聞こえる。さすがは公式イケメン、ヴィクトル王太子様だ。
俺は自分のモテ具合に少し気分が良くなって小さく頷きながら、隣にいるハイディをチラリと見る。
銀髪碧眼のハイディは、白を基調にしたブレザーに濃紺のリボンとスカートがよく似合っている。もはや女神だ。美の暴力だ。彼女の可愛さにだらぁっと情けない表情をしてしまいそうになる。
いやいや、落ち着け。確かにハイディは推しではあったが、今はそんな能天気なことを考えている場合では無い。
このままぼーっとハイディに見惚れてるだけだと、いつか彼女に『ざまぁ』される。少しでも彼女と良好な関係を築いて、敵じゃ無いですよアピールをしなければ。
それに、今のハイディは原作と違って俺のこと好きじゃ無いもんなぁ。まぁ、俺もハイディのことは好きではあるけど、リアコじゃなくて、あくまで推しとしてだから良いけど…。
そんなことを考えながら歩いていたら、ふと大きな木が見えてくる。
来た。俺とハイディは同時に立ち止まる。
ここだ。ここが『花ヒロ』でヴィクトルとヒロインが出会う場所。
確かハンカチを落としたヒロインにヴィクトルが声をかけて…。
『ちょっと、そこの君。これ、落としたよ』
『まぁ私ったら、ありがとうございます。ーあら?紺のネクタイ…ってことは、あなたも新入生なの!?よろしくね!』
《……この子、私が王太子だと知らないのか??…ふっ、面白い子だな》
ーーとかいう手垢でべったべたの展開だったはずだ。
てか、これなら別に俺がハンカチ拾わなければいいだけの話じゃないか。そうすればヒロインと接触せず、着実にハイディと仲を深められる。
よし。そうしよう。
そうと決めた瞬間、木の影から1人の女生徒が姿を現す。ふわふわのストロベリーブロンド。間違いないヒロインだ。
そして原作通り、ぽとりとハンカチを落とした。が、俺はそれに気が付かないフリをしてハイディに話しかけた。
「そうだハイディ、知ってる?この学園は園芸にも力を入れていてね。花がたくさん咲いてるところがあるんだ。そこでランチをとることもできるんだよ。よかったら今日の昼、そこで一緒に食べない?」
「え、ええ?わたくしと、ですか??」
「もちろん。もし俺とハイディ、クラスが離れてしまったら、昼休みにハイディのクラスまで迎えに行くよ」
「あ、ありがとうございます。お待ちしておりますわ」
何が何だかわからない、という顔をしたハイディと並んで歩き、そのままヒロイン落としたハンカチをスルーした。
その勢いのまま、ハンカチがないことに気がついたのか、目の前で立ち止まったヒロインもスルーして通り過ぎる。
よしよしよし。なんとか第一関門突破だ。
安心しきった俺は、背後からストロベリーブロンドのボブヘアーが怪訝そうな目を向けていることに気が付かなかった。
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そして、昼休み。俺とハイディは桜の木の下で向き合ってランチを囲んでいる。
西洋風の異世界なのに桜あるんだぁーとかは御法度だ。そこはファンタジーだから大目にみてほしい。
「クラス離れちゃったね。ハイディと一緒じゃないと寂しいよ」
「わたくしもですわ、殿下」
「あ、殿下じゃなくて、ほら」
「あ……ヴィ、ヴィル様…」
まぁ、原作知ってるからハイディと別クラスなの知ってたけど。推しと同じクラスになれないの知ってましたけどね。
知ってたとはいえショックだなぁーとか考えつつも、いい感じに会話を繋いでいく。
うんうん。今のところ問題なさそうだな。ヒロインとの接触はしてないし、ハイディとも良好な関係を築けているはずだ、今のところ。
そうこうしているうちに、ランチボックスはすっかり空になり、デザートのケーキに舌鼓を打つ。
今日のところはこれくらいでいいかな。いや、帰りも一緒に帰ろうって誘ったほうがいいか。そのほうが仲良くしたいアピールできそうだし。
「そうだ、ハイディ、帰りなんだけどーー」
ハイディに声をかけようとパッと顔を上げたところで言葉が詰まった。
俺の目の前にいたのは、麗しのアーデルハイド・ロスシー侯爵令嬢、ではなく美味しそうにケーキを頬張るただの女子高生だった。
いや、目の前にいるのはハイディに違いないんだけど、今まで見てきた、貴族令嬢らしい「無」の表情ではなくて、なんかこう、普通のケーキ好きな女の子、って感じで…
「………かわいい」
「……えっ?」
「え??」
ハイディに聞き返されて、ふと我に帰る。
しまった。俺、今なんて言った⁉︎いや、可愛かったのは事実だけど、このままだとチャラい奴みたいに思われるんじゃないか⁉︎そうなると関係良好化作戦が!
まずい、言い訳しないと。
「あ、いや、急にごめん、変なこと言って。ケーキ美味しそうに食べてたから好きなのかなぁとか思って…。あの、ほんとに、誰にでも言ってるわけじゃなくて、ハイディにだけだから!」
…なんか言い訳したことによって、余計に嘘くさくなった気がする…。自らの言動を後悔しながら俺は俯く。
せっかく、今までいい感じにいけてたのに。あーこれ顔あげたら、めっちゃ疑いの目向けられてるんだろうなぁ。ハイディの顔見たくないな。自分から『ざまぁ」に近づきに行ってどうするんだ…。
「わ、わたくし!」
大絶賛後悔中だった俺は、ハイディの声に意を決して顔を上げる。
「え……?」
「わたくし!次の授業がありますので!お、お先に失礼しますわ!!」
「え、え、あ、うん。また……」
ガタッと音を立てて立ち上がったハイディは、そのまま足早に教室棟の方へ去っていった。
残された俺は、最後のハイディの表情を思い出す。
彼女は今までとは違い、動揺したのか真っ赤な顔をしていた。その上、表情も大きく崩れていた。
まるで俺の言葉に照れていたみたいな…。
「え、ええ???」
今のハイディは転生者だから俺のことまったく好きじゃないと思ってたけど、でも、あんな表情……。
「顔、あっつい…」
顔に熱があつまり、汗をかいているのに気がついた俺は、なんとか落ち着こうとハンカチで汗を拭う。
そこでふと思い出した。
「あ、帰り、誘うの忘れた……」
お読みいただきありがとうございました。
好評でしたら、連載として続きを書きますので
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