第8話 スキル習得
何だか、落ち着かない。
この感覚、前にも一度味わったことがある。
そう――緑芋虫から黒芋虫へ進化したときだ。あの時も、同じようにお尻の辺りがソワソワしていた。
「ひょっとして、進化が近いのかな?」
最近、巣の中にも新しいパイセンが増えていた。
紫パイセン、赤パイセンに加え――青パイセンと白パイセン。
これまではそこまで進化する前に、ほとんどの芋虫がこの世を去っていた。だが最近は冒険者の数が減り、命を落とす芋虫も少なくなっている。その結果、パイセンたちはさらに上のステージへと進化した。
まずは青パイセン。
正式名称、不粘液芋虫。
要するに――スライム芋虫だ。
こいつの特徴は体の形を自在に変えられること。色や大きさは変わらないが、形状だけは好き放題だ。
そしてこの能力が、思わぬところで役に立った。
ソファである。
青パイセン一匹だと小さなクッション程度にしかならない。だがそこで採用されたのがド◯クエ方式。
つまり――合体だ。
一匹では小さい。
だが集めて、くっつけて、こねくり回す。
すると――
あら不思議。
芋虫ちゃんがキングス◯イム化するのである。
「うん♪」
座り心地最高の大型ソファが完成した。文明の進歩である。
そしてもう一体。白パイセン。こいつは誰もが一匹は欲しい存在だ。
回復芋虫――つまりヒーラー。
聖女ならぬ、聖なる芋虫である。
白パイセンのおかげで、多少の怪我なら問題なくなった。特に緑芋虫は弱く、進化前にかなりの数が召されてしまっていたが、芋虫界の救世主・白パイセンの登場によって状況は一変した。我ら芋虫帝国の人口は、今後爆発的に増えるはずだ。むしろ今までヒーラーなしでよく絶滅しなかったものだと感心する。まあ、仮に全滅してもダンジョンが新しく生み出すのだろうけど。
とはいえ、生まれてくる芋虫は全員緑だ。強くなるには自力でレベルを上げ、進化するしかない。そのハードルも、白パイセンのおかげでだいぶ下がった。
「俺も強くならなきゃな」
紫パイセンは言うまでもなく強い。赤パイセンに至ってはチート能力持ちだ。最初はただのアイテムボックスかと思っていたが、違った。あいつは魔法を吸い込み、好きなタイミングで吐き出せる。つまり魔法ストック装置だ。事前にエルメスちゃんの魔法を詰め込んでおけば、魔力消費ゼロで撃ち放題。普通にヤバい能力である。
「お、俺だって凄いんだから!」
……とはいえ。やっぱり単体だとクソ弱い。
同族への寄生にも問題がある。芋虫たちは特殊な信号で会話しているのだが――これが最悪だった。一度、寄生した芋虫を無理やり従わせようとしたことがある。その瞬間、脳内に黒板を引っ掻くような音が爆音で響いた。しかもエンドレス。永遠に。俺は秒で白旗を上げた。
どうやら朝焼けの翼の襲撃のときは、単に目的が同じだっただけで協力してくれていたらしい。ちなみに現在、俺は芋虫たちから普通に避けられている。
「とにかく、一匹でも戦えるように鍛えないとな」
敵は人間だけじゃない。ダンジョンの中には様々なモンスターがいる。種族が違えば仲も悪く、縄張りもある。勝手に入れば普通に襲われるし、殺されても文句は言えない。
ダンジョンに――法も秩序もないのだから。
◆
もぐもぐ。
もぐもぐもぐ。
……地味だな。
強くなるにはレベルを上げるしかない。本来なら人間やモンスターを倒して経験値を稼ぐのが早いのだが、俺は弱い。ソロでモンスター狩りなんて無理だ。
しかし方法はある。食べることだ。生き物は食べれば成長する。死骸でもいい。食べればわずかだが経験値が入る。だから俺は今日も、無心で食べ続ける。強くなるため。
そして――天寿を全うするために。
その日。
ついに頭の中で音が鳴った。
パンパカパーン♪
【寄生芋虫 Lv9 → Lv10】
【新スキルを習得しました】
【スキル:増殖 寄生体内で孵化した卵を、寄生体を通して新たな対象へ移すことが可能】
「おおっ!」
お尻のソワソワはこれか。スキル習得の前兆だったらしい。
「増殖……か」
今までは俺が直接卵を植え付ける必要があった。だがこのスキルがあれば違う。寄生した相手を通して、さらに寄生を広げられるのだ。
「これ上手く使えば……」
ダンジョンにいながら街の人間にも寄生できるんじゃないか? 情報収集能力は跳ね上がるし、対処できる脅威も増えるはずだ。
「うっしゃああああ!」
現在、街には潜伏中の寄生体が二人いる。悪役令嬢エルメスちゃんと、エルフっ娘シャネルちゃん。この二人を使えば、商業都市オールセルテスの人間にも寄生を広げられるはずだ。
「で、どうやって寄生するんだ?」
問題が一つある。エルメスちゃんにもシャネルちゃんにも、俺みたいな寄生針はない。つまり、卵をどうやって植え付けるのかという話だ。
スキルの詳細をよく読み込んでみると、どうやら寄生体を経由して卵を渡す際には、直接的な接触が必要らしい。しかも体内を経由するとなると、接触の方法はかなり限られてくる。
「え……口移し?」
……マジかよ。
新スキルで盤面は変わった。
変わったのだが。
「口移しはないだろ」




