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ダンジョン最底辺の芋虫に転生した俺は、寄生能力で美少女を支配する  作者: 葉月


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第7話 寄生ネットワーク

「な、なんでお前がここに居るんだよ!?」


 情報収集を兼ねて、俺はエルメスを操作していつもの酒場へやって来た。すると、店の入口で見知らぬ男に声をかけられた。


 ……ナンパか?


 まあ、エルメスちゃんは性格はともかく顔だけはとびきりの美少女だ。年頃の男の子なら声のひとつも掛けたくなるだろう。


「あたしに何か用か?」


「……あ、あたし?」


 何か変なことを言っただろうか。男の表情が怪訝に歪む。


 あれ、そういえば……この黒髪、どこかで見覚えがある。どこで見たんだっけと考えていると、不意にエルメスちゃんの記憶の断片が流れ込んでくる。


『お前のような悪魔はここで死ね! アズナと姉ちゃんの仇だッ!』


 ……ああ、思い出した。


 あ! こいつキリトか! 仲間になったと見せかけてエルメスちゃんをダンジョンに誘い込んだ張本人。つまり、俺とエルメスちゃんを引き合わせてくれた恩人じゃないか。


 ――恩人なわけありませんわよ!


「……ん?」


 なんか今、頭の中に声が聞こえたような……気のせいか。


「久しぶりですわね、キリト。元気にしていましたの?」


「え……は?」


 警戒されると面倒なので、できるだけ気さくにフレンドリーに話しかけたつもりなのだが、なぜかキリトは目をぱちくりさせていた。


「お、お前……本当に、あのエルメス=バーキンか?」

「あら、嫌ですわ。この(わたくし)、どこからどう見ても可憐な美少女――エルメス=バーキンちゃんですわよ」

「……」


 その場で一回転してからの美少女スマイル――決まった。エルメスちゃんほどの美少女に微笑まれて落ちない男の子はいない。そう思っていたのだが、キリトは相変わらずポカーンと阿呆面を晒していた。思っていた反応と違うが、まあいいか。


「ひぃっ!?」


 どうせなら一緒に飯でも食わないかと一歩踏み出すと、キリトは怯えた仔犬のように身をこわばらせた。


「まあ、なんだ……その、(わたくし)たち、いままで色々ありましたわよね? でも、ほら、いつまでもいがみ合っていても仕方ありませんでしょ? ここはパーッと飲んで、お互い水に流すということに致しませんか?」

「水に流すって……ふざけんなっ! お前、自分がしたこと忘れているんじゃないだろうな。アズナを借金まみれにした挙句、奴隷商に売り飛ばして、俺の姉ちゃんを娼館に売っぱらったんだぞ!」


 うわっ。えぐ。そりゃキリトくんもキレるわ。俺がキリトくんの立場でも殺しに来る。


「あら、でもあなただって(わたくし)を殺そうとしましたわよね?」

「え……いや、その……」

(わたくし)は確かに、あなたの恋人やお姉さんに対して取り返しのつかないことをしてしまったかもしれませんわ。でも、命までは奪っていませんわよ? それに、確かにあの金貸し屋を紹介したのは(わたくし)ですが、借金をすることを決断したのはアズナさん自身ですわよ? あなたのお姉さんだって、良い働き口がないかと聞いてきたから、(わたくし)は手っ取り早く稼げる娼館を紹介してあげただけに過ぎませんの。確かにきっかけは(わたくし)だったかもしれませんが、最終的に決断したのは本人なのですわよ?」


 まっ、騙して借金を負わせたり、紹介料欲しさに娼館へ誘導したのはエルメスちゃんなんだけどね。そこはまあ、元営業部のおっさんの話術でどうとでもなる。


「それとも、先日のことを憲兵に報告しに行った方がよろしくて?」

「いやっ、その……まあなんだ。お互い痛み分けということで手を打つのも悪くないかもしれないね」


 キリトくん、ちょろ。まあ、誰だって自分が一番かわいいもんな。若い十代なら尚更だよな。





「くぅ〜、うめぇええ!」


 キリトくんはアズナちゃんを買い戻すため、冒険者として働きながら金を貯めている最中らしい。そのため大好きなエールも久しく飲んでいなかったんだとか。若いのにホント苦労してるな。


「でもまあ、エルメスが改心したなら良かったよ。それとも俺の殴りどころが良かったのかな? あっはっはっはっ!」


 酒を飲むと上機嫌になるタイプか。ダル絡みして後輩から嫌われるやつだな。


「それとも、実はとっくに死んでいて、モンスターに体を乗っ取られていたりして……」

「……っ」


 す、鋭い! 酔っぱらうと勘が冴えわたるタイプなのか。面倒くさいな。


「……なっわけないか! あっはっはっ」

「おっ、ほほほ……」


 マジで糞面倒くさい酔っぱらいだなコイツ。


「いやー、にしても、まさかエルメスに酒を奢ってもらえる日が来るなんて夢にも思わなかったよな」


 は? なんで女の俺が、エルメスちゃんが奢らにゃならんのだ。逆だろ逆。


 そういえば前世でも奢られ論争が起きていたな。当時の俺は「自分が飲み食いした分くらい自分で出せやボケッ!」というスタンスだったのだが、エルメスちゃんになった今だからよくわかる。こんな美少女が一緒に飯を食ってやってんだから、金くらいお前が出せ!


 ということで、俺は今日、何があってもびた一文金は出さん。全部キリトに出してもらう。おっさんだって奢られたいんや!


「そういえば、聞いたか?」

「?」

「俺たちが行ったあのダンジョン、先日"朝焼けの翼"が攻略のために向かったらしいんだけどさ、帰ってきたのは一人だけだったんだと。朝焼けんところのリーダーのマルジェルっていただろ? あいつとルーベリオンってのが借金残したまま死んじまったから、例の金貸しが相当キレてるんだと。ざまあみやがれだよな」


 どうやら朝焼けの翼は、この街じゃそこそこ名の知れたパーティだったらしい。


「それとさ、あのダンジョン……実は結構ヤバいらしいって噂なんだよ」

「ヤバい?」

「だってさ、朝焼けの翼っていえば一応Cランクパーティだけど、実力はBクラス以上って言われてただろ? それが六人中五人死亡だぞ。さすがにギルドも警戒レベルを引き上げたらしいからな」

「警戒レベルを引き上げた!?」

「な、なんだよいきなり……びっくりするだろ」

「え、と……その、おほほ」


 驚きのあまり思わず立ち上がってしまった。


 それにしても、ギルドが我が家の警戒レベルを引き上げたとは、バッドニュースにもほどがある。萎えるわ〜。少し張り切って殺しすぎたかな。やっぱり程々に甚振って帰すべきだったのか? いや、でもなあ……そうしたら後から報復に来るやつだって絶対いるよな。


「それで、ギルドは警戒レベルを引き上げただけですの?」

「ああ。ギルドは前回の失敗を教訓に、今度は大人数でコアの破壊を行うんだと。ギルドのクエストボードに攻略パーティの募集が出てたんだけど、見てないのか? 報酬もかなりの額だったぜ」


 冗談だろ。


 一難去ってまた一難とはこのことだ。せっかく朝焼けの翼を追い払ったというのに、これでは俺の苦労はなんだったんだ。


「エルメスは参加しないのか?」

「え?」

「自分を追い出した家を見返すために稼いでるんだろ? ダンジョン討伐メンバーになってコアを破壊したってなれば、当然名は売れるし、エルメス向きなんじゃないのか?」

「……そうですわね」


 討伐パーティに加われば、背後から奇襲をかけることも可能かもしれない。なにより討伐パーティの情報は事前に入手しておきたい。しかしそうなれば、俺本体の護衛がいなくなってしまう。敵が攻めてくるなら、素早く動ける体――人間はできる限り近くに置いておきたい。


 となれば、寄生体二号――シャネルを潜り込ませるか。エルフっ娘なら、仲間の仇討ちという名目ですんなり忍び込めるし、悪くないかもな。


「キリトはどうしますの?」

「俺? ……う〜ん、パスかな」


 おや。報酬が良いと言っていたので、てっきり参加するものとばかり思っていた。


「理由を聞いても?」

「知ってると思うけど、俺のランクはCだ。同ランク帯でトップだった朝焼けの翼がほぼ全滅に近い形になったダンジョンだぜ。いくら報酬が良くても、死のリスクが高すぎるんだよな。俺はアズナや姉ちゃんを解放するためにも、こんな所で死ぬわけにはいかないし。ってことで、今回はパスだな。――あ、エールおかわり貰える?」


 ほぉー、意外と堅実な奴なんだな。俺のキリトくんに対する好感度、ちょいと上がったかもな。


「そんなことよりさ、これも食っていいかな?」

「ん? ……ええ、構いませんわよ」


 どうせ払うのはキリトくんなんだから、好きなだけ飲み食いすればいい。ついでに俺も頼んじゃおっと。意識を共有してるから、腹は満たされなくても味は伝わるんだよな。





「しかし、まずいことになったな」


 ダンジョンの奥で、芋虫ソファにでっぷりと座りながら考えていた。


「このまま芋虫を増やすだけでは、さすがに限界があるよなぁ」


 また冒険者たちの進行を防げたとしても、そのたびに強キャラを集めてトライを繰り返されたら、そのうち必ず詰んでしまう。


「もっと根本的な解決策が必要だよな」


 それこそ、街の中にもっと深く根を張る必要がある。ダンジョンコアを破壊しようとしている領主やギルドマスター辺りを取り込めたら理想的だ。そのためには寄生体をもっと増やす必要がある。


 しかし、それには俺が自ら人間の前に赴かなければならない。正直、リスクは高い。この芋虫の体は戦闘面でゴミクズ以下だ。冒険者とまともにやり合えば、十中八九負ける。


 何かいい手はないものか。


 そう考えた時、俺は自分の体の中に――


 新しい感覚が芽生えていることに気がついた。

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