第6話 冒険者パーティ壊滅 芋虫視点
ダンジョン――我が家に土足で踏み込んできた侵入者たちを、俺は監視カメラ代わりに設置した緑芋虫くんの視点を通して確認していた。
「バカめッ! ここが地獄の芋虫ランドと知らずにノコノコやって来たな。目にもの見せたりますわ! よっこらせ、と」
緑の後輩芋虫くんたちで作った特製芋虫ソファから飛び降り、俺は冒険者たちがやって来た方角へもぞもぞと移動を開始する。その間も、脳内モニターで彼らの監視は怠らない。
「もうこんな所まで来てるのかよ!」
芋虫と違い、人間の移動速度は速い。俺は意識をエルメスちゃんへと切り替えた。今回の作戦、芋虫だけでは不安があった俺は、あらかじめ街からエルメスちゃんを助っ人として呼び寄せていたのだ。
「……いまいちよく見えないな」
芋虫体は夜目が利くのか、薄暗いダンジョン内でも意外と視界良好なのだが、エルメスちゃんではそうはいかない。
「三人称視点に切り替えるか」
天井に待機させている監視カメラ視点に切り替え、第三者視点からエルメスちゃんを操作する。
「え? ……人?」
「やべっ!?」
意識の切り替えに手間取ってしまい、銀髪のエルフ女にエルメスちゃんの姿を見られてしまった。慌てて後方へダッシュする。
「なんであの女、灯りもないのにこっちが見えんだよ! チートか? あいつもチート持ちなのか! だったらチート持ちじゃないエルメスちゃんはハズレやん! ただ性格が悪いだけの悪役令嬢ですやん!」
――――ッ。
あ、あれ……?
突然、エルメスちゃんがぴたりと立ち止まった。
「な、なんで動かないんだ?」
脳内コントローラーをカシャカシャ操作するが、エルメスちゃんはピクリとも動かない。
……ん?
気のせいだろうか。心なしかエルメスちゃんが監視カメラ越しにこちらを睨んでいる気がする。
「い、いやぁ〜。最初に寄生したのがスーパー美少女にして最強の魔法使い、エルメスちゃんで良かったなぁ〜」
試しにお世辞を口にしてみる。すると次の瞬間、すっと操作が戻ってきた。
「……こわっ!」
エルメスちゃんのWi-Fi途切れる問題については追々考えるとして、まずは侵入者の駆除が最優先だ。万が一ダンジョンコアが破壊されれば、このダンジョンによって生み出された俺も消滅する。それだけは絶対に阻止しなければならない。
「くそっ、追いかけて来てるじゃねぇかよ!」
ハリネズミみたいな髪の男。確かルーベリオンとか呼ばれていた奴だ。そいつがものすごい速度でエルメスちゃんに迫ってくる。
「速ぇッ!?」
体を動かすのがあまり得意じゃないエルメスちゃんと違い、ルーベリオンは盗賊系なのか走る速度が段違いだ。
「仕方ない」
本当はもう少し奥で仕掛ける予定だったのだが――
「そっちがその気なら、望み通りここでやってやるよ!」
◆
「おい、待ちやがれ!」
「……」
俺はエルメスちゃんを立ち止まらせ、ゆっくりとルーベリオンへ体を向ける。彼はエルメスちゃんに仕事を横取りされると思い込んでいるのか、肩を怒らせながら近づいてくる。
事前にエルメスちゃんの記憶で調べていた通り、このルーベリオンという男は短気で無鉄砲。違法な闇賭博に手を出して借金を抱えているだけあり、金が絡むと周囲が見えなくなるタイプだ。斥候としては失格だな。
「お前どこのパーティ所属だ!」
「知りたい?」
「あぁ? てめぇふざけてんのかッ! ――――あ? なんだ?」
肩を掴まれた瞬間、隠し持っていた毒針を手の甲にぷつりと刺してやる。紫パイセンから拝借した、一刺しで全身を麻痺させる優れモノだ。
「……ゔぅっ、てめぇ……なにしやがった!」
ルーベリオンは膝から崩れ落ちた。勝ちを確信したエルメスちゃんが、にやりと笑う。悪役令嬢だけあって、こういう表情は本当に様になる。
「残念、ゲームオーバーですわ」
「は? ――――って、な、なんだよこれ!?」
エルメスちゃんの合図と同時に、ルーベリオンの頭上から紫パイセンたちが次々と降り注ぐ。天井、壁、足元――そこら中から紫色の芋虫が這い出した。
「来るなぁあああああああああああああああああああ!」
抵抗することもできず、ルーベリオンの体はあっという間にパイセンたちに飲み込まれていく。最後の力を振り絞るように、彼は叫んだ。それはパイセンたちへではなく――こちらへ向かってくる仲間への忠告だったのだろう。
「へぇー、意外と仲間想いなんだな」
少しだけ感心した。
……だが、それだけだ。きっと俺に、人だった頃の心はもう残っていない。
「ルーベリオン! ――――っ!?」
「な、なによ……これ!?」
「……き、気持ち悪い」
おっと。朝焼けの翼のメンバーが追いついて来たようだ。
「んっじゃあ、仕上げに掛かりますか」
パイセンに揉みくちゃにされ、じわじわと意識を溶かされていくルーベリオン。その光景を見て、朝焼けの翼のメンバーの表情が凍りついた。
「あれは、まずい!」
「赤き揺らめきよ、道を切り拓け――ファイヤーボール!」
魔法使いが火球を放つ。――が、すぐさま潜ませていた赤パイセンに操作を切り替え、海老のように跳びはねて豪火を丸呑みする。
すぽっ。
「うっし!」
赤パイセンの固有スキル――捕食。魔法すら捕食できることは、エルメスちゃんで事前確認済みだ。
「――――なっ、バカなッ!?」
驚くのはまだ早いぜ、ユグルドさんよ。赤パイセンは捕食した魔法を吐き出すことで、攻撃を丸ごと跳ね返すこともできる。例えば――こんなふうにな。
「ぐわぁああああああ!?」
跳ね返った火球が、大男へと直撃する。芋虫単体では確かに弱い。しかし数と戦略が揃えば、芋虫は化ける。
「ルーベリオンを見捨てるわけにはいかない! 俺が助けに行く! ユグルドとシャネルは援護を頼む! セルシカはポイズンワームを牽制してくれ!」
こんな状況でも仲間を見捨てないか。
……いいリーダーだな。
だが、人はすべてを救えない。何かを守るなら、何かを捨てるしかない。マルジェル、お前の敗因は――ルーベリオンを捨てられなかったことだ。
「うぉおおおおおおおおおお! 待ってろルーベリオン! 今行くぞぉおおお!」
鉄の剣を握り、マルジェルが突っ込んでくる。熱い。熱いぜ、マルジェル。お前がもし少年漫画の主人公だったら、俺は百パー推してる。
「なーんてな☆」
刹那、暗闇に青白い火花が走る。
「――――サンダーボルト」
直後、轟音とともに解き放たれる閃光。中空を駆け抜けた稲妻は、友を助けようと突っ込んでくるマルジェルの体を、容赦なく貫いた。
「うっしゃああああああッ! ガキが調子こいてんじゃねぇぞ! こちとら半世紀以上生きてきたおっさんなんだよ! 社会の厳しさ教えてやるよ!」
……はぁ、はぁ。アドレナリンやべぇな。ちと興奮しすぎたか。
「――って、危ねぇッ!」
油断も隙もない。エルフ女がエルメス目掛けて矢を放ってきやがった。間一髪、赤パイセンの捕食で吸い込む。危うくエルメスちゃんのハートが射抜かれるところだった。
「にしても、恐ろしい精度だな」
この混乱の中で、迷わずエルメスちゃんを狙ってきた。朝焼けの翼で一番厄介なのは、あのエルフかもしれない。
「逃げるのよ!」
「でもっ、でもっ、マルジェルが、ルーベリオンがっ!」
「わかってる、わかってる……けどっ。今逃げないと全滅する!」
「でもっ!」
「聞きなさいシャネル! マルジェルもルーベリオンも、多分もう生きてないわ」
「……」
「セルシカの言う通りじゃ! 今はここから生きて出ることだけを考えるんじゃ!」
人ん家に無断で侵入しておいて、簡単に帰れるわけねぇだろ。
「お前らからしたら正義の行いかもしれないけどな、俺からすればただのイカれた強盗犯なんだよ!」
絶対逃がすまじ。
「このダンジョンはギルドの報告よりずっと危険じゃ! 儂らは生きて、この事をギルドに伝えねばなら――――ッ!?」
はい、本日の天気はファフロツキーズ。各地で毒芋虫が降ってくるので、外出の際は十分お気をつけください。
「ユグルド! ダッチ!」
「バカッ! 上を見なさい!」
「!?」
天井を見上げた瞬間、美少女の顔が恐怖に歪んだ。紫、赤、緑――何百匹ものパイセンたちが、天井にびっしりと張り付いていた。
「さてと、仕上げといきますか」
◆
「きゃっ――!」
足をもつれさせて転ぶエルフっ娘。その背後から、俺を抱えたエルメスちゃんがゆっくりと歩み寄る。
「よっこらせ、と」
ぴょん、と腕から飛び降りた俺は、そのまま動けずにいるエルフっ娘の背中によじ登る。
「……いや……やめ……」
ぷす。
問答無用で首筋に針を突き刺し、体内へ卵を送り込む。
「よし、二人目ゲットだぜ!」
こうしてダンジョンコアを破壊しに来た侵入者を始末すると同時に、俺は二人目の美少女を手に入れたのだった。
ダンジョン防衛、完了。




