表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン最底辺の芋虫に転生した俺は、寄生能力で美少女を支配する  作者: 葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第5話 冒険者パーティ壊滅

「マルジェル! セルシカ! ルーベリオン! ダッチ! ユグルド! 誰でもいいから返事してっ!」


 細いダンジョンの通路を、エルフの少女――シャネル=ココハンドルが全速力で駆け抜けていく。その表情は恐怖に歪み、今にも涙があふれ出してしまいそうだった。


「どうして誰も返事してくれないのよ! ねえっ! お願いだから返事してよっ!」


 走りながら後方を振り返る。


 そこには――。


 全長一メートルほどの芋虫が、壁も床も埋め尽くすようにうねりながら迫ってきていた。ぬらぬらとした体表。開いた口の奥には、針のように細い牙がびっしりと並んでいる。獲物を見つけたように、シャネル目掛けて這い寄ってくる。


「ひっ……!?」


 さらに――


 ぼとり。ぼとり。


 天井から、同じ芋虫が次々と落ちてくる。


「いやぁあああああ!?」


 雨のように降り注ぐポイズンワーム。床は蠢き、壁は這い、天井からは降ってくる。

 逃げ場など、どこにもない。


 なぜ、こんなことになってしまったのか。


 もしも時間を巻き戻せるのなら――冒険者パーティ"朝焼けの翼"は、決してこの依頼を受けなかっただろう。



 ――三日前。すべては、あの依頼から始まった。




「マルジェル、これ見ろよ」


 冒険者パーティ"朝焼けの翼"のメンバー、マルジェルとルーベリオンの二人は、朝からクエストボードを睨みつけていた。この二人は筋金入りのギャンブル好きで、ここ数日、違法なカードゲームに手を出した挙句、二人そろって多額の負債を抱え込んでいた。そのため今日は朝からボードに張りつき、高額依頼を虎視眈々と狙っていた。


 そこへ、ギルド職員によって新たな依頼書が貼りつけられる。


【依頼内容 木漏れ日の大森林――湖近辺のダンジョンコア破壊 難易度C 報酬1000万ギル 依頼人『オールセルテス領主』】


「一人160万以上か」


 ルーベリオンが口笛を吹く。


「決まりだな!」


 マルジェルは勢いよく依頼書を剥ぎ取り、二人はがしっと手を握り合った。


 それからしばらくして、パーティメンバーのセルシカ、ダッチ、ユグルド、シャネルの四人も合流した。彼らは共にこの街――商業都市オールセルテスで出会った冒険者だ。年齢も出身もバラバラ。だが、奇妙なほど気が合った。


 初めて心から笑い合える仲間に出会えた――そう思っていた。


 それはシャネル=ココハンドルも同じだった。エルフの里を追放され、渡り鳥のように各地を転々としてきた彼女にとって、"朝焼けの翼"は故郷のような存在になっていた。帰る場所を失った自分にも、また帰る場所ができたのだと、そう思っていた。


「だが、ダンジョンコアの破壊となると、大変なのではないか?」


 大柄な戦士ダッチが腕を組む。


「なんじゃダッチ。お前さん図体がデカい割にビビっておるのか?」

「ちょっとやめなさい、ユグルド。そうやってすぐにダル絡みするのは魔法使いの悪い癖よ」

「ホーッホッホッホッ。こりゃすまなんだ」

「でも、本当に大丈夫なの?」


 シャネルが不安そうに言った。高額な報酬に乗り気になっている五人とは違い、彼女はいまいち気が乗らなかった。

 なぜなら――彼女はダンジョンが大の苦手なのだ。


「出たわよ、シャネルの虫嫌い。いい加減冒険者なんだから虫くらい克服しなさい」

「セルシカ、その言い方やめて。それに、あそこのダンジョンは虫が多い。しかも芋虫」

「大丈夫大丈夫。芋虫ならこの未来の勇者、マルジェルさんが斬り刻んでやるさ!」

「そうそう。シャネルは後方から矢を撃ち込んでくれりゃいいのさ。あとはこのルーベリオン様が片してやる」

「まあ、それなら……いいけど」


 こうして"朝焼けの翼"は、新種の寄生芋虫が住まうダンジョンへ向かうことになった。

 それが彼らにとって、運命を分かつ選択になるとも知らずに――。



 ◆



「ユグルド、灯りを頼む」

「うむ。聖なる光よ我らの行く末を照らし出せ――ライト!」


 七十は越えているであろう老魔法使いユグルドが杖を掲げると、薄暗いダンジョンに柔らかな光が灯る。


「ただの灯りなのに、相変わらず仰々しい詠唱ね」

「相変わらずセルシカ嬢は手厳しいのぉ」

「二人とも、お喋りも程々にしてくれよ」

「マルジェルの言う通りだぜ。いくら雑魚ダンジョンとはいえ、ここから先はモンスターの巣窟だからな。なにより、1000万がかかってんだ!」

「あんたはそっちが本音でしょ」

「バレたか」


 朝焼けの翼からどっと笑いがこぼれる。これからモンスターの巣窟に踏み込もうとする者たちとは思えないほど、場は和んでいた。


 ――たった一人を除いて。


「……っ」


 シャネルはダンジョン入口から少し離れた場所に立ち、恐る恐る中を覗き込んでいた。


「シャネル、あんたいつまでそんなところにいるつもり? さすがのあんたでも、そこからじゃ射抜けないわよ」

「わ、わかってる!」

「なら、ほら。諦めてこっちに来るんだ」

「……う、うぅ」


 マルジェルに手を引かれ、シャネルは渋々ダンジョンへ足を踏み入れた。


 生ぬるい風が肌を撫でる。その瞬間、シャネルの背筋がぞくりと粟立った。


「はぁ……鬱だ。虫なんてこの世から消え去ればいい。フォローしてくれなかったら千年恨むから。エルフ、長生きだから、ね」

「わーったぁ、わーったぁって」



 朝焼けの翼は、ユグルドの灯りを頼りにダンジョンの奥へ進んでいた。最初に違和感に気づいたのは、意外にも重戦士のダッチだった。


「なにか……妙ではないか? 嫌な感じだ。昔、仲間を失った時と同じだ」

「なんじゃ、またお前さんの心配症が発症しおったか?」

「ユグルド、今は茶化すのはよしてくれ」


 不快感をあらわにしたダッチに、ユグルドは素直に頭を下げた。


「すまなんだ」

「で、ダッチが言う妙というのは?」


 ダッチは足を止め、来た道を振り返る。


「すでにダンジョンの入口から結構離れた。にも関わらず、襲ってきたモンスターはキラーバット数匹のみ。これはギルドの情報と違うのではないか?」

「確かにそうね。ギルドの調査報告書では、このダンジョンのメインモンスターはワーム系って話だったわよね?」

「うむ。報告書では、入口付近から緑色のワームが襲ってきたと書かれていた」

「確かに妙じゃな。儂らはまだ一匹も芋虫を見ておらん」

「何言ってんだよ。芋虫が来なかったんならラッキーだろ」

「……ラッキーって」


 ルーベリオンの発言に、セルシカは呆れたようにため息をついた。


「んっだよ!」

「なにか良くないことが起こっているのかもしれない。一度引き返した方がいいのではないか?」


 五人の視線が一斉にリーダーのマルジェルへと集まる。


 もしもこの時、慎重派のダッチの意見を受け入れていたなら――この後に起こる惨劇は、避けられていたのかもしれない。


「おいおい、ここまで来て引き返すとか冗談じゃねぇぞ! 当然行くよな、マルジェル!」

「……」


 マルジェルは一瞬だけ目を伏せ、思考を巡らせた。

 ダッチの言う通り、違和感はある。だが――


「1000万だぞ。借りた100万だって、それだけありゃ一発で返せんだぜ?」


 その言葉に、ゆっくりと顔を上げる。


「クエスト失敗はギルドの評価に関わる。それに、現段階で引き返すには判断材料が少なすぎると思うんだ」

「それもそうね。何もないのが怖いから引き返しました、なんて言ったら笑われるわよね」

「ダッチには悪いが、任務は続行だ」

「謝ることはない。リーダーの言い分のほうが正しい」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 朝焼けの翼は、さらにダンジョンの奥へと進んでいく。



 しばらく歩くと、また分かれ道に差し掛かった。


「また分かれ道か」


 これで三度目だった。分かれ道に差し掛かるたび、マルジェルたちはコインを投げて進行方向を決めていた。


 ――しかし。


「え? ……人?」


 分かれ道の片側、そのずっと奥に――シャネルは少女の姿を捉えていた。


「ねぇ」

「っんだよ? また虫でも出たか?」

「違う。この奥に人がいる」

「は?」


 シャネルが指差す方角に目を凝らすが、ユグルドのライトが届かない奥の様子を、彼らが見ることはできない。


「シャネル、本当に人がいたのか?」

「ええ、間違いない。十代くらいの女の子。何度か冒険者ギルドで見たことある子だった。エルフ、記憶力はいい」


 腕利きの弓士であるシャネルの能力のひとつに、千里眼がある。魔力を瞳に込めることで、視力を何倍にも高めることができるのだ。


「……でも、ちょっと変」

「変?」

「あの子、さっきから……全然動いていない。まるで、たったまま気を失っているみたい」


 薄暗い通路の奥。少女はそこに立ったまま、まるで人形のように動かなかった。


「他のパーティがコアを奪取する気じゃねぇだろうな!」

「落ち着きなさい。ギルドから正式に依頼を受けたのは私たちよ」

「いや、我々が受けた依頼内容は、あくまでコアの破壊だ。彼らはコアを盗りに来たのかもしれない」

「は? そんなの盗ってどうすんのよ」

「闇オークションでは、ダンジョンコアが高値で取引されているとも聞いたことがある」

「くそっ……ここまで来て横取りだと? ふざけんなよ!」

「おい、待つんだルーベリオン!」


 マルジェルの制止を振り切り、ルーベリオンは暗闇の中へ駆け出してしまった。


「追うぞ!」


 朝焼けの翼は、自分たちが誘い込まれているとも知らず――ルーベリオンを追って、さらに深い細道へと踏み込んでいった。


 そして、遥か前方のルーベリオンが角を曲がり、しばらくした後――


「来るなぁあああああああああああああああああああ!」


「「「「「!?」」」」」


 喉が張り裂けるほどの叫び声が、ダンジョン内に響き渡った。五人の足が一瞬止まる。しかし次の瞬間には、全員が走り出していた。仲間の――ルーベリオンの元へ。


「ルーベリオン! ――――っ!?」

「な、なによ……これ!?」

「……き、気持ち悪い」


 角を曲がった瞬間、彼らは理解した。


 この通路は――巣だ。


 壁も、天井も、蠢くポイズンワームで埋め尽くされていた。そして細道の先には、糸が切れた人形のように倒れ込むルーベリオンの姿。天井から落下したポイズンワームの毒を浴びたのか、彼は無防備に横たわったまま、四方から群がるポイズンワームに次々と毒針を打ち込まれていた。


「あれは、まずい!」

「赤き揺らめきよ、道を切り拓け――ファイヤーボール!」


 ユグルドが放った火球は、しかしルーベリオンに届くことはなかった。


「――――なっ、バカなッ!?」


 ポイズンワームの群れに紛れ込んでいた赤い芋虫――プレデターワームが、火球をそのまま吸い込んでしまったのだ。


 ぽん。


 次の瞬間、プレデターワームは捕食した火球を、今度はマルジェルたちへ向かって吐き返した。


「ぐわぁああああああ!?」


 予想外の反撃に体がこわばって動けずにいるユグルド。そんな老魔法使いを庇うダッチ。彼の背中は灼熱の炎によって赤黒く焼けただれていた。


「ダッチ! 馬鹿者ッ! なぜ儂なんぞをかばった!」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないわよ! どうすんのよマルジェル!」

「ルーベリオンを見捨てるわけにはいかない! 俺がルーベリオンを助けに行く。ユグルドとシャネルは援護を頼む! セルシカはポイズンワームが近づかないように牽制してくれ」


 それだけ言うと、マルジェルは振り返ることなくポイズンワームの群れへ突っ込んだ。


「――サンダーボルト」


 直後、暗闇から轟音とともに閃光が駆け抜ける。稲妻は真っすぐマルジェルへと伸びていき――気がついた時には、マルジェルの体は地へと倒れ伏していた。


「……そんな」


 倒れたマルジェルの体に群がる、無数のポイズンワーム。


「どういうことよ! 一体何がどうなってんのよ!」


 パニックを起こすセルシカとは違い、シャネルは遥か前方を睨みながら矢をつがえていた。


「くそっ! 外した!」

「――シャネル!」


 二矢目を射ようとするシャネルの腕を、セルシカが掴んだ。


「逃げるのよ!」

「でもっ、でもっ、マルジェルが、ルーベリオンがっ!」

「わかってる、わかってる……けどっ。今逃げないと全滅する!」

「でもっ!」

「聞きなさいシャネル! マルジェルもルーベリオンも、多分もう生きてないわ」

「……」

「セルシカの言う通りじゃ! 今はここから生きて出ることだけを考えるんじゃ!」


 ダッチに肩を貸すユグルドは、すでに来た道を引き返していた。このまま戦っても勝てないことを、長年の経験が告げていた。


「このダンジョンはギルドの報告よりずっと危険じゃ! 儂らは生きて、この事をギルドに伝えねばなら――――ッ!?」


 ユグルドとダッチ、二人の頭上から無数のポイズンワームが降り注いだ。あっという間に、二人の姿を飲み込んでいく。


「ユグルド! ダッチ!」

「バカッ!」


 二人の元へ駆け出そうとするシャネルを、寸前のところでセルシカが止めた。


「上を見なさい!」

「!?」


 見上げた天井には、おびただしい数の芋虫が蠢いていた。シャネルは叫び出しそうになるのを、ぎりぎりのところで堪えた。


 そして次の瞬間、ユグルドが照らしていた光が消えた。それは彼の意識が絶たれたことを意味していた。同時に――ユグルドとダッチ、二人の命の光が消えたということでもある。


「走りなさい!」


 駆け出すセルシカ。シャネルも暗闇の中を無我夢中で駆け抜けた。


「誰かぁ! 誰かぁあああ!」


 天井から無数の芋虫が降り注ぎ、まるでダンジョンそのものが崩壊していくような錯覚を覚えた。


「セルシカッ! セルシカッ! お願いだから返事をして!」


 どれくらい走っただろう。もはや正しく来た道を引き返せているのかもわからなかった。恐怖と疲労で、心身ともに限界だった。



 ――――ッ。


 そして遂に、その時が訪れる。


 足がもつれた。


「きゃっ――!」


 シャネルの体が石床に叩きつけられる。


 次の瞬間。


 ぶよぶよとした感触が背中に覆いかぶさった。


「い、いや……いやぁ……」


 芋虫だ。一匹ではない。十匹、二十匹――全身にまとわりつく。


「や、やめて……来ないで……」


 そのときだった。


 コツ、コツ、とブーツの音が響く。


「……な、なんで」


 全身に毒がまわり、ろくに動けなくなったシャネルの瞳が捉えたのは、十代半ばほどの人間の少女だった。マルジェルにサンダーボルトを放った、あの少女。その腕の中には、見たこともない漆黒の芋虫の姿があった。


 漆黒の芋虫は少女の腕から音もなく落ち、ゆっくりとシャネルの背を這い上がる。


「……いや……やめ……」


 次の瞬間。


 ぷす。


 首筋に鋭い痛みが走った。


 芋虫の針が深く突き刺さり、何かが体内へと流し込まれていく。


 びくん、びくん。


 二度、三度と痙攣するシャネル。


 やがて。


 ゆっくりと立ち上がり――ダンジョンの外へ向かって歩き始めた。

==================================

【☆あとがき☆】


まずは読んでくださり誠にありがとうございます!

読者の皆様に、大切なお願いがあります。


少しでも、


「面白そう!」

「続きがきになる!」

「期待できそう!」


そう思っていただけましたら、

ブックマークと評価を入れていただけますと嬉しいです!


モチベーションが上がって最高の応援となります♪

何卒宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ