第4話 ダンジョン防衛
ダンジョンコアが破壊されれば、俺も死ぬ。
「ぬぅおおおおおおおおおお! どうすりゃいいんだよぉおおおお!」
テンパりすぎた俺は、巣穴の中を右へ左へコロコロと転がり回る。後輩よろしく緑芋虫くんや、同期なのかパイセンなのか判断のつかない兄弟たちが、俺の行動にドン引きして距離を取った。
「あんっ! 虐めやん! こんなん虐めですやん! 仲良くしましょうや!」
にちゃーっと笑みを張りつけ、手揉みしながら距離を詰める脂ギッシュなおっさん(※芋虫なのでイメージです)。
芋虫ちゃんたちは相変わらず個性派なおっさんに冷たい。
「――って、こんなことしてる場合じゃねぇんだよ!」
円形に広がる芋虫の輪。遠巻きにこちらを見つめる兄弟たち。俺はダンジョンの中心で、迫りくる危機を叫ぶ。
「みんな聞いてくれ! 今から三日後、母なるダンジョンをぶっ潰そうと、人間たちが攻めてくるんだ!」
「……」
……しーん。
「……あかん。所詮は芋虫や。言語の壁が理不尽過ぎる。というか、そもそもこいつら自我とかあんのかよ」
ただひたすら同じ行動を繰り返すだけの芋虫。これではただのNPCじゃないか。
どっちかというと、俺が異常なんだよな。まさにユニーク。つまんねぇんだよ!
「にしても、これはさすがに困った」
受付嬢のお姉さんの話では、三日後にウチのダンジョンコアを破壊すべく、ギルドが雇った冒険者が送り込まれてくるという。幸い、ウチのダンジョンはショボいと思われているらしく、そこまで強い冒険者は来ないらしい。
とはいえ、こちらは芋虫だ。ポ◯モンで例えるなら、キャタピーとビードルしかいない状態でジムリーダーに挑むようなものだ。いくらなんでも縛りプレイが過ぎる。
「さすがに、戦力が芋虫のみってのはな……」
ということで、とりあえず一緒に戦ってくれそうな仲間をゲットしに行くことにした。なに、問題ない。ここはダンジョンだ。モンスターなら吐いて捨てるほどいる。それにおっさんは元々バリバリの営業部の人間。交渉ごとはお手の物だ。
それに、俺と同じくダンジョンから生まれた魔物である以上、ダンジョンコアが破壊されれば彼らもゲームオーバーになるはず。利害は完全に一致している。
「言葉の壁さえ越えられれば、交渉はうまくいくはず!」
そう思ったのだけど……。
◆
「俺と手を組んで人間を倒そう? は? 芋虫なんかと組むわけないよね? にちゃ」
「人間がコアを狙って攻めてくる? 一体どこからの情報だべ。あ? 人間に寄生して得ただぁ? はぁ……おめぇさ、つくならもう少しマシな嘘をつくべさ」
「人間を倒そう? んなことよりさぁ、お前旨そうだよな。じゅるり」
いやぁああああああああああ!?
◆
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った」
クソっ。所詮はモンスター。どいつもこいつも話にならない。最後の蜘蛛野郎に至っては、完全に俺を餌として認識しやがった。許せん!
「仲間集めは無理だな……」
芋虫がここまで舐められている存在だとは思わなかった。性格の悪いゴブリンはまだしも、スライムにまで見下されるとは。
「やっぱり芋虫たちをなんとかするしかないか」
とは言っても。
「こいつらバカだから言葉すら通じないんだもん」
コミュニケーションが取れないのに従わせるなんて無理ゲーだ。
「ん? 待てよ」
頭の中で電球がピコンと光った。閃きである。
「……寄生したらいいんじゃね?」
何も寄生先を人間に限定する必要はない。モンスターに寄生してもいいじゃないか。
思いついたら即行動。タイムイズマネーだ。
俺は赤パイセンのぷにぷにボディに、針をぷすっと突き刺した。エルメスちゃんの時と同じように、卵のような何かを植え付けていく。
――その瞬間。
「うひょっ!?」
視界が増えた。俺の意識の横に、もう一つの意識が開く。
地面の振動。体の重み。近くにいる芋虫の気配。すべてが流れ込んでくる。
まるで俺というデスクトップを拡張したように、脳内でデュアルモニターが完成した。いや、元々の俺視点があるのだから、この場合は夢のトリプルモニターということになる。素晴らしい。
「おおっ! こりゃすごい!」
試しに赤パイセンの体を動かすと――
ズボボボボッ!!
近くにいた芋虫たちが一瞬で吸い込まれた。カー◯ィばりの吸引力だ。
「おおお!?」
さらに吐き出す。
ぽん、ぽん、ぽん。
芋虫が出てくる。
「すげぇ! アイテムボックスじゃん!」
しかも。赤パイセンの体から、微弱な信号が出ているのがわかった。その信号に、周囲の芋虫たちが反応して動く。
「……なるほど」
芋虫たちは言葉じゃなく、信号で会話していたのか。
「通りで仲間外れだったわけだ。つーか、それならそうと俺にも信号を飛ばして教えてくれよ! 仲間だろ! ったく」
ほんと、何なんだよ。
失礼しちゃうわ、プンプン。
しかし、まあ――
「芋虫を操作できるなら、話は別だ」
◆
俺は芋虫だけで冒険者たちを返り討ちにする作戦を考え始めた。
そして、閃いた。
「その名も――ファフロツキーズ大作戦!」
ファフロツキーズ。空からカエルや魚が降ってくる怪現象のことだ。
つまり――芋虫の雨。
かっこよく言ってみたものの、早い話が待ち伏せだ。
芋虫は遅い。正面から戦えば一方的に蹴散らされるだろう。だが数は多く、毒持ちの紫パイセンもそれなりの数いる。狭い通路で相手の動きを封じることができれば、地の利は完全にこちらにある。
「ピッピッピッ! 皆さん、こっちですよ!」
気分は引率の先生だ。
「はーい、ストップ! では皆さん、ここで粘着糸を使って天井に張り付いてください!」
毒々しい紫パイセンたちが、通路の天井にびっしりと張り付く。
「うわぁ、きもっ」
集合体恐怖症の人がこの光景を見たら、きっと泡を吹いて倒れるだろう。
曲がり角の影にもパイセンたちを配置し、横幅の広い道には赤パイセンたちをずらりと並べる。こちらに逃げ込んできた場合は一斉吸い込みが発動する算段だ。こうすることで、敵を一列にしか進めない細道へと誘い込む。
「俺、天才じゃん♪」
もはや罠というより、芋虫の壁だな。
三日間、俺は何度も予行演習を繰り返した。準備に抜かりはない。
◆
そして――その日が来た。
「ギルドの報告じゃ雑魚モンスターしかいないらしい。さっさとコア破壊して帰るぞ」
「あいよ」
ダンジョンに入ってきたのは六人組の冒険者だ。
前衛には重装備の剣士。後ろには杖を持った魔法使い。弓を構えたエルフまでいる。
装備も動きも洗練されている。素人目でもわかる。こいつら、強い。
だが。
「来るなら来やがれ」
ここは――俺たちの餌場だ。骨まで残さねぇ。




