第6話:料理ギルドからの使者
セシリアさんが去ってから1週間。
店は相変わらず繁盛していたが、何か変化が起きる予感がしていた。
そして、その予感は的中した。
「失礼する」
ある日の昼下がり、店に一人の男性が入ってきた。
40代くらいだろうか。立派な髭を蓄え、高級そうなローブを纏っている。
その胸元には、フォークとナイフが交差したエンブレム。
「あの、いらっしゃいませ……」
「私はギルバート。王都料理ギルドの幹部だ」
「料理ギルド……?」
「この国の料理人を統括する組織だ。知らないのか?」
「すみません、俺、この村に来たばかりで……」
ギルバートさんは少しため息をついた。
「まあいい。本題に入ろう。君の噂は王都にまで届いている」
「噂……ですか」
「ああ。『辺境の村に、伝説級の料理を作る男がいる』とね」
「そんな大げさな……」
「大げさではない」
ギルバートさんは真剣な目で俺を見た。
「アルトリア侯爵家の令嬢、セシリア様が君の料理を絶賛していた。それだけでなく、冒険者ギルドからも報告が上がっている。君の料理には、回復ポーション以上の効果があると」
「それは……」
「君には、特殊なスキルがあるのだろう?」
核心を突かれて、俺は言葉に詰まった。
「隠す必要はない。料理ギルドには、様々な特殊スキルを持つ料理人がいる。君もその一人というだけだ」
ギルバートさんは席に座った。
「それで、本題だ。君に料理ギルドへの加入を勧めに来た」
「加入……?」
「そうだ。料理ギルドに加入すれば、様々な恩恵がある。高級食材の優先購入権、王都での店舗開業支援、そして――」
ギルバートさんは声を落とした。
「君の身の安全が保障される」
「身の安全……?」
「君のような特殊な能力を持つ料理人は、時に危険に晒される。悪徳貴族に拉致されたり、犯罪組織に狙われたり……」
「そんなことが……」
「現実にあるのだ。だが、料理ギルドの庇護下にあれば、そのような心配はない」
それは確かに魅力的な提案だった。
でも――
「条件は?」
「鋭いな。ああ、条件はある」
ギルバートさんは指を一本立てた。
「年に一度、王都で開催される『料理祭』への参加だ」
「料理祭?」
「全国の料理人が腕を競う祭典だ。君にはそこで、料理ギルドの代表として戦ってもらう」
「戦うって……」
「比喩だ。料理対決をしてもらうということだ」
なるほど。
つまり、料理ギルドに加入する代わりに、年に一度のイベントに出場しろということか。
「考えさせてください」
「もちろんだ。ただし――」
ギルバートさんは立ち上がった。
「君が加入しないという選択をした場合、他の組織が君にアプローチしてくるだろう。中には、あまり良くない組織もある。よく考えることだ」
そう言い残して、ギルバートさんは店を出て行った。
「料理ギルドか……」
複雑な気持ちだった。
俺はただ、この村で静かに料理を作っていたかった。
でも、世界はそれを許してくれないのかもしれない。
「どうしよう……」
その夜、俺は村長さんに相談した。
「ふむ……料理ギルドの勧誘か」
「はい。どうすればいいでしょうか」
村長さんは少し考えてから、こう言った。
「ケント、お主はどうしたい?」
「俺は……」
「正直に言うてみい」
「この村で、店を続けたいです。でも、危険な目に遭うのも怖い」
「そうか」
村長さんは優しく笑った。
「ならば、加入すればいい。料理ギルドは悪い組織ではない。お主の活動を制限することもないじゃろう」
「本当ですか?」
「ああ。わしの知り合いにも、料理ギルドに所属しながら地方で店を持つ者がおる。年に一度のイベントさえ参加すれば、あとは自由じゃ」
「そうなんですか……」
「それに、お主の料理は本物じゃ。もっと多くの人に食べてもらうべきだと、わしは思う」
村長さんの言葉が、背中を押してくれた。
「分かりました。加入します」
「うむ、良い決断じゃ」
翌日、俺はギルバートさんに連絡を取り、料理ギルドへの加入を決めた。
こうして、俺の料理人としての新たな道が開かれた。
ーー第7話に続く




