第20話:竜国からの使者
ゼンが去ってから2日後。
今度は、別の客が訪れた。
「失礼する」
入ってきたのは――竜人族の男性。
立派な角、鱗のような肌。
明らかに、リナと同じ種族だ。
「いらっしゃいませ……」
「お前が、ケントか」
「はい」
「俺はドラグ。竜国の近衛隊長だ」
「竜国の……!」
リナが、厨房から飛び出してきた。
「ドラグ!?」
「リナエル姫……!」
ドラグは片膝をついた。
「お久しぶりです。ご無事で何よりです」
「どうして、ここに……」
「お迎えに参りました」
ドラグは顔を上げた。
「竜国の政変は終わりました。新王が即位され、姫様の帰還を望んでおられます」
「え……」
リナの顔が、青ざめた。
「帰還……?」
「はい。姫様は、竜国の第二王女。王位継承権もお持ちです」
「でも、私は……」
リナは俺を見た。
「私、ここにいたい……」
「姫様……」
「ここが、私の居場所なの」
ドラグは困った顔をした。
「お気持ちは分かります。しかし、国の命令です」
「……」
「1週間、お時間を差し上げます。その間に、準備を」
「待ってください」
俺が口を挟んだ。
「リナは、俺の大切な従業員です。無理やり連れて行くことはできません」
「……」
ドラグは俺を見た。
「お前が、ケントか」
「はい」
「姫様を、ここまで守ってくれたのは、お前か」
「守ったというか……普通に一緒に働いてただけです」
「……そうか」
ドラグは少し考えてから、こう言った。
「では、取引をしよう」
「取引?」
「お前が竜国に来て、王宮で料理を作れ」
「え……」
「それができれば、姫様がここに残ることを認めよう」
「本当ですか!?」
リナが目を輝かせた。
「ああ。新王も、お前の料理には興味がある。建国祭の噂は、竜国にも届いている」
「……」
「どうだ?引き受けるか?」
俺は少し考えた。
竜国に行く――
それは、また新たな挑戦だ。
でも――
「分かりました。引き受けます」
「ケント……」
「リナがここにいられるなら、俺は何でもするよ」
「ありがとう……」
リナの目に、涙が浮かんだ。
「では、1週間後に迎えに来る」
ドラグは去っていった。
「竜国か……」
また、遠い場所に行くことになった。
その夜。
リナと二人で、店の2階で話していた。
「ケント、本当にいいの?」
「何が?」
「竜国に行くこと……危険かもしれないよ」
「大丈夫。リナのためだから」
「でも……」
「リナ」
俺はリナの頭を撫でた。
「お前は、俺の大切な仲間だ。家族みたいなものだ」
「ケント……」
「だから、お前が幸せならそれでいい」
「……ありがとう」
リナは涙を流しながら、笑った。
「私、ケントに出会えて本当によかった」
「俺もだよ」
二人で、しばらく星空を見上げた。
1週間後、俺は竜国へ向かう。
どんな料理を作ればいいのか――
まだ分からない。
でも、俺にはいつもの答えがある。
『食べた人を幸せにする料理を作る』
それだけだ。
ーー第21話に続く




