第18話:建国祭前夜
建国祭の前日。
準備は、ほぼ完了していた。
「メニューは確認した。食材も揃った」
アンリさんが言う。
「あとは、明日、完璧に仕上げるだけだ」
「はい」
この3週間、本当に大変だった。
メニューの選定、試作、何度もの練り直し。
料理人たちとの議論、時には喧嘩もした。
でも――その全てが、明日につながっている。
「ケント君」
アンリさんが言った。
「お前は、立派な料理長だ」
「そんな……」
「いや、本当だ。最初は反発していた連中も、今ではお前を信頼している」
「それは、みなさんのおかげです」
「謙遜するな」
アンリさんは笑った。
「さあ、今日は早く寝ろ。明日が本番だ」
「はい」
その夜、俺は一人で王都の街を歩いていた。
「明日か……」
緊張と期待が入り混じる。
各国の王族に、料理を提供する。
一歩間違えれば、国家の恥になる。
「プレッシャーだな……」
でも――
「みんながいるから、大丈夫」
リナ、セシリアさん、レイナさん。
村のみんな。
そして、王宮の料理人たち。
「みんなの力を信じよう」
そう思った時――
「ケント」
背後から声がかけられた。
振り向くと――レオンさんが立っていた。
「レオンさん!どうしてここに……」
「明日の晩餐会、見学に来たんだ」
「そうなんですか」
「ああ。お前の料理、もう一度食べたくてね」
レオンさんは微笑んだ。
「明日は、どんな料理を作るんだ?」
「それは……秘密です」
「ふふ、そうか」
レオンさんは空を見上げた。
「ケント、一つ言っておく」
「はい」
「料理は、技術じゃない。心だ」
「……」
「お前は、それを体現している」
レオンさんは俺の肩を叩いた。
「だから、自信を持て。お前の料理は、必ず成功する」
「ありがとうございます」
「じゃあ、明日を楽しみにしているよ」
レオンさんは去っていった。
「レオンさん……」
心強い言葉だった。
「よし、明日は全力で行くぞ」
そう決意して、俺は宿に戻った。
建国祭当日。
朝早くから、王宮は大忙しだった。
「ケント料理長、準備はどうだ!」
「順調です!」
厨房では、20人以上の料理人が一斉に動いている。
俺は全体を指揮しながら、重要な料理を自分で作る。
「前菜は、カルパッチョと季節の野菜のテリーヌ」
「メインは、牛フィレ肉のロースト、特製デミグラスソース」
「デザートは――」
ここが一番のこだわり。
「特製フレンチトースト、アイスクリーム添え」
料理祭で作ったあの料理を、さらに進化させた。
「よし、全て順調だ」
午後6時。
晩餐会が始まった。
大広間には、各国の王族が集まっている。
「緊張するな……」
「大丈夫よ、ケント」
リナが声をかけてくれた。
今日は、リナも給仕の手伝いをしてくれている。
「ありがとう、リナ」
「うん。一緒に頑張ろうね」
そして――
料理が運ばれ始めた。
まずは前菜。
「おお、美しい盛り付けだ」
「この味……繊細で、深みがある」
好評だ。
次に、メイン。
「このロースト、完璧に焼けている」
「ソースが素晴らしい」
「これが、王国の料理か」
各国の王族たちが、満足そうに食べている。
「よし……」
そして――最後のデザート。
俺が全身全霊を込めた、フレンチトースト。
「これは……」
一口食べた瞬間――
会場が、静まり返った。
そして――
一人の王族が、涙を流した。
「なんだ……この料理は……」
「温かい……心が、満たされる……」
「こんな料理……初めてだ……」
次々と、王族たちが感動の声を上げた。
「素晴らしい……」
「この国の料理人は、本物だ……」
「我が国にも、ぜひ来てほしい……」
大成功だった。
晩餐会が終わった後。
国王陛下が、直接厨房に来られた。
「ケント料理長」
「は、はい!」
「お前の料理、素晴らしかった」
「ありがとうございます!」
「各国の王族たちも、大変満足していた」
国王陛下は微笑んだ。
「お前は、王国の誇りだ」
「恐れ多いです……」
「いや、本当だ。これからも、その料理で多くの人を幸せにしてくれ」
「はい、必ず」
国王陛下が去った後――
料理人たちが、俺を囲んだ。
「ケント料理長、やりましたね!」
「大成功だ!」
「俺たち、最高のチームだ!」
みんな、笑顔だった。
「みなさん、ありがとうございました」
俺も、心から笑顔になれた。
こうして、建国祭の晩餐会は大成功に終わった。
そして――俺の名前は、各国にまで知れ渡った。
でも――
「さあ、村に帰ろう」
俺の居場所は、やっぱりあの村の小さなカフェだ。
「うん!」
リナも嬉しそうだ。
「帰りましょう、ケント」
新たな伝説を作った俺たちは――
再び、辺境の村へと向かった。
ーー第19話に続く




