第11話:王都の料理人たち
翌朝。
アルトリア侯爵家の豪華な朝食に圧倒されながら、俺たちは料理祭の会場へ向かった。
「会場は王城の隣にある『美食宮殿』よ」
セシリアさんが案内してくれる。
「美食宮殿……」
「料理祭のために作られた、特別な建物なの。厨房設備も最高級よ」
街を歩いていると、至る所に料理祭のポスターが貼られていた。
『第50回王国料理祭』
『史上最大規模!各国の名料理人が集結!』
『優勝者には王家より黄金の料理勺が授与される』
「50回目なんですね」
「ええ。記念大会だから、特別に盛大なの」
美食宮殿に着くと、既に多くの料理人たちが集まっていた。
みんな、一流の風格を漂わせている。
「受付はあそこよ」
「ありがとうございます」
受付に向かうと――
「よう、来たか」
ギルバートさんが待っていた。
「ギルバートさん!」
「調子はどうだ?」
「なんとか。村からは無事に着きました」
「そうか。じゃあ、今から他の参加者を紹介しよう」
ギルバートさんに連れられて、控室へ。
そこには、10人ほどの料理人がいた。
「みんな、紹介する。今年の特別枠、ケントだ」
「……」
全員が、こちらを見た。
その視線は――好意的ではなかった。
「特別枠?」
一人の男性が、鼻で笑った。
「辺境の村から来たって聞いたが、本当か?」
「はい……」
「はっ、村の料理人が料理祭だって?笑わせるな」
「マルコ、やめろ」
別の料理人が止めた。
「でも、ジャックさん。特別枠なんて、実力じゃなくてコネでしょう?」
「……」
気まずい空気が流れる。
「まあまあ、落ち着いてください」
優しそうな女性が間に入った。
「初めまして。私はエリーズ。王都で『花の厨房』というレストランを経営してます」
「ケントです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。村から来たって聞いて、興味あったんです」
「ありがとうございます……」
「エリーズさん、優しすぎますよ」
マルコという男性が不満そうに言った。
「優しいんじゃない。公平なだけよ」
エリーズさんは微笑んだ。
「料理の実力は、厨房で証明されるもの。出身地なんて関係ないわ」
「……そうですね」
マルコは黙り込んだ。
「ケントさん、期待してますよ」
「はい、頑張ります」
午後、料理祭の説明会が開かれた。
「では、今年の料理祭のルールを説明する」
運営委員長らしき人物が登壇した。
「今年は3つのラウンドで構成される」
「第1ラウンド:前菜部門。制限時間2時間」
「第2ラウンド:メイン部門。制限時間3時間」
「第3ラウンド:デザート部門。制限時間2時間」
「各ラウンドで審査が行われ、上位5名が次のラウンドへ進める」
「そして、最終ラウンドの優勝者が、『王国最高の料理人』の称号を得る」
会場がざわめく。
「審査員は、王族、貴族、そして各国の美食家たちだ」
「つまり、本物の舌を持つ人々が、君たちの料理を評価する」
「準備はいいか?」
「はい!」
全員が答えた。
「よし。では、明日から料理祭が始まる。各自、準備をしておくように」
説明会が終わると、参加者たちはそれぞれ散っていった。
「ケント」
声をかけてきたのは、先ほどのジャックという料理人。
「はい」
「俺は『黒獅子亭』のオーナーシェフ、ジャック・ノワールだ」
「あの有名な……!」
黒獅子亭は、王都で最も予約が取れないと言われる高級レストランだ。
「お前の噂は聞いてる。回復効果のある料理を作るんだってな」
「はい……」
「面白い。だが、料理祭では、効果だけじゃ勝てない」
「……」
「味、見た目、創造性。すべてが完璧でなければならない」
ジャックさんは真剣な目で言った。
「お前が本物かどうか、明日の料理で証明してみせろ」
「はい、必ず」
ジャックさんは去っていった。
「すごいプレッシャーだな……」
「ケント、大丈夫?」
リナが心配そうに聞いてきた。
「ああ、大丈夫。むしろ、燃えてきたよ」
「えへへ、それならよかった」
「さあ、今日は早く寝よう。明日が本番だ」
その夜、アルトリア家の客室。
俺は一人、料理のことを考えていた。
第1ラウンドは前菜部門。
何を作ればいいだろう。
『調理の祝福』をどう活かすか。
いや――それ以前に。
「俺らしい料理って、なんだろう」
村では、お客さんの顔を見ながら料理を作っていた。
トムさんが好きな味付け。
リナが笑顔になるデザート。
村人たちが元気になる料理。
「そうか……」
答えが見えた気がした。
俺の料理は、誰かを幸せにするための料理だ。
効果があるとか、技術があるとか、そういうことじゃない。
「食べた人が笑顔になる。それが俺の料理だ」
そう決めた瞬間――
視界の端に、メッセージが表示された。
【調理の祝福】のレベルが上昇しました。
新しい効果が解放されました:『心の癒し』
料理を食べた人の心を温かく癒します。
「これは……」
新しい効果だ。
心の癒し――
これこそ、俺が求めていたものかもしれない。
「よし、明日は全力で行くぞ」
ベッドに入って、目を閉じる。
明日から、本当の戦いが始まる。
でも――怖くない。
俺には、守りたいものがある。
村のみんな。
リナ。
そして――料理への誇り。
「必ず、やってみせる」
そう誓って、俺は眠りについた。
ーー第12話に続く




