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短編

薄明

作者: 月蜜慈雨
掲載日:2026/02/06





 今が一番、人生のどん底のように思える。

 ビルの屋上から見る夕焼けは綺麗だ。

 空は白く光り滲んでいる。

 こういう夕日をなんて言うんだっけ。


「もう終わっちゃう」


 冬の夕焼けは短い。あっという間に日は傾いて、夜になってしまった。

 下から吹き抜ける風が冷たい。

 見下ろすと、人がアリンコのように歩いている。

 なんだか怖くなって、半歩下がった。脇に置いたリュックを背負って、エレベーターで一階に降りる。

 降りるとそこは、煌々と照らされた廊下、塾講の先生たちが忙しなく教室を行き来していた。


「あら、田嶋さん?」


 普段お世話になっている、個別指導の英語の先生に声を掛けられた。


「どうしたの?自習室迷った?」


「あ、いえ、気分転換に屋上に…」


 先生はにっこり笑った。


「リフレッシュ出来たなら良かった。これからだから、体調気をつけるんだよ」


「はい」


「それじゃあ」


 そして先生は他の先生同様、忙しなく去っていった。

 ドアを開けると、車のクラクションの音や、人々の歩く音が私を襲う。

 一気に現実が押し寄せてくるようだ。

 足取りは重く、一歩がナマケモノみたいにのろい。

 家に帰ったら、ご飯食べて、お風呂に入って、また勉強しなきゃ。



 やがて、繁華街から住宅街へ、街は姿を変える。

 そういえば、今日はミルキーの新曲発表の日だっけ。

 帰り道に曲を聞くくらいなら許される、許されたい。

 徐にワイヤレスイヤホンを耳につけて、ミルキーの新曲を検索する。

 少しして、イントロが耳から流れる。

 曲を聴きながら、帰り道を歩いていく。

 なんか、この曲、流れ星みたいだな。

 そう思っていると、唐突に、真冬の夜空に流れ星が流れた。


「え?」


 余りの偶然に、思わず声が出た。目をゴシゴシ擦る。空には疎らに星が散るばかりだ。

 最後の一音を残して曲も終わった。

 良い曲だった。

 こんな憂鬱な日でも、心が少し晴れるくらい、良い曲だった。


「願い事、し忘れたなぁ」


 締まらないなぁ、と思いながら歩いていくと、家が見えた。

 一階の灯りに、なんだかホッとしてしまう。


「よし、勉強するか」


 なんとなく気合いを入れ直して、玄関の扉を開けた。


「ただいまー!」










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