薄明
今が一番、人生のどん底のように思える。
ビルの屋上から見る夕焼けは綺麗だ。
空は白く光り滲んでいる。
こういう夕日をなんて言うんだっけ。
「もう終わっちゃう」
冬の夕焼けは短い。あっという間に日は傾いて、夜になってしまった。
下から吹き抜ける風が冷たい。
見下ろすと、人がアリンコのように歩いている。
なんだか怖くなって、半歩下がった。脇に置いたリュックを背負って、エレベーターで一階に降りる。
降りるとそこは、煌々と照らされた廊下、塾講の先生たちが忙しなく教室を行き来していた。
「あら、田嶋さん?」
普段お世話になっている、個別指導の英語の先生に声を掛けられた。
「どうしたの?自習室迷った?」
「あ、いえ、気分転換に屋上に…」
先生はにっこり笑った。
「リフレッシュ出来たなら良かった。これからだから、体調気をつけるんだよ」
「はい」
「それじゃあ」
そして先生は他の先生同様、忙しなく去っていった。
ドアを開けると、車のクラクションの音や、人々の歩く音が私を襲う。
一気に現実が押し寄せてくるようだ。
足取りは重く、一歩がナマケモノみたいにのろい。
家に帰ったら、ご飯食べて、お風呂に入って、また勉強しなきゃ。
やがて、繁華街から住宅街へ、街は姿を変える。
そういえば、今日はミルキーの新曲発表の日だっけ。
帰り道に曲を聞くくらいなら許される、許されたい。
徐にワイヤレスイヤホンを耳につけて、ミルキーの新曲を検索する。
少しして、イントロが耳から流れる。
曲を聴きながら、帰り道を歩いていく。
なんか、この曲、流れ星みたいだな。
そう思っていると、唐突に、真冬の夜空に流れ星が流れた。
「え?」
余りの偶然に、思わず声が出た。目をゴシゴシ擦る。空には疎らに星が散るばかりだ。
最後の一音を残して曲も終わった。
良い曲だった。
こんな憂鬱な日でも、心が少し晴れるくらい、良い曲だった。
「願い事、し忘れたなぁ」
締まらないなぁ、と思いながら歩いていくと、家が見えた。
一階の灯りに、なんだかホッとしてしまう。
「よし、勉強するか」
なんとなく気合いを入れ直して、玄関の扉を開けた。
「ただいまー!」




