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98 片っ端からぶった切る

孤児ハルマはワマの轡を掴んだ騎士の背後に忍び寄り、短剣を腰だめに持ったまま、体ごと突っこんで行った。ハルマの構えた短剣は、騎士の尻肉に刺さっていた。ただ、硬い腰骨に引っかかったようで、浅くしか刺さらない。


それでも、その刺された騎士は、腰砕けになって四つん這いで逃げようとする。


異変を察知してもう一人の騎士が剣を抜いて、孤児ハルマに切りかかる。


(危ない!)


とっさに鳥を孤児ハルマに向けて飛ばす。


(間に合え!)


最初の一撃を孤児ハルマは構えた短剣で何とか受けるが、体が後ろに飛ばされる。


すぐに騎士の二激目が迫る。


この剣も短剣で受けるが、受けた短剣を遠くに弾き飛ばされてしまう。


丸腰になる孤児ハルマ。


その正面から騎士が剣を突き下ろす。


孤児ハルマの姿がその場から煙のように掻き消えて、騎士の剣が空を切る。


直後、騎士の背後に孤児ハルマが出現した。


俺のやった魔鋼の短剣で、低い姿勢から孤児ハルマが騎士の足首に切りつけている。


騎士が前につんのめって倒れるが、そのまま振り向きざまに剣を横に振りかぶる。


そこで俺の鳥が間に合う。


騎士に追い打ちをしようと短剣を掲げているハルマの顔の前で、羽ばたく。


驚いた顔で見上げる孤児ハルマの短衣の背中を掴んで、鳥は一気に上空に飛び上がる。


「わー!」


孤児ハルマの脚の下で、横なぎに振られた騎士の剣が空を切る。


奴の叫びは無視して、そのまま離れ目掛けて上空を飛び、離れの屋根の上に孤児ハルマを降ろす。


視界を地下牢の自分に戻す。


「ここは囲まれている。じきに騎士たちが突入してくる。すぐに上階に逃げるぞ!」


俺は捕まっていた美女三人と、子どもたち5人を引き連れ、全員で階段を上に登る。


「ねえ、上に行ってどうするのよ。外に出ないと逃げられないじゃない!」


英子が疑問を口にするが、それを無視する。


「説明してよ!」


「今外に出たら皆殺しだ。ここは籠城して、時間を稼ぐ」


三階に登って俺は屋根裏への階段を探す。


細い階段が見つかった。


「みんな、登るんだ!」


下の階が騒がしくなってきた。騎士たちが突入を始めたようだ。


全員が屋根裏部屋に上がったのを確認して俺はヒューリン棚から二刀のファルカタを取り出し、左右の腰に佩く。


それを引き抜いて、屋根裏部屋への階段に振り下ろす。


俺のファルカタの衝撃波で細い階段が下に崩れ落ちる。


「えっ、ちょっと、ちょっと、階段無くなっちゃったじゃない。下りる時どうするのよ?」


英子がうるさい。


「心配するな。とりあえずはこれで時間が稼げる。奴らが梯子で上がってこようとしたら、屋根裏部屋にある物をなんでも下にぶつけてやれ。それから、男どもにはこれをやる」


ヒューリン棚にあらかじめ入れてあった、ロングソードを二本取り出して、アスルとヨグに渡した。


「剣か!?助かる!しかし、その収納は何だ?魔法か?」


「最新魔術だ。まだ世に知られてない術式で、俺の師匠の魔導士が考えたものだ」


「へえ、凄い師匠なんだな」


「ああ、凄くて美人だ。中身の人格はちょっとアレだがな」


「女か!?そうか美人なら、一度会ってみたいな」


「止めとけ。実験台にされて刺されるぞ」


「そいつは勘弁だ。天才には変人が多いらしいな」


「ああ、奴の弟子をして、冗談抜きに何度も殺されるかと思った」


屋根裏の横の出窓を開けて外に出る。


緩く傾斜した屋根に上がる。


「よお、危なかったな。なんで逃げなかった?」


屋根の上に座る孤児ハルマに声をかける。


「俺が勝ってた」


と憮然とする孤児ハルマ。


「よく言う。俺が助けなかったら、すぐに囲まれてやられてたぞ」


「助けてくれたのは、あの鳥だ。お前じゃない」


とふてくされてそっぽを向く。


「あー、確かにな。でも飼い主は俺だ」


「ああ、確かにな」


「それより、お前は英子の護衛だぞ。それで飯を食わせてるのを忘れるなよ」


「うっ、そうだな…。エイコはいるか?」


「中だ」


屋根の上を見回す。焼き物の赤茶色の瓦が魚の鱗の様に敷き詰められている。


それを抱えられるだけ剥がして、孤児ハルマと二人して屋根裏部屋に戻る。


壊した階段の側にその瓦をおろす。


「下から上がって来ようとしたらこいつを食らわせてやれ。矢を打ってくるかもしれないから、それはセシルが光の盾で防ぐんだ」


「分かりました。任せて下さい」


真剣な緊張した面持ちでセシルがうなずく。


「ああ、任せた」


「あなたはどうするの?」


さすがに不安そうな顔で英子が訊いてくる。


「このままここに籠っていてもジリ貧だかからな。俺は打って出て、騎士たちを蹴散らす」


「無茶よ。私の光魔法の射程範囲から、離れたら治してあげられないのよ」


「分かっている。ただ無策で突っ込むような真似はしない。体中を切られるのはもう嫌だ。いい事を思いついた。俺は性格が悪いと言ったよな。その性格の悪さを見せてやる」


屋根裏の中を見回す。


目的の物が見つかった。


古い木の椅子だ。


しっかりとした作りで丈夫そうだ。手かせ足かせに使う鉄の輪と鎖を地下牢から持って来ていた。


その鉄の輪の四つを椅子の四隅に留める。その反対側の輪っかはひとまとめに一か所で鍵をしてまとめる。


次に小さめの窓のカーテンを外して床に広げ、その上に外から剥がして来た屋根瓦を積み上げる。


それを巾着状に包んで持ち上げ、膝に抱えた状態で椅子に腰を下ろす。


「一つ確認だ。マーサ」


「何でしょうか?」


「この屋敷に居る騎士達は殺していいのか?あの中にお前の知り合いが居て、代官に嫌々従っていることは有るか?」


「私の元の護衛や騎士たちは、皆辞めてしまって誰も残っていません。あの騎士達は皆、奴隷商のヨーデイが連れて来たスーラ教徒です。ヨーデイは用心深い男です。暗殺を恐れているので、自分の直接の部下以外を自分の護衛にすることは有りません」


「そうか。じゃあ、あいつらは死んでもいいな。これは戦争だ。手加減している余裕なんか無い。それだけ確認しておきたかったんだ」


窓から鳥のぺーちゃんが飛んできて、鎖とまとめた部分を足のかぎ爪で掴み、ゆっくりと椅子に座った俺を持ち上げて、屋根裏部屋の出窓から外に飛んで出る。


「じゃあ、外の奴らやっつけてくる」


俺は目をつむり、鳥の視界で飛ぶ。


椅子に乗った俺をぶら下げて、騎士たちの上空に向かう。


「よし、これでも喰らえ!」


俺は膝の屋根瓦をフリスビーでも飛ばすように騎士たちに向かって飛ばす。


重さがある瓦は緩やかな楕円軌道で騎士たちのすぐ側の地面に落下して砕ける。


下の騎士達が上空の俺を見上げて、大声で叫びながら指をさす。


何枚か瓦を投げて、何となくやり方が分かってきた。


五枚目の瓦が下の一人の騎士の肩の辺りに当たって、その騎士が倒れる。


「やった!」


騎士達は俺の煉瓦爆弾の爆撃を避けて右往左往逃げ惑う。


何人かが弓を持って来て、俺に狙いを定めるが、そちらに瓦を飛ばすと、あわてて逃げ出す。


だが、この瓦爆弾だけでは敵に決定的なダメージを与えることは出来ていない。


(頃合いだな)


陣形も何もなく、バラバラに散らばった騎士たちの真ん中に、鳥を急降下させて、俺は椅子から下に飛び降りる。


「ぺーちゃんは上空で待機!」


鳥に指令を出して、ガルゼイの体で目を開く。


鳥は俺の指令を受けて、上空に飛び上がる。


(やっぱりだ。どういう訳かこの鳥は簡単な指令なら、自律思考のコマンドが入るようだ)


ぶっつけ本番が上手くいって良かった。


俺は二刀のファルカタを抜いて、低く地を滑るように、騎士たちの背後に迫る。


左右を交互に振り抜いて、騎士たちの間を通り抜ける。


俺の通った後に、血煙が舞う。


体が軽い。


俺に向き直って、向かって来る騎士の剣先を避けて転がりながら、相手の脚を刈り取る。


立ち上がる俺を狙って、別の騎士が剣を突き出す。


その突いてくる剣先を左のファルカタの腹で滑らせて逸らし、右のファルカタで相手の両腕を切り落とす。


騎士達の俺への包囲が厚くなってくる。


完全に囲まれる前に、騎士達に背を向けて、俺は逃げ出す。


「来い!ぺーちゃん!」


俺の指令で鳥が椅子ごと急降下してくる。


その椅子に飛び乗り、目を閉じて、鳥の視界にリンクをつなげて、急上昇する。


一度、屋根裏部屋に戻る。


「無事か!」


出窓から中に声をかける。


「問題ない!連中、下から矢を射て来たが、上から瓦を投げつけたら遠巻きにして寄ってこない」


アスルが返事をする。


アスルの足元には矢が何本か転がっていて、手にも一本の矢を持っている。


「そう言えばお前は飛んでくる矢を掴めるんだよな。何をどうしたらそんなことが出来るんだ?」


「知らん。ガキの頃から出来た。それで大道芸で稼いで、セシルと二人で生きられたんだ。危ない芸だったから、妹には内緒でこっそりやっていたがな」


「兄さんが矢を全部掴んじゃうから、私の出番がありません」


不満そうにセシルが兄に抗議する。


ヨグがそれをなだめる。


「今は魔力を温存しておいた方がいい。これからここを脱出しなければならないんだ。まだこれから出番はある。焦るな」


「でも…」


「ヨグの言う通りだ。後で嫌ってほど、こき使ってやるから、今のうちに休んでおけ。それじゃあ、俺はまた騎士たちを蹴散らしてくる」


瓦爆弾を補充して、鳥の目でまた椅子ごと外に飛び出す。


騎士の連中は、死んだり怪我をした仲間を抱えて、数人が母屋の方に移動していた。


(少し人数が減った。好都合だ)


それでもまだ、十人くらいが離れの外に居る。


(さっき五人くらい切って、今、他の五人がそれを運んでいる。外に十人、離れの中にも十人くらいか?あの盗賊の隊長と、弓使いの赤毛女の姿が無いな)


再度、瓦爆弾の攪乱から、下に飛び降りて、騎士たちを縦横に切り散らす。


ここまでで、まだ俺は怪我一つしていない。


騎士達の剣筋がものすごくよく見える。


剣の軌道が分り易い。スピードもノロい。


それを体が勝手に避ける。


これは切られる方がかえって難しそうだ。


俺が森で戦った、四人の盗賊達とは実力が段違いだ。


やはり、あいつらは指名手配のネームドキャラだけあって、かなり強かったみたいだな。


(楽ちん、楽ちん)


体をひねったり、逸らしたり、転がってみたり、自由自在に変幻自在な動きで、二刀を振り続ける。


十人の内、半分を切り倒したところで残りの騎士達が俺に背を向けて逃げ始めた。


(一人も逃がさん!)


残忍な黒い感情が腹から湧き上がる。


自分が笑っているのが分かった。


うおーん!


黒衣の老人の声が耳元で聞こえた。


(ん?俺、まだ怪我してないぞ)


剣を持つ俺の腕のすぐ上に黒衣の老人の腕が重なるように浮かんで、俺の手の動きをなぞっている。


黒衣の老人の黒い腕が俺の腕と完全に重なる。


腕に力がみなぎる。


俺の振ったファルカタが逃げる騎士の背中をかすかにとらえる。


刃先が軽く背をかすめただけなのにまるで黒い斬撃が飛んだように、騎士の体が斜めに真っ二つに両断されて地に落ちる。


衝撃波の威力が今までの何倍にも上がっている。


(どういうことだ?)


思えば今まで戦闘の時は、いつも体を切られたり刺されたりして、満身創痍で戦っていた。まったく怪我をしないで戦えているのは今回が初めてだ。


(今までは、体を治癒するのに使っていた力を、攻撃に振っているのか?)


自分の中の霊エネルギーの残量を観察する。


体を治癒する時とは段違いに少ないが、それでも霊エネルギーが少しずつ減ってきているのが分かった。


(そうか、攻撃に力を使うだけなら、コストパフォーマンスがだいぶいいんだな。それも、この試作魔剣があっての事か。これが、あの魔剣『魂を砕く者』ならとんでもない威力になるんだろうな)


黒衣の老人の力を借りるのはやめておいた方がいいと、分かっているが、いつもそれを許される状況でないのだから仕方がない。


(今回も頼るよ、ガルゼイのひい爺さん)


そう心の中で呟くと、黒衣の老人が嬉しそうに『うおーん!』と声を上げた。


黒衣の老人の脚が俺の脚に重なる。


途端に脚の回転が上がる。


逃げる騎士達にあっという間に追いつく。


(やば!脚が速くなってる。これでガルゼイ最大の弱点が克服されちまったな)


離れに逃げ込もうとする、残りの騎士達を次々両断する。


最後の一人を縦に唐竹割にする。


内臓を撒き散らして、騎士の体が左右に分かれて落ちた。


黒衣の老人と俺の腕の同化を解除して、今死んだ騎士たちの霊を吸収する。


(そう言えば最近は、霊の吸収を全部黒衣の老人に任せていて、自分の手で吸収するのをやめていたな。どっちにしろ俺の為に使うからいいかと思っていたけど、何か違いがあるのだろうか?)


試しに一体の霊に自分の手を伸ばすが、すかさず、黒い手がそれに伸びて、横取りする。やはり、黒衣の老人は自分の腕で吸収したいようだ。


その時、母屋の裏から、何頭かのワマが走り出して来た。


先頭の黒毛のワマは普通のワマより体が一回り大きい。


その背に、巫女服姿の赤毛の女が乗っている。


頭のフードが外れて顔が良く見えた。


あの赤毛の弓使いの女だ。


大弓を体にたすき掛けにして、背中に矢筒を背負っている。


その彼女の後から三頭のワマが続く。


その背で、神官の服を着た三人の男たちが、それぞれ手綱を握っている。


その四頭のワマは空いている門の隙間から外に走り出して行った。


(まずい。逃げられた)


街の外には、確かこの街の騎士団の駐屯地があったはずだ。


そこに援軍を呼ばれたら、この街から逃げられなくなる。


(これは、もたもたしてられなくなったぞ)


離れを中から攻めている騎士たちはそう多くはないだろう。屋根裏はまだ大丈夫だ。


「屋根裏に戻れ!」


鳥に指示を出して、俺は逆方向の母屋に走った。


『眼』を屋根裏に置いて、危なくなったら駆けつければいい。


今やることは別にある。


母屋の中に入ると一回のホールで先に離脱した騎士たちが負傷者の手当てをしていた。


俺の姿にうろたえている騎士達を、情け容赦なく一人残さず切り殺す。


階段を二階に登る。


さっき代官のヨーデイと面会した部屋の前に立つ。そのドアを、切り飛ばして中に脚を踏み入れる。


中には誰も居ない。


部屋を出て、廊下を奥に進む。


その先にひときわ立派な浮彫のドアがあった。


それを、切り飛ばす。


立派なドアで、壊すのがもったいなかったので、真ん中の鍵の部分だけを縦に切って、蹴り開ける。


慌てた様子のヨーデイが床板を剥がして、書類の束をかき集めている所だった。


「証拠の書類を探す手間が省けたな。お前は用心深くて他人を信用しないそうだな。そういう人間は、大事な物を自分のいつもいる場所に隠すと思ったんだ」


「何をしている!早くそいつを殺せ!」


ヨーデイの言葉の後、首筋にひやりとした殺気を感じた。


とっさに身を沈めて体を斜めに倒し、廊下を横っ飛びに転がる。


顔の横で空間を断ち切るかの様な鋭い斬撃が通り抜ける。


(危なかった)


立ち上がって、斬撃の主に向けて剣を構える。


盗賊の隊長が幅広の長剣を構えて目の前に立っていた。


「くそっ!代官!邪魔をするな!お前の声が無かったら、今、こいつの首を切り落とせていたんだ!」


苛ついて、隊長がヨーデイに怒鳴る。


「いいから、早くそいつを殺せ!この役立たずめ!」


それにヨーデイが顔を赤くして怒鳴り返す。


「馬鹿を上役に持つと苦労するな。もっとも俺はその馬鹿のおかげで首が繋がったがな」


両刀を油断なく構え、俺は隊長に向き合う。


こいつは今までの相手と違う。


はっきり言って俺より強い。


森の戦いで俺が善戦出来たのはこの男が、積極的に攻めて来ないで、少しずつ俺を削る戦法を取ったからだ。仲間との連携もあるから、自分の実力はほとんど出していないと見た方がいい。どんな隠し玉を持っているか分からない。


それに対して俺は手の内をほぼ全て見せている。


いや、黒衣の老人との同化はまだ見せていない。


しかし、『同化』を使うには、怪我をしないことが必須だ。


怪我をしてしまうと、霊エネルギーのリソースが体の修復に割かれてしまって、攻撃に回せなくなる。


こいつは油断の出来ない強敵だ。


まともに戦えば無傷では済まないだろう。


(どう戦う?)


考えがまとまらなくて、隊長と睨み合う。


不意打ちを失敗して、隊長の方も攻め手を掴めていないようだった。


「お前何があった。二日前より強くなっているな」


「分かるのか?まいったな。あなどって油断してくれても良かったのに。俺を強くしたのはあんただよ。あんたたちと切り合って、剣技に覚醒したんだ」


「やはり、あそこで殺しておくべきだったな」


「何であの時、俺を見逃した?」


「見逃したわけじゃない。仲間の戦力の消耗が大きすぎた、あれ以上戦力を減らしたら、撤退も出来なくなっていた。撤退できるギリギリだっただけだ。切っても死なない相手に浪費してる時間は無かった」


「そうか、だがそれは勘違いだったな。あの時の俺は、あと一太刀喰らったら、あっけなく死ねたんだ。なんで見逃されたのか不思議だったがそういうことだったか。どうやら俺は運が良かったみたいだな」


「なるほど。『天』はお前を生かしたようだな。俺にも若い時には似たような事があったぞ。どんなヤバい戦いでも偶然が重なってなぜか死なないんだ。自分で自分を『天に愛されている』と勘違いしたときがあったよ」


「今は『愛されて』いないのか?」


「どうだかな。ここで切り合えば結果は出るだろ」


「ああ、そうだな。だが、俺は自分を『天に愛されている』なんて思った事は一度も無いぞ。むしろ『憎まれている』と思う。天は俺が嫌いだから、無理矢理生かして苦しめているとしか思えない」


「そういう考え方もあるか。ははは、だとしたら俺も、今まで天に虐められてきたってことだな」


「どうだかな。俺とあんたは立場が違うだろ?」


「そうだな。お前、名は何と言う?」


「この体はガルゼイ・リース・ヘーデンって名だ。だけどその名に意味は無い。俺はあんたの仲間が言っていたみたいに、化け物なんだ。実は、俺も俺が何者なのかまるで分かっていない」


「お前の正体が何でも構わないさ。今後、お前の師匠に会う事があったら、お前が死んだと、教えてやらないといけないから訊いてるんだ」


「それなら、あんたの名前も教えてくれ。次師匠に会った時に、かつての敵が死んだと教えてやろうと思う」


「あー、それはやめておけ。俺の名前なんか聞いても、あいつは誰だか分からないだろうよ。俺はその程度の存在だ。死んでから恥をかくのはごめんだ」


「そうかな?うちの師匠はあれで結構細かいんだ。こっちが忘れた事をいつまでも覚えていて、ねちねちと文句を言うからな。あんたは結構師匠を苦しめたみたいだから、きっと覚えていると思うぞ」


「ふん。そうだといいがな。能書きはここまでだ。行くぞ!」


「来い!」


俺達は同時に動いた。

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