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96 敵陣深く

内装の豪華な客間に通される。


ソファに掛けて待つ。英子は俺の斜め後ろに立っている。


部屋の中を見回す。調度品にも金がかかっている。


神話の一場面を描いた大きな絵画が壁に掛けてある。


異国の大きな壺などもある。


五分ほど待たされて、不意にドアが開く。


不機嫌そうな小太りの茶髪男が大きな足音で入って来て、対面のソファに腰を下ろす。


続いて二人の騎士が彼の背後に立つ。


「私が代官のリーブ・ヨーデイだ。何か用か?」


と面倒そうに言う。


たれ目で目の下の涙袋がたるんで垂れ下がっている。


「おい、ちょっと待て、代官。お前爵位は?」


「爵位だと?」


「そうだ、爵位はあるのか?」


「私は代官だこの領地の全てを取り仕切っている。爵位が何だ」


「まさか平民か?だとしたら、今の貴様の態度は万死に値するぞ」


「爵位はある。準男爵だ」


「平民じゃないか。貴族でも無い者が貴族の前で、勝手に座って、自分から口を開くとはな。いくら田舎でも、酷過ぎるぞ」


「で、お前は誰だ」


「執事から聞いてないのか?俺は、ガルゼイ・リース・ヘーデン男爵子息だ。この黒髪が身分証代わりだ。ヘーデン商会の者と言えば、お前でも分かるか?」


「ヘーデン商会?ああ、あの」


「分かったら口に気を付けろ。俺は貴族の一族だ。お前がタメ口をきいていい相手じゃ無いぞ」


「ふんっ!それでその男爵子息様が何の用事ですかな?」


「見ての通り、この身なりで俺は今、身分を隠して旅をしている。実はこの西部の街道を整備して石畳に舗装する話が進んでいてな。その調査を父から任されている」


「ほう、それはそれは、西の蛮族を従えてから十年たってやっとですか」


「ところがだ。二日前、この領都の近郊の森でうちの商隊が山賊に襲われたんだ。領都と言えばこの領の中心だろ。そこから半日の距離だぞ?この領都の治安維持活動はどうなっているんだ。貴様はここの代官と言ったな。お前は盗賊の跋扈を黙認して放置しているのか?被害は昨日、この街の騎士団に報告してあるが、今日、討伐隊が街を出た様子は無かったぞ。ここの騎士団はやる気が無いのか?」


「盗賊は神出鬼没で、そう簡単に尻尾を掴めないのですよ。やみくもに騎士団を出しても、意味は有りませんな」


「騎士団が街道を巡回するだけで、盗賊への牽制になるだろ」


「それは素人考えですな」


「俺はヘーデン商会の嫡男で、次期会頭だぞ。その俺に『素人』と言うのか?」


「失礼ですが、噂ではヘーデン商会の嫡男は、父親に見限られて廃嫡されたとか」


「来年の成人の儀で、廃嫡は取り消されることになっている。あんなのは世間の下らない噂に配慮しただけのものだ」


「そうですか、しかし、領の治安維持はこちらの専権事項。いくら王都のヘーデン商会でも口出しは遠慮願いたいですな。用件がそれだけなら、お帰り下さい」


「本題はこれからだ」


と俺が口を開きかけたら、入り口のドアが開き、茶器のワゴンを押した細いメイドが入ってきた。亜麻色の髪をして、美人だが、背を丸めてびくびくした様子だ。顔色が悪く、青白い血の気のない不健康な肌色をしている。


「失礼します。お茶をお持ちしました」


亜麻色のメイドは小声で、茶を入れ始める。


俺は開きかけた口を閉じる。


挙動不審なメイドをつい見つめてしまう。


彼女はまず代官の前にカップを差し出す。


(こういう時は先に客だろ)


と思うが黙っている。代官も当然の様な顔をしている。


次に俺の前にカップを持て来るが手が震えている。


(なんでこんなびくびくしてるんだ?まさか毒でも入れてないだろうな)


メイドの袖口の手首に紫色の大きな痣があるのが見えた。


(暴力を振るわれているのか?)


俺が手首の痣に注視していると、それに気づいてメイドが手を大きく震わせて、茶器が皿の上で倒れてしまう。俺の前のテーブルに茶が飛び散る。


「あっ!申し訳、申し訳ございません!」


メイドが慌てて零れた茶を手巾で拭く。


「馬鹿者!この役立たずめ!茶もまともに入れられないのか!」


代官が自分の前の茶器を持ち上げて、メイドに投げつける。


「ああっ!」


熱い茶を背中に浴びて、メイドが叫んでその場に倒れる。


俺は立ち上がりかけて、ぐっとこらえる。今の俺は冷酷無情なガルゼイだ。メイドがどんな目に会おうがなんとも思わないはずなのだ。しかし…。


「あなた、大丈夫⁉」


英子が倒れたメイドに駆け寄って背中に手を当てた。


メイドが驚いた顔で英子を見る。


英子は火傷した背中に、こっそりと治癒魔法をかけているようだった。


「やけどにはなっていないみたいね。良かったわ」


と亜麻色のメイドに微笑みかける。


メイドの袖口の痣もすっと消えていく。


メイドがぽかんとした顔で英子を見つめる。彼女は自分の体に起きた変化に気付いているはずだ。


「あ、ありがとうございます」


英子が彼女を助けて立ち上がらせる。


「あなた、とても軽いわ。体も細い。ちゃんとご飯食べてるの?」


と小声で彼女の耳元に話している。


「え…、あ…」


メイドは返事に困っている。


直後、大きな音でドアが開き、荒々しい歩き方で十代後半の派手な赤いドレスの女が入ってきた。気の強そうな顔をしている。


「父さん、あたしの下女を連れてったでしょ。こいつ馬鹿だから、叱ってやろうと思ってたのに、どこにも居ないから探したわよ!」


と言い英子に手を取られているメイドを睨みつける。


「こいつは何だ?」


と俺は代官に訊ねる。


「こいつですって?父さん、何この不細工なガキ。私はこの屋敷の娘よ」


「屋敷の娘だ?ここはオレク子爵邸だろ?なんで代官の娘風情が偉そうにしている?」


「何ですって!こいつ本当に何なの?あなた達、このクソガキを痛めつけなさい!」


赤ドレスは騎士二人に命令した。


騎士二人は戸惑って顔を見合わせている。


それはそうだ、正式な貴族の子息に手をだしたらまずいという事くらい、普通の騎士なら簡単に分かることだ。


「なんでやらないの!あたしのいう事が聞けないの⁉」


本当にとんでもないのが乱入して来たな。


「これは、客だ。男爵子息で、貴族だ。仕事の話をしているから、あっちに行っていなさい」


代官が赤ドレスに言う。


「えっ、貴族?うちだって貴族よ。一緒でしょ?」


「一緒じゃ無いぞ。うちは男爵。お前のおやじの代官は準男爵だ。準男爵が平民だって知らないのか?無知な奴め」


とせせら笑ってやる。


「平民?そんなわけないでしょ。嘘つかないで!」


「いいから、その下女を連れて向こうに行ってなさい」


代官が面倒臭そうに言う。


「まあいいわ。あんた行くわよ!」


赤ドレスが亜麻色メイドの腕を掴もうとする。


その前に英子が立ち塞がる。


「何よ、あんた邪魔するの?」


いきり立つ赤ドレス。


英子は無表情で正面から赤ドレスを見返す。


「謝罪を」


と一言。


「何?謝罪って?」


意味が分からない赤ドレス。


「平民ごときが貴族に無礼を働いたのです。このガルゼイ・リース・ヘーデン様に謝罪なさい。さもなくば、罰を与えますよ」


氷より冷たい声で英子が低くつぶやく。


「嫌よ!あたしはこの馬鹿を連れに来ただけよ!」


とまた、メイドの腕を掴もうとする。


「無礼者!」


その赤ドレスの腕を、手に持った扇子でぴしゃりと叩いて、払いのける。


「痛っ!」


そして、閉じた扇子の先を赤ドレスの眉間の前に突き出す。


「謝罪を」


英子が同じ言葉をただ繰り返す。


「ああ、謝罪はいいぞ。こんなバカの謝罪は要らん」


呆れたように後ろから声をかける。


「しかし、それでは示しがつきません」


とこちらを振り返る英子。


「そうだな、俺は今、目の前に茶をこぼされる無礼を受けたんだ。謝罪はこの女中にしてもらおうか。謝罪のやり方は、今ちょっと思いつかないから、しばらくその女中にはこの場に残ってもらおうか」


俺はニヤニヤ笑って、亜麻色髪のメイドを眺める。


メイドが身震いした。


その耳元で英子が『大丈夫よ』と本当に小声で言って、安心させる。


その声は『遠耳』で俺には聞こえている。


「あらそう。それならあたしの折檻は後にしてあげるわ」


と言い残し、赤ドレスはどかどかと大股で歩いて部屋を出て行った。


ドアを開けっぱなしで。


「酷いな…」


つい心の声が漏れてしまう。


「ラグナ王都なら無礼打ち水準だぞ。少なくとも貴様の首が飛ぶことは間違いないな。ここが田舎で良かったな」


小馬鹿にした態度で、ヨーデイ代官を嘲る。


「それで、肝心の用件は何ですかな?」


眉間に怒りを浮かべて代官が先をせかす。


「ああ、そうだな。盗賊共は三十四人いて、それに対するこちらの護衛は十人だった。普通は全滅するところだが、うちの護衛は優秀なんだ。お前もヘーデン家の人間の強さは噂で聞いているだろう。うちはただの商会じゃない。全員戦える、一騎当千の武闘派集団なんだ。三倍以上の盗賊を撃退して、賞金首も三人倒した」


「それはそれは。で、それがどうしたというのですかな?」


「昨日、俺の傘下の、商隊長と、護衛頭、それに優秀な治癒魔法使いに賞金首を持たせて、ここの行政府に、賞金を取に行かせたのだが、建物に入ったきり、うちの者は戻ってこなかったんだ。そして、行政府が閉館してから、オレク子爵家の紋のある箱マ荷車が建物に横付けにされ、騎士たちが、人型の袋を三つ持ってその箱車に乗り込んで行った。

その箱車を配下の者に追跡させたら、この屋敷の門をくぐり、ここの離れに停車した。そしてこの家の騎士達が人型の袋三つを離れに運び込んだという報告を受けている。何か言う事はあるか?」


「知りませんな。何かの間違いでは?」


「とぼけるな。そういうのはいいんだ。うちの者を五体満足で傷一つなく、今すぐに返せ。早くしろ。俺を待たせるな」


「うちの箱車がお宅の人間をさらったという証拠は何処にあるのですかな。不確かな話で言いがかりをつけてもらっては困りますな」


「証拠だと?お前は馬鹿か?ここは裁判所か?法律が貴様を守ってくれるのか?大事なのは俺がそれを知っているという事だ。異論は認めない。良く打考えろ。貴様は今、地獄の釜の縁に立っているんだ。それを理解しろ。もう一度言うぞ。俺はヘーデン商会の次期会頭だ。父はゼルガ公爵の懐刀だ。お前の主のオレク子爵はゼルガ公爵派閥の中では下っ端の下っ端だ。地方の弱小子爵家の代官の首くらい、俺が父に言えば簡単に飛ばせる。言葉通り物理的にだ。貴様はヘーデン家に喧嘩を売っているんだぞ。

あの三人は俺の子飼いだ。自分の配下を守れなければ、俺は配下からの信頼を失う。だから何があっても、どんな手段を使ってもあの三人を取り返す。もしあの三人に何かが有ったら、この領都を火の海にしてやる。貴様らの一族郎党ことごとく、手足を切り刻んで根絶やしにしてやる。そうなりたくなかったら、今ここであの三人を返しておいた方がいいぞ。

今ならまだ、『不幸な行き違い』ということで大目に見てやる。貴様もあの三人がヘーデン家の人間とは知らなかっただろうからな。だが、貴様はもう知った。知った後で、我を通すなら、それはヘーデン家への宣戦布告と同義だ。さあ、決めろ!和解と戦争のどちらを貴様は選ぶ!」


俺の言葉でヨーデイ代官の顔から血の気が引く。


「ま、待たれよ。私は決して、ヘーデン家と敵対する気は有りません。ああ、そう言えば、昨日、怪しい旅人をとらえて事情を聴いていると、報告を受けて居ました。ひょっとしてそれが、ガルゼイ殿の配下のものだったのではないでしょうか?私も部下やることを全て把握しているわけでは無いのですよ」


「だとしても監督不行き届きだ。配下の愚行は、貴様の責任だ。それから誰が名前呼びを許した?俺のことは『ヘーデン男爵子息様』と呼べ」


「これは手厳しい。ではすぐに三人をここに連れてくるように申し付けましょう」


「要らん!自分で行き、直接三人の状態を確認する。貴様に任せたら、いつになるか分からないからな。この貴様の女中に案内させる。他の人間はついて来るな!」


「そんな勝手な!」


「黙れ!まだ分からないのか?俺はこの屋敷でなんでも自分の好きなように、勝手にする。貴様がそれを止める事は出来ない。俺を止められるならやってみろ!」


言い放って立ち上がる。


代官はおろおろして腰を浮かす。


「ああ、代官。お前だけはついてこい。離れの人間に指示を出す必要があるだろうからな。そこの騎士共は来るな!おい、女中、早く案内しろ!」


「は、はい」


英子に支えられて、亜麻色のメイドは震える足で、歩き始めた。


(んー、このメイドの子はこのままここに置いて行けないよな。英子が手放さないだろし。迷惑料の賠償金代わりにもらい受けるか。扱いが雑だったから、簡単にくれそうな気がするな。だんだん連れの人数が増えてくるな。なんでかな?俺、黄門様じゃないんだけどな…。漫遊記を書く気は無いんだが…。あ、でもこの娘に家族とか居たら、それも全部面倒見る必要があるよな。厄介だな。金で済まないかなぁ)


屋敷を出て、きれいな植栽の間を通って離れに向かう。


広い庭だ。植栽の間に、庭師の男がいた。何気なくその顔を見る。


(ん?)


どこかで見た顔だ。


それもつい最近。


記憶の顔と庭師の顔が一致して、血の気が引く。


(こいつ、盗賊の隊長だ)


金髪の蓬髪を後ろで束ねている。


庭師になっている盗賊の隊長がこちらに視線を向ける。


俺はとっさに反対側の庭を眺める振りをして顔をそむける。


(ヤバい!見られたらヤバい!)


隊長の視線がこちらに張り付いているのを感じる。


俺はそのまま不自然に顔を背け続けた。


離れに到着する。


亜麻色髪のメイドがドアをノックする。


ゆっくりとドアが開く。


しょぼくれた無精髭の青年が隙間から顔をだす。


その顔がハッとする。


「これは、お嬢さま。なぜここに?」


とメイドに言う。


(お嬢様?ん?今、お嬢様って言ったか?)


「この方が、人を三人引き取りに来たのです。手違いで昨日この方のお仲間が三人こちらに来ているそうなんですが、分かりますか?」


亜麻色髪メイドが無精髭に問う。


「ああ、あの三人ですか」


男は俺の顔と、英子を交互にじっと見つめる。


ヨーデイ代官が横から口を挟む。


「あの三人をこの方に引き渡せ。私が許可する。それでは、私は本邸に戻っているので、用が済んだら、早々にここを立ち去っていただきたい」


と俺に向かって念を押す。


「ところで、この女中を今回の賠償としてもらい受けようと思うんだが、いいよな」


当然の様な顔で、俺はさらっと代官に言ってみる。


代官の顔色が変わる。


「駄目です。この者だけは差し上げられません。代わりに別の上玉の奴隷女を二名差し上げましょうそれでいいですな」


「なぜだ。この者なら一人でいいぞ」


「この者だけは駄目なのです!」


代官が強く否定する。


「まあ、あとで交渉しよう。まずは俺の仲間を返してもらおうか」


「こちらへ」


ドアを開いて無精髭青年が中に俺たちを招き入れる。


英子が俺の耳もとに口を寄せる。


「この屋敷に来てから、ずっとセシルちゃんの声が聞こえている。無事よ。女神様に祈っている。助けるから安心するように言っておいたわ」


無精ひげの青年は腰の鍵の束をじゃらじゃらさせて鍵を選んでいる。


「えーと、どの部屋だったかなぁ」


と言いながら階段を地下室に降りていく。


続いて階段を降りる時に、一階の廊下の端に人影が立っているのが見えた。神殿の巫女の服を着ている。頭巾の脇から赤い髪が一房出ているのが見えた。鋭い目線がおれの横顔に突き刺さる。その長身の人影は通路の曲がり角の陰にそっと身を隠す。

階段を下に降りると真っすぐの廊下があり、その両側に鉄扉の部屋が左右に五部屋ずつ並んでいた。


「えーと、この部屋だったかな?」


廊下の突き当り右の部屋のドアを開ける。


「あ、ここじゃ無かった」


とのんびり言う無精髭の青年。


その中に入ると、五人の見目麗しい男女の子供たちが部屋の隅に身を寄せあって身を震わせていた。年長に見える男の子一人と、年下の女の子四人だ。


「これは何だ?」


番人の青年に問う。


「この子らは、犯罪者……という事になっています」


言って青年は俺の顔をじっと見つめる。


英子が子供たちの側に身をかがめて、声をかける。


「ああ、あなた達、どこか痛いところは無い?大丈夫?」


五人の子供たちの体が薄っすらと光る。


英子が治癒魔法をかけている。


暗い地下室だとどうしても光が目立ってしまうようだ。


子供の中で年長の男の子が口を開く。


「僕達、ヤマ王都に住んでいたんです。いきなり攫われてここに連れて来られました。お願いです。僕達を助けて下さい!みんなを家に帰して下さい!」


「ええ、いいわ。みんなもう大丈夫よ。私たちがここから連れ出してあげる」


英子が安請け合いをしている。


「ちょっと待て!助けるってどうするんだ?五人だぞ?俺の連れ三人なら、代官も見逃すだろうが、この子供たちを連れ出すとなると、話が違ってくる。間違いなく戦闘になるぞ。さっきあの盗賊の隊長が庭に居た。あいつらグルだ。あいつらを振り切って、どうやってここから脱出するつもりだ?」


「あなたが全員倒すのよ」


「無理だ!」


「出来るわよ。怪我したらすぐに私の治癒魔法で癒してあげる。絶対に死なせないから、安心して戦って」


「簡単に言うな!あいつ強いんだ!俺、今回も滅多切りにされるぞ?切られたら痛いんだぞ!知らないだろ!」


「知ってるわよ。昨日ステーキ食べてる時にベロ噛んじゃって、凄い痛かったわ。あんな感じでしょ?」


「そんなもんじゃない!もっとだ。戦っている時はいいけど、後から凄く痛くなるんだ。そんな目に会うのはせめて半年に一回くらいにしてくれ!今回はインターバルが短かすぎだ!」


「あの~…」


番人の青年が口を挟む。


「何だ、よくも余計な物を見せてくれたな。こうなったらこの女は止まらないんだ。それで後始末は全部俺に押し付けるんだ。どうしてくれる!」


「実は、この部屋だけでなくて、まだ、隣の部屋にも居るんですが。隣は、若い女性が三人です」


「何だと!?」


俺はとっさに英子の顔を見る。


「当然、その人たちも助けるわ」


断言する英子。


「ふぐあー…」


心底、泣きたくなってきた。

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