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78 実験成功

「おい、出来た!出来たのじゃ!」


と、深夜に体を揺さぶられて目が覚めた。


この世の者とも思えない美しい顔が至近距離で俺を見下ろしていた。


普通の男なら鼻の下を伸ばして喜ぶべき場面だが、俺はその顔を見て、ただ嫌な気分になるだけだった。


「あー、今何時だと?明日にして下さい…」


と言って布団を被ろうとしたが、その布団を丸ごとむかれて、首根っこを掴まれ、宙づりになる。


「また、これですか?」


「こら!今すぐ実験室に行くぞ!」


と、ふんすふんすと興奮しているエルフさんの美しい顔が、目の前五センチくらいの至近距離にある。


「近い、近いって…」


「やっかましいわい!」


と、そのまま『通路』を通って研究所に連行された。


研究室に行くと、実験台の上に、剣の握り部分だけの様な器具が置いてあった。


それには透明のチューブの様な物がつなげてあり、それが一抱えもある、壺状の器具につながれていた。


「まず、これを握ってみよ」


とヒューリンさん。


「えー?電気ショックとかあるんじゃないでしょうね?」


「馬鹿垂れが!今度のは、痛くもかゆくもないわ!ほれ、さっさとやれ!」


興奮エルフさんにせっつかれて、嫌々その握りを掴む。


体内の霊エネルギーがじわじわと抜けていく感覚があった。


ある程度抜けるとその流れが止まる。


結構取られたが、魔剣の時ほどでは無い。


ヒューリンさんが壺状のものに手を入れて中から、オートマタの核を取り出した。


「じゃーん、じゃーん!どうじゃ!」


とそれを嬉しそうに俺の目の前に突き出す。


「どうじゃと言われましても…」


「何じゃ、張り合いのない奴め!これを見よ、ジンが満充填されておるじゃろう!」


「いや、見ても分かりませんから。私、魔眼無いんですよ」


「霊が見えるなら見えるはずじゃ!ほれ、よく見てみよ、ほれ!」


と、オートマタの核を俺のほっぺたにグイグイ押し付けて来る。


「いや、だから、近いってば…」


それを押しのけて、よく見てみる。


オートマタの核の周りに、白いオーラの様な物が揺らめいているのが見えた」


「あ、見える。なんか入ってますね」


「じゃろ?これで核の充填問題は解決じゃ。次はオートマタの自立思考の確立じゃ」


「しかし、この充填補法では、私が死んだら、誰も充填できなくなってしまいますよ」


「ふん、その辺の目途もついておる。お主は聞いたことが無いかの?古来からの技法で、体内で『ジン』を練ることのできる武術の一派がある事を」


「いえ、知りません」


「それはいくつもの流派に分かれておって、流派の名前も様々じゃ。この王都にも、使い手はおる。あの、炎帝もジンを使えるとわしは睨んでおる」


「えっ、では炎帝様に頼むのですか?」


「馬鹿か?あんな危ないクソガキに頼めるはずがないじゃろ」


「いや、知らないですよ。今、あなたが言ったのでしょ?それに炎帝様をクソガキって…」


「あやつは始末に負えん阿呆じゃ。ガキの頃から喧嘩好きで、わしも何度挑まれた事か。その度に死なない程度にぶちのめしてやったが、傷が癒えるとまた、ニコニコと嬉しそうに挑んでくる。あまりにしつこいから、本当に息の根を止めてやろうかと、何度思ったことか…。だが、わしも一応は世間的に思慮深い賢者として知られておったから、『おほほ、元気があってよろしいですね』とか、上品にそれっぽい事を言って、かっこつけないといけなくてな。本当に面倒な事じゃった。人の世で生きるのは世知辛いものよのう」


「あの、炎帝様にも若い頃があったんですね。そりゃそうか」


「最近では炎帝の養女も使えるようになったらしい。先日の晩餐会で、『白銀の光巫女』と『炎帝の養女』が戦った時の話を総合すると、そうとしか思えん」


「あの壁新聞は私も読みました。どちらも怪我をしなくて本当に良かったです」


「ふん、いい子ぶるな。お主の『心の姉』と、『想い人』が戦ってどんな気分じゃ。ねえねえどんな気分なのじゃ~」


性格の悪いババアだよ本当に。


「だから、ミーファの事は想い人とかそんなんじゃないですから。向こうは大スターで、こっちは王都の嫌われ者です。とても釣り合いませんよ」


「釣り合うか釣り合わないかの話ではない。惚れているかどうかの話じゃ。悲恋に終わろうとも、惚れるのは自由じゃぞ」


「他人の恋愛事情が気になるなんて、ヒューリンさんも女性なんですね」


「いや、全く興味は無い。人族の誰と誰が乳繰り合おうが、わしの知ったことか」


「それなら私の事も放っておいて下さいよ」


「嫌じゃ。お主が嫌な顔をするのが楽しいので、なるべくどんどん言う」


「……」


(この、くそばばー!)


「むっ、今お主の心の声がわしを糞婆あと言った気がする」


「あんた、本当は『読心魔法』使えるだろ!」


「なにを言っておる。そんな魔法は存在しないと言ったであろう。わしの言う事が信じられないのか?」


「信じられる根拠がない。信じられない根拠なら山ほどある」


「信じられぬと嘆くより、信じてみて傷つく方が人間らしいぞ。誰かに優しさを求めるのは、臆病者の言い訳なのじゃ」


「それ、どっかで聞いたことのあるセリフですね。日本の昔の学園物ドラマ主題歌歌詞のパクリ?無理して何かいい事言おうとしてませんか?」


「知らん!スズキハルマが泣きながら夕日に向かって歌っていた曲とは、ほぼ関係ないぞ!」


「いや、むっちゃ関係ありそうなんですけど」


「うるさい!」


と、痛覚を最大限刺激する拳骨で頭を殴られた。


「ふぐあー…」


これは何度食らってもやっぱり痛い。


「とにかく、その『ジン』を操る、拳法の使い手を探してやり方を教わるのじゃ。わしがそれを覚えてしまえば、全てわし一人でできる事になる。まあ、所詮は人族の技じゃ。長くても十年もあれば、わしなら一通りは覚えられるじゃろう」


「十年って…、ホントに長いな」


「ん?十年くらい、ちーと研究に集中しておったら、すぐじゃぞ」


「そう言えば、ヒューリンさん百年間森に籠っていたんですよね。それなのに私の所には三日おきくらいに頻繁に来るのは何でですか?わたしのところ来るのも百年後でいいんですよ」


「したら、お主は死んでこの世に居ないじゃろう」


「伝言は残しておきます」


「駄目じゃ、直接会って、痛ぶるのでないと楽しくない」


「おい、あんた。今『痛ぶる』って言った?もう、本心を隠さなくなってきたな」


「ん?そんなことは言って無いぞ。言う訳ないじゃろう。聞き違いじゃ」


「その杜撰な誤魔化し方は、何とかなりませんか?」


「最後に愛は勝つのじゃ!」


「いや、もう脈絡関係ないし。ただ、いい言葉をつぎはぎで言っても駄目ですよ」


「人族はこういう言葉を言っておけば、感動して喜ぶのじゃろう?」


「今時、そんな言葉、子供でも騙されませんよ」


「世知辛いことじゃのう」


「なんでもかんでも『世知辛い』という言葉で納得しないで下さい」


「やかましいわい、ドーテーのくせに」


「ぐふっ!ドーテーの何が悪いんですか?十四歳なのだから、ドーテーでも仕方ないでしょ」


「前世と合わせたら、四十九歳のドーテーじゃ。気持ち悪いわ。えんがちょじゃ!」


「確かに、それに反論は出来ませんが、そういうあなたは、どうなんですか?エルフさんの時間感覚なら、どうせ、百歳くらいまでは、処女だったのでしょう?」


「この馬鹿!失礼なことを言うな!わしは今もまだ、清い乙女じゃ!」


「千年処女かよ!それがよくも、四十九年物のドーテーを笑ったな!」


「年中盛っている人族と一緒にするな!真祖エルフに、性欲などというものは無いのじゃ!」


「じゃあ、どうやってエルフは繁殖するんですか?」


「繁殖はしない。だから今、滅びかけておる。あ、普通のエルフはそれなりに森の奥で増えておるぞ。人族と交わった半エルフもそれなりにおる。半エルフは耳が尖らない場合も多いので、人族と見分けがつかない事がある」


「つまり、あなたはファンタジーものでよく聞く『ハイエルフ』ってやつですか。普通のエルフがあなたを見ると、崇めてひれ伏したりするのですか?」


「なんでじゃ?」


「そういうお約束なんですよ」


「わしも見た目はただのエルフじゃ。人魔大戦の折の古き名を名乗れば、お主の今言った事も起きるがな。もはや古き名は捨てた。ここに居るのはただの、『美女エルフ学者ヒューリン』じゃ」


「えーと、前も気になっていたのですが、やっぱり自分で自分を『美女』と言うんですね」


「客観的事実じゃ」


「それはそうですが、自分で言って恥ずかしくないんですか?日本人的感覚だと、そういう事を言ってしまう人物は、かなり『やばい奴』に分類されるのですが」


「ふん、日本人と言うのは意気地のない部族じゃの」


「だったら、『魔法美少女戦士』もそんなに恥ずかしがることは…」


「カー‼」


と急に鬼の形相になったヒューリンさんに、また頭を殴られた。


「痛ってえ…」


「それは、なんか違うのじゃ。なんか恥ずかしい。なんか、わしの周りに、汗ばんだ暑苦しい太った男どもが集まって来て、わしの似顔絵の服を着て、各々が手に光る飾りを持って、頭上で必死に振りながら、『ポーリンたーん!』と叫ぶ姿が、何故かこの脳裏に浮かぶのじゃ。皆が一斉に『でゅふふふ』と笑うのじゃ。あれは何の既視感なのじゃろうな…」


「それはかなり的確な回想ですね。恐らく鈴木春馬氏の魔力にあてられて、彼の前世での体験がヒューリンさんの意識に夢のように転写して、フラッシュバックしたのでしょう」


「お主の国ではあれが日常なのか?」


「否定はできません」


と下を向いて俺は唇を噛む。


「何と、恐ろしい事じゃ。まさに『修羅の国』じゃな…。そうして、お主や、スズキハルマのような人間が生み出されてしまうのじゃな…。負の連鎖じゃ」


「いや、それほどの話?」


「まあいい。ところで、お主に渡したい物がある。これじゃ」


と、ヒューリンさんがそばの棚から二振りの剣を手に取る。


「あの魔族の魔剣は危険すぎる代物だから、あれをやることは出来ん。魔族の話しぶりによると、まだ隠された力もあるようじゃ。完全な解析が済むまで、あの『魂を砕く者』という魔剣は封印することにする。その代わり、あの魔剣を研究する過程で出来たこの試作品をやろう。これは、実験の副産物として出来た物じゃ。お主は自分の戦力を上げたがっておったじゃろう。これを使ってみよ」


と言って、その剣を俺に手渡す。


「これは…」


それは俺の愛用する『ファルカタ』と同じ形の剣だった。先端の剣幅が分厚い逆ぞりの独特の形状をした二振りの剣。


剣の鞘には黒地の上に銀色の植物文様が一面に施されていて、見るからに高そうだ。


鞘から剣を払う。


黒い刀身に銀の輝きが乗っている。


魔鋼と神銀の合金製の剣のようだ。


体内から霊力が剣に吸われる感覚があった。


しかし、以前の様に大量に吸われると言う訳ではない。


せいぜいが全体の一パーセントくらいの量だ。


これくらいなら、全く負担にはならない。


「この剣の力は?」


「それは、あの魔剣の劣化版じゃ。力を抑えてある故、黒い斬撃などは飛ばせん。その代わりに、刃が当たった時に、剣から衝撃波が出る様に作ってある。それは元の魔剣の力に比べれば、微量の力じゃ。しかし、普通の剣としてみれば、恐ろしく強い斬撃を生み出す魔法剣には違いない。人族と戦うなら、このくらいの剣がちょうどよいであろう。どれ、試しにわしが受けてやろう。ほれ、かかって来い」


と言って、ヒューリンさんは、刃の分厚い大振りのロングソードを別の棚から手に取る。


それを、片手で構えて半身になる。


「いいんですか?」


と俺は躊躇した。


「構わん。わしは魔法が専門じゃが、手慰みに少しは剣もやっておる。手慰みと言っても、人族の達人と呼ばれる連中に匹敵するだけの力はあるのだぞ」


「それなら、遠慮なく」


と、俺は左右のファルカタで交互に切りかかる。軽く振った剣がヒューリンさんの構える剣に当たると、当たった瞬間に剣から力が放出されて、相手の剣を強烈な力で弾きと飛ばす。


弾かれた剣を頭の上でくるりと回して、その力を逃がしながら、ヒューリンさんは俺の斬撃を涼しい顔で受け続ける。


十合も切り結ぶと、ヒューリンさんの持つ剣の剣身に亀裂が入り、真ん中から折れて飛んで行った。ヒューリンさんの使う剣もかなりの剛剣に見えたが、俺のファルカタの強烈な斬撃の前には強度が持たなかったようだ。


「少し長持ちするように、柔らかく受けたが、それでもこのくらいしか持たんか。どうじゃ、その剣の使い心地は?」


「凄いですね。以前の戦い方だと、相手の攻撃を流して、敵の崩れたすきを窺って攻撃する感じでしたが、この剣の強い斬撃があれば、もっと真っ向から戦えます。リーチが短くても、相手の剣を弾き飛ばすか、折るかして、敵の無力化がかなり楽に出来るかもしれません。武器が無ければ戦えませんから、相手を殺さずに制圧することも出来ますよ」


「とは言っても、それは普通の剣を持つ、普通の敵に対しての話じゃ。お主の想い人である『白銀の光巫女』の様な強力な身体強化のできる人間は、己の剣にも強化をかけて来るから、そういう相手には通用しない。ただ、その場合でも、お主の技量次第では、ある程度は互角に戦えるじゃろう。少なくとも、初手から手も足も出ないというほどの差はつくまい」


「それで、充分です。元より自分が達人の域に至れるとは思っていません。強者に拮抗出来るかもしれないというだけで、今までの自分からしたら、有り得ない成果ですよ」


「相変わらず自分を低く見積もる癖は、どうしても抜けぬのじゃな。戦闘においてその謙虚さは己に不利に働くぞ」


「自分が強いと勘違いした方がいいと?」


「そうではない。己を相応に評価できねば、その不認識に自らの足をすくわれると言っておる」


「御忠告、ありがとうございます。その言葉、肝に命じます」


「ん?今日はやけに素直じゃな」


「これだけの剣を貰ったのです。これで、ヒューリンさんの魔術具店を訪れた時の当初の目的はほぼ果たせました。『認識疎外』の魔術具も先日完成しましたし、『瞬歩』の魔術具もヒューリンさんの助力があって、何とか実用化が見えてきました。空を飛ぶ敵に対しては、上空に跳び上がる機能も有効だと分かったので、前に進む機能と上に跳ぶ機能を切り替えて使えるようにしました」


「そうか、それではこの実験も一段落じゃな。もう、お主役割は終わりじゃ。もう、ここには来なくて良いぞ。魔術具に使うクズ魔石はいつでも好きなだけ持っていけ。それから、その腕輪から『空間』を開いた先の棚に乗せてある物は、何でも自由に使え」


「えっ、それは本当ですかぁ?ありがとうございます。それにしても、寂しくなるなあ」


と言いながら自然と俺の顔に笑みが浮かぶ。


これで、理不尽に痛い目に会わされないですむ。


「嘘をつけ!そんなに嬉しそうな顔をしおって。薄情な奴め」


と、不機嫌顔のヒューリンさんが俺のすぐ前にずかずかと歩いてくる。


怖い顔で両手を広げ、


(殴られる?)


と覚悟をするが、彼女はそのまま俺を抱きしめる。


「不出来なクソガキじゃが、どうも情が湧いてしもうたな。どうじゃ、お主、王立魔導研究所でわしの助手をせんか?ちゃんと給金もくれてやるぞ」


「もがもが…」


「なんじゃ、はっきりものを言え」


「…もごむが、くっ、ぐるじい…」


「おお、すまん、つい力が入った」


と、ヒューリンさんが手を離す。


「ぶっ、はー!死ぬかと思った」


「大げさじゃ。ちょっと強く手をまわしたくらいで、なんじゃ」


「ヒューリンさん、胸!胸だって!この胸!でかい!無駄にでかすぎるんですよ!こんなのを顔に押し付けられたら、窒息しますよ!私は背が低いんですから、気を付けて下さいよ!」


「美女の胸に顔をうずめて死ねるなら、男子として本望じゃろう」


「もう、その美顔には飽きました。それにヒューリンさんがどんなに美しくても、中身はかなり『アレ』じゃないですか」


「もういい、お主は冷たい奴じゃ!」


と、目の前のいじけエルフさんはほっぺたを膨らませて怒る。


「はいはい、そんなに怒らないで下さいよ、おばあちゃん」


「誰が、おばあちゃんじゃ!」


「ところで、ヒューリンさんの『悲願』の方に進展はあるのですか?」


「それはまだじゃ。しかし、そのとっかかりはつかめそうな感じなのじゃ。もう何百年も待ったのじゃ。今更慌てても仕方ない」


「そうですか。『悲願』の内容は結局教えてはもらえなかったけど、うまくいくことを祈っていますよ。ああ、それから、この『護衛』をお返しします」


と、俺は服のポケットから、ヒューリンさん借りた人口生命体を取り出した。


しかし、その見た目は依然貰ったネズミの姿から、かなり変化していた。


「これは何じゃ⁉」


と、ヒューリンさんが驚愕する。


俺の手のひらの上には、小さな人間の姿をした、人工生命体が乗っていた。


その小型の人間は俺そっくりの顔をしている。


自分そっくりな顔が素っ裸なのは恥ずかしいので、小さな布で、最低限体を隠せる服を作って体に巻き付けてある。


「人口生命体が、お主の容姿を模倣したのか?」


「なんでこうなったのかは分かりません。一度、小さな肉片になるまでダメージを受けたところから、私の肉片や血を与えたので、そのせいかもしれません。それに、これはもう私の護衛をしないのです」


「どういう事じゃ?」


「これはこれ以外の形状をしません。攻撃が来ても、広がったりしないのです」


「ふむ、試してみるか」


と、ヒューリンさんが俺に向けていきなり電撃を打ってきた。


それは、小人を持つ俺の手に直撃した。


「痛い!何すんですかいきなり!」


「手加減したじゃろ。それにしても面白い。このお主そっくりな人口生命体は、攻撃された瞬間、体表を硬化させて、自分の身は守っていた。ふむ。これもまた研究の良い副産物じゃ。これを発展させれば、知能のある人間を作れるやもしれん。ホムンクルスと言う奴じゃな。でかしたぞ。これもわしの『悲願』の達成に有効に利用させてもらおう」


「ヒューリンさんの『悲願』が何かはもう聞きませんが、危ない匂いしかしてきません…。これは私が知らない方がいい話ですね」


「そんな物騒な研究はしておらんぞ。わしの『悲願』はこの世を変えるようなものでは無い。わしの私生活に関わるごく個人的な願望じゃ」


「本当ですか?」


「嘘はつかん。この『悲願』が達成したなら、お主にも『紹介』してやろう。もっとも、お主の生がある間に完成出来るかは分からんがな」


と言って、ヒューリンさんは雑に俺の頭を撫でる。


その目には、諦めを含むような、孤独な笑みが浮かんでいた。

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