69 ナコの鍛錬1
ゼスに身体強化を習い始めて二週間が過ぎた。
まだ、『ジン』を練るコツはつかめない。
そのあたしの横で、二人の孤児たち、ネロとエイダは、あたしが教えたら、すぐに火の魔法を使えるようになった。まだ小さな炎しか出ないけど、教えてすぐにできたから、かなり筋がいい。
火の魔法を使えるようになってから、二人の子供たちの髪の色は、燃えるように奇麗な赤い色に変わった。魔法と髪の色は、やっぱり深い関係にあるみたいだ。
それで、ゼスが『こいつらもか?どうなってる?火魔法使いの大安売りじゃねーか!』って驚いていた。
でも、あたしはそうは思わない。貧乏人に魔法を覚える機会が無いだけで、意外にやればできる子供は多いのかもしれない。
で、あたしの修行はあんまり進んでいない。
何もかもが、思い通りにならなくて苛つく。
ゼスは店があるから、4日に一度くらいしかあたしの修行に付き合ってくれない。
師匠がつきっきりでやってもあまり意味がないってゼスは言ってる。
師匠の助言を自分の中で理解するのに時間がかかるから、その段階を自分で一つずつ進んで行かないと、次の助言が与えられないんだって。
一番最近は、『手合わせ』という訓練をした。
手合わせと言っても試合をする訳じゃない。
ホントに手を合わせて、押したり引いたりするだけだ。
ゼスが構えてあたしも構える。
手の甲と手の甲を合わせてそれを相手の方に交互に押したり引いたりする。
この押す時に、ゼスはあたしの方に『ジン』を流す。
引く時にはあたしの中から『ジン』を引っ張る。
これを繰り返すことで、自分の体から『ジン』を出し入れする感覚を覚えられると言ってた。
ゼスが言うにはあたしの中には最初から太い『ジン』の通路があって、ゼスの『ジン』が簡単に出入りしていくらしい。
「お前、才能あるぞ。もう、今の状態で『ジン』を練れるはずだ。なんで出来ない?手を抜くな!」
と、ゼスに怒られた。
「出来るはずって言っても、難しいんだよ。なんかこう、体の中でふわっとしてて、それをまとめようとすると、ちぎれてどっか行っちゃうんだ」
「ああ、そうか、そうだな。よく考えたら、お前はつい最近修行を始めたばかりの初心者だったな。つい熱くなった。すまんな。だが、お前の道の太さははっきり言って、俺の比じゃない。普通は、毎日の鍛錬で髪の毛一本の太さを少しづつやっと広げられるようなもんなんだ。お前は、最初から道がドカンと開いている分、練った『ジン』が集積しないで、広がっちまうのかもな。こういうのは初めての経験だ。どうしたらいいのか俺にも分からん」
とゼスも首をひねっていた。
それで、今日は別の修行をするためにモースの森の奥に一人で来ている。
最初にこの森にゼスと入った時は、まだ魔法の調整が下手で、森を燃やしそうになったけど、今はそんなヘマはしない。火を針の様に細くして、獲物の急所に打ち込むことだって出来る。
この技の名前を『ファイアー・ニードル』にした。
意味は知らない。
王立魔導研究所のルイ?・スゲー?・ハルマとか何とかいう変な名前のおっさんがこれにしろというんで、そうした。
なんでも、古代エルフの言葉で、200年前の英雄が使っていた技の名前らしい。
ルイ?のおっさんもこの英雄の事をよく知っていて、その英雄の使ってた技の名前の記録を見せてくれた。
火の魔法でもいろんな技が有って、見ているだけで結構面白かった。その英雄の技で、今一番やってみたいのは、『メテオ・ストライク』って技だ。空から燃える石を降らせるなんて、無茶苦茶派手でカッコいい。この技は、地属性と火属性の両方の魔法が使えないと出来ないらしいから、今の私には無理だけど、地属性の魔法杖を一緒に使えば、出来るかもしれない。それか、イザークさんと一緒に技を出すのもいいかもしれない。二人で一つの魔法を発動するなんて、聞いたことが無いけど一度やってみようと思う。意外に簡単に出来たりして。
エルからは『ファイヤー・ボール』という魔法の名前を教えて貰ったけど、あれがエルフの言葉だなんて思いもしなかった。てことは、エルも古代エルフ語を知っていたってことだ。
エルはやっぱりいいところの子供だったんだなあと思った。
エルのお墓は今ランス川の横の共同墓地にある。
母親のお墓のすぐ横に小さな石板があって、ただ『エルネスタ』とだけ名前が彫られている。
そこに、ミスラン公爵家との関わりを示す物は何もない。
あたしはこのお墓によく行く。
エルとエルのお母さんのお墓にはいつも花が絶えない。
でも、その花は全部あたしと、神殿の下級神官が供えてくれるものだ。
ミスラン公爵家の人間がこのお墓に来たという話は、まだ聞かない。
世間の人はミスラン公爵が人格者だと言ってるけど、奴がエルにした仕打ちを考えると、そんなのは嘘っぱちだと分かる。
実際にエルとその母親を虐げていたのは、第一婦人らしいけど、それを黙認してほったらかしにしたミスラン公爵も、同罪だ。
女を都合のいいおもちゃだと思ってやがるんだ。
世の中には口の巧い奴がいて、馬鹿はみんな騙される。
あたしはそんな馬鹿にはならない。
今、あたしはミスランの派閥に入っているけど、別に忠誠心は無い。
爺様があたしの実力を買ってくれるから、とりあえず、ミスラン派にいるだけだ。まあ、その爺様もあんまり派閥に興味がない感じで、ゼルガ派の人間とも平気で話をして酒なんか飲んだりするから、一部のミスラン派からはひんしゅくを買っているらしい。
あたしも派閥なんかに興味は無いから、嫌になったらいつでも逃げてやる気でいる。
でも、エルの仇を取る為に今しばらくはこの派閥に居なくちゃならない。
つまり、あたしの目的のためにあたしが奴らを利用してやるだけのこと。
みんながエルの事を忘れても、あたしは絶対に忘れない。
そして、もっと強くなって、エルが教えてくれた古代エルフ語の『ファイアー・ボール』という技の名を、誰でも知っているような有名な言葉にしてやる。
だから、あたしは魔法を使うたびにいちいち技の名前を叫ぶことにしている。
最初はちょっと恥ずかしかったけど、授業の模擬戦でも技の名前を言う事になっているから、すぐに慣れた。
あたしは凄く成長してる。
爺様はあんまり認めてくれないけど、他の人たちは凄いと褒めてくれる。
でも、あの銀髪女のせいで、自信が粉々になった。
これから先、あたしがあの『黒髪の屑』を殺そうと思ったら、必ずあの女が前に立ちふさがるはずだ。
という事はエルの仇を取るには、あの女に勝たなければならない。
あたしは、あと一日でもあの屑が生きていることに我慢が出来ない。
出来る事なら、今すぐに殺してやりたい。
あの女に勝つための修行を、呑気にダラダラやってられない。
訓練場で、ぬるい鍛錬をしていても、多分この壁は破れないと思う。
だから、今日は森に来た。
自分を追い込むことで、活路を開きたい。
森の奥深くに小さな泉の湧く場所が有り、その泉から歩いて10分ほどの高台にゼスの作った、狩猟小屋がある。
小屋の中には簡単な寝台と、乾草の布団がある。この小屋には魔獣除けの魔術具が四方に設置してあるから、雑魚魔獣はこの小屋に近づかない。
あたしは小屋に入って、欲し肉や乾燥した黒パンに、生の芋なんかの食料の入ったカバンを下ろす。小屋に置いてある鉄なべに泉の水を汲み、それに干し肉や、その辺で獲った野草をぶち込んで、自分の手から出した火であっためた。
鍋が煮えて、いい塩梅になる。干し肉のスープはいい塩味が出て、意外に旨い。
この干し肉はゼス特製だから、味にもこだわっている。
黒パンは、麦を使ってなくて、雑穀や、芋、豆、なんかを一緒に練り込んで焼いただけのものだ。
パンと言っても、焼いても膨らんだりしないから、ずっしりと重くて、食べ応えがある。
あたしはこの黒パンが結構好きなのだけど、エリスさんや、イザークさんに食べさせたら、ずっとつらそうな顔でいつまでも口をもぐもぐしてた。
「これ、いつ飲み込んだらいいの?」
「全然口の中で無くならないなんだけど…」
と二人して、珍しく同じ様な感想を言ってきた。
多分、あたしも河原で乞食をしていなかったら、同じことを思ったのだと思う。
河原暮らしをしていて良かったなと思うのは、あれ以来何を食べても、おいしく食べられるようになったことだ。
あ、でも、『泥貝』だけはもう食べたくない。
ただ、今度内緒で獲って来て、エリスさんやイザークさんや爺様を騙して食べさせようと思う。
あの贅沢な連中にあたしの苦労をすこしでも味会わせてやりたい。
それで、笑ってやるんだ。
今までいろいろといたずらをしたせいで、このところみんなあたしのやることを信用しなくなってきてるから、そのままじゃ、あたしの作った物はみんな食べないと思う。
だから、別の人が作ったことにして、何とか食べさせるつもりだ。
そんな感じで、悪だくみをしていると、楽しくてニヤニヤしてしまう。
こないだも、一人でニヤニヤしてたら、
「ナコが何か企んでる!逃げろ!」
って言ってイザークさんがホントに逃げてった。
魔法師団の大隊長がそんなに臆病で大丈夫?って思うけど、あのにーちゃんは、いつも何かから逃げようとしてて、いつも辺りを見回して、すぐ逃げる。多分、あたしが何もしなくても、なんか理由を付けて逃げるんだと思う。
しっかり腹ごなしが済んでから、カバンの中のある物を取り出す。
あたしの手には、『魔封じの腕輪』があった。
これは爺様の宝物庫から、くすねてきた物だ。
私は、その腕輪を両方の腕にはめた。
これでもう魔法は使えない。
あたしは、ただの普通の小娘だ。
鍵は持ってこなかったから、もう自分では開けられない。
小屋を出て高台を下り、泉の側の大岩に乗って辺りを見回す。
この泉はこの辺の、野生動物の水場になっている。
ここで待っていれば、じきに獲物が現れる。
あたしは、人の背丈ほどの大岩の上に座って待った。
小さな鳥や、ネズミの様な小動物が次々やって来る。
ワマウサギも来た。
でも、あたしの獲物はこんな雑魚ではない。
そして、目的の動物がやってきた。
その動物は、盛り上がった背中が大人の胸の高さほどもあった。
つまり、あたしの顔の高さに背中のてっぺんがある感じだ
短い四つ足のずんぐりむっくりの体で、首が短く、大きな頭の前が硬くこぶ状に盛り上がっている。
こいつは魔獣の『ドグラ』だ。
魔獣と普通の野生動物の違いは、魔力を持っているか、いないかの差だ。
魔力を持っている魔獣の中には魔法や身体強化の使える奴もいる。
この、『ドグラ』は身体強化が使える方の魔獣だ。
こいつは草食だが好戦的で、敵を見るとそのすんぐりむっくりの巨体で、真っすぐ突進してくる。その頭のこぶの突進の威力は、一抱えもある木の幹をへし折ることがあるくらい強力だ。真っすぐ突っ込んでくることしか能が無いから、避けるのは簡単だけど、こいつの厄介なのは、『敵』と見定めたら、当たるまで何度でも戻って来て、繰り返し突っ込んでくることだ。それで、一、二回はよけられても、何度目かでそのうちよけきれなくなって、吹っ飛ばされてしまう。これの肉はうまいので、よく狩人に狙われるけど、こいつは初心者の狩人を返り討ちにして一番殺している魔獣でもある。
だから、こいつの狩は必ず二人以上で行うのが基本だ。一人が注意を引いて、もう一人が背後から後ろ脚を切りつけて、動きを封じるようにすれば、そう難しい狩りではない。
ただ、今の私は一人で、魔法も使えない。
これの突進を食らったら、無事では済まないだろう。
でも、これくらい強力な身体強化の使える敵を殺せなくては、あの女に勝つのは夢のまた夢だ。
あの女の身体強化はこんな魔獣よりもずっと強い。あの女なら、散歩でもするように突っ立ったまま、この魔獣『ドグラ』の突進を受け止めて『あら、何か当たったみたいね』と涼しい顔で言って、片手の一撃で簡単にこいつを殺すはずだ。
「よし!」
自分に気合を入れて、あたしは大岩を降り立った。
ドグラは泉に顔を突っ込んで夢中で水を飲んでいる。
私はそっと背後から近づく。
中々の大物だ。
最初からこんなでかいのとやるつもりじゃなかったけど、ここでビビってられない。
あたしの脚が草を踏んで、進む。
ドグラの小さな耳が顔の横でぴくぴくと動いている。
ゆっくりと顔を動かして横顔でこちらを見る。
奴がぴたりとその場に静止した。
バレた。
もう遠慮はいらない。
全力で走ってドグラに向かう。
ドグラも身を反転させて、突進してきた。正面から向かって来る奴を、とっさに半身で避けて、顔の横、耳の辺りを横から素手で殴りつけた。
ここがドグラの急所だ。
でも普通は短剣で刺して仕留める。ただの拳骨くらいじゃ奴は死なない。
身体強化の魔力を乗せた拳を叩き込めなければ、私はこいつに勝てない。
体の中に『ジン』を練って、思い切り打ち付ける。
でも、耳の周りの硬い骨に弾かれて、あたしの拳は跳ね返された。
(かったいなあ!)
ドグラはその巨体で10メルスほども進んだ先で身を反転した。
前足で地面を何度か叩き威嚇してくる。
そしてまた突進してきた。
二度目の突進は一度目より助走がついている分、勢いが違う。
こちらに目標を定めて、迫って来る。
泉を背にして待ち受けた。
半身で腰を落として、下腹に『ジン』を貯める。
「コー、ヒュー、コー、ヒュー…」
と古式玄竜拳の呼吸で『ジン』を練る。
あたしがこの二週間でゼスから教わったのは、この『呼吸法』と、『立ち方』と、『正拳中段突き』の、三つだけだ。あ、あと『手合わせ』も教わったけどあれは戦闘に直接使えない。
奴が頭を下げて向かって来るのを、奴の左に体をかわして、その横っ面に拳を叩き込んだ。さっきより拳に『ジン』が乗っている。
手ごたえがあった。
(よしっ!この調子であと、二三発くらわせば…)
と思って、奴の横顔の小さな目と視線が合った。
背筋にぞくりと寒気がした。
奴はあたしの横をすり抜けざまに、顔を横に強く振った。
奴の顔はあたしに脇腹に当たる。
瞬間、景色が反転して自分が吹っ飛ばされているのが分かった。
ドグラはそのまま泉に突っ込んで行って、派手に水しぶきを上げる。
あたしは、地面をごろごろと何度も転がっていた。
胸が詰まって息が出来ない。
「かっ、はーっ!」
無理矢理、息を吸い込んだ。
ドグラは泉の中でじたばた暴れている。
脚が短いから、背が立たないみたいだ。
(そのまま、溺れろ!)
と期待するけど、じきに奴は泉の中を泳ぎ始めて、水面から顔を出して泉の淵に向かいだした。
あたしもすぐに立ち上がる。
なかなか呼吸が戻らない。
(やばい、ジンが練れない…)
奴は、どたどたと泉から上がってきた。
(ちくしょう!)
あたしは後ろを向いて逃げた。
逃げる先は、さっきまで乗っかっていた大岩だ。
大岩をよじ登った直後に奴が突っ込んできた。
ゴッ!
とすごい音がして大岩が揺れる。
(冗談だろ⁉こんな岩が揺れるのか⁉)
と奴を見る。
勢い良くぶつかったから、少しは弱っていることを期待したけど、奴は涼しい顔でこちらを見上げていた。そしてまた、五メルスくらい後ずさって、突っ込んでくる。
また『ゴッ!』と大きな音で頭のこぶを岩の横に打ちつけている。
あの、こぶはかなり丈夫みたいだ。
あたしは岩の上に立って、呼吸を繰り返す。
体内の『ジン』を必死に練り上げる。
でも、なんだか体の中がすかすかして、ぜんぜん『ジン』が集まってこない。
そうする間にも、ドグラが何度も突っ込んできて、岩が揺れる。
(くっそー、なんでだ?なんで出来ない?)
焦って呼吸が乱れる。
(まだ、覚悟が足りないんだ…。こんな岩の上に逃げてるだけじゃ、駄目だ。死ぬ気でやらなきゃ駄目なんだ!)
あたしは岩に突っ込んだドグラの背中に飛び乗った。その背中にしがみついて、耳の辺りを上から拳骨で叩く。
何か考えがあったわけじゃない。
なんかやらなきゃいけないと思ったら、飛びついていた。
自分でも何やってんだと思う。
ドグラがその場でぐるぐると回り始めた。
頭をひょこひょこと左右に振ってあたしを振り落とそうとしている。
あたしがそれに耐えていると、ドグラは体を地面に横倒しにした。
とっさに飛び降りて、地面を踏みしめた。
ドグラがどたどたとまた立ち上がる。
「コー、ヒュー、コー、ヒュー」
と、またあたしは呼吸を練る。
下腹部が熱くなってくる。
でも、まだ足りない。
奴が立ち上がってこちらに狙いを定め、後ずさる。
大岩は奴の背後にあった。
もうあたしに逃げる場所は無い。
このままじゃ負ける。
それだけがはっきりと事実として分かった。
頭から血の気が引いてきた。
あたしは生まれて初めて神様に祈った。
(頼むよ!なんでもいいから、力を貸してよ!神様!エル!助けて!)
と必死に祈った。ドグラが突っ込んでくる。
もう避けられない。
あたしか奴か、どちらかが死ぬんだ。
と、その時あたしの右肩に誰かが手を乗せた気がした。
小さい手だ。
まるで子供の手。
そして、一つ呼吸をするたびに、頭のてっぺんから何かが注ぎ込まれるような、不思議な感覚があった。その何かが下腹部に落ちて渦を巻くようにぐるぐる回転しながら、どんどん大きくなってくる。
(行ける!)
とあたしは確信した。
全身に力がみなぎる。
下腹部から拳の先に熱いものが登って来る。
あたしは腰を低く落とし、右足を深く引いた半身の姿勢で、左手の手刀を前に構え、右の拳を腰の横で引き絞る。
奴の頭のこぶがどんどん迫って来る。
急所狙いはしない。
この、丈夫なこぶを打ち抜いてやる。
そうでなければ、こいつに勝ったことにはならない気がした。
(来いよ!やってやる!)
あたしの全身が、あふれるほどの『ジン』に満たされる。
体が燃えるように熱い。
奴が突っ込んでくる。
全身の『ジン』を右の拳に集める。
あたしの顔のすぐ前に、ごつごつした岩の様なこぶが見えた。
『ジン』のほとばしる流れに合わせて、握った右拳を捻りながら前に突き出す。
渾身の右中段突きを、目の前のでっかいこぶのど真ん中に、全力で叩きつけた。
拳が何かをたたき割る感覚があった。
その直後、あたしの体は奴の巨体に弾かれて宙を舞っていた。