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67 ミーファの休息

なんだかんだで、私たちが第十近衛騎士団に帰れたのは、日が高くなったお昼近くだった。


箱車から出ると、裏門の前にはメルフィさんが待っていた。


不機嫌な顔をしている。


随分と帰りが遅かったので、怒られるのだろうかと、不安になる。


メルフィさんは私を迎えて、正面からぎゅっと抱きしめてくれた。


「こんなにふらふらになって…。辛かったね…」


と泣きそうな顔をしている。


どうも、誤解が有りそうなので、説明しようとしたけど、


「いいから、いいから、今日あんたたちは、訓練に出なくていいよ。ゆっくり休みな」


と有無を言わせず、部屋に返されてしまった。


みんな夕べから一睡もしていなくて、疲れているのは確かだったので、説明は後にして、ありがたく部屋に帰って、寝ることにした。


部屋では、マリさんが、服の片づけをしようとしていたから、強引に一緒の寝台に引っ張り込んで、逃げないように抱きしめた。最初の内、彼女はじたばたと抵抗していたけど、そのうち諦めて私の体に手をまわしてきた。


彼女はすぐに寝息を立て始めた。


私も意識がもうろうとして、それを追いかけるように眠りに落ちた。


ゼルガ公爵の『会合』での襲撃事件に関しては、かん口令が敷かれていて、何も話してはいけないことになっていた。


なので、説明したくても、詳しい話が何も出来なかった。それからしばらくは、『会合』出席者四人に、他の皆はいたわる様な優しい態度で接してくれていた。


しかし、あれだけの事件が全く噂にならないわけはない。


そのうち、不穏な噂が立ち始める。同時にゼルガ公爵派の重鎮貴族の何人かが『急病』で亡くなったとの訃報が伝わってきた。


「実際、何が起きたんだい?」


とメルフィさんや他の先輩が興味津々で訊ねて来たけど、肝心の事は話せないので、


「話せないんです。でも、あの日はみんな、何もなくて無事でした。貴族への夜伽もしていません。あっ、それで今後あの会合は無くなったので、もう第十近衛騎士団から、人を出さなくて良くなりました」


と、それだけを話した。


「そうかい、あんたはさぞ活躍したんだろうね。ああ、こんな事なら、あいつらの代わりにあたしが、行きたかったね。でもあたしがこのゴツイ見てくれで、薄布の寝間着を着て屋敷をうろうろしてたら、みんなびっくりして逃げちまうだろうね」


と冗談めかしてメルフィさんが言う。


メルフィさんがあの服を着ている姿を想像してみた。


意外に、かわいいと思う。


でも『意外に』を上に付けるのはやっぱり失礼かなと思い直す。


私と一緒に会合に出た二人の先輩はその後から、他の先輩と同様に厳しく稽古で鍛えられるようになった。


「あんたたちは『顔採用』だったけど、『会合』が無いなら、もう特別扱いは無いよ!」


と言って、メルフィさん自ら模擬戦の相手をしていた。


二人の美人で色っぽい先輩は、


「くっそ、給料も下がるし、稽古はきつくなるし、デーゲン恨むよ…」


と私に泣き言や愚痴を言ってくる。


でも、稽古が終わって、他の先輩たち同様に水をかぶって井戸端に座っている時の顔は、なんだか晴れやかに見える。


以前は稽古場の隅で、つまらなそうな顔でぶらぶらしていた二人だけど、今の顔の方がずっといい。


あと、あの日から、マリさんとの距離がグッと縮まった。


彼女は冷静であまり笑わない人だったのに、私の姿を見ると、ニコニコして、すぐに抱き着いて来るようになった。


その時になぜか私に『お姉さま』と呼びかけてくる。二人は大体同い年なので『お姉さま』はやめて欲しいとお願いをしたのだけど、


「お姉さまはお姉さまです。ここは譲れません」


と、なんだかよく分からない理屈で私のお願いは却下されてしまった。


マリさんは小柄でかわいいから、はた目には年下と言っても違和感はない。


それで、まあいいかと思って諦めることにした。


あの日、ゼルガ公爵を狙ったのが何者かという説明は、何日たっても無かった。


下っ端の私達には、今後も説明は無いと思う。


マリさんを部屋で眠らせた南国人の男が、あの日の黒幕では無いかと思う。


あの日、多くの貴族のおじさんが命を落としたけど、女性達で死んだ人は一人も居なかった。毒でやられたように見えた給仕の女性たちも、あの後ですぐに動けるようになった。毒でなくて、ただの痺れ薬だったみたいだ。


ガルゼイ様がお世話になっていた、『あの家』の女性ともあの後話をして、名前をこっそり教えてもらった。彼女は『メリエ』とだけ名乗った。


「契約で本名は言っちゃいけない事になっているから、このことは内緒よ。ガルゼイ君にもしゃべっちゃ駄目よ」


と念を押された。


私の日常は平常に戻り始めていたが、一つ困ったことがある。


あれからというもの、なぜかゼルガ公爵が、二、三日おきに第十近衛騎士団に顔を出すようになった。


そのせいで私と公爵様の間で何かあったのではないかという、憶測が騎士団内で出始めてしまう。こんな変な噂、迷惑だ。


今日も、ゼルガ公爵様がニコニコしてやってきた。


「やあ、ミーファ。今日も美しいな。剣闘会の準備は万全かね?」


と二日前も聞いた質問をしてくる。


「公爵様!用事もないのに、こんなにしょっちゅう来ないで下さい!変な噂が立っています!」


と私が怒ると、


「いや、それはすまないな。私にそういう下心はないのだ。ただ、純粋にミーファの成長をだな…」


「それから、私をミーファとよばないでください!私は公爵様とそんなに親しい間柄ではありません!」


「駄目か?これは手厳しいな。どうすれば、私のこの曇りない誠意が伝わるのだろうな」


と冗談めかして、へらへらしている。


『曇りなき誠意』がきいて呆れる。誰がどうみても何か企んでいるのが見え見えだ。


私がそうして、公爵様に怒っていると、メルフィさんがそばに来て、私に小声で耳うちする。


「おい、ミーファ。相手はゼルガ公爵だぞ。そんな態度で大丈夫なのか?」


と慌てている。


すると、マリさんがいつの間にか後ろに来ていて、


「お姉さまに恐れる物など有りません。他の有象無象こそが、お姉さまを恐れるべきなのです」


と、とんでもない事を言い出す。


マリさんは最近なんだかおかしな感じになっていて、私への信頼感がとんでもなく大きくなってしまっている。


これもまた困ったことの一つだ。


「いや、今日はちゃんと用事があるぞ。ミー…、デーゲン君にいい話がある」


「お断りします」


「おいおい、話くらい聞き給え。来週末に王家主催の晩餐会があるんだ。そこに君を招待したいという話が来ている」


「行きたくありません」


「当日は、メダス伯爵や、ヘーデン準男爵夫妻も来ることになっている」


(えっ、マリエル母様が来る?)


「お前も彼らに会いたいのではないか?」


「ヘーデン準男爵の長男のガルゼイ・リース・ヘーデン君は来るのでしょうか?」


「それはないな。あれは廃嫡されている」


「そうですか…」


ガルゼイ様が来られないのは残念だが、マリエル母様には会ってお話がしたい。


「実はヘーデン準男爵は正式に男爵に昇爵した。そのお披露目も兼ねている。あやつは何かと評判が悪かったが、この度王都内での、貧困者への慈善活動が高く評価されてな。長年滞っていた昇爵が、貴族院の会議で認められたのだ」


「そうですか…」


あのバルドさんがそんな慈善活動にお金を出すような人には思えない。


でも、そういえば以前、ガルゼイ様の腹違いのお姉さまが、何か慈善活動のようなことをしていると、ガルゼイ様が話していたことがある。


そのお姉さまは、『ゴミ捨て谷』の貧困集落で、定期的に炊き出しをしているのだけど、あそこは、沢山のやくざの組織が有って、その縄張りで何かやると何かと邪魔をしてくるという話だった。


それで、護衛付きでないと危なくて炊き出しも出来ないと、言っていた。


ガルゼイ様は、腹違いの美人なお姉さまの事を随分と自慢げに褒めていて、それを聞いていたら、なんだか胸がもやもやして、なぜか気分が悪くなったのを覚えている。


「分かりました。晩餐会には参加します。でも、そんな立派な物に私は出たことが無いので、ひどい粗相をしてしまうかもしれません。それでもいいのですか?」


と挑戦的に言うと、ゼルガ公爵様はにやりと笑った。


「ああ、いいぞ、君に首輪は付けられないと分かったからな。私の味方でいる限りは好きにしたまえ」


と、なんだか失礼な事を言って来る。


「私は大人しい人間です」


と反論した。


「大人しい人間は、屋敷の天井や壁を蹴り破らないし、鉄柵を吹き飛ばしもしない。それから、森を更地にもしないなぁ」


と、からかうように言って来る。


「それは!みんなを守る為で!」


「いや、分かっているぞ。私は褒めているのだ。お前には優しい心と、仲間を守れる力と、後に引かない行動力がある。それに蓋をしてはいけないと言っているのだ」


「それは、ありがとうございます。私は私の大切な人達を守る為なら何度でも同じ事をします」


「その大切な人達に私も含めて欲しいところだが、まだ今は難しいだろうな。これから君の信頼を勝ち取っていけるように努力するよ」


と、鷹揚に言って頷く。


この人はどこまで、図々しいのだろうか。


私はこの人が、私の一族や家族を殺すように命令した人と知っている。


だから、味方をするのはあくまで一時的な事だ。


状況が許せば、逆に私がこの人を殺すと思う。


でも、そう思う反面、なぜか、この人やバルドさんに対する恨みの気持ちが薄いというのも事実だ。


父様の事はあまり覚えていない。


中洲の娼館で母様が亡くなった時はとても悲しかった。


自分も死んでしまいたいと思って、ご飯も食べなかった。


でも、死ねなくて、毎日生きているうちに、悲しい気持ちも薄れてきてそのうち無くなってしまった。


あの、中洲の酷いおじさんたちにも、何故かあまり恨みを感じない。


あの人たちがモンマル伯父様に殺された時は、『これで、毎日怒られたり、叩かれたり、寝台で嫌なことをされなくて済むという、ほっとした気持ちがあったけど、『いい気味だ』とかは思わなかった。


というより、何も感じなかった。


そこにあった花瓶が壊れて捨てられた、くらいの気持ちだった。


私は人としてどこかおかしいのかもしれない。


でも、何がおかしいのか自分ではよく分からない。


ガルゼイ様のことも知らないうちに、たくさん傷付けていたのだろう。


私を見つめるガルゼイ様の苦しそうな顔が思い浮かぶ。


ガルゼイ様は優しいから、私を責めなかったけど、私はガルゼイ様を沢山責めてしまった。


私は自分で考えているより酷い人間なのかもしれない。


でも、私には他人に無い『強い力』がある。


この力を、もっと役に立てて使うようにしよう。


何ができるか分からないけど、私の手の届く所にいる悪い奴らは、みんなやっつけてしまおう。


それぐらいしか、私にできる事は無いから…。


「今日、こちらに王都で指折りの被服職人を呼んである。晩餐会までは日が無いが、上等の夜会服を徹夜でも仕上げるように伝えてある。職人たちが採寸の為に来ているから、これから君は騎士団の中会議室にすぐに行きたまえ。それから当日は私の五男のマリスが迎えに来る。あいつに君の付き添いとして、同伴する栄誉を与えてやってくれないだろうか?」


マリスさんは時々近衛騎士団に来てお話をして帰っていく人だ。


女性のような奇麗な顔をした、とても優しい人で、いつも何か贈り物を持って来てくれる。


宝石のような高価な物を持って来たときは貰うのを断った。


何か欲しいものは無いか、と訊かれたので、『甘い物』と答えたら、王都で有名な甘味処の『ニシキ屋』というお店のお菓子を沢山持って来てくれた。


一人で食べるのは申し訳ないので、第十近衛騎士団の皆さんに少しずつ分けたら、私の食べる分が少しだけになってしまったけど、そのほんの少しでも、とてもおいしいお菓子だと分かった。


すると、次からはマリスさんは第十騎士団の全員分のお菓子を買って来てくれるようになった。


ただ、マリさんの分が無かったので、私のを半分あげようとしていたら、


「これは気が付かなかったな、すまなかった。侍女には私の分をあげよう。ミーファは自分の分を一人で食べるといいよ」


と、優しく微笑んで自分のお皿を私の方に差し出してくれた。


とても、いい人に見える。


あのゼルガ公爵様の子供なので、あまり仲良くしない方がいいのかもしれない。


でも、親切で、何も嫌なことをして来ない人なので、こちらもあまり素っ気ない態度は出来ない。


お話も面白くて、いつもみんなを笑わせる。


マリさんも最初は彼に警戒心を持っていたけど、最近は彼の冗談に、下を向いてこらえて笑うようになった。


「氷の姫君が、笑っているのかな?」


とマリスさんにからかわれると、


「笑っていません!あなたのお話なんか一つも面白くありません!」


と言い返している。


でも、マリさんが男性に対して、こんなにあけすけに話をしている姿は、今まで見たことが無い。


彼は、マリさんが気兼ねなく話せる唯一の男性かもしれない。


この二人が好き合って恋人になったらいいのにと思う。


それで、さりげなくそっと席を立って、二人きりにしようとすると、


「どこへ行くのかな?」


「どこへ行くのです?」


と、二人同時に息ぴったりで、聞いてくる。


本当に付き合えばいいのに。


中会議室には十人以上の女性の職人さんが来ていた。


その中にスタイルのいい奇麗な金色のかっこいい長髪男性がいて、この人がその中一番偉い職人さんだった。


「あら、お美しい。嫉妬してしまうくらいの均整のとれた、お体ねえ」


と女性のような喋り方で、私の下着姿の体をべたべたと触って来る。


男性にこんな風に体を触られるのは、あの会合の公爵様以来だったけど、この男性には触られても何も嫌な感じがしなかった。


「あらあら、このお肌の張りも素晴らしいわ。すべすべ。すっべすっべですねぇ。むふふう」


とお腹の辺りを撫でるので、くすぐったくてつい笑ってしまった。


「あら?この脇腹の傷は?」


と、その職人長さんが私のお腹の一点、右の脇腹の辺りを見つめる。


そこには、うっすらと片手の平を広げたくらいの長さの古傷の痕があった。


「ああ、それは子供の頃からある古傷です」


と答える。


「随分大きな傷ね。大分古い傷痕だから、よく見ないと気付かないくらいだけど、子供の頃にこんな怪我をしていたなら、命に係わる大怪我だったはずよ」


と傷跡を撫でながら彼は言う。


「よく分からないんです。物心ついた時にはもう傷が有ったので」


「まあ、目立つ傷ではないし、服を作る分には問題無いわね。明るい人前でこんな場所を人目にさらすことも無いでしょうしね」


と言ってカッコいい職人長さんは傷痕への興味を無くした。


その夜会服は晩餐会の当日の午後にやっとできあがって、届けられた。


本当は二日前に出来ていたらしいけど、あの金髪男性の職人さんが、気に入らなくてすべてやり直したそうだ。


私は何だっていいから、適当に作ってくれれば良かったと思うけど、目の下に隈を作って、よれよれになって、夜会服を届けてくれた職人さんの顔を見たら、とてもそんなことは言えなかった。


出来た服は、キラキラ光る白の滑らかな生地に、銀糸で刺繍と縁取りがしてあって、裏の透けるレースがその上に縫い留められた、とてもきれいな物だった。


体にぴったりとしていて少し窮屈な感じがする。お腹周りは、普通は紐で締め付けて細くするという話だったけど、私の場合は元から細いのでその必要は無いと言っていた。


むしろ、窮屈なのは腕周りだ。


「うーん、この腕の太さだけはなんともならないわね」


と金髪男性の職人さんはあきらめ顔で首をかしげていた。


それで、あえて腕周りの袖を全部なくして、透けるレースをピッタリと腕に張り付けるように巻いた。少し力を入れると破けそうで怖かったけど、伸縮する最新の帝国製の素材を使ってくれたそうで、『そんな希少な輸入品を』と、申し訳なく思った。


マリさんが髪とお化粧を仕上げてくれた。


私は流行りの巻き上げ頭は何か嫌だったので、動き易いように、ワマの尻尾みたいに頭の後ろでくくってもらった。また何が有るか分からないから、いつでも戦える準備だけはしておきたかった。


それで、後ろに括った髪に金糸銀糸を編み込んで、頭の上に大きな髪留めをいくつか飾って、見栄えが悪くならないように、マリさんが知恵を絞って工夫してくれていた。


準備が整って、門に出ると箱車が停まっていて、マリスさんが迎えに来ていた。


「やあ、ミーファ、本当に美しい。騎士服姿の君もいいけど、夜会服の君も別人のようで素晴らしい!」


とお世辞を言ってくれた。


王城には私よりずっと奇麗な人達がたくさんいるはずだから、あまり本気に聞かない方がいい。マリスさんはどんな女性の事も褒めてくれる人だ。


この人は女性のいい部分しか見えないように、女性に優しい。


私にだけ特別に言ってくれていると勘違いしない方がいい。


私の豪華な髪留めが金色なのは、マリスさんの髪色を入れているという話だった。


今日のマリスさんも白地の騎士服ような夜会服で、それに金糸と銀糸で刺繍を施した豪華で綺麗な服を着ている。


なんだか二人でお揃いのような色合いで、変な感じがする。


マリさんに、『似た服ね』と小声で訊くと、


「夜会の服はこういうものです」


と、簡単に声明してくれた。


箱車には私と、マリスさんと、マリさんで乗り込んだ。


マリさんは晩餐会に出席しないけど、私の身の周りの世話やお化粧直しの為に控室に詰めていてくれるそうだ。


マリさんは何故か不機嫌だ。私の世話で疲れてしまったのかもしれない。


「氷の姫君はご機嫌斜めかな?」


とマリスさんがいつものようにからかう。


「くっ、お姉さまの横に立つのが私でなく、なぜ、あなたなのですか」


とマリスさんを睨みつける。


「はっはっはっ、今回は僕の勝ちだね。公爵家の権力を使ったようで少し心苦しいけど、仕方ないだろ?正式な晩餐会には男性の同伴者が必要なんだから」


と勝ち誇った顔をしている。


「くっ、殺せ!」


とマリさんが物騒な事を言い出した。


そういえば『マリ』さんと『マリス』さん。


二人の名前はとても似ている。


私が二人のどちらかを呼ぶと、どちらも一緒にこちらを見るのはそのせいなのねと、今更ながら気づいた。


試しに呼んでみたくなった。


「マ…」


というと二人とも同時にこっちを見た。


そのまま黙ってみる。


すると、二人とも私から視線を外す。


もう一度言ってみよう。


「マ…」


また二人がこっちを見る。


また黙る。


二人は視線を外す。


楽しくなってきた。


「マ…」


とまた言うと、二人して私を睨む。


「名前で遊ばないで下さい」


「名前で遊んでいるのかな?」


とまた二人同時に言う。


おかしくなって、下を向いて笑いをかみ殺す。


「お姉さまひどい」


と言って、マリさんが私の腰に腕をまわして、抱きついて来る。


「あ、マリちゃんお触りは禁止だよ」


とマリスさん。


「侍女の特権です」


「そんな特権がいつできたのかな?」


「今です」


といつものように二人で言い合う。


(やっぱり仲がいいなぁ…)


と、この二人くっつけるにはどうしたらいいのかと、真剣に考えてみたけど、いい方法が思いつかなかった。

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