58 楽しくない実験
家に帰って、自分の部屋で布団に入ると、右手の人差し指にはめた魔術具の指輪が赤く点滅し始めた。
これはヒューリン氏の呼び出し信号だ。
勘弁してほしい。俺はもう寝たいのだ。
信号を無視して俺は指輪を外して部屋の隅に放り投げた。
「うるさいんだよ、このクソババア…」
と言って布団を頭からかぶって寝ようとすると、
「ほう、クソババアとは、誰の事かのう」
と聞き覚えのある美しい声が部屋の隅の暗がりから聞こえてきた。
「えっ、えっ、なんで?」
と俺は寝台の上で半身を起こして後ずさった。
「この頃、お主がなかなかわしの呼び出しに応じなくなったのでな。面倒なので、こことわしの研究所とをつないでおいたのじゃ。これでいつでも好きな時にお主を連れて来られるようになったのう」
「いや、『なったのう』じゃなくて、これはプライバシーの侵害というものですよ」
「あー分からん。異世界の言葉は難しくて分からんなー」
「いや、分かるでしょ?全部分かっているでしょ?」
「能書きはいいから、はよ支度をせい。30秒やる」
と言って右の眉を釣り上げて腕組をする。
「いや、そんなどこかの有名アニメの、空賊の婆さんの様な事を言わないで下さいよ。せめて15分はくれないと支度は出来ませんよ」
「はい、30秒」
「いや、まだ、15秒くらいですよね!」
「やかましい、わしを待たせるなど、何様じゃ!」
と首根っこを掴まれて、有り得ない力で寝台から引きずり出される。
(この婆さん中身ゴリラじゃねえか!)
「む、お主、今何か非常に失礼な事を考えたな」
と怪力エルフが、子猫のように俺の首根っこを掴んだまま宙釣りにして言う。
このエルフさん、本当に読心魔法が使えるのではないかと思えるほどに人の感情を読むのが上手い。その割になんで鈴木春馬氏の気持ちには気付かなかったのだろうか?
要はこの人がポンコツなのだろう。頭はいいのかもしれないが、研究馬鹿で、人間としては(エルフとしてか?)ただのポンコツさんなのだ。
「むう、また更に失礼なことを今考えたな?」
とヒューリンさんが小首を傾げ、頬を膨らませて、憮然とする。
顔だけ見ていたら本当に美人で愛らしいのだが、中身が酷過ぎるんだよなぁ。
と思うと、
「今、少し褒めて、少し残念な感想を持ったような気がする」
と更に言い当てて来る。
もおいいっす。なんでもいいっす。
とやけくそになった。
「ほう、諦めたか。それでよい。では行くぞ」
と俺はそのまま異空間の暗がりの通路へと連行された。
旧王城の見慣れた実験施設に移動した。
いつも苛ついて八つ当たりをしてくるヒューリンさんが、今日はなぜか上機嫌だ。
何か企んでいるに違いない。
用心しないと。
「今日は新しい実験をしようと思う」
と仁王立ちで嬉しそうに宣言した。
「また、体の血を半分も抜かれたり、尻の肉を切り取って、その再生を観察するとか、そんなんじゃないでしょうね?」
と疑心暗鬼で問う。
「心配するな。今日はもっといい実験だ」
「あなたの言う『いい実験』が、私にとってのいい実験だった試しがないんですよね…」
「ふん、能書きはいい。こっちに来い」
「へいへい」
「へいは一回じゃ」
「へーい」
「伸ばすな」
「へ」
「まともに返事も出来んのか?こんな阿呆に付きあうわしの心労を、お主は考えたことが有るか?」
とあきれ顔のエルフさん。
「いいから、実験するならさっさと済ませて下さい。それでその研究の解析で、あと3日は放っておいて下さいよ」
「まあいい。まずこれを持ってみよ」
と凝った作りの鞘に収まった高そうなロングソードを差し出された。
華奢で華美な装飾の、細身の剣だ。
実戦用と言うより儀式などで使われる祭祀用の剣に見える。
それを引き抜いた。刀身は赤く輝いていた。
こんなきれいな剣を見るのは初めてだ。
「これはかつて王家に伝わっていた、火の魔剣じゃ。今はわしの数ある所蔵品の一つになっておる」
「盗んだんですか?」
「貰ったのじゃ」
「ほんとですか?」
と疑わしそうな視線を向ける。
「失礼な奴じゃな。わしは今まで人から物を盗んだことなど無いぞ。たまたま敵対して滅ぼした相手の持ち物を有効に利用するために頂いたことはあるが、持ち主が居ないのだから、それは窃盗ではないじゃろう」
「もっと悪いですよ。強盗殺人じゃないですか」
「何が強盗殺人じゃ!人聞きの悪い。強盗殺人と言うのは、物を盗むためにその持ち主の相手を殺す事を言うのじゃ。わしのは相手を殺すことが第一の目的で、その財を入手することはあくまで副次的なことなのじゃ。手段と目的がそもそも違うであろう!」
「結果は一緒ですよ」
「最近の若者は、『結果結果』と口を開けば、そればかりじゃ。世知辛い世の中になったものよのう。昔の人間はもっと過程を楽しんだものじゃ」
「人殺しの過程を楽しんだなんて、最悪じゃないですか」
「やかましいわい!」
と切れた苛つきエルフさんが俺の頭をげんこつで殴りつけてきた。
頭がへこむかと思うほどの威力だ。
本当に華奢な体で、どこからこの力が出て来るのだろうか。
「いってえー!」
と殴られた部位をこする。
「内部への衝撃を少なくして、皮膚の痛覚を最大限刺激する殴り方をした。痛いであろう」
と暴力エルフは満足げに笑う。
「この鬼め!」
「お主は、最初はこのわしをエロい目で見ていて、従順だったのに、最近はやたらと逆らうようになったの」
「私は鈴木春馬氏とは違うので、すぐにあなたの本性に気付いただけです」
「若者と言うのは皆、ゴブリン並みの性欲を持っているものじゃろうに。スズキハルマは自制がきく分、ゴブリンよりはマシじゃったぞ」
ん?
今、この人『ゴブリン』って言った?
ナコねーちゃんがこの世界には『ゴブリン』が居ないような事を言っていたが…
「あの、ゴブリンっているんですか?」
と問う。
「おらんぞ」
と短い返事が返ってきた。
「じゃあ、なぜ今『ゴブリン』と言ったのですか?」
「今は居ないという事じゃ。もうゴブリン族は滅んでこの世界にはおらん」
「なぜ、滅んだのですか?」
「ああ、奴らは人魔大戦のおり、魔族の側について、人族を兵士も市民も構わずに、無作為に襲っていたゆえ、わしが全部滅ぼした」
と、恐ろしいことを言う。
「奴らは放っておくとすぐに増えるのでな、一匹残らず殲滅するのに苦労したぞ」
と台所のゴキブリを駆除したかのような気軽さで、一種族を滅ぼした話をする。
こういう話を聞くと、一見平和に見えて、ここが弱肉強食のシビアな世界なのだと思い知らされる。
そもそもこの世界の現代に『人権』と言う言葉が存在しないので、『人権』と言っても誰も分からない。このエルフさんは博識な学者なので『人権』を知っているが、この世界では『人権』は死語で、そんな概念すら一般市民は知らない。
「では、オークは?」
「オークはまだいるであろう。数は少ないがな」
「オークと言うとやはり豚の様な顔をしていて、その肉が高く売れたりするのですか?」
「オークは不細工だが、豚とは違うのう。体が大きくて力が強い亜人じゃ。知恵が回らないので、定住生活に不向きで、狩猟と略奪で生計を立てておる。奴らが自分たちの森深くにあり、敵対する同族の村などを略奪しているうちはまだよかったが、数が増えて、人族を略奪するようになったので、討伐対象になった。それで数を減らして、森の奥深くに消えていった。あれは見てくれは悪いが、先祖を辿れば、人族の親戚の様な物じゃ。あれの肉を売り買いするなど気持ちの悪い事を言うな」
肉を食べられる『豚顔オーク』はこの世界ではバージョン違いらしい。
どこかの別の異世界では『豚顔オーク』を食べる世界線もあるかもしれない。
にしても、基本的に二足歩行する生き物を食べる事には、かなりの抵抗がある。
仮に野生の猿を『食用だ』と言って料理して出されたとしても、俺は気持ち悪くて食べられないと思う。同じように、以前漁港近くのスーパーでイルカの肉が売っているのを見た時は、「むむむ」となった。
誤解してほしく無いのだが、別に、どこかの環境保護団体のようにイルカ食を批判する意図はない。
テレビなどで愛らしい姿で見慣れた存在を、俺の脳が食用と認識できないだけの話だ。
国によっては、犬や猫を食用にする場所もあるという話だが、もし、スーパーで猫の肉を売っていたら、かつて猫を実家で5匹飼っていた経験のある俺は、気持ち悪くなって見る事すらできないだろう。
このように、生活環境で培われた『常識』というものは、趣味嗜好の形成に大きな影響を及ぼしてしまう。そして、違う価値を持つ集団同士が遭遇した時、強い方が弱い方を従えてその価値観を塗り替えていく事で、多様な価値観が同化されていくのが、自然な歴史の流れというものなのだろう。
それに順応できなかった種は、先のゴブリンのように、強者の鉄槌で滅ぼされる運命になってしまうしかない。
「そら、その火の魔剣を振って発動させてみよ」
とせっかちエルフさんがせっつく。
「では、行きますよ」
と、俺はその魔剣を目の前のエルフさんに向けて軽く振り抜いた。魔剣はエルフさんの前で、ヒュンと風切り音を立てた。
何事も起きない。
「おい、今お主はなぜこの魔剣をわしに向けて振った?」
「いや、何となく…」
「もしこの魔剣が発動していたらわしは火だるまになっているのだが…」
「ああ、それはうっかりしていました。そういうことは最初に言っておいて下さいよ」
「いや、わかるじゃろ?火の魔剣じゃぞ」
「以後気を付けます」
「今のはわざとでは無いのじゃな?」
「はい、誓って」
「まあ、そういうことにしておこう。いちいち咎めていては話が先に進まん。では次じゃ。今の魔剣は柄の魔石のマナが空になっておる。なので、火の斬撃は発動しないようになっておる。それでだ…」
とヒューリンさんが長いコードの様な物の付いた、オートマタの核を持って来た。
「この核を魔石の場所にはめてだな…」
その核に付いたコードの先には20センチほどの長い針がついていた。
「その針は?」
と嫌な予感がした。
「これはこうじゃ」
と残忍エルフさんは目にもとまらぬ早業で、その針を俺の心臓のあたりに突き刺した。
「ぐはっ!」
文字通り胸が締め付けられるような痛みで膝をついた。
「これ!しっかりせい。なんじゃ?だらしのない!」
「痛い痛い!」
「仕方ないのう。実験の精度が鈍るのでこの魔法はあまり使いたくなかったのじゃが…」
と何かの魔法を俺の体に発動した。
心臓の痛みが少し楽になる。
「痛覚遮断の支援魔法じゃ。楽になったであろう?」
「いや、まだ痛いですよ」
「弱めにかけたからの」
「強くしてくださいよ」
「駄目じゃ。それでは実験にならん」
「私が苦しむこと込みの実験なんですか?」
「そうでは無いが、なるべく実験に不純物は入れたく無いのじゃ。それ、もう一度魔剣を振ってみよ。今度はわしに向けるなよ」
と言う無慈悲エルフさんに背を向けて反対の壁面に、魔剣を振る。
やはり、何事も起きない。
「駄目か…」
とエルフさんががっかりしている。
「ただ、これも計算のうちじゃ。本命は次じゃ」
と言い、俺の胸の針を雑に引き抜いた。
それがまた痛い。
「ふんぐあー!」
と俺はしゃがみ込んで身もだえした。
『うおーん』という黒衣の老人の声が聞こえて、たちまち傷がふさがり、痛みが治まる。
「次はこれを持て」
と、次に持ってきた剣は、黒々とまがまがしくねじくれた装飾の鞘に収まった、細身の湾刀だった。
思わず背筋に寒気が走る。
これは良くないものだと一目でわかった。
「ほれ、はよせい。魔法で手を防御しているが、こうして持っているのも辛いのじゃ」
と聞き捨てならないことを言って来る。
「これ、なんですか?凄く不吉なオーラが漂っているんですけど…」
と逃げ腰で後ずさる。
「ただの『呪いの魔剣』じゃ。これはお主なら、持っても問題無いものじゃ。ほれほれ、はよせい」
「嫌ですよ!もう、帰ります!」
と背を向けると、体が痺れて動かなくなった。
「わしが逃がすと思うか?こんなこともあろうかと、先ほど刺した針に遅効性の痺れ薬を塗っておいたのじゃ」
って、なんでこんなことがあると思うんだよ!
「ふだけんだ、ほの、ふそははあ(ふざけんな!このクソババア!)」
と言うが、ろれつが回らなくなって、まともに話せない。
しかし、こんな状態では『呪いの魔剣』も振れないだろうに。この人は何がしたいのか。
「安心せよ。この魔剣は、今は振る必要は無い。まずは一つ確認したいことがある。
と言って、へたり込んだ俺の手にその呪いの魔剣を握らせた。
すると、『ザリッ、ザリッ』と手に例の張り付く感じが有った。
そして、体から、霊エネルギーが魔剣に向けて吸い出されていく感覚があった。
どんどん吸われていく。一体いつまで吸われるのかと不安に思っていると、不意に霊エネルギーの流れが止まる。そして、俺の手にした呪いの魔剣が、黒いオーラを放出しながら禍々しい黒ずんだ光をあたりに放出し始めた。
「では体の痺れを解除してやろう」
と解毒魔法を俺に掛けてくれた。
それにしてもこのエルフさん、どんだけ沢山の魔法を使えるのだろう。『賢者』と称えられているのも納得してしまう多才さだ。このエルフの本性を知らなければだが…。
「気分はどうじゃ?」
とヒューリンさんが俺の顔を覗き込む。
「最悪ですよ」
「その割に元気そうじゃの」
「霊エネルギーをごっそり吸われました」
「どのくらい吸われた?」
「かなり備蓄が有ったので、それでも全身の4割くらいです」
と言う。
俺はその場に立ち上がり、魔剣を鞘から引き抜く。
そして黒く禍々しい湾曲した刀身を見つめる。
「これ、どうやって使うんですか?」
「さっきと同じじゃ、振って見よ。ただし、わしに剣を向けずにな」
俺はクリスタルの様な壁に向かいその呪いの魔剣を一振り、振り抜いた。
すると、魔剣が黒い稲妻の様な光を放出し、剣を振った軌道そのままに黒い斬撃が壁に向かって飛んで行った。
そして、爆音とともに刀身の長さの5倍はある傷跡が、深く壁に刻まれた。
「何と!?」
とヒューリンさんが驚いている。
「この壁を傷付けることが出来るとは…凄い威力じゃ」
と呆然としている。
呪いの魔剣はまだ禍々しいオーラを発し続けている。
そして、今一振りした後に、俺の体から若干の霊エネルギーが剣に向けて流れていくのを感じた。ただ、最初に大量に吸われたエネルギーの量に比べると、それは誤差と言えるくらいの少ない量だった。
「この剣は一体?」
とヒューリンさんの顔を見つめる。
「実験は成功じゃ。わしの思った通りじゃ」
「どんな実験だったのですか?」
「これは、手にした人間の精気を吸い取って、死に至らしめる事で知られた『呪いの魔剣』じゃ。今までこれを手にした者は皆、瞬時に命を落としておる。よって、この魔剣の能力がどんなものか誰も知ることは出来なかったのじゃ。一時は、これは魔剣などでなく、手にしたものを暗殺する魔術具と見なされて封印されていたが、わしはそうではないと睨んで、持ち主からもらい受けて、保存しておった。この剣がこんな形で陽の目を見る日が来るとは思わなかったがな」
と興奮した様子で、ヒューリンさんがまくしたてる。
ちょっと、待て。
なら、こいつは、今までみんな一瞬で命を落としていたような危険な物を、何の準備も無く躊躇なく俺に持たせたというのか?
酷い。酷過ぎる。
俺に対する扱いが、いくら何でも酷過ぎる。
ここしばらくの付き合いで、遠慮のない軽口が叩けるくらいには、仲良くなったつもりだったのに、この馬鹿エルフは俺の事を所詮実験動物としか思っていなかったのだ。
許せない。
この、エルフはどこまでひどい奴なんだ。
俺は、目の前のエルフを睨みつけて、呪いの魔剣を彼女に向けた。
「お主、その剣で何をする気じゃ?」
と、ヒューリンさんが目を細め、俺を嘲る様な、酷薄な微笑をその頬に浮かべる。
「まさか、このわしに逆らおうというのか?」
と余裕の態度だ。
「説明しろ!俺が死んでいたのかもしれないんだぞ!」
と怒りで我を忘れて彼女を怒鳴りつける。
「まあ。落ち着け。勝算はあった」
「ふざけるな!なんの勝算だ!お前の言う事など信用できるか!」
「いいか、この剣で命を落としていたのは常人じゃ。その常人とお主の違いは何じゃ?」
「知るか!」
「ちっとは考えよ。常人は皆魂を一つしか持っておらん。それはわしも同じじゃ。よって、その魔剣が人の魂を吸う物ならその剣を使える『人』はこの世に存在しないことになる。わしを含めてな。だが、古い伝承では、太古の昔にその魔剣を使える『人?』の様な物があったという。その者は多くの死者の魂を身に宿し、殺しても死なない人間だったという話じゃ。どうじゃ?誰かに似ておろう?」
「それと、私が同じだと?」
「確信はない。だが、今それが証明された。よかったのう。死ななくて」
結局見切り発車じゃねーか…。
と、このエルフさんへの不信感はぬぐえなかったが、自分の能力の解明に近づいた様な話だったので、恨みより興味が勝ち始めた。
その俺の心境の変化を察して、ヒューリンさんが『してやったり』の顔でうなずいている様子が癪に障り、また猛烈に腹が立ってきた。
「で、私がこの魔剣を使える事と、あなたの研究とどういうつながりがあるんですか?まさか、私の戦力の底上げに『善意』で協力してくれたわけじゃないですよね?」
「説明せねば分からぬか?これだから凡愚と話すのは厄介じゃ」
「そんなに厄介なら、これ以上私に関わらないで下さい」
「最初にお主と会った時に、わしは『帰れ』と言ったぞ。それを無視して寄ってきたのはお主の方だと忘れたか?」
「あれは気の迷いと言う奴です。今は心底後悔しています」
「おおそうか。それなら、今回は謝罪のしるしに、この自慢の乳を特別にもましてやろうかの。これはあのスズキハルマにも触らせたことは無いものじゃ。今回は特別じゃぞ。ほれ、ほれ、お主の大好きなおなごの乳じゃぞ」
と、自分の両手で鷲掴みにした胸を寄せて谷間を強調して見せる。
「いらん!」
と拒絶したが、自分で顔が赤くなってくるのが分かった。
なんて下品なエロエルフだ。
もはや、エルフじゃなくてエロフだ。
「1,000年物のこの美乳を拒否するとは、なんと贅沢な。お主はあれか、実は男が好きなのでは…」
「そんなわけあるか!って、あんた1,000年も生きてるのか?」
「女性に歳を訊くなと言ったであろう!もう忘れたのか、このざる頭め!」
「いや、自分で言ってんだろ!」
「物の例えじゃ!失礼な奴め!」
「そんな例えがあるか!」
「やかましいわ、このクソガキが!場を和まそうという、わしの気配りが分からんのか!」
「そういうのは要らねーんだよ!それよりさっさと説明しろ!」
俺と、馬鹿エルフは至近距離で怒鳴り合って、息切れでハアハアしながら向かい合っていた。
「バカバカしい。やめじゃ。お主と話しているとわしの知的水準がどんどん下がってしまう」
「前にも別の人に同じ事を言われましたね」
「被害者は他にも居たか」
「で、話を進めて下さい」
「ああ、これは大事な事じゃ。いいか。この魔剣がお主の中の生命力『ジン』を吸収できるというのはどういう事か分かるか?」
「回りくどいですよ。はっきり言って下さい」
「それは、お主の体の中から大量の『ジン』を短時間に抽出出来ているという事じゃ」
「あ…」
「やっと気づいたか、つまりこ『呪いの魔剣』の仕組みを解明できれば、それを応用して、オートマタの核に『ジン』を注入することができるかもしれないという事じゃ。もし、それが実現出来たら、わしの悲願が果たせる可能性が大きく上がる。この実験でお主の存在価値は、実験前とは比べ物にならんくらいに上がったのじゃ。よって、今後はお主の身の安全をわしは何があっても守らねばならん。今より、お主の側には常にわしの配下を付けて、四六時中陰から見守ることとする。お主に拒否権は無い」
と、いつになく興奮した様子でヒューリンさんが宣言した。