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30 美少女娼婦に逢う

ランス川の渡し場で『箱車』を降りる。


ランス川の中央、50メートルほど先に幅1キロほどの中州がある。中洲周りの浜辺をとり囲むように全て街になっていて、派手な装飾と看板を掲げた趣味の悪い建物が立ち並んでいる。


中州への橋は無く、渡し場から小舟に乗って上陸する。


俺は渡し賃二人分の王国小銀貨1枚を船頭に支払った。(一人分は王国大銅貨5枚)


たったこれだけの距離で、ぼったくりだと思う。


この金額は冷やかしで中州に行く人間を振り落とすために、高めに設定しているのだろう。

船頭の巧みな櫂さばきであっという間に対岸の渡し場に着く。小舟に揺られて景色を堪能する暇もない。


(渡し賃やっぱり高い!)


と最近まで河原で暮らしていた記憶の経済感覚で思う。


対岸の街は静かで、人の気配が無かった。


この街の活動期は夕方から深夜にかけてなので、昼時の今は皆まだ寝ているのだ。


夕方だと客引きに煩く付きまとわれるという話だ。この時間の方が静かに行動できる。


取りあえず中州の中央にある見晴らし台への道を登る。


中央の高台は広場になっていて、木造の四角い塔がそびえている。


その塔の中の薄暗いきしむ階段を登り、てっぺんの物見やぐらに上がる。


この塔はよく見ると根元にかつて車軸を取り付けていたような形跡が残っていた。


これは、古くなった攻城兵器を改造して再利用したものではないのかなと思った。


やぐらの上で、子供の落書きのようなへたくそで不正確な手書きの中州地図を広げる。


これは、父の秘書兼護衛で解放奴隷の厳つい男『ルッソ』から無理を言って奪ってきたものだ。


これでも政府発行の正規の地図だというから驚く。しかもこれを買うのに王国金貨1枚払うそうだ。そして複製は重罪になる。どう見ても役人の金稼ぎの利権だ。


中州に限らず、王都内の地図を庶民が持つことは一切許されていない。


本来は父も平民なので拙いのだが、爵位を持っているからギリOKと言う感じだ。


庶民は地図という物を見たことが無いので、地図を見せても読み方が分からないし、その地図の今自分のいる位置を特定すらできない。


俺が地図を見ていると、モンマルが横から覗き込む。


「坊ちゃんは地図が読めるんですか?たいしたものですね」


としきりに感心している。


こんなものは前世の世界なら誰でもできる事なので、褒められても嬉しくない。


「大した事ではない」


ぶっきら棒に返す。


船着き場の位置と塔の位置から見て、目的地の娼館の場所の目星を付ける。


「よし、あっちの川辺の水上ハウスだ」


と言う。


「ハウスってなんですか?」


とモンマル。


ついうっかり前世の感覚で外来後を使ってしまった。


この感覚のずれがかなりめんどくさい。この国の言葉を日本語的に自由に使っているが、まったく別の言葉なのでそこに外来語を入れると訳の分からない呪文のようになる。


ナコねーちゃんが『ファイアーボール』を分からなかったのと一緒だ。


「えー、『船家(ふないえ)』のことだよ」


「ああ、船家ですか。この中洲の周りは全部船家で囲まれていて、物資の搬入も各家が船商人に注文して買うんですよ」


とうんちくを言う。


「モンマルは中州に来たことがあるのか」


「へえ、王都に来たばかりの時に、話のタネにと思って一度だけ。それにしても渡し賃で王国大銅貨5枚とられるのには驚きました。やめて帰ろうと思ったら、船頭の野郎、あっという間に船を出しやがって、仕方なく泣く泣く払いましたよ。俺の半日分の稼ぎですからね。そのうえ中州のどの店も同じ品が王都の普通の店の2倍から3倍も値段が高いんで、何も買わずにこのやぐらを観光だけして、また王国大銅貨5枚払って帰りました。あれは本当に失敗でしたね。頭にきて、その後10日は落ち込んでましたよ」


うん。そうだよな。普通の庶民の感覚ならそんなものだろう。


やぐらを降りて、曲がりくねった細道を目的の方向に進む。


みちがどんどん細くなる。辺りの風景が雑然としてきてスラムじみてくる。


目的の娼館のある位置はこの中洲の中でも最底辺の場所にあるようだ。


落ち着いた様子のモンマルが周囲に油断なく目線を巡らしている。


弱そうに見えるしょぼくれたおじさんだが、実際は歴戦の強戦士なのでこんな時は頼もしい。


何度か迷って細道を引き返して、やっと目的の娼館にたどり着いた。


娼館と分かるものは入り口に立てられた黄色い旗だ。


許可を得た娼館はこの黄色い旗を外から見える場所に掲げる決まりになっている。


幅の広い渡し板が岸の石垣から船家の入口に掛かっている。


その船家は老朽化して今にも崩れそうな趣だ。


二階建てで、かなり大きな船だ。各階、小部屋なら10部屋くらいは作れそうな感じだ。


入り口からのぞき込むと一階部はこじんまりした食堂になっていて、古い大きな木製のテーブルが4つにシンプルな木椅子がバラバラに配置されている。食堂の奥に2階への階段があり、1階の壁際にもいくつかの小部屋の扉が見える。


お化け屋敷みたいで帰りたくなった。


しかし、ここで引き返すのもかっこ悪い。


取りあえず身分を明かさずに中の様子だけ見て、すぐ帰ろう。


軋む床を踏んで、中に入る。


一番奥のテーブルの椅子に人が座っている。


上半身裸で、腹の出たあごひげの男だ。ぼさぼさの茶髪を後ろで無造作に括っている。


30代に見える。うちのバルドより少し上くらいか?


椅子に浅く腰かけてだらけた男は、昼間から木のジョッキで酒のような物を飲んでいる。


「なんだ、お前らは、客か?」


と入り口に立つ俺とモンマルに言う。


ガラの悪い男だ。


よく見ると頬や肩や二の腕に古い刀傷がある。


俺が黙っているとにこやかな様子でモンマルが俺の前に出た。


「今、やっているかい?」


「やっているように見えるか?まだ飯前だ。2時間後に出直してこい」


と言い、大あくびをする。こいつは起きてすぐ食事も食べずに酒を飲んでいるのか。


ダメ人間だ。ここにダメ人間が居る。


確かに休日の昼酒は一抹の罪悪感を感じつつ『うまい!』と唸る魔性の背徳感あるが、今日は平日だぞ。


毎日昼酒をのむのは本当のダメ人間だ。


しかし、ここで他人の私生活をとやかく言うつもりは無い。出直してこいと言われたが今日のところはとりあえず帰ろうかな。


と、及び腰の俺は上目使いにモンマルにアイコンタクトをする。


モンマルは『分かっていますよ』と言う顔で微笑んでうなずき、ごろつき昼酒男に向き直る。


「いや、そういうわけにはいかなくてな。ちと俺のご主人がお前さん方に話があるんだ」


アイコンタクト失敗でした。


この世界の人間に『言わなくても分かりますよね』は通用しないのだった。


言いたいことは口に出さないと伝わらないということ。


実は足ががくがくしている。


もう、怖くてあと一瞬でもここに居たくない。


俺の心の平和の為に、ガルゼイの性悪性格に切り替える。


享年35歳陰キャおやじの心を潜在意識の底に沈めて、強気のガルゼイに交代だ。


「俺は、この娼館の名義人のガルゼイ・リース・ヘーデンだ。今王都で俺の名前を知らないものは居ないだろう。お前のような下品で無学な下郎でも、聞いたことくらい有るんじゃないのか?」


ああ、ガルゼイに代わって失敗だった。


なんでこいつはいちいち誰にでも喧嘩を売るのだろうか。


ごろつきの顔色が変わった。


「そうか、お前はあの腰抜けバルドのガキか。名義人だと?ここの名義はあいつから俺たちが正式に買いとったものだ。証文もあるぞ」


「名義の買い取りや又貸しなど法律で認められていない」


と馬鹿を見下すように言う俺。


だから、もっと穏便に頼むよガルゼイ君。


「馬鹿、法律の話じゃねえ。傭兵の仁義の話だ。腰抜けバルドは俺たちを雇ったのに金を払えなかった。それで代わりに上物の女を10人ほど略奪してきて寄こしやがった。女は欲しかったが、奴隷に売り飛ばすにしてもすぐに金にならねーし、それだけじゃ食えねえと文句を言ったら、あの野郎、娼館の名義も渡すから勘弁してくれと泣きついてきたんで、仕方なく手を打ったんだ。だが、王都に来てみたらこんな場末のちんけな娼館でろくな客は来やがらねえし、女どもも最初の2,3年でコロコロ死にやがる。まったく割に合わねえ。あいつには責任とってもらわねーとな。それで、てめえらは何か手土産でも持って来たのか?何もないなら持ってる有り金置いていけ。あいつのガキなら、ちったあ金持ってるんだろ」


と口をゆがめ、舌なめずりをして笑う。


こいつはダメ人間の上に、寄生虫だ。


本当にこういう『ヒャッハー!』系の人間は嫌だ。


死ねばいいのに。


「お前のような低能に払う金は無い。金が欲しかったら、土下座して俺の靴を舐めろ。銅貨のの1枚くらいなら恵んでやるぞ」


と本意でない言葉が次々俺の口から出る。


はい、ガルゼイ退場。


もう陰キャおやじが出るしかない。


横でモンマルが肩を震わせて笑っている。


「ち、このガキは礼儀というもの知らねえな。あの腰抜けの子だから俺たちが手を出せねえと勘違いをしているようだな。ここで、てめえらを刻んで魚のエサにしてやってもいいんだぜ」


(できるならやってみろ、魚のエサになるのはどっちか試してみるか?)


と言いかけてぐっとこらえる。


はー、なんとか間に合った。


陰キャおやじが2アウトフルカウントから滑り込みセーフでした。


でも、そのせいでごろつきの睨みに足が震えて、何も言い返せなくなる。


そんな俺の代わりに、モンマルが口を開く。


「まあ、そう熱くなるなって。傭兵流の軽い挨拶じゃねえか。この程度のおふざけで腹を立てるなんて、ずいぶんお上品な王都の風に染まったもんだな」


「ちっ、死にたくなかったらそのクソガキをちゃんと教育しとけ」


と言い、ごろつきは木製ジョッキの酒を一気にあおる。


その時2階の階段をみしみし鳴らして、男たちが4人降りてきた。


皆、半裸のだらしない恰好をしている。中にひときわ体の大きい胸毛の男がいて口を開く。


「何だこいつらは、客か?」


「バルドのガキだ。ここの名義人とぬかしやがる」


「ほう、そりゃあいいな。ここの持ち主なら、俺らの給料を払ってもらわねえとな。とりあえず毎月、一人頭王国金貨100枚だ。全員で500枚きっちり払いな」


と言い、奥のテーブルの椅子に4人はかけた。


「そりゃあいい、どうせならここに来てから10何年か分の給金をまとめて払ってもらおうか」


と誰かがいい、皆で笑っている。


とことん腐った連中だ。


ただ、一つ気になるのはこの娼館にいるという娼婦たちのことだ。こんな連中が女性をまともに扱う訳はない。さぞ苦しい想いをしているのではないかと考え、胸が痛くなる。


これだけは聞いておかないと。


「それでこの娼館に連れてきた女性たちは今どうしている」


と勇気を振り絞って、声を上げた。


「そんなもんとっくの昔におっ死んだに決まってるだろが!」


とごろつきBが切れ気味に言う。


誰が誰だかいちいち描写するのが面倒なので体の大きいボスらしいやつを『ごろつきA』最初に飲んだくれていた男を『ごろつきB』その他を『ごろつきC、D、E』とする。


「おい、まだ一人いるじゃねえか。あのガキが」


「ああ、そうだったな。あのガキは拾いもんだったな。顔もいいし若くて丈夫で、飯を大して食わなくても、殴っても死なねえのが1番いいな。あいつの母親はそうそうにくたばったがな」


「でも、母親も割ともった方だろう?」


「ああ、3,4年は生きたっけな。母親が死んだときはあのガキがびーびー泣いてうっとおしかったから、3日ほどつるして置いたらやっと大人しくなったんだっけな」


「つるしただけじゃなくて、お前は毎日腹を殴ってたじゃねえか」


「うるせえから、いらねえと思ったが、あれで死なねえんだから、あのガキ大したもんだぜ」


「今となってはうちの稼ぎ頭だな。日に20人客を取って、俺ら全員の相手をしても壊れねえ」


「おーい!糞アマ!いつまで寝てるんだ!早く降りてきて飯を作りやがれ!」


とごろつきAが2階の階段に向かって怒鳴る。


こいつらの会話を聞いていて気分が悪くなった。


こいつらは正真正銘人間じゃあない。


こいつらの存在をこの世から抹消したい。


腹の底からドロドロした黒い感情が沸き上がってくる。


気持ちを落ち着かせっる為に何度か深呼吸をする。


そして、今の自分の精神構造を少しいじってみた。


前世の俺の理性を残したままでガルゼイの性格の一部を表層心理に浮かび上がらせる。


うーん、こうかな?


そのままレイヤーを重ねるように俺の元の性格の弱気な部分に上書きし、固定化する。


いいぞ、うまくいった。


全体を俯瞰してみる。冷静な自分のままで、恐怖心が消えた。


これならガルゼイに振り回されなくて済む。


この瞬間、俺は俺でもガルゼイでも無い、第三の別人格を手に入れた。


これで、問題なくこの場で『動ける』。


2階の階段を小さくきしらせて一人の少女が下りてきた。


少女は階段の中ほどで立ち止まる。


だぶだぶの寝間着のような貫頭衣を着て、左肩が斜めに露わにはだけている。


美しい銀髪で線の細い背の高い少女だ。


一見大人びて見えるが顔立ちを見ればまだかなり若いと分かる。


ナコねーちゃんと同い年か少し年上くらいか。


切れ長で形の良い涼し気な眼。


緑がかった宝石のような瞳でこちらを見下ろしている。


血が通っていないかのように肌が白い。


明らかに北方系の移民族の娘だ。


正直この世界に来てからこんな美人は見たことがない。


こんな場面だが、しばし魅了されたように、その容姿を見つめてしまった。


「何、もたもたしてんだ。早く飯を作りやがれ!俺たちを飢えさせ気か!」


とごろつきDが怒鳴る。


少女はびくりと身をすくませて恐る恐ると言った様子で口を開く。


「でも、もう、食材が何も無くて…」


「ああ?何を言ってやがる言い訳すんじゃねえ!」


とごろつきE。


いや、無い物は作れないだろ。こいつら自分が何言っているのか分かってる?


「買うお金も無くて…」


と少女。


「そんな物、いつものようにその辺で男でもひっかけて、工面しやがれ!」


とごろつきB。


「ああ、そういえばこいつらが居るじゃねえか」


とごろつきAが俺とモンマルに目を向ける。


「金はそいつらがたっぷり持ってる」


と言う。


その言葉に、少女が階段を降りてモンマルの前に小走りにやってくる。


ふとモンマルの方を伺うと表情が酷くこわばっている。


いつも余裕で飄々(ひょうひょう)とした態度のこの男が明らかに動揺した様子だ。


この少女の境遇にショックを受けているのだろうか。


人生経験豊富な中年男でもこういう場はあまり馴染みが無いのかと、多少の違和感を持つ。


「お客さん…、あとでたっぷりいい事しますから、先に少しだけお金をいただいていいですか?」


と上目使いでもじもじしながら、少女はモンマルに問う。


呆然としていたモンマルが我に返ったように、少女の顔をまじまじと見つめる。


少女はやはり背が高い。俺の頭一つ分上に顔がある。


小柄なモンマルより少し低いくらいだ。


「へっ、このおやじ、いい歳して、女を見たことがねえらしい」


とごろつきD。


「こいつら二人そろって童貞だろ!」


と言って皆でギャハハと笑う。


はいそうですよ。この世界の俺はまだ童貞ですよ。13歳なんだから当然だろ。


というか前世でも35歳で童貞でしたよ。エロ画像はネットで毎日見ていたけど、リアル女子には縁が無かったですよ。


で、それが何か?


それであなたに何か迷惑でも掛けましたか?


と心の中で反発した。


童貞を言い当てられて腹が立つ。


「似ている……。娘…名は何ていう?」


とモンマルが娘に問う。


「名前?名前ですか?…ミーファです」


と戸惑う少女。


「そうか…」


と頷くモンマル。


「母の名前は言えるか?」


「母は、ずいぶん前に亡くなりました。名はミーシャです」


「そうか…」


とモンマルは何かを噛みしめるように頷く。


そして、


「見つけた…」


と誰も聞こえないような小さな声でつぶやいた。


しかしその声を俺の耳が確かに聞き取っていた。


無意識に『遠耳』を発動していたようだ。


この瞬間、何かのフラグが立ったのが分かった。


波乱の予感がした。


モンマルは少女に優しい眼差しを向ける。


「辛かったな」


と言い、少女の肩に右手を置く。


「もう、大丈夫だからな」


と言い、ごろつき共に目線を向ける。


その目に怒りと強烈な決意の光が瞬いている。


モンマルがごろつき共に目線を据えたまま俺に話しかける。


「坊ちゃん、申し訳ありません。俺はヘーデン家の仕事を辞めます。ここから先、俺は俺の事情で動きます。危ないので坊ちゃんは今すぐ逃げてください」


と言う。


穏やかな声だ。落ち着いている。その落ち着き振りが不退転の決意を感じさせ、逆に怖かった。


「その娘、モンマルの知っている人間なのだろう?」


と尋ねる。


「はい、俺の義兄弟の娘です」


「そうか、それなら、俺にとっても無関係とは言えないな。俺の剣の師匠の義兄弟の娘と言えば、つまり、俺にとっても義理のいとこのようなものだろう。それなら、こんなクズ共の所に置いておくことは出来ないな。連れて行くぞ」


と何だか分からない苦しい理屈で、この娘を助ける理由をこじつけた


「坊ちゃん…」


とモンマルは意表を突かれた様子で俺の方を向く。


「辞めることは許さん。まだお前の二刀流を覚えていないからな」


「いいんですか?」


「この、ガルゼイ・リース・ヘーデンが言っている。これ以上訊くな」


「えっ、一体、どういう…」


状況が分からず少女がうろたえる。


「もう君は自由だということだよ。私が君を保護する」


と笑顔でその横顔に声をかける。


それからモンマルに問う。


「やれるのか?相手は5人だぞ」


「私を誰だと?」


と笑うモンマル。


「それなら任せたぞ」


「はい、すぐ済ませるので、この娘、ミーファを頼みます」


「ああ、分かった。君こちらへ」


とミーファという名の少女の手を引き入り口を背にして下がる。


そこから外に逃げることは選択しなかった。モンマルを信頼してここで待つべきだと思った。


ごろつき5人が無言で俺たちのやり取りを聞いている。


先ほどまでの粗暴な会話が嘘のように物静かな様子で、5人揃ってこちらに注視している。


その、変わりようが逆に不気味だった。


「つまり、このガキの身内か」


「それなら、生かして返せなくなったな」


「ああ、後で復讐に来られても厄介だ」


空気が冷え冷えと張りつめていく。


嵐の前の静けさのように、今この場で動こうとするものは誰も居なかった。

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