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22 ナコの独白1

なんだか何もかもがどうでも良くなった。もうエルはどこにも居ない。


エルがいなくなって、気持ちがぺしゃんこになった。


何も食べたくない。体がだるくて、頭も痛い。


手に変な腕輪をはめられてから、魔法が使えなくなった。


このまま死刑になるのかな。


そしたらエルに会えるかな。


あの時確かにエルの心を感じた。


エルは確かにあそこに居た。


今はもうエルを感じられない。


もう疲れたよ。殺すなら殺してくれていいよ。


もう何もかも嫌だよ。


あたしの人生なんでこんなにろくなことがないんだろう。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……


死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……


どいつもこいつもみんな死んでしまえ…


こんな世界なんて無くなってしまえ。


みんなクソ野郎だよ……


「おい」


隣の牢から男の声がする。


ゼスの声だ。


「……」


返事をする気にならない。


「何、一人でぶつぶつ言ってんだ。お前大丈夫か?」


気遣うような優しい声だ。


「大丈夫じゃないよ…あたしはもう駄目だよ…死にたいよ…」


いつもなら絶対に言わないような、弱気な言葉が口をつく。


「そうか…」


とだけゼスは言った。


ゼスの声も落ち込んでいた。


「俺がもう少し早く河原に行っていたら、良かったんだ。すまねえな…」


「……」


(そうだよ、なんでもっと早く来てくれなかったんだ、この、のろま野郎!)


と心の中で言う。口には出さない。そう思ってしまうことは止められないけど、それが八つ当たりだってことはあたしにも分かる。これは落ち込んでいるゼスに言っちゃいけない言葉だ。


「……」


「……」


そのまま無言になった。


ここは半地下の牢屋だ。天井近くの壁に小さな明り取りの窓があって、そこから光が差し込んでくる。


階段を下りてくる人の足音がする。


将校のような白い騎士服みたいな服を着た、白髪で高齢の男が下りてくる。


男はあたしの牢の前で立ち止まる。


「ふむ、お前があれか、火の魔術を使った娘か?」


「……」


「娘。お前にはいくつかの罪がある。聞くか?」


男の顔に目を向ける。たれ目であごが太い。


強そうな男だ。


笑ってやがる。


「どうでもいいよ、騎士様。それで、あたしを死刑にでもしようってのかい?」


「わしは、魔導師だ。騎士とは服が違うだろ」


言われてみると襟が高くて、服の裾も膝のあたりまである。


白い服は偉い人の色じゃなかったっけ。


白髪の男は胸の隠しから小さな紙切れを出して、目を細めて読んだ。


「えー、名は、ナコルン・ベッカ。海運のベッカ商会の娘か。半年ほど前に失踪して捜索願いが出ているな」


とあたしが一番隠したかったことを目の前の爺さんはずけずけと遠慮なく言う。


何もあたしは喋ってないのにどこで調べた。


カッと頭に血が上った。


「その名前は嫌いだ。あたしはただのナコだよ!追い出したのはあいつらなのに、なんで探してるんだよ!あたしの家はあのクソ共に乗っ取られたんだ。」


あの家のことを持ち出されて、苛ついた。


「そうか、それは気の毒にな。で、お前の第一の罪は、市中で人に向けて火の魔術を行使したことだ。二つ目は実際に人を殺しかけたこと。三つ目、実はこの三つ目の罪が一番重い。お前、シスルの球根を採取したな。お前の小屋でシスルの球根が見つかった。あれは貴重な植物なので見つけた者は政府に届け出る義務がある。勝手に掘り出して私物化した者には厳罰が与えられる。貴族の場合は罰金や爵位のはく奪などで済むが、平民の場合は通常死刑が言い渡される。今まではな」


あー、そうか…そんなことになってたんだ。


あたしもこれまでだね。


儲かると思っていい気になってたけど、最初から詰んでたんだ。しょせん、浅知恵だったんだ……、どこにも希望なんて無かったんだ…


「待ってくれ!」


隣の牢のゼスが口をはさむ。


「この子は多分そんなこと知らなかったんだろう?何とかならねーか。金なら俺がいくらか立て替えてもいい。この子を助けてやってくれ!」


「すまんが、庶民に払える金額ではないな」


「そんな……」


「いいよ、ゼス、出来損ないの馬鹿な孤児が一人死ぬだけさ。誰も気にしやしないよ」


「俺が気にするってんだよ!もうてめーは身内だ。身内は助けるって決めてんだ!」


白服の魔導士があたしたちのやり取りを聞いて面白そうににやけてやがる。


悪趣味な野郎だ。


「ふむ、お前ゼスと言うのか。元傭兵だな。いいぞ、なかなかいい男だ。気に入った」


「おい、ゼスは関係ないからちょっかい出すんじゃないよ。殺すならさっさとあたしを殺しな」


「まあ、待て待て。そうせっかちに死にたがる奴があるか。わしがここに来たのは何のためだと思う」


「知るか!貴族の気まぐれに付き合う気は無いよ。どうせあたしを魔獣とでも戦わせて見世物にでもする気だろ!」


「だから、そう噛みつくな。これはお前にとっていい話かもしれんぞ。とりあえず話を聞いてみんか?死ぬのはそれからで良かろう」


「言ってみな」


「ふむ、このわし相手に物怖じしないとはな。いいぞ。で、そのいい話だが、取りあえずわしと戦ってくれんかの。いや、戦うといっても模擬選だ。わしからは攻撃はしない。お前は全力で、わしを殺す気で攻撃してほしい。どんな卑怯な手を使っても構わんぞ。その結果によってはお前の罪を無かったことにしてやろう」


「やっぱり、見世物じゃないのかい」


「見るのはほんの数人だ。その数人を納得させれば。お前は助かる。簡単な話だろう」


「いいよ、やってやるよ。その代わり死んでも知らないからね」


「まあ、わしに一撃を入れろとまでは言わん。それは無理だろうからな。お前の技がわしの興味を引いたらお前の勝ちだ」


「待てっ!」


とゼスがまた口をはさむ。


「あんた、強いだろ。なら、2対1でも問題ないはずだ。俺も戦わせてくれ」


「うむ、だがお前は腕を怪我しているようだな。それでは戦えまい」


「この子の盾ぐらいにはなれるぜ、これでも戦場で10年間、大怪我をしないで戦い抜いたんだ」


「よし、それならうちの治癒魔導士に治療をさせよう。怪我人と戦っても面白くないからな、あ、いや、戦うというのは言葉の綾でわしから本当に攻撃しないぞ」


「その言葉信じさせてもらうぜ」


それから牢番が来てあたしの手錠を外した。


ゼスの左腕を美人の女が来て治しはじめた。髪の色がまばゆい金髪だ。魔導師服?…はすごくきれいな赤色だ。少しの時間ですぐに腕が治って、ゼスがびっくりしてる。美人なのに腕もいい。こんなすごい人間がいるところにはいるんだね。

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