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135 セシル貧困地区に行く

最近、セシルが貧困地区のスラムに出かけ、慈善活動をするようになってしまった。


それで、一人で行かせるわけにもいかないので、護衛として俺も付いていくことにした。

セシルにはジンパンチがあるので、本当は護衛など要らないのだが、あまりセシルの実力は他人に見せたくない。


また、それ以上に、貧困地区に行くのがセシルである事をなるべく気付かれないようにしたい。


なので、俺達は普段と少し違う格好をしていた。


セシルには大きな古着のフード付きの外套を着せた。


色はセシルの嫌いな、くすんだ灰色だ。


フードを深く被らせて、顔が見えないようにした。


英子が使っていた髪色を変える魔術具の指輪を渡して、赤髪に髪色を変えさせた。


俺も自分の髪色をくすんだ赤髪にしている。


雑巾代わりにされたミーファの布を後で回収して来て、マント代わりに身にまとっておいた。


口の周りに盗賊の様に布を巻きつけて、顔の下半分を隠す。


二人とも粗末な身なりに身をやつしていたが、雰囲気でこの地区の人間でないことはバレバレだった。


俺はファルカタを一本だけ左に腰に下げていた。


二刀だと、逆に馬鹿っぽく見えて、舐められると分かったのと、二刀の『戦場剣』をぶら下げている『馬鹿』はこの街に俺しか居ないので、正体が俺とバレてしまうからだ。


セシルが貧困地区の大通りを歩いていく。


ボロを着た大人の男が道の向うからふらついて歩いてきて、急にセシルの方に倒れ掛かって来た。


その男の目がギラついていたことを、俺は見逃さなかった。


「うらっ!」


俺は倒れて来る男の腹を蹴り上げた。


男は吹っ飛んで、道の端に転がった。


「ぐはっ!うげっ!」


男がのたうち回って、苦しむ。


「てめえ、今、この娘に何をしようとした⁉ぶっ殺すぞ、クソが!」


「ガイさん!乱暴ですよ!」


セシルが俺を咎める。


「この、クソは、スリか痴漢のどっちかだ。甘い顔をするな。それから、俺の名前は言っちゃ駄目だって」


「いきなり蹴るのはやり過ぎです!」


「セシルが怒って、男の側にしゃがみ、治癒魔法をかける」


「うっ、痛みが消えた。助かった」


男が自分の腹を撫でて、驚愕している。


「いえ、こんなの何でもありません。私の仲間がごめんなさいね」


と謝る。


男が俺の方を横目で伺う。


俺は細い目をさらに細めて、上から男を睨む。


手を腰のファルカタに沿えている。


セシルが男の手を取り、立たせる。


「ふんっ!」


憤慨して見せる俺。


俺は必要以上に強面な感じにしておいた。


そうしないと、クズ共に舐められて、どんどん付け込まれることになる。


セシルは純粋だから、騙されてうまく利用されてしまうかもしれない。


俺が横で目を光らせていることをアピールして、舐められないようにしておく。善意の人間を利用して食いつくしてやろうと、機会をうかがっているクズはいくらでもいる。そう言う人間が付け込む隙を与えてはいけない。


男は俺を見て、こそこそと離れて行った。


セシルがため息をついて俺を見る。


「駄目ですよ。ガイさん」


「ああ、分かってる。でも必要な事なんだ。ここでの俺は嫌な奴だ。悪役ってやつだ。それで、俺が誰かを怪我させたら、セシルが治してやってくれ」


「ガイさんにも、ここの人達と仲良くして欲しいんです」


「善意には、善意を返す。悪意には、悪意で迎え撃つしか無い。アスルが居ない間、セシルを俺が守らないといけないんだ。約束したからな」


「私、強いですよ」


「その力は使うな。秘密だ」


「何でですか?」


「何でもだ」


「とにかく、なるべき喧嘩はしないで下さいね」


「善処する」


「ぜんしょって何ですか?」


「がんばるってことだよ」


「がんばって下さいね」


それから、俺とセシルは、粗末な手作りの小屋の並ぶエリアに行って、一軒一軒こっそり覗いて回った。

中に病人や怪我人が居るようなら、声を掛けないで、入り口からそっと治癒魔法を飛ばして、すぐに立ち去る。


それを繰り返して、貧困地区を周る。


そのうち、辺りで人々のざわめく声が聞こえてきた。


住人の皆が、異変に気付き始めていた。


「そろそろ、行くぞ」


小声でセシルを促す。


「でもまだ…」


「騒ぎになり始めている」


セシルの腕を引いてその場を離れる。


道の脇の小屋から出てきた老婆が、涙を流して、セシルに手を合わせていた。


「聖女様」


どこからともなく声が上がる。


「ありがとうございます。聖女様」


「聖女様に感謝を」


人々のさざめきが広がって来る。


俺達は足早にその場を離れた。


「なんで正体を知られちゃいけないんですか?」


宿に帰ってから、セシルが質問してきた。


髪色は元に戻して、服もいつもの服に着替えていた。


「神殿に目をつけられる。この街には小さな神殿がいくつかあるだけだし、神官も地元の人間が『兼業神官』をやっているだけだから、この街の中では問題無いが、あまり噂が広がると、中央の神殿が動くかもしれない」


「中央が?なんでですか?」


「王族と上級貴族の健康を守るためだ。優れた治癒魔法使いは中央に囲いこまれて、指定された人間だけを治癒して、自分の意思では自由に生きられなくなる。今、中央には上級治癒師が何人かいるが、『聖女』の称号を受けた人間はその中に一人も居ない。

つまり、今の神殿には聖女が居ないんだ。今代の聖女が現れるという予言がされてから、もう十年以上にもなる。神殿の連中は現れているはずの『聖女』の情報を求めて、必死に探しているんだ」


「でも、その聖女様って……」


「英子だ。あいつが予言の聖女だ。でも、あいつはそれを隠して生きてきた。それで、実家の親兄弟からは虐げられていたみたいだがな。あいつの家は代々、治癒魔法が得意な家らしい。それで、聖女出現の預言があった時に、家族は英子に期待したみたいだ。でも、王族の妃になりたくなかったあいつは、能力を隠したんだ。それで、未だに聖女様は行方不明だ」


「エイコさんは、そんなに聖女になるのが嫌だったんですか?」


「それは少し違うな。あいつは『貴族』が嫌だったんだ。聖女とバレたら、あの世界に一生捕らわれることになる。あとは、王族の婚約者になるとシナリオの強制力で、処刑されるとか言ってたな。なんのシナリオか俺は知らないが」


「しなりおって何ですか?」


「ああ、悪い。古代エルフ語だ。まあ、とにかくろくなことにならないって話だ。今の英子を見てみろよ。毎日、飲んだくれて、旨い物を食べて、大笑いして、楽しそうだろ?あいつは籠の鳥にはなれないよ。そういう性格じゃない」


「でも、なんかもったいない気もしますね」


「貴族は楽をして生きていると、庶民には思われているのだろうが、そんなに楽な物じゃ無いぞ。生活は苦しくても、庶民の方が気楽だ」


「でも、貴族なら、飢え死にすることは無いですよね。村は、飢饉の年は死人が出ます。いつも明日のご飯の事を心配しています。小作さんは家が持てなくて、貧しいから、一生結婚もできません。自分の家があって、ご飯をちゃんと食べられるだけで、貴族は羨ましいです」


「ああ、そうだな。庶民が楽に生きているわけでは無いよな。俺の言い方が悪かった。不自由の質が違うだけで、どちらが気楽と言う話では無いよな。金持ちの庶民が、あくどい貴族に商売を乗っ取られたなんて話、いくらでもあるしな。うちの実家みたいに、高位貴族の後ろ盾がある武闘派の家なら誰も他が出せないけどな。セシルは貴族になりたいか?」


「ちょっと、憧れは有ります。でも、多分私はあまり貴族の事を知らないんだという事も分かります」


「貴族のボンボンと結婚すれば自動的に貴族になれるぞ」


「ガイさんは私に貴族と結婚して欲しいんですか?」


セシルが俺を睨む。


体の周囲に光のクリオネたちが集まって来る。


「いや、違う違う。誤解だ!俺も元貴族だし、その辺気になるのかなって話で……」


(って、何を言っているんだ俺は?これじゃあ、まるで求婚しているみたいじゃないか?)


「ああ、何と言うか。セシルがどうとかじゃなくて、一般論だ。一般論」


「いっぱんろんって何ですか?」


「それはな……」


と言いかけて横を見ると、柱の陰から英子が顔を縦半分の覗かせて、こちらの様子を伺っている。ニマニマとイヤらしい笑いを顔に浮かべている。


「おい、英子、どこから聞いていた?」


「貴族のボンボンの辺りからよ。迂闊だったわ。もっと早く気付いていたら良かった」


と顔半分で言う。


(前半は聞かれていなかったか。良かった)


「おい、その、顔半分はやめろ。こっちに来い」


「いえいえいえ、お邪魔しちゃ悪いから、ここでこうして見ているわ」


「そんなら、俺にも考えがある」


俺は別の柱の後ろに行き、顔半分で英子を見る。


「何やっているんですか?私もやりたい」


セシルも別の柱の後ろで顔半分になった。


そうして互いに見つめ合う。


「ねえ、私の真似しないで、恋バナしなさいよ。大好物なの」


「俺はお前の恋バナなんか聞きたくも無いぞ」


「あたしもあんたに、恋バナなんかしないわよ」


「なら、なぜ俺にそれを求める?」


「あんたじゃ無くてセシルちゃんに求めてるのよ」


「えっ?私ですか?」


「セシルちゃんがキュンキュンしているとその気持ちが、『精神感応』で伝わってくるの。甘酸っぱいわ。『蜂蜜ラーミ』より甘いわ」


「あっ!今もまだ私の心の声が聞こえるんですか⁉ヤダ!」


セシルが慌てる。


「ふっふふふ。だいぶ精神感応は弱くなってきたけど、まだ、キュンキュンは伝わるのよ」


「私、キュンキュンしてましたか?」


「ふっふふふ、どうかしら?」


「エイコさんは、意地悪です!」


「ふっふふふふ。セシルちゃんのその恥じらいが、私の明日の活力になるの。それだけで白パンが食べられるわ」


「おい、英子。最近お前、カディスさんにべったりじゃないか。相手は元とは言え王族だぞ。王族と結婚したら、処刑されるんじゃなかったのか?」


「愛はシナリオの強制力を越えるのよ。よく言うじゃない。『愛は無敵』って」


「それは盲目になって『バーサカー』状態になるだけで、実際に無敵なわけでは無いぞ。それに、カディスさんもあの歳で一人身なんだから、何かの事情があるんだろう。何か悲しい過去があるかもしれない」


「そこがいいんじゃないのよ。その人生の重さが、顔のしわに刻まれて、魅力になるんじゃない。分かってないわね。このお子様が」


「よくも前世三十五歳のおっさんにそれを言えたな。そう言うお前は、前世何歳だった。四十八くらいか?それなら俺をお子様と呼んでもいいぞ」


「ノーコメント。誘導尋問は証言として採用されません」


「お二人とも、難しい言葉をたくさん知っていますね。私はもっと勉強しないと、お二人の話について行けません」


セシルが顔半分でしょぼんとしている。


「あっ、大丈夫よセシルちゃん。私達の話は普通の人達には分からないから。気にしないでね」


顔半分で英子がフォローする。


串焼きを手にしてハルマが入り口から入って来る。


「三人で柱に隠れて何をしている?」


「お前もやってみろ」


「空いている柱が無いぞ」


「それなら何でもいいから使え」


「分かった」


ハルマは椅子の背もたれの陰に顔半分で隠れる。


「で、これは何だ。説明しろ」


「英子に訊け。やつがやり始めた」


「エイコ説明しろ」


「ふっふふふふ。乙女心がキュンキュンするのよ。心の栄養分なの」


「何だそれは?」


そこに奥の書斎からラシューさんが出てきた。


「おや、かくれんぼかな?相変わらず君たちは仲がいいね。いつも楽しそうだ」


ラシューが居間の定位置に腰を下ろして、眼鏡を外して、目頭を押さえる。


そこに、外からカディスさんが帰って来た。


「お、みんな、かくれんぼかな」


奥の長椅子にかけるカディスさん。


「役所に行ってきたんですか?」


とラシュー。


「ああ、領都から、伝令の役人が来ているので、情報収集をしてきた」


「何かありましたか?」


「うむ、なかなかきな臭くなってきた。戦争になるかもしれない」


「どことどこがですか?」


ラシューさんが眼鏡を掛けなおして、中指で押し上げる。


「ラグナ王国と、スーラ真正教国だ」


「それは……」


俺達はおふざけをやめて、カディスさんの周りに集まって話を聞いた。


「先日、奴らのオレク子爵領の拠点が潰されて、ヤマからの奴隷供給の目途が立たなくなったらしい。それで、スーラ真正教国は、ラグナの地方都市を襲って、小規模の街や村を略奪して周っているそうだ。右手に剣を持ち、左手に経典を掲げて、『邪教の家畜共を滅ぼせ』と叫んで襲って来るという話だ」


「なんでまたそんな、めちゃくちゃな事をやっているんだ?あいつら、勝算があってそんなことをやっているのかな?」


俺が関わっている事だけに、知らない顔は出来なかった。


「それにしても、スーラ真正教国は、ラグナと国境を接してないでしょう?なんで、兵を送れるんですか?」


とラシュー。


「ああ、スーラ真正教国の隣の、マガー王国が領内でスーラの兵を移動する許可を与えている」


「マガー王国はラグナと国境を接していますね。だが、今まで中立を保っていた弱小国がなんでまた?」


「最近、前の王が死んで、新しい王が立った。その王がスーラ真正教の教徒で親スーラ派と言う話だ。その王は残虐な人間で、反対派の貴族を粛清して、領地や財産を奪っているらしい」


「ラグナ側はどうしたんですか?」


「迎撃に騎士団を派遣しているが、敵は、少数精鋭で動きが早い。一つの街を滅ぼして、財産と人を略奪するとすぐに移動して、マガー領内に逃げ込むから、なかなか捕まえられないそうだ。それで、マガー王国に抗議して、対応を求めているが、返事は無いという」


「それを放置したら、国の権威が揺らぎますね。戦争は避けられないのでしょうか?」


「ああ。だが、一つ問題がある。北の蛮族との戦線が膠着している。北の防衛に慣れた強兵を動かすと、北の蛮族が好機と感じて、攻勢をかけて来る恐れがある。それで、東に送れる兵があまり居ない。

もし東に兵を送るなら、王都に駐留する魔法師団と、属領の傭兵や、犯罪奴隷達だろう。近衛騎士団は王都の守りで動かせない。マガー王国の兵は弱いし国内も安定していないから、ここをその兵力で突破するのはたやすいが、そこからスーラ真正教国まで遠征するとなると、戦線が長くなってしまって、補給が難しい。

今のマガー王国はほぼ敵国と考えていいから、この国の中での補給は協力が得られないと考えておいた方がいい。スーラ真正教国に攻め込んだはいいが、敵国の中で補給が絶たれて、孤立してしまう恐れがあるんだ」


「それが分かっていて連中は強気なんですね」


と俺。


「そうなると、後顧の憂いを断つためには、まずマガー王国を完全に滅ぼしてしまう必要が有る。もしくは現王を倒して、他の親ラグナ派の王を立てるかだ。しかし、それが分かっている現王は、自分に取って代わりそうな血族と実力者を、ことごとく粛清している。これでは、現王を倒した後の統治が困難で、情勢を安定させるまでは、スーラ真正教国に攻め込めない」


「ファルサス帝国の動向は?」


「全く動きが無い。それが不気味だ。スーラ真正教国に攻め込むなら、帝国に話をつける必要が有る。あの国は帝国の属国だからね」


「最悪、スーラ真正教国に攻め込んだら、帝国が参戦してくると?」


「ああ、それが帝国の狙いかもしれない」


「困った話ですね」


「全くだね」


「この領は西の果てだから、東の戦争には関係ないですよね」


「そうとも言えない。ヤマの兵は強い。傭兵を求められる可能性がある。先のラグナとの戦争でもヤマの兵は一度も負けたことが無い」


「それなら、なぜ属領に?」


「北の蛮族に戦線を押し込まれたラグナ側が、『和平』を求めてきた。当時のヤマ王国も、兵は強かったが、他国への街道を封鎖されて、兵糧攻めにされていて、困窮していたんだ。ヤマは辺境の小国だ。属領と言っても、自治は認められるし、面倒な義務はほとんどない。属領税を払う必要はあるが、その分、交易での関税が免除されているので、儲けも多い。

ラグナはここに置いている兵力を北に振り向けられる上に、属領税が入ってくる。うちは、無税の貿易で儲けられる。それでお互いの利害が一致して和平に合意した」


「しかし、貿易と言っても林業でそんなに儲けが?」


「ああ、うちの領では金が採れるのだよ。元々の戦争もそれが原因だ。こんな辺境の小国は簡単に攻め落とせるとラグナ側は思ったようだが、大きな誤算だったな」


「金は森で?」


「ああ、それは国家機密だ。いや、今は領機密か。森ソエリの職人集団が、秘密の場所で密かに金を採掘している。そして、普通の狩りの獲物に隠して、この街の集積所密かに金を持ち込み、それは他の荷物に紛れて、領都の精錬所に送られる」


英子が眉間にしわを寄せてむずかしい顔をしている。


「ねえ、カディスさん、それで、この街に影響は何かあるの?」


「分からない。今のところ大きな影響はないだろうな」


「そう、良かった」


ほっとした様子の英子。


セシルが自分のこめかみを拳骨でぐりぐりしている。


「話が難しすぎて、わけがわかりません。頭が痛くなりました。ハルマ君は分かった?」


「俺は……、ちょっとだけ分かった」


ハルマが見栄を張る。


「あのー」


入り口の扉が開いて、外の屋台で串を焼いているハランさんが、顔を覗かせた。


「なんだ、ハラン」


とラシューさん。


「ああ、串をたくさん買ってくれたお客さんが居るんだが、宿の中で食べさせて欲しいと言っているんだ。良いだろうか?」


「なんだ、いつもそう言うのは断っているだろう?」


「いや、旅の女性で、今日この街に着いたらしい。疲れているみたいなんで座らせてやりたいんだ」


「そうか、女性ならいいか。面倒は無いだろう」


「ああ、すまんな助かる。お嬢さんどうぞ」


ハランが言うとフードとマントの小柄な人影が中に入って来た。


中でフードを外す。


鮮やかな青い髪を、うなじの辺りで横にまっすぐ切り揃えている。


前髪も横にまっすぐぱっつんにしている。


目が吊り上がったきつい顔をしているが、凄い美人だ。


ハランさんが、肉焼き串を一杯に詰めた袋をその女性に手渡す。


「ありがとう。いい匂い。こんな辺境で王都の味に会えるなんて思わなかったわ」


その女性は植物の葉を編んだ袋を持って居間の中央に歩いて来る。


「どこでも好きな場所に座って下さい。お嬢さん」


とラシュー。


奥で糸繰りをしていたシルさんが立ち上がる。


「水は要るかしら?」


「ええ、欲しいわ」


シルさんが裏庭に水を汲みに出た。


「黒髪、でもエルフね……」


とラシューを見て、その青髪の女性が言う。


彼女は俺の方に目線を向ける。そして、俺の顔をじっと見つめる。


「黒髪、地味な顔……」


(なんだ、この女は。いきなり失礼だぞ)


「あなた…」


女が目を細める。


「あなた、ガルゼイ・リース・ヘーデンという人間を知っているかしら?」


不意に聞かされた自分の本名に、背筋に悪寒が走る。


自分の顔が強張るのを感じた。


思わず椅子から腰を浮かす。


瞬間、俺の体を取り囲むように、ツララの様な細い氷が、檻状に立ち上がっていた。


「今の反応。少し話を聞かせてもらえるかしら?」


感情を感じさせない、作り物のような無表情で、青髪の女は冷たくそう言い放った。

お話のストックが尽きました。

また、しばらくお休みです。

でわでわ。

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