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私はピエロ

作者: 雉白書屋

 私はサーカスのピエロです。いや、正確には『元』ピエロです。今ではただの失業者。サーカスのテントが閉じると同時に、私のキャリアも静かに幕を閉じたのです。私たちのサーカスは不景気の中でもそれなりにうまくやっていましたが、動物愛護と差別防止の名のもとに解散させられました。人々は景気が悪くなると弱者に大変優しくなるものですね。

 ライオンや象、熊などの動物たちは、今頃どこかの動物園で自由を満喫していることでしょう。可愛いバニーちゃんたちは、ビルの片隅にしゃがみ、パパの帰りを待っています。個性豊かな体の人たちは、無個性なパン工場などに押し込められているようです。美形や本当の意味で器用な人たちは、舞台を変えてもやっていけるようです。タレントや俳優になった彼らの口からは、サーカスのサの字も出ません。彼らはメイクだけでなく看板の塗り替えも得意だったようです。前歴を隠さない人もひとりいましたが、彼は社会評論家になり、難しい顔でテレビに出ていました。

 しかし、ピエロの私には行く場所がありません。職歴欄に『ピエロ』と書かれた中年男性をどこの会社が雇うというのでしょうか。

 遊園地でお客さんに風船と笑顔を配るのは、着ぐるみのキャラクターや制服を着た清涼感のある若者たちです。コンビニのバイトにも落ちました。人手不足というのは嘘だったのでしょうか。店長さんは『猫の手も借りたいとは言ったけど、本当に猫に来られてもね』と苦い顔をしていました。そして、残念なことに私は猫ほど可愛くありません。

 それでも『選ばなければ仕事はある』と言われるでしょう。ええ、確かにありました。しかしその仕事の業務内容の半分は、私の体と精神を壊すことでした。ある日、久しぶりに私の鼻は真っ赤になりました。けれど誰も笑ってはくれません。上司は人目のない場所で私を殴るからです。

 誇るべきか、残念がるべきか、どれだけ流してもピエロの血は抜けないようです。メイクを落とし、派手な服と大きな靴を脱ぎ捨てて、普通の服で街を歩いても、どこか滑稽に見えるのでしょうね。子供たちは指を差し、大人たちはクスクス笑うのです。彼らが言うには、私は『ヤバッ』『うわぁ』『キモ』だそうです。言葉って短いほうが強いんですかね。

 言葉と言えば、ある日、私は街で数名の男性たちに呼び止められました。カメラを持っており、どうやらテレビかネットの番組のようです。


『あなたのあだ名をお聞きしたいんですけど……』


 私は「ピエロです」と答えようとしましたが、彼は手で制しました。どうやらクイズをしているようです。


『あっ、言わないでください、当てますから……うーん、デブ! もしくはハゲ!』


 ピエロは三文字です。だからでしょうか、さらに短く強い言葉で私の肩書は塗り替えられてしまいました。


『歯は何本ありますか?』『職業は?』『漢字書けますか? はははっ、字が汚いですねぇ!』『彼女いますか?』


 またある日、私は街角で政治家の演説を見かけました。彼はかつて私が舞台で演じたキャラクター以上の大げさなジェスチャーで、私のジャグリングより手際よく空虚な約束を繰り返していました。

 滑稽に見えるのに誰も彼を笑いません。人々は気づかぬうちに彼らの政策によって声を奪われてしまったのでしょうか。それとも、滑稽に見えるのは私だけでしょうか。

 私は演説を終えた彼に近づき、手を伸ばしました。しかし、警備の人に遮られ、彼は私を一瞥してそのまま歩き去ろうとしました。

 私はその背中に向かって、「裏金!」「宗教!」「使途不明金!」と繰り返し叫びました。

 すると、警備の人に腹を殴られ、連行されてしまいました。「私は弱者の味方です!」と演説した彼は、この場で一番の弱者に手を差し伸べることはありませんでした。

 人々にせせら笑われ、頭の悪い私はようやく気づきました。私たちが生きるこの世界こそが、巨大なサーカスなのだということに。この世界は嘲笑に満ちていて、必要とされていたのはメイクをしていないピエロだったのです。そしてあのメイクは、この世界に蔓延している質の悪いウイルスから私を守るためのマスクでもあったのだと。

 私は再びピエロになりました。ただし、もうメイクはしません。心を偽り笑うのには必要ないからです。

 私は笑います。今日も明日も。この社会で。


 だって、笑うしかない。そう思いませんか?

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