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二人の耳に届く噂

2ーD(通称ダー組) 教室。髪の長い少女がクラスメートと談笑に耽っている。

 腐れ縁四人組のひとり、ミャコこと斉條さいじょう みやこである。



 「昨日のドラマ良かったよね」


「あ、うんうん、良かった良かった」


クラスメート達は昨日のドラマの話で盛り上がろうとしている。


 先程まではカレーに入れて良いもの悪いものについてというくだらなくも少し本気で考えてしまう話をしていたが、いきなり「あ、そういえば」のフレーズで突如ドラマの話に切り替わったところだ。


 「ん? 昨日なんか面白いドラマあったん?」


が、昨日はそのドラマを見ていないミャコは突然に話の輪から外れてしまった。


 「え、みやちんあれ観てないん?」


「ぶり感動だったよ昨日の回は!」




クラスメート達の話を察するにどうやら少し話題になっている高校生の甘酸っぱい恋模様を描いた恋愛ドラマの事のようだった。

 ミャコはその時はちょうど家族で裏番組のバラエティーを観ていたため、話に入っていけるはずもなく。


 「それ、観んかったなぁ。でも、その類いのドラマは私よう解らんからどっちにしろ観んかったと思うけど」


 ミャコは恋愛関係の話は苦手なほうだ。どうせ観るならアクション系かお笑い系のほうがミャコの好みだ。


 「あ~、みやちんは観とらんかぁ。苦手なんかいね? 恋的な内容は」


「ん~、お笑い要素とアクションが濃かったらもしかしたら観とったかもしれん。恋愛ものも完全スルーってわけじゃないけど」




やっぱ進んで観たいとは思わんよ。と、首を横に振った。


 「ま、苦手なもんはしゃあないね。あたしもホラー系は苦手やし」


友人の一人はそう言って理解してくれた。


 「んじゃ、何か他に面白い話でも――」


「ん~、そう言やさぁ」


話題を友人が変えようとした時、もう一人の友人が口に手を当てて、いま思いついた事を口にした。


 「みやちんて、浮いた話あんま聞かんよね?」



「浮いた話?」


唐突に来たその言葉にミャコは首を傾げた。

 浮いた話というのはつまり恋愛関係の噂みたいな話の事であろうことはミャコにも解っていたが、自分には遥か彼方の別次元の事柄だったので不思議な気分だった。


 「ああ、確かに聞かんよねそういう話は。みやちん可愛いけぇ、何か噂あってもええよね」


「か、可愛い? 私が?」


突拍子も無いことを言われた気分だった。そんなこと、言われたことが無い。


 「あ、ハハハ。からかわんでよ。私が可愛いてあり得んけぇ」


実際、ミャコは自分をがさつな方だと思っている。かずやロクと昔から遊んでいるせいか。趣味関係もほぼ少年趣味なものが多い。出来ることなら制服のスカートも履きたくないが仕方なく履いてきているのだ。最近はミャコの母親が私服にスカートを取り入れようと躍起になっているので、ミャコは帰ったら母との戦いの日々が続いているのだ。

 なので、自分が可愛いとは思ったことが無いのだ。ミャコが可愛いと思う人物像は身近だと幼なじみのゆなが一番近いと思う。

 「むぅ、みやちんは自分の可愛さに気づいてないよね」


「ま、みやちんらしいと言えばみやちんらしい」


話題を自分から変えてほしいが友人達は更に話題を掘り下げる気が凄くみられる。下手をすれば


ーみやちん改造計画ー


なんて、ミャコにとっては恐ろしげな計画が密かに企てそうだ。


 「や、だから私可愛く無いって! だってほら、女らしさの欠片も無いじゃん私!」


そんな計画を進められたらたまらないと、ミャコはやけくそ気味に否定した。



 女らしくない。特に女らしくなりたいとはミャコは思わないが、自分で言うと何だか悲しくなるのは不思議な気分だった。



 「・・・・みやちん、自分で女らしくないと思っとんの?」


「へ?」


やけくそ気味に言った「女らしくない」の発言に友人達は意外だと言ったかんじだった。ミャコにとってはその反応が意外なのだが。


「みやちんは充分に女の子らしいよね?」


「むしろ、みやちんが女の子じゃなかったらうちらなにもんよって感じ」


「わ、私のどこが女の子らしいの?」


みやちんは女の子らしいを連発する友人達に説明を求めた。


 「ん~、そやね~、まずは~」


友人達は面白がるようにミャコの髪を指差した。


 「その綺麗なロング。女の子じゃないとできない髪型だよね?」


「これは・・・・なんていうか、うん・・・・」

特にロングヘアーにしている事に、理由は無い。

 髪の手入れだって結構適当。シャンプーやリンスも母の買ってきた家族兼用品を使用している。


 「たまたまよ。うん、たまたま。これぐらいもしかしたら男でもやるかも解らんし」


「いやいや、昔のフォークシンガーとかじゃないんだから」

「やっぱ女の子のヘアースタイルよ。ロングは」


友人二人はうんうんと頷いた。


「で、でも、それだけでしょ? 私の女らしい所って?」


「「いやいやいや」」


今度はビシッと机の横に掛けてある鞄を指差された。


「そのキーホルダーは女の子趣味でしょ!」


指を指されたのは可愛らしい猫のキャラクターを模したキーホルダーだった。


 「や! これ、私の趣味じゃないし! かずがくれたもんだし、もったいないけぇ付けとるだけやもん!」


ミャコはササッと鞄を後ろに隠した。



「かず・・・・ああ、確かみやちんの幼なじみの」


「中村くんだね。そっかそか、中村くんからのプレゼントだったわけだねぇ」


なにやら友人達がやけに暖かい目でミャコを見つめてくる。これは明らかに勘違いをしている。


 「ちょ、ちょいちょい待って二人とも! 何よその目は! 勘違いせんといてよ! かずとは腐れ縁、友達、親友!」

「別に、あたしらなんも言っとりゃせんよ?」


「勘違いとはなんかねぇみやちん」


「グッ!」


なんだろうか、なんでこんなに追い詰められてるように感じるのだろうか?


ここで怒ってしまったらミャコはかずの事を好きなのだと思われてしまう。


 (違う、かずとはそんなん違うもん。かずの事は大事やけどそれはクロとゆなと同じ親友としての大事やもん)


「グウゥ・・・・」


なんとか二人の勘違いを訂正させようと考えるとミャコは低く唸って涙目で頭を抱えた。




 「ああ、みやちんごめん!」


「ごめん。うちら調子に乗りすぎた!」


涙目になって頭を抱えているミャコを見て友人達は、しまった調子に乗ったとミャコに謝りなだめた。


 「みやちん泣かないで」


「うちらもうなんも言わんから」


「別に・・・・泣いとらん!」


ミャコは二人に見えないようにクシッと涙目を指で拭き、強い口調で正面を向いた。


 「・・・・みやちん」


実のところミャコが涙を拭っている姿は二人には丸見えだったのだが、二人はその事を口にしない。 理由は簡単。

 二人の知るミャコの女の子らしいところ、可愛いところの最高峰がこの時折見せる姿なのだと知っているからだ、二人はそんなミャコの仕種が一番可愛くて大好きだから黙っている。


 二人にとって、本人が否定してもミャコは可愛い女の子なのだ。

 それゆえにミャコには幸せになって貰いたいと本気で考えて、お節介ながらもそういった話題に誘導して聞き出そうとも思うのだ。

 ミャコにとってはいい迷惑だと思われるが


「ん、よし、話を変えよ」


ミャコも二人を本気で怒ろうとは思わない。自分の事を考えての事だと解っているから。


 ただ


(私が可愛いとか、かずの事を勘ぐったりの勘違いがちょっと激しいは)


フゥとため息を吐いたそんなとき、男子達が大きな声で何かを話しているのが聞こえた。


 「知ってっか? 2ーBの中村くんのお話」


(2ーBの中村って、かずじゃん?)


それはかずに対しての噂話。腐れ縁の親友の話となれば自然に耳はそちらに集中してしまう。


 男子達の話は続く

「ああ、知っとる知っとる。あれやろ? 転校生にクラス全員の前で告白したってやつ」


「!!?」


それは、信じられない話だった。


 (告白? かずが? は、ありえん噂話)


ただの噂話だ。気にしない。だいたいかずが告白してなんなんよ? つか、なんなんこのザワザワした感じは。



かずの告白の噂はミャコの心をわけもわからず同様させ、急激にイライラが襲ってきた。

 



 (かず・・・・なんなんよ、ほんま!!)



同じ頃の1ーA 教室




「ん~、むにぃ」


「ちゃん・・・・ゆなちゃん」


「むぅん・・・・だれ?」


「もう休み時間」


「え!?」


その一言で少女は飛び起きた。

辺りを見渡すと、友達が少女の様子を伺うように机の前に座り込んでいた。


 「ま、また、やっちゃったよ!!」


絶叫する少女の名は相沢あいざわ 優菜ゆうな腐れ縁幼なじみ四人の妹的存在。トレードマークはくせ毛の強いショートヘアー。


 「ね、ねぇ、じゅんじゅ? 先生怒っとったかな?」


顔を近づけて恐る恐る聞くと、じゅんじゅと呼ばれた眼鏡の友達は困ったように上を見上げてから苦笑まじりに


「どっちかと言うと呆れとったのかな? 今日は先生なんもいわんと授業終わらしたから」


と、言った。


 「んもう! 英語か数学じゃなかったら絶対に寝とらんのにいぃっ!!」


またも絶叫し、頭を掻きながらゆなは机の上に突っ伏した。




「まぁまぁ、後でノート見してあげるけぇ」


そう言ってじゅんじゅはゆなの頭をポフポフと優しく撫でた。


 「うん、ありがとじゅんじゅ」


じゅんじゅのおかげでゆなの沈んだ気持ちは幾分和らいだ。


 「ん? お礼はいらんいらん、うちら友達やん。たすけあいたすけあい」


じゅんじゅは口の両端を上げてニンマリと優しく笑った。


 「過ぎた事は気にせんでいこ! 後悔よりも笑って進め!」


「うん、うち、笑って進む!」


「よし、そのいきそのいき!」


「「オー!!」」


二人とも両手を上げて大声で激を入れた。 そして、どちらともなく吹き出して大笑いした。



 ゆなとじゅんじゅこと桜木さくらぎ 淳樹じゅんきは中学に入ってから知り合ったので実はまだ友達としては日が浅い。

 だが、何かと二人ともうまがあった。

初めてじゅんじゅを見たゆなの第一印象は凄く大人しい子だなと思ったが、いざ話してみると底抜けにじゅんじゅは明るく


「うちの名前って男の子みたいで変わってるでしょ」


と、笑って自分の名前をノートに書いた。


 「わ! この字、にいと一緒! カッコイイ!!」


隣近所で親同士も仲が良い腐れ縁の幼なじみ中村なかむら 一樹かずきと同じ樹の字を見て一気に親近感が湧き、明るさも相まってすぐに彼女の事が大好きになった。




 「じゅんじゅって呼んで良い?」


と言うと


「んん! なんかそれぶち可愛くない? ぜひそう呼んで!」


と、笑って了承しとても喜んでくれた。


 「じゃ、うちはゆなちゃんと呼ぼうかな?」


「うん、にい達もそう呼んでくれるから、オッケー!」


グッと親指を起ててゆなも了承した。




 そうしてゆなの大好きの中にじゅんじゅも仲間入りを果たした。





「はぁ、なんか元気になったらお腹空いたなぁ」



気が抜けると急にゆなのお腹がグルグルと鳴ってしまった。


 「あとちょっとで給食だからそれまで頑張ろう。今日のメインはカレーライスだったよね確か」


「は! そうだ、今日カレーだ! よし、山盛りにおかわりする!」


カレーライスに興奮するゆなを見てじゅんじゅは大きな声で笑い


「この前は、チャンポンで大興奮だったね」


それを思い出してまた笑った。

 「チャンポンかぁ。うん、あれも山盛り食べたなぁ」


思い出すと自然と腹の高鳴りが今のゆなには押さえられなくなりそうだった。


 「ああ、凄くチャンポンも食べたくなった。今度にい達と行くラーメン屋さんにチャンポンあるかなぁ?」


「ん? 先輩方とラーメン食べに行く約束してるん?」



ゆなが何気なく言ったかず達とラーメン屋に行く話にじゅんじゅは少し興味をしめしたようだ。


 「うん! にいと、ミャコちゃんと、クロちゃんと久しぶりに! あ、そうだ。じゅんじゅも良かったら一緒にいかん? 今度の日曜なんだけど!」


それを見たゆなは身を乗り出してじゅんじゅを誘った。

 みんなにじゅんじゅを改めて紹介するのにちょうどいいと思ったからだ。言葉ではかず達に


「友達できた!」


言っていたがまだ本人同士を会わしたことが一度もなかった。みんな大切な友達なのにお互いに紹介してないなんておかしな話だとゆなは最近思い始めていた。 かず達にも


「今度合わせぇや」


「待っとるよ」


と言われていた。その際、クロだけ淡白な反応で


「ふーん」


と言っただけ。ゆなは凄くムカッときたので脛を思いっきり蹴ってやったのだった。

 と、約一名を除いてじゅんじゅ本人と会うのを楽しみにしてくれていたが、今まで紹介する事が都合が合わずできなかった。


 だから本当にこの機会にとゆなは思ったし、なによりじゅんじゅも一緒だと更に楽しいはずだ。


 きっとじゅんじゅも良い返事をしてくれるはずだ。


 「うーん・・・・」


だが、じゅんじゅは少し困った顔をした。


 「それって、やっぱり杉田先輩来るん?」


「え? うん、クロちゃんももちろん一緒だけど?」


予想外に、じゅんじゅの反応は良いものでは無かった。

 なにかクロの事を気にしているようにも見える。


 (なんやろ? じゅんじゅクロちゃんのこと嫌いなんかな?)


ゆなは首を傾げた。 じゅんじゅはクロちゃんと会ったことあるのかな? この反応をみるとクロを知ってるのは間違いなさそうだ。


 (ま、クロちゃん。黒くて大きいから目立つもんね)


ゆなは自分なりの解釈で納得し、じゅんじゅのいい返事を待った。

 じゅんじゅはポリポリと頬を掻いて少し悩んだあと


「ごめんゆなちゃん。うちは遠慮しとく。日曜はちょっと忙しい・・・・かも」


ちょっと申し訳なさそうにラーメン屋の誘いを断った。


 「そっか、うん、残念だな」


断られたのは少し寂しかったが、忙しいのなら仕方ないと割りきった。

 しかし、ちょっと気になる事は聞いておこうと思って聞いた。


 「じゅんじゅ? もしかしてクロちゃん知っとる?」


「え!? あ~、うん。ちょっとね」


聞いてみるとじゅんじゅは一瞬言いよどんで、実は知ってると答えた。


 (なんで驚いたんかな? 知っとるならいつもみたいに笑って知っとる言えばええのに・・・・)


なにかクロちゃんにじゅんじゅは良い印象を持ってないのかも知れない。なにか初対面で誤解されるようなことをクロちゃんは無意識にしたのかも知れない。

 

 「じゅんじゅ、ちょっと言っときたいんやけど」


「ん? なに?」


誤解はしっかり解いておいたほう良いと思い、ゆなが言おうとしたとき、聞き逃せない話が耳を擽った。それは、クラスメートの男子達の雑談の話題になっていた。


 「すげぇな、二年の中村先輩。いきなり転校生に告白かよ」


「普通はできんべ? 大勢の前でなんて」


「おお、尊敬もんだ」


男子達の噂話に言葉が詰まった。


「・・・・・・・・??」


「ゆなちゃん?」


(二年の中村って、にいの事だよね?)


「どうした、ゆなちゃん?」


急に黙り込んだゆなに、じゅんじゅは心配して声を掛けて優しく体を揺らす。


「ん? あ~、うん。」


今度はゆなが言いよどんでしまった。ゆなは凄く動揺していた、にいがそんな事をするなんて信じられないと。


 「ごめんじゅんじゅ。今の話男子から詳しく聞いてくる!」


「ん? 今の話って? あ、ゆなちゃん!」


言うやいなやゆなはガタリと席をを立って男子達に近づいて


「それ、もうちょっと詳しく聞かせてくれん?」


身を乗り出して男子の会話の中に入っていった。



 (にい・・・・なんかあったんかな? 意味ないことはせんはずよね? にいは)



こうして、若干脚色された噂話は二人の幼なじみ達の耳に届いた。

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