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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード3 辺境の町
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辺境の町と魔術師 その1

 夜。大地を照らす光の源である太陽が姿を隠し闇が支配する時間。かつて地球の人類は、かがり火や電灯といった光源を使いそれを克服してきた。


 地球同様に夜は闇が支配するこの世界。地球とは違い電灯こそ無いものの、かがり火や魔法の光を使い人類はそれを克服した。


 現在、都市や都市同士を結ぶ街道沿いの町では闇を照らす街灯が灯り、眠らない街とまでは行かないが、日没後もそれなりの賑わいを見せている。


 だが、人類は完全に闇を克服したわけではない。


 いわゆる村と呼ばれる集落や、辺境と呼ばれる場所にある町などの人口の少ないところでは街灯を灯す事が難しく、その多くは日没と共に闇に支配されていた。


 大陸の街灯は基本的に魔術師や秘術師が使う物質に光を付与する『ライト(魔術、秘術共に同名)』という魔法を使う。かがり火や魔法道具をあまり使わないのは、単純に防災面とコストの問題からだ。


 ライトという魔法、魔術だと黄色い光、秘術だと白色の光と色の違いはあるが他にほとんど差はなく、誰が使っても光量はほぼ同じで6時間程度発光し続ける。


 この魔法は魔術、秘術共に初級の魔法であり、わずかでもその才能があれば誰でも使える簡単な魔法だ。


 魔術や秘術の才能は先天性のものであり、その才能を持って生まれなければ使う事ができない。そしてその数は決して多いとは言えないのだが、村や辺境の町で生まれる事も当然ある。


 だがそういう者が生まれても、故郷に留まり続けるという事は非常にまれだ。なぜなら都市や街道沿いの町などで需要があり、村や辺境に留まるよりも仕事があるからである。


 しかも才能を生かした仕事をすれば村や辺境の町で働くよりも楽で稼ぎも良い。となればむしろ留まる方がおかしいとさえ言えるだろう。


 そういう事情もあって村や辺境の町には魔術師や秘術師がいない事が多い。


 となると街灯を灯すにはかがり火や魔法道具を使うという事になるのだが――火は番をする者が居なければ危険だし、魔法道具は高価で盗難の被害が出る可能性が高いだけでなく、燃費も良いとは言えないのでランニングコストも高い。


 結局そこまでして街灯を灯すほどの意味を見出せないため、村や辺境の町の夜は闇の支配を受け入れている。




 辺境の町スバルク。小都市ベルドガルトと辺境の村々を繋ぐこの町も、以前は多くの辺境の町同様に夜は闇の支配を受けていた。


 だが、一人の年老いた魔術師がこの町に住み着いた事で状況は一変する。彼が街灯を灯す仕事を請け負ったため、この町の夜は闇の支配から解放されたのだ。


 こうしてスバルクの夜は発展していったのだが、その魔術師がこの世を去ったため状況は再び一変してしまう。


 一度、街灯によって闇から解放された町の夜を急に元には戻せない。


 仕方なく町はかがり火を焚きそれで夜の町を照らす事になった。だが、このままではコストもかかるし危険でもある。


 幸いこの町は小都市と交流があるので、町長はそのつてを使い町に魔術師を誘致する事にした。


 とはいえ所詮は辺境の町。財政的にも厳しいため、あまり好条件は出せない。そのため誘致は難航したのだが――誘致開始から数ヶ月、ようやく来ても良いと言う魔術師が見つかった。


 その魔術師、以前はベルドガルトで契約した飲食店に水や明かりを提供する仕事をしていたが、半年ほど前に妻に先立たれてからは意気消沈し仕事もやめてふさぎこんでいたという。


 だが、ずっと仕事をしないわけにもいかず、環境を変えるのも悪くないとスバルクに行く事を決めた。


 彼はスバルクに行くにあたり条件を出している。給料は安くても良いが、食事と住居を提供して欲しいというものだ。


 幸い町長の家は大きく空き部屋もあり、使用人なども居るため食事が一人分増えたところでたいした負担でもない。なので町長が家の部屋を一つ住居として貸し、食事も提供するという条件でその魔術師を雇う事が決まる。


 そして今、町は新しい魔術師がやってくるのを心待ちにしていた。





 大都市であるマギナベルクとは比ぶべくもないが――辺境とはいえ、ここはちゃんと『町』をしているな。数日の旅を経て昼過ぎにスバルクに到着したシャルルは、町の景色を見てそう思った。


 ここには木製であまり背は高くないものの壁があり、町の出入り口にはちゃんと門番もいる。そして都市のような審査は無いが、町にきた理由を聞くなど一応の確認をしていた。


 町の中はざっくりとだが区画で分けられているらしく、門から真っ直ぐの道は商店街に続き、途中にある別れた道の先には住宅街らしきものが見える。


 ここまで連れて来てくれたゾフの村人たちと別れたシャルルたちは、門から真っ直ぐの道を進み商店街を歩いていた。


「ねーねー、しゃるー」


「ん? どうした?」


 シャルルはローブを引っ張るステラを見る。すると彼女は嬉しそうに笑いながら言った。


「じゅーす! じゅーす!」


「ああ……」


 シャルルはゾフで、町に行ったらジュースを買ってやるという約束をした事を思い出す。


「お昼ご飯のあとにな」


「やったー!」


「いいなぁ……」


 ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶステラを見てシルフィがつぶやく。


 そんな彼女を見てシャルルは思う。そういえば、こいつには何も与えてないな。


 まあ、食事を取らないんだから仕方ないが……そこまで考えて、ふとシャルルはニーナがレティに魔石を与えていた事を思い出す。


 こいつってほとんどエレメンタルと一緒だし、魔石をあげたら喜ぶかも知れん。試してみるか。


 そしてシャルルは昼食の前に雑貨屋に行き、魔石をいくつか購入してその一つをシルフィに与えてみた。

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