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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード2 水源に棲む獣
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水源の獣 その2

 トーマスの案内でシャルルたちは歩く。彼らは村を適当に囲う柵を越え、村の外まで広がる畑を抜け、そして村外れの池がある林に向った。


 歩きながらシャルルはトーマスに聞く。


「水の獣ってのはどんな奴なんだ?」


「そうですね……私が知る限りでは――」


 トーマスの話によると獣が出現したのは約一ヶ月前。第一発見者は彼自身で、水を飲ませていた馬が襲われたのが最初らしい。


 獣は池から突然現れ巨大な口で馬に噛み付くと、瞬く間に池に引きずり込んでしまったんだそうだ。


 彼はすぐさま村長であるマルティンに報告して村人に周知した。そのおかげもあり今のところ村の被害はそれだけなのだとトーマスは言う。


 その後も獣は何度か目撃されていて、池で泳いだり野生動物を襲う姿が目撃されているらしい。


「なるほど……噛み付く獣か」


 シャルルは水の獣と言うから水棲馬ケルピーみたいなのを想像していたが、トーマスの話からそういう感じではなさそうだなと思う。となると多頭水蛇ヒュドラみたいな感じだろうか? そんな事を考えているうちにシャルルたちは目的地に到着する。


「この池です」


「ここが水の獣が出る池か」


 林に囲まれたその池は、水はきれいでそこそこ澄んでいるが深いのか底の方までは見えない。池としてはなかなかの大きさがあり、小さなこの村の水源としては十分だろう。


 シャルルは気配を探ってみるが、近くにいないのか水の中だからなのか、それとも気配を殺しているからなのか、それらしき気配はまったく感じられなかった。


「シルフィ、獣の気配を探れ」


「はーい」


 シャルルの頭から飛び立つとシルフィは周辺を飛び始める。そして戻ってくると言った。


「ごしゅじんさまー。おっきなのはこのへんにいないよ」


「水の中もか?」


「ごめんなさい、空気が無いとこはわからないの」


「……そうなのか」


 まあ、風の精霊だしな……シャルルは頷きつつ、どうしたものかと考える。


 シルフィやシャルルの感知能力が通用しないとなると見つけるのは困難だ。


 池のほとりで考え込むシャルルにトーマスは言う。


「ここは危険です。離れて様子を見ましょう」


「ああ、それもそうだな」


 突然現れ噛みついてくる獣だ。気配を感じないとなると対処も容易ではない。


 無論シャルルだけならなんとでもなるが、ステラもいるのだから離れておいた方が良いだろう。


 そしてシャルルたちは池から離れしばらく待ってみたのだが、その後も一向に状況は変わらなかった。


 待っている間シャルルが再びトーマスに獣の事を聞くと、一つ重要な事が判明する。それは獣をはっきりと見たという証言は、必ず捕食の瞬間だという事だ。


 逆を言えば捕食の瞬間以外、ほぼ池から出ないと考えられる。つまりエサがなければ姿をはっきり見る事ができないという事だ。


 エサ……か。まるで釣りだな。


 そんな事を考えたシャルルは、ゲームでシルフィの育成をしていたときの事を思い出す。


 シャルルは――いや、課金ペットを育成していたプレイヤーは、ペットの育成時に敵を一回攻撃させてから呼び戻し、それについてきた一匹だけを倒させる釣りと呼ばれる戦法を使っていた。


 これはプレイヤーとは違い、ペットは自身が敵に与えたダメージの分だけ経験値を得るという仕様だったためだ。


 だからこれは安全な場所でペットを敵と一対一で戦わせるための戦法なのだが、プレイヤーが強い敵を倒すときも囲まれないようにペットをエサとして敵を釣り、一匹ずつ倒すという戦法にも使われていた。


 そうか。釣りを使えば水の獣も……シャルルは一瞬そう考えるが首を振る。


 確かに課金ペットである精霊は一瞬でエレメンタルリングに戻せるので、釣りに失敗しても死ぬ前に戻せば良い。


 だが、それは敵の強さを知っていて、精霊がどれくらい耐えられるかも知っていればの話。初見の敵だと戻すのに失敗して精霊が死んでしまう事もある。


 ゲームなら死んでもレベルが下がるだけなので、NPCに金を払って復活させれば良かった。しかし、この世界にそんなNPCが居るとは思えない。死んだらたぶんそれまでだ。


 変な事を考えて悪かったな……そんな思いを込めてシャルルはシルフィの頭を優しくなでる。


「ごしゅじんさま?」


 急になでられシルフィは不思議そうに首をかしげたが、すぐに嬉しそうに笑う。


 それを見てステラはシャルルの胸に頭を押し付けながら言った。


「しるふぃだけずるい! すてらもー」


「はいはい」


「えへへ」


 シャルルが空いているもう片方の手でステラをなでると、彼女も嬉しそうに笑った。




 シャルルたちは池から少し離れた場所でひたすら獣が現れるのを待つ。だがそこに現れたのは水を汲みに来た村人や、池に水を飲みに来た動物だけだった。


 シャルルは村人を池に近づけないようにと頼んだが、それは出発のときであったため知らなかった村人が来てしまうらしい。


 村人の対応はトーマスに任せ状況を説明して帰ってもらうのだが、中には帰らずシャルルに絡んで水を要求する者もいた。池で汲むのを止めるなら、責任を取ってお前が出せというのが彼らの理屈だ。


 シャルルはそれに対し『金を払え』とか『帰らないなら明日の給水はお前のせいで全員有料にする』と言って対応する。それでもごねる者もいたのだが、『本当に有料が良いのか?』と言ったら帰っていった。


 もちろん中には『お前が水を出さないなら、やはり池で汲んで行く』と言う者もいる。それで襲われても自己責任であり、シャルルに助ける義務など無いのだが、本当に目の前で襲われてはステラもショックを受けるだろうし寝覚めも悪い。


 そこで『獣が出ても助けない』とか『獣をおびき寄せるエサに志願してくれるのか?』といった感じでシャルルは脅した。


 昨日までは汲んでいたのだから気にせず汲めそうな気もするのだが、改めて言われると二の足を踏んでしまうのだろう。結局、実際に水を汲む者は一人もいなかった。


 その後しばらく経ち、シャルルたちが昼食を終える頃になると村人はまったく来なくなる。マルティンの告知や池に来て無駄足に終わった村人から噂が広まったりしたのだろう。


 おかげでようやくシャルルたちは獣に集中できるようになったのだが、結局そのあとも獣は出現しなかった。

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