表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード2 水源に棲む獣
92/227

魔法で給水 その2

 シャルルはローブの下にかけていたポシェット型のバインダーホルダーを外しステラにかける。本来これはステラのものなのだが、勝手に魔術を使わないようにシャルルが預かっているものだ。


「いいの!?」


「ああ、頼む」


「やったー」


 久しぶりに魔法を使う許可を得たからか、それともシャルルを手伝えるのが嬉しいのか、ステラは満面の笑みを浮かべるとシャルルと一緒に楽しそうに水を出す。


「まあ、こんな小さな子が……」


「ありがとねぇ」


「すげー、かっこいい!」


「えへへ」


 小さな子が魔術で水を出すのを見て村人たちは驚いたり褒めたりする。それをうらやましがってかシルフィも手伝いを申し出た。


「ごしゅじんさま~、わたしも何かおてつだいしたいです~」


「お前は水とか出せないだろ」


「すてらとしゃるーだけー」


「う~」


 シルフィは悔しがり、ステラは得意げに胸を張る。だが、すぐにステラも水を出せなくなった。


「あ、でない。しゃるー、おみずでないよ?」


「ん? あ……マナの枯渇か」


 シャルルはソフィの言っていた事を思い出す。『一日で樽一杯』これくらい出せるまでは水を出す修行をしたという話だ。


 つまりある程度修行をしてやっとその程度という事で、たいした修行をしてないステラでは一日樽一杯も出せるはずがない。となるとステラはあてにならないし、このペースでは今日中に絶対終わらないだろう。


「しゃるー……」


「手伝ってくれてありがとな」


 水が出せなくなりしょんぼりしてしまったステラをなでながら、どうしたものかとシャルルは考える。だが、考えている間も給水は続く。


「おねがいしまーす」


「はいはい……あれ?」


 順番が来て大きな水瓶を置いた子供を見て、シャルルは少し違和感を覚える。


「どーかしました?」


「いや……」


 なんかこの子見覚えがあるような……気になったシャルルは記憶を探った。


 シャルルがこの村に来たのは昨日の夕方。昨日は村長宅に案内してくれた村人と村長夫婦にしか会ってない。したがってこの子供に会ったのは今日が初めてという事になるのだが――にもかかわらず見覚えがある。


 今日会った人は水瓶を差し出してきた人だけ。つまりシャルルは最低でも一回、この子供が持ってきた水瓶に水を入れた事があるという事になる。


 それに気づくとシャルルは更に気づく。列に並んでいる人の中に見覚えがある人が何人もいる事に。


 今この村は水不足。となれば機会があれば可能な限り水を貯めておこうと考えるのは当然の事。なのでシャルルに彼らの行為を責める気は無い。


 とはいえこのままでは永遠に終わらないし、場合によっては水を入手できない者が現れる可能性だってある。


 あと、めんどくさい。


 何か対策が必要だな。そう思ったシャルルは列の整理をしていたマルティンに言う。


「村長、このままじゃ永遠に終わらん。何かしら、例えば水瓶の大きさや一家族辺りの給水量などの制限をしてくれ」


「うむ。言われてみれば確かにそうじゃな。わかった」


 マルティンは頷き数人の村人と話し始める。そしてどこまで守られているのかはわからないが、家族一人につき中くらいの水瓶(5リットル程度)という制限がかけられる事になった。




 マナが減っても腹は減らない(マナイーターを除く)が、マナが減らなくても腹は減る。昼になったので給水は休止して、シャルルは昼食のための休憩を取る事にした。


 この村は麦が主食なのだろう。クレールが麦で作ったおにぎりを盆に載せて持ってくる。


「はい、どうぞ」


「あ、どうも」


「いっただっきまーす」


 ステラが早速それに手を伸ばそうとするが――その手をシャルルがつかむ。


「ほら、ステラ。ご飯の前は?」


 シャルルの言葉にステラは一瞬首をかしげ、それから嬉しそうに言った。


「てをあらうー!」


「そうだ」


 そしてステラはシャルルが出した水に手を出すと、両手を開いたまま不器用に手を洗う。続いてシャルルも手を洗い、そばに浮いていたシルフィに言った。


「風を頼む。温かい奴な」


「はーい」


 シャルルは風を出すシルフィの前に手を出しもみながら乾かす。


 ステラも手を風にあてているが特に何もしない。


「ほら、手をもみもみしながら乾かすんだ」


「もみもみ?」


 ステラは首をかしげ、どうやっていいかわからないという感じで不器用に手をこする。


「そうじゃなくてこういう感じにだな……」


 シャルルはステラの手を自分の手で包んでもむ。すると彼女は気持ちよさそうに目を細め、そして嬉しそうに笑った。


 手が乾き、改めて『いただきます』の挨拶をしてから二人はクレールが持ってきてくれたおにぎりに手を伸ばす。そしてそれを食べていると、近づいてきた若い男性がシルフィを見て言った。


「その子、風のエレメンタルですよね?」


「ん? まあ……そうだな」


 シャルルは心の中で正確には違うのかもしれないが――と付け足す。


「風のエレメンタルってたまに見かけるんですけど、やっぱり他のエレメンタルより多いんですか?」


「さあ、どうだろう? ところで君は風のエレメンタルをどこで見たんだ?」


「村にたまに来る行商人が連れてますよ。エルフの人で……なんて人だったかな?」


 たぶんニーナだな。シャルルは口には出さず心の中で答える。


 男性は少しの間、腕を組み考える仕草をしていたが、それをやめ話を続けた。


「それから、スバルクに行ったときにも見かけましたよ。私が見たエレメンタルはこの子で三人目。みんな風のエレメンタルです」


「へぇ。確かに私もエレメンタルは風しか見た事が無いし、もしかしたら他のより多いのかもな。でもまあ、大陸北部にはあまりいないと聞くし、たまたまの可能性の方が高そうだけど」


「ですかねぇ」


 そんな雑談をしつつシャルルは昼食を取る。そしてそれが終わると給水を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この話と同一世界で別主人公の話

『小さな村の勇者(完結済)』

も読んでみてください

よろしければ『いいね』や『ポイント』で本作の応援もお願いします

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ