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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード2 水源に棲む獣
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魔法で給水 その1

 村長宅の土間の奥に見える廊下の先。そこには板の間の部屋が二つある。


 土間に隣接する部屋は村長夫婦の寝室で、その隣の部屋は村を訪れた行商人などを泊めるための客間だ。


 客間には簡素なものではあるがベッドが二つとテーブル、そしてイスが二脚あり、他に床でも寝られるように何組かの布団が置いてある。


 風呂のあと客間に通されたシャルルたちはその部屋に泊まり、そして朝を迎えた。


 閉じられた木の窓の隙間からかすかに朝日が差し込む薄暗い部屋。目を覚ましたシャルルはベッドの上で半身を起こす。


 隣にはめくれた布団を半分くらいかぶりつつ、シルフィを抱きしめながら丸くなっているステラがいた。


 それを見てシャルルは思う。今日は意外と寝相が良いな。


 昨晩の寝る前、シャルルは一緒に寝ようとするステラとシルフィに「二つあるんだからお前らはあっちな」と自分とは別のベッドに寝るよう言った。


 久しぶりのベッドでの睡眠。ゆっくり、そしてぐっすり眠る事ができれば体力の回復も期待できる。だが寝相の悪いステラと一緒に寝たら安眠できず、その効果も減少してしまうだろう。


 しかし、ステラは「しゃるーといっしょじゃなきゃねない!」と宣言してシャルルから離れようとしなかった。


 ステラは旅の最中ほとんどの時間シャルルにおぶられている。


 これは小さい子を長時間歩かせられないとか、歩くのが遅すぎるとかの理由もありそうせざるを得ないのだが、その間彼女は寝ている事が多い。


 村に来るまでの間にもそれなりの時間寝ていたステラは、その気になれば結構な時間まで起きていられるだろう。


 ステラが寝るまで待てばもちろん一人で寝られるが、その分睡眠時間が削られる事になる。疲れもありとっとと寝たかった昨晩のシャルルは、安眠より睡眠時間を選んだ。


 一緒に寝ると熟睡できないかもしれないと思ったが――このくらいおとなしく寝てくれるなら一緒に寝てやっても良いな。


 優しく微笑むとシャルルはステラの顔にかかる長い髪を静かに払う。


 確かに寝相にまったく乱れが無いというわけではない。


 だが、以前は朝になると寝たときとは逆向きで、シャルルを蹴って起こしていたのだ。それに比べればかなりきれいな寝相と言えるだろう。


 そういえば旅の最中も寝ているときは静かだった。


 心なしか体も出会った頃よりは少し大きくなっている気がする。


 子供の成長は早いと言うし、そういう事なのだろう。


 シャルルはステラの頭をなでつつ目を細めた。


「しゃう?」


「おはよう」


「ふにゅ?」


 目を覚ましたステラにシャルルは朝の挨拶をする。まだ眠そうなステラは目をこすりながら首をかしげるが――


「しゃるー!」


 次の瞬間、胸に抱えていたシルフィを放り出しシャルルに抱きつく。そして笑顔でその頬におはようのキスをした。




 顔を洗って歯を磨き、そして朝食を取る。そんな朝の一連の作業を終えたシャルルは囲炉裏の前で茶を飲んでいた。


 向かいに座るクレールはござのようなものを編み、そのすぐ横には頭にシルフィを乗せながらその様子を眺めているステラがいる。


 すべてがゆっくり進んでいるような、そんな穏やかな時間。こんな感覚はいつ以来だろう……シャルルが感慨に耽っていると、それに水を差すように音を立てて扉が開いた。


 扉を開けたのはマルティン。シャルルが昨日約束した給水の事を村人に告知に行っていたのだが、戻ってきたという事はそれが終わったのだろう。


「シャルル殿、もう来てる者もおるんじゃが……良いですかな?」


「ああ、はいはい。わかりました」


 返事と共にシャルルは立ち上がる。


「しゃるー?」


「ごしゅじんさま、おでかけですか?」


「ん? いや、すぐそこで給水するだけだ」


「すてらもいくー」


「わたしもお供します」


「そうか」


 シャルルがマルティンと共に二人を伴って家を出ると、そこには大中小様々な大きさの水瓶や壷などをもった村人たちがいた。


「あなたが水を出す魔術師?」


「お水お願いします」


「ああ、はいはい」


 挨拶もそこそこにシャルルは給水を始める。そしてしばらくすると――


「次、俺のを頼む」


「ちょっと、私の方が前からいたでしょ」


「俺はずっと待ってるんだ」


 順番を巡って村人たちの言い争いが始まった。


 これ、このままやり続けると絶対問題が起きるだろ……そう思ったシャルルはマルティンに言う。


「村長、村人を一列に並ばせてくれ。順番に給水して行くから」


「わかりました。みんな、一列に並ぶんじゃ」


 シャルルの指示を受たマルティンが村人たちに呼びかけて行くと、ばらばらだった村人たちは程なくして一つの列を作る。手際の良さはもちろんの事、村人たちが彼の言う事をちゃんと聞くのを見て、村長の称号は伊達じゃないな……とシャルルは感心した。


 混乱は収まりシャルルは列の先頭の前に立って差し出される水瓶を水で満たして行く。そして給水を始めてから1時間程度。時間と共に集まってくる村人たちは増え、村人たちの列はかなりの長さになった。


 並んでいる人数は相当であり、列は時間と共にどんどん長くなって行くように見える。


 これ……今日中に終わるのか?


 不安になったシャルルは少しでも給水ペースを上げようと、シャルルの周りを暇そうにうろうろしていたステラに言う。


「ステラ、ちょっと手伝え」


「え? なにー?」


「ほら、お前も水なら出せるだろ? 私と一緒に水瓶に水を出してくれ」

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