辺境の村 その4
シャルルは脱衣所にステラとシルフィを置いてとりあえず風呂場に行く。
風呂場には大きめの石をコンクリートで固めたような感じの湯船があり、その中には木のふたのようなものがあった。
外から見た感じだと薪でこの湯船を直接沸かす感じだったので、このふたのようなものはたぶん五右衛門風呂みたいに沈めて使うものだろう。
シャルルが魔術で湯船に湯を張っていると、脱衣所からステラたちのはしゃぎ声が聞こえてくる。
「こら、もう少しだから静かにしろ」
「はーい」
「だってしるふぃがー」
「えー、ステラがわたしのことひっぱるからじゃん」
「たくっ……」
軽くため息をつくと、シャルルは置いてあった木桶を脱衣所に持って行く。そして服をアイテムボックスにしまうと桶を置いて言った。
「服は洗うからこの桶に入れろ」
シャルルの服は下着も含めてアイテムボックスに入れて出せばきれいになるが、ステラの服はそうは行かない。汚れたら洗う必要がある。
「はーい」
「はーい」
ステラに続いてシルフィが返事をし、そしてステラと同じように服を桶に入れて行く。
「それ……脱げるのか?」
「うん」
まあ、服なんだから脱げない方がおかしいか……シャルルがそう考えていると桶に入ったシルフィの服は霧散して消えた。
「おい、消えたぞ」
「だいじょうぶよ、ごしゅじんさま。また出せばいいだけだもん」
「また出す?」
「うん」
「しゃるー、さむい」
裸になったステラがシャルルの手を引っ張る。
シャルルはシルフィの服の事が少し気になったが、出せると言っているのだから大丈夫だろう……と思いとりあえず風呂に入る事にした。
それから風呂場で体を洗い、湯船で温まったりステラの服を洗ったりして風呂から出る。そして脱衣所で魔術で風を起こし体や洗ったステラの服をを乾かそうとするが――
「しゃるううぅ……さむいぃ」
夏ならともかくこの時期では風で体を乾かすとなるとさすがに寒い。だがシャルルが習得している魔術で体を乾かせそうなのは風を起こす魔術、ウィンドだけだ。
温水を出す魔術があるのだから温風を出す魔術も恐らくあるのだろうが、それはマギナベルクの魔法道具屋に売ってなかったのでシャルルは習得していない。
「温かい風を起こす魔法を使えないんだから仕方ないだろ……」
シャルルがそうつぶやくとシルフィが言う。
「ごしゅじんさま~。わたしはあったかいの出せるよ? ほら、春の風~」
そう言うと、確かに春を思わせるような暖かな風が体をなでた。
「おお! これは良い。シルフィ、しばらく頼む」
「はーい」
「あったか~」
ステラは満足そうな顔をし、シャルルの体もどんどん乾いて行く。そして体が乾くとシャルルは換装を使い一瞬で服を着た。
だが、ステラの服はまだ乾いていないため彼女に着せる事はできない。
とりあえず急いで下着だけ乾かすと、アイテムボックスから真紅のマントを出して羽織らせておく。
「しるふぃは、はだかんぼでさむくないの?」
「ふふん。わたしは風の子だから寒くないのよ」
「だが、ずっとそのままというわけにはいかんだろ」
「はーい」
シャルルにそう言われ返事をすると、シルフィは『ポンッ』という擬音が聞こえてきそうな感じで服を出す。丁度シャルルの換装に近い感じだ。
「……それ、どうやって出したんだ?」
「えっと……ぽんって出したの」
「どういう仕組みで?」
「えっと……出ろって思うと出るの」
シャルルの質問にシルフィは困ったような表情で言う。
「……そうか」
まあ、シャルルだってアイテムボックスからの換装はどうやっているのかと聞かれても答えられない。だからシルフィのそれもたぶんそういうものなのだろう。
そんなふうにシャルルが一人で納得していると、ステラがローブを引っ張って言った。
「しゃるー、じゅーすは?」
「ジュース?」
「ひゃくまでかぞえたよ?」
「ああ……」
湯船に浸かって100数えたらジュースという約束はここでもまだ有効なのか……シャルルは苦笑する。
「ここには無いから、今度どこか町に行ったら買ってやる」
「えー」
ステラは不満そうにするが無いものは仕方がない。
「ほら服も乾いたし、もう戻って寝るぞ」
「はーい」
しぶしぶ頷くステラにワンピースを着せ、シャルルたちは風呂場をあとにする。
少し肌寒い秋の夜風に吹かれ、家に戻るまでの短い距離を歩きながらシャルルは思う。
家の外の風呂って、真冬だときつそうだな……。