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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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英雄公 その2

 朝、部屋に迎えに来たアルフレッドたちとともに宿の一階にある食堂で朝食を取ったシャルルは、その後、早速彼らに都市内を案内してもらっていた。


「だから、東と西の門は閉鎖中なんだ」


「なるほど」


 二人が言うには遥か昔に魔石採掘のために森を切り開いて作られたこの都市には、東西にも同じく森を切り開いて作った街道があったそうな。


 だが、何度も支配国が代わった事やドラゴンの襲撃、そして長年の放置により東西の街道は森に侵食されすでに道としては使用できず、もはや東西の門は門としての意味がないという事らしい。


「という事は、都市の出入りは南門のみという事なのか?」


「基本的にはそうね。通用門を使えば東西の門からの出入りも不可能じゃないけど、都市の許可が必要なのよ」


「南門の通用門なら、都市の住人は日が暮れて門が閉まっても入れてもらえるけどな」


『住人は』という言葉にシャルルは昨日の事を少し思い出す。


 アルフレッドは昨日、閉門に間に合うかを気にしていたが、それは住人ではないシャルルがいたからなのだろう。


 確かに新規の入場者である彼には簡単ではあったが一応の審査があった。


 ならば今のシャルルはもう住人という事で良いのだろうか? さすがに門番が住人全員の顔を覚えているとは思えないが……。


「住人かどうかはどうやって証明するんだ?」


「都市や所属しているギルドから身分証が発行されるんだよ。俺らハンターの場合はこれだな」


 そう言うとアルフレッドは首から提げた認識票のようなものをシャルルに見せる。


 それには発行日と所属ギルド、所有者の名前が刻まれていた。


「私は持っていないが……」


 シャルルが困惑した表情を見せると、ローザは笑いながら言う。


「昨日パメラが言ってたじゃない。ライセンスプレートは明日の午後以降に取りに来てって」


「ああ、それか。じゃあ後で行ってみるか」


 そんな話をしているうちに三人は最初の目的地、中央広場に着いた。




 木に囲まれ石が敷き詰められたこの広場には四方に出入り口があり、北を除く東西南の三方には露店が並んでいる。


 そして露天のない北の出入り口近くには人工の池があり、その中心には剣をを掲げる騎士らしき銅像が立っているのが見えた。


「あの銅像はこの都市の領主、英雄公の二つ名で知られるマギナベルク大公さ」


「へー」


 適当に返事をしつつ池に近づく。


 だが、間近でその銅像を見たシャルルは驚愕の表情を浮かべる。


「ラーサー?」


「うん。ラーサー・ヒイロ・マギナベルク大公爵」


「もしかして知り合い?」


「いや……」


 否定の言葉とともにシャルルは軽く首を振った。


 そう、確かに知り合いではない。だか彼はその男を知っている。


 アナザーワールド2のトッププレイヤー、ラーサー。会った事はないが、彼の管理する攻略ブログはシャルルも良く利用していた。


 そこにはラーサーの持つ最強装備画像も載っていて、そのいくつかはゲーム内でも彼しか持っていないであろう激レア装備だ。


 確かに彼もシャルルがここに来るきっかけと思われる次元の扉クエストをクリアしている。


 名前や装備までほぼ同じとなると本人としか思えないが……。


「どうかした?」


 ローザの問いにシャルルは我に返る。


「いや、なんでもない。次に行こうか」


「そうだね」


 気になる事ではあるが考えても答えは出ないだろう。


 彼はラーサーについて考えるのを今は保留する事にした。




 そこは中央広場から南門に向って真っ直ぐ伸びる大通り。歯抜けが多いものの様々な店舗や屋台が並んでいる。


 建築中の建物も多く、人や馬車が往来する活気のある場所だ。


「ここが商業地区で中央広場のすぐ北の城の周りが貴族居住区。更にその北には魔石鉱山とそこで働く人たちの住居がある鉱山地区。西門のそばは農業地区で東門のそばは工業地区」


「ふむふむ」


 シャルルは頭の中で地図を描きながらなんとなく位置関係を把握する。


「でも、貴族居住区以外は仕切りもないし行き来も自由で、厳密な決まりがあるわけじゃないから案外適当なのよね」


「まあ、工業地区にも畑や店はあるし、商業地区にも農場とかあるしな」


 都市計画の指針としての区分けといったところなのだろう。


 そして、どこの店が何屋で何を買うならどこの店が良いなどを聞きながら歩いていると、シャルルはふと気になるものを目にする。


 食堂だと思われる店の前で串焼き肉の販売準備をしている人が、先の長いガスライターのようなもので炭に火をつけていたのだ。


「ライター?」


「え?」


 ローザが不思議そうに聞き返す。


「あ、いや、あの火をつけてるやつってさ……」


「ああ、着火具がどうかした?」


 あるのが当然という感じの返答だがシャルルは少し驚く。


 まだ二日目ではあるが、見た限りではこの世界は中世くらいの文明に見えた。


 それがマッチやオイルライターならまだしもガスライターを使っているのだ。


「いや、欲しいなと思って」


 あれがあればオイルランプに火をつけるために他の火を探す必要もなくなるし、短期的になら光源にも使えるだろう。


 この世界の夜は本当に真っ暗で、昨日もオイルランプが消えたらどうしようかと思ったくらいだ。


「え、持ってないの?」


「ああ、今はない」


 持っていて当然といった感じのローザの言葉にシャルルは少し言葉を濁す。


「じゃあ、魔法道具屋に行ってみるか」


「ああ、頼む」


 アルフレッドの後について歩きながらシャルルは心の中で首をかしげる。


 魔法道具屋? ガスライターは魔法の道具なのか? 確かに中世にガスライターを持っていったら魔法に見えるかもしれないが……。


 だが彼はすぐにそれが本当に魔法の道具である事を知る。

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