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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード2 水源に棲む獣
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辺境の村 その3

「私自身の見聞を広めるため、それとこの子に色々な世界を見せたいと思いましてね」


 旅の目的を聞いてきたマルティンに、シャルルはステラの頭をなでながら、あらかじめ用意しておいた適当な理由を言う。


「なるほど」


 マルティンは納得したようなしてないような、なんとも適当な返事をして頷く。


 とはいえ彼も特に何か納得する答えを聞きたかったわけでもなく、これは単なる雑談に過ぎない。会話が始まった事で質問がしやすくなったと感じたシャルルは知りたい事を聞いておこうと質問する。


「ところでこの辺にはこの村のほかに村や町はあるんですか?」


「ん? ああ、一番近いのはスバルクという町じゃな。村の若い者が定期的に売買のために行っておる」


「売買ですか」


「ああ。スバルクには都市からも物品が流れてくるからのう。行商人が持ってこないようなものや魔石なんかもスバルクなら買えるから重宝しておるんじゃ」


 物品が流れてくるという事は、スバルクという町が都市からそんなに離れていないという事だ。


 既に帝国領に入っているのだからわざわざ辺境の村や町を転々とする必要は無いし、都市に向かうというのも悪くない。そう考えシャルルは更に突っ込んで聞く。


「そのスバルクという町、この村をどの方角にどれくらい歩けば着くでしょうか?」


「ん? 徒歩で行くつもりか? 徒歩が良いという理由があるのなら止めはせぬが……」


 マルティンの言葉に徒歩以外での行き方がある事を感じ取ったシャルルは尋ねる。


「ほかに行く方法があるのですか?」


「あ、いや、それは……」


 マルティンは言葉を濁す。


 思わず言ってしまったが、よそ者にあまり使わせなくない手段という事だろう。ワープゲートみたいな何か特殊な方法があるのだろうか? シャルルはそんな期待をしたのだが――


「普通は馬車で行くのよ。歩いたんじゃ大変でしょ?」


「……まあ、そうですよね」


 意外と普通の答えでシャルルは少しがっかりする。


 では、なぜマルティンは言葉を濁したのか? それはこのあとの会話ですぐわかった。


「もうすぐ町に買出しに行く時期だし、一緒に乗せてもらったら良いんじゃない?」


「いや、じゃが……村の者がなんと言うかのう……」


 子連れだからかクレールはシャルルを警戒してはいないようだがマルティンは違う。馬車に同乗させて欲しいと言われると面倒な事になると思うのも当然だ。


「あ、いえ。お構いなく」


 泊めてくれるだけでもありがたいのにこれ以上迷惑はかけられないし、もし乗せてもらえるとしても王国金貨が使いづらい以上払える対価が無い。最悪歩いても良いし町に行く方法は追々探せば良いだろう。


 ここまで考えて、シャルルはそういえば宿泊の対価も無い事を告げなければと口を開く。


「あ、そういえば、申し訳ないのですが、宿泊させていただくのに現在はお支払いできるものが無いのです。対価として何かお仕事でもさせていただければと思うのですがどうでしょうか?」


「まあまあ、そんな事気にしなくて良いのよ。困ったときはお互い様なんだから。ねえ、あなた」


「まあ、そうじゃな。特別やって欲しい事も無いし、何かあったら頼むかもしれんが気にせんでええ」


「そうですか。ありがとうございます」


 対価を渡さないというのも心苦しいが、特にやって欲しい事が無いと言うのなら仕方がない。シャルルは二人の好意に甘える事にした。




 食事を終えたシャルルは茶をすすりながら風呂に入りたいな……と思う。


 マギナベルクを出て八日。ずっと旅だったので当然その間は風呂に入ってない。


 確かにシャルルは魔術でお湯を出せるので、その気になればどこでもシャワーくらいならできる。だが、川とかならまだしもその辺の野外でそれをする気にはさすがになれなかった。


 田舎の村だし湯船は無いかもしれないが、体を洗う場所くらいはあるだろう。対価も払わないのに図々しいとは思いつつもシャルルは聞いてみる事にした。


「あの、図々しいとは承知してますが、旅の間は入れなかったもので……湯浴みはできないでしょうか?」


 シャルルの質問にマルティンは申し訳なさそうに言う。


「すまんが、村は今水不足でのう……飲み水以外はあまり使えんのじゃ」


 駄目か……シャルルは一瞬肩を落とすが、駄目な理由が『水不足』という事は風呂自体はあるという事だと気づく。


「あの……私は魔術師なんで場所さえ貸していただけるなら水は自分で出せるのですが」


「おお、そうじゃったか。ならば風呂場を使ってもらってもかまいませんぞ」


「では風呂場はお貸しいただけるのですね?」


「ああ、使ってくだされ。ところで……シャルル殿は飲み水も出せるのか?」


「ええ。魔術で出す水は井戸の水より安全なのでもちろん飲む事もできます」


 それを聞くとマルティンは少し考える仕草をしてから言う。


「その水はどれくらい出せるのですかな?」


 問われてシャルルは少し考える。


 ステラに出させたら中型の水瓶をいっぱいにできるかどうかといったところだろうが、自分なら無限と言っても良いくらい出せるだろう。


 とはいえ出す対象が水瓶とかとなるとウォーターを使う事になるから――


「一気には出せないので時間はかかりますが、制限はほぼ無いと言って良いと思います」


「おお、それなら村人のために飲み水だけでも提供してもらえませんかな?」


「ええ、かまいませんよ」


 シャルルの返事を聞きマルティンは安心したように笑う。


「じゃったら明日、早速お願いしますぞ。それから風呂場は――」


 マルティンの案内でシャルルたちは家の外にある風呂場に行く。家の外といっても完全に離れているわけではなく、家の一部だが入り口は外にあるといった感じの作りだ。


 ちなみにトイレも外にあり風呂場のすぐ隣に併設されている。


「着きましたぞ。ここが風呂場で隣は便所じゃ」


「では、お借りします」


「明かりはこれを……」


 マルティンが自分の持つランタンを渡そうとするが、シャルルはそれを手で制す。


「大丈夫です」


 そう言ってシャルルが道具袋から取り出した棒にライトをかけるとマルティンは感嘆の声を上げた。


「おお……これが魔術ですか」


「ええ」


「では、ゆっくりしてくだされ」


「はーい」


「どうも」


 シャルルとステラが答えると、マルティンは頭を軽く下げ去って行く。


 その後姿を見送りつつ、シャルルたちは脱衣所に入って行った。

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