精霊召喚 その4
「ごしゅじんさま~。わたしは何をすればいいの?」
「ん? ああ」
ゲームでは呼び出した風の精霊に、攻撃しろとかついてこいとか自由にしろとか……何らかの命令を出す必要があった。ここでも命令待ちという事なのだろう。
「そうだな……よし。シルフィ、お前には私の家族であるステラの護衛を任せる」
「はいっ! がんばりますっ」
直立不動でシルフィは『ビシッ』という擬音が聞こえてきそうな敬礼をする。
「あ、そうそう。できるだけ人を傷つけないようにな」
「はーい」
シルフィのレベルは32。まだどれくらいの事ができるかはわからないが、本当にレベル4~5のハンターと同等の力があるとしたら一般人など簡単に殺せる強さだ。
知能は子供並だと思われるので一応気をつけた方が良いだろう。
「よし、任せたぞ」
シャルルが頭をなでてやると、シルフィは嬉しそうに笑う。
それを見てうらやましくなったのか、ステラはシャルルのローブを引っ張って言った。
「すてらは? すてらはなにすればいーの?」
「んー……」
ステラは召喚したペットではない。したがって命令する気も無いのだが……たぶんそれだと納得しなさそうな雰囲気だ。
シャルルは少し考える仕草をしてから言った。
「そうだな。ステラはシルフィの嫌がる事をしない事。そしてシルフィと仲良くする事。いいな?」
「うんっ、しるふぃのやなことしない。なかよくする!」
「良い子だ」
シャルルが頭をなでてやると、ステラも嬉しそうに笑った。
さて、どうしたものか……シャルルは考える。
召喚はしたもののシルフィに何ができるのか、風のエレメンタルと同等の能力があるのかはまだわからない。
追々わかって行く事ではあるのだろうが、知らなければ使う事ができないし、やはりある程度調べておいた方が良いだろう。
「なあ、お前は何ができるんだ?」
シャルルはストレートに聞いてみるが――
「えっと……よくわかんない……」
シルフィは困ったような表情で首をかしげる。まあ、知能が子供並であろう事を考えると無理もない事だ。
仕方ないのでシャルルは思いつく事を色々やらせてみる事にした。
とりあえず近くにあった木の根元に生えていたきのこを取ってシルフィに聞いてみる。
「このきのこは食べても大丈夫だかわかるか?」
「んーと、それは毒があるからたべちゃダメ。おなか痛くなるよ」
「ほう……」
このきのこは確かレティが仕分けて捨てていたものと同じだ。
レティは『やなにおい』と言っていたが、シルフィは普通に『毒がある』と言う。
「どうして毒があるとわかるんだ?」
「おなか痛くなりそうなにおいがするから」
「なるほど……」
どうやら『やなにおい』を『毒』と認識しているだけのようだ。
「じゃあ、今後はそういうのを私やステラが食べそうになったら教えてくれ」
「はーい」
これでシルフィの毒を感知する能力はレティと同等以上なのがわかった。
「じゃあ次は――」
シャルルは思いつく限り色々な事をシルフィにやらせ試して行く。その結果シルフィはシャルルの覚えている限りではあるが、レティにできた事は問題なく、しかもレティよりも高いレベルでできる事がわかる。
「よし、これくらいで良いだろう。ご苦労さん」
「おつかれ~」
「はーい……」
一通り終わるとシルフィはぐったりしていた。
どうやら能力を使うにはマナを消費するようだ。魔石があればこれを回復させられるのかもしれないが、現在シャルルは魔石を持っていない。
まあ、エレメンタルと、レティと同じだとすれば、マナは勝手に回復するだろう。
シルフィの能力検証に思ったより時間がかかり、既に日は暮れかけている。
暗い夜道を歩くのは危ないかもしれないし、さっきシルフィに周りを調べさせた結果、小動物くらいしか居なさそうなのでシャルルはここで夜を明かす事にした。
翌日の朝、元気になったシルフィを頭に乗せると、背にステラをおぶってシャルルは歩く。
そしてひたすら南に向って歩くと、夕方にはニーナの言った通り――いや、昨日あまり歩いていない事を考えると彼女の言っていたのよりだいぶ早く、目的の村に到着した。
本日の更新はここまで。
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