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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード1 エルフの行商人
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精霊召喚 その1

 出会いがあれば別れもある。ステラは初めての面と向っての別れに声を上げて泣いていた。


 もちろん過去にも別れはあっただろう。それは両親であったり、友人であったり。それにマギナベルクで出会った人たちとの別れもあった。


 だがそれらは、彼女にとって覚えていない事であったり別れとは認識していない事であり、今回のそれとはまったく違う。


「ほら、泣かないの」


 ニーナが頭を優しくなでるとステラの泣き声が小さくなる。


「だって……ひっく」


「それぞれの道があるからずっと一緒にはいられないの。でもそれを嫌がってちゃ出会わない方が良かったって事になっちゃう。そんなの寂しいでしょ?」


「うん……さみしいの、やっ」


「そうよ。ばいばいするときは笑ってないと。じゃないと……じゃないと……さみしい……」


 そこまで言うとレティは出会ってから初めて、自分からステラの胸に飛び込む。初めてのときとは違い、ステラはそんなレティを優しく抱きとめた。





 シャルルたちがマギナベルクを出て七日、ニーナに出会って四日目の昼少し前。馬車は昨夜ニーナが言っていたポイントに到着する。


 ニーナはそこで馬車を止め、少し早目の昼食を取るとシャルルに言った。


「ここから南に向って歩いて早ければ二日、今からゆっくりでも三日も行けばゾフっていう村があるわ。村の周りは開けてるから近づけば遠くからでも見えるし、たぶん迷う事は無いと思う」


「三日か……」


 シャルルはため息混じりにつぶやく。


 確かに追っ手を気にしながら森を抜けていたときに比べれば天地差で快適な旅だろう。追っ手の心配が皆無というわけではないが、もう昼夜を問わず空腹を抱えながら悪路を急いで進む必要は無いのだから。


 とはいえ荷車に座っていれば勝手に進みステラの相手は誰かがしてくれるという、非常に快適な旅のあとでは少し気が滅入る。そんな理由のつぶやきなのだが、ニーナはそうは取らず食料の心配をしているのだろうと思い言った。


「遅くて三日よ。でも念のために食料は四日分渡しておくから大丈夫」


「ああ、ありがとう。これは少ないかもしれないが礼だ」


 シャルルは感謝の言葉と共に、巾着から金貨を5枚ほど取り出してニーナに渡す。その金貨には真王リベリアスの横顔が描かれていた。


 シャルルは知らないが、この金貨はリベランドで造幣され流通している通称『王国金貨』と呼ばれるものだ。



 大陸で主に流通する貨幣は金貨、銀貨、銅貨の三種。金銀銅の順で価値が高く、銅貨10枚で銀貨1枚といった感じに10枚で一つ上のランクに上がる仕組みだ。


 貨幣は各国で発行されているがその価値の根拠は素材の価値であり、重さや形には大陸で統一された規格があるのでどの国で発行された貨幣でも基本的に大陸中で通用する。


 とはいえ弱小国などでは規格ギリギリで造幣したり微妙にごまかそうとしたりする場合もあるため、発行する国の国力が高いほど信頼度は高い。


 大陸北部の三大国が発行する金貨は特に信頼度が高く、リベランドの発行する金貨は『王国金貨』、魔導帝国の発行する金貨は『帝国金貨』、聖王連合の発行する金貨は『聖王金貨』と呼ばれている。



 渡された金貨を見てニーナは思う。


 出し方から考えるとシャルルの巾着にはまだ金貨が入っていそうな雰囲気がある。そして、そこから適当に出したと思われる5枚の金貨はすべてが王国金貨。となると残りもたぶんそうだろう。


 この状況からシャルルはリベランドからやってきたと推察される。


 ここにいるという事を考えると、数年前に英雄公が棲みついていたドラゴンを討伐してリベランド所属になった鉱山都市マギナベルクから来たという事だろうか?


 確かに過去には森を抜けてマギナベルクに出る街道があったという話はニーナも聞いた事がある。


 だがそれは、まだマギナベルクが魔導帝国に属していた数百年前の話であり、現在この森を抜けるというのは容易な事ではない。それを彼はあの格好で子供をおぶって徒歩で……さすがに不自然な話だ。


 しかし無防備に王国金貨を渡したという事は、リベランドから来たのではないかと推察される事を警戒してないという事。詳しい事情は聞いてないのでわからないしそれは特に問題ない事なのかもしれないが、一応注意して置いた方が良いかもしれない。


「帝国で王国金貨をたくさん使うと怪しまれるわよ」


「王国金貨?」


 首をひねるシャルルを見てニーナも首をひねる。あれ? もしかして王国金貨って俗称をしらないの?


「リベランドで発行してる金貨の俗称だけど……」


「もしかして帝国じゃ使えないのか?」


 んなわけないでしょ。っていうか、そんな事も知らないの? 魔族だし、もしかして貴族かなにかで世間ずれしてる?


 これは一応教えておいた方がよさそうね……そう思ったニーナは説明を始める。


「いや、貨幣はどの国が発行したのでも大陸中で使えるし、ごちゃ混ぜで流通してるけど、当然発行している国で一番使われてるわ」


「まあ……そうだろうな」


「じゃあ、他国で発行された金貨を大量に使う人がいたら明らかに怪しくない?」


「そうかもしれんが……真っ当に稼いだ金なんだがなぁ」


「だとしても、無い腹を探られたくはないでしょ?」


 シャルルは自分の知識の中で考える。


 ドル紙幣の大金を円に両替するみたいな感じなのだろうか?


 だとすれば、確かに偽札や盗んだものでないかとかんぐられる可能性は十分にある。避けられるトラブルは避けるべきだろう。


「そうだな。気をつけるよ」


 それを聞いてニーナは軽く頷くと、大き目の巾着を渡しながら言った。


「じゃあ、これが食料。大切に食べて」


「ああ、ありがとう」


 ニーナは軽く頷くと、シャルルの隣でぼけっとしていたステラの視線までかがんで言う。


「それじゃ、元気でね」


「ほら、お別れの挨拶だ」


 状況が飲み込めないのか、きょとんとしているステラにシャルルは別れの挨拶を促す。


 するとようやく状況が飲み込めたのか、ステラは声を上げて泣き出した。

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