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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード1 エルフの行商人
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馬車の旅 その5

 シャルルたちを乗せて三日目。今日もニーナの馬車は特に問題もなく順調に進む。そして、丁度昼頃通りかかった池のほとりで休憩を取った。


 ここには池があるので秘術で水を出す必要は無い。


 荷車を外すとブランは池で水を飲み始めニーナたちも昼食を取る。そしてパンとウサギ肉の燻製を食したあと、昨日と同じように食料と薪の調達を始めた。


 やる事は昨日とまったく同じ。シャルルたちは薪やきのこ類を集めニーナたちが狩りをする。池には鴨のような水鳥が数羽いたのでニーナはそれを狩る事にした。


「レティ、お願い」


「はーい」


 矢に射抜かれ池に落ちた鳥を拾いに行くレティを見てシャルルは思う。


 風のエレメンタルというのは飛べるという利点も考えると、猟犬よりも優秀な狩りのパートナーかもしれないな。


 そして二羽の水鳥をしとめたニーナはその処理を、それをステラに見せたくないシャルルは彼女と共に離れた場所でレティにきのこの仕分けを頼んだ。


 仕分けを見ているシャルルの横でステラは一生懸命に花を摘む。


 いっぱい欲しいのだろうか? そう思ったシャルルはステラに尋ねる。


「手伝おうか?」


「うんっ」


 大きく頷いたステラの横でシャルルも花を摘んでいると、仕分けが終わったレティも聞いた。


「ねえねえ、わたしも手伝ってあげようか?」


 だがステラは首を振る。


「れてぃはだめ」


「なんでよ?」


 レティは首をかしげるが、ステラは困ったような表情で言った。


「れてぃはだめなの!」


「なによ。じゃあいいわよ」


 レティは頬を膨らませ去って行く。それをステラは困ったような、悲しそうな、そんな表情で見送っていた。


 休憩が終わり馬車が再び進み始めると、ステラは荷車でシャルルに背を預けながらさっき摘んだ花で何かを作り始める。


 そして作業が進むとその形がはっきりし、作っているのは花冠である事がわかった。


 その後ステラは作業中に寝てしまったりして完成までには非常に時間がかかる。


 だが、あまりできが良いとは言えないものの、馬車が再び止まる夕刻までに彼女は三つの花冠を完成させた。




 日が沈みかけ野宿の準備を始めると、ステラは三つの花冠を持ってそわそわし始める。


 ニーナもレティもそれには気づいているのだが、日が沈みきる前にやらなければならない事があるためかまっていられない。


 そしてテキパキと作業が進む。


 ブランに水をやり、シャルルは燻製を作るための穴を掘り、ニーナは燻製と夕食用に今日仕留めた水鳥を捌く。そして作業がほぼ終了し、焚き火で肉を焼いているときにようやくステラは言った。


「あのね。えとね。にーなと、れてぃと、ぶらんにぷれぜんと」


 ニーナとレティは顔を見合わせ微笑む。


「えー? 何かな?」


「んとね。えへへ」


 ステラはわくわくを隠せないといった感じで笑うと、焚き火の前に座るニーナのもとに行ってその頭の上に花冠を載せた。


「ありがとう。素敵な冠ね」


「えへへ」


 ニーナになでられステラは嬉しそうに笑う。


 そして次はレティの頭に花冠を載せる。


 レティはちょっと照れ笑いをし、それを見てステラはにっこり微笑む。


「ありがと」


「どーいたしまして」


 まだステラの手に残る花冠を見てニーナが問う。


「ブランにもあげるのよね?」


「うん。あげてくる」


 火があまり好きではないブランは荷車を挟んで向こう側にいる。


 暗いから驚けばどういう動きをするかわからないし、ステラが一人で行くのは危険だろう。そう思ったシャルルは一緒に行こうと腰を浮かしかける。


 だが彼が立ち上がる前にニーナは言った。


「レティ、一緒に行ってあげて」


「はーい」


 腰をちょっと浮かしたまま、シャルルはニーナを見る。


「レティが居れば大丈夫よ」


「そうか」


 ニーナの言葉に頷くと、シャルルは腰を落ち着けステラとレティを見送った。


 そして、しばらくするとステラたちの声が聞こえてくる。


「はい、ぶらんのぶん」


「ブシシ」


「ありがとうだって」


「えへへ、どーいたしまして」


 それを聞いてシャルルは思う。


 風のエレメンタルはユニコーンと意思の疎通が図れるらしいが――人類と同じ精神構造をしているわけではないだろうからレティの翻訳そのままという事はたぶんない。


 だがそれでも、言葉は通じなかったとしても真心みたいなものは伝わるんじゃないだろうか。そしてきっとブランにステラの真心はつたわっただろうと。


 そして食事のあとニーナはシャルルに言った。


「明日には徒歩で三日もあれば余裕で村に着くところに出るわ。だから、あなたたちを乗せるのは明日までね」


「そうか……明日までか」


 シャルルはレティを抱きしめながら寝ているステラを見て思う。


 別れを寂しがりそうだな……。

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