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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード1 エルフの行商人
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馬車の旅 その3

 ニーナが馬車にシャルルたちを乗せて二日目。順調に進んでいた馬車は昼少し前に雑木林に差し掛かった。


 この雑木林に整備された道は無いが、木々の間が広いので馬車でも普通に通り抜けられる。そんな林を通りながら、ニーナはここなら薪を集めたり狩りをしたりできそうだなと思う。


「ちょっと早いけど休憩にしましょ」


「はーい」


 ニーナがそう言うと、レティはブランのもとまで飛んで行く。


「ブラン、ブラン、休憩にしよ」


「ブシシ」


「うん、そうだね。ちょっと早いね」


「そうなんだけど、薪を集めたいからこの辺がいいのよ」


 ニーナの言葉を聞いてレティは再びブランに言う。


「ここでやりたいことあるんだって」


「ブルル」


「うん。わかったってー」


 レティがそういった直後、ブランの足が止まった。


 御者台に座り、隣で一連の流れを見ていたステラはニーナに言う。


「れてぃとぶらんって、なかよしなのね」


「ふふ、そうね」


 荷車でその様子を見ていたシャルルは尋ねる。


「エレメンタルはユニコーンと会話ができるのか?」


「んー、会話ができるって言うか、なんとなく言ってる事がわかるって感じみたい。そうよね?」


「うん」


 レティの返事を聞きシャルルは再び聞く。


「つまりエレメンタルは動物と意思の疎通が図れるという事か?」


「えっと、そうじゃなくて……風のエレメンタルは相性の良いユニコーンとだけ心を通わせる事ができるらしいのよ。普通、野生のユニコーンって人に懐かないから馬車を引く事なんてないんだけど、ブランはレティと仲良くなって、それで今は私の馬車を引いてくれてるの」


「つまり風のエレメンタルとユニコーン、それも相性が良い場合だけ意思の疎通が図れるって事か」


「私も詳しいわけじゃないけどそんな感じね。まあ、相性の良し悪しって普通に言葉が通じる相手でもある問題だけど」


「それもそうだな」


「さてと。それじゃお昼の休憩にしましょうか」


 そう言うとニーナは御者台を降りてブランを荷車から外す。そしてブランに水をあげたあと、みんなで昨日の昼食と同じ固いパンと魚の干物を食べた。


 食事が終わるとニーナは荷車から弓矢を取り出して言う。


「出発前に食料と薪を集めるわよ」


『おー!』


「お、おー」


 ニーナの宣言にレティとステラは拳を振り上げ元気良く、シャルルは少し遅れて答えた。


「レティ、何か居る?」


 ニーナが尋ねると、レティは少し飛び回ってから指差して言う。


「あっち。ちっちゃいからたぶんウサギかなにか」


「わかったわ。あっちね」


 その様子を見てシャルルはニーナに質問する。


「風のエレメンタルには獲物を探す能力があるのか?」


「ん? ああ、そうね。空気の流れみたいのを感じる力があって、範囲はあまり広くないけど狩りの獲物を発見したりできるのよ」


「わたしはニーナが狩人のときからいっしょにやってる相棒なのよ」


 そう言ってレティは胸を張る。


「へー、そうなのか」


 なるほど。ニーナは元狩人だから狩人っぽい格好をしてるのか。そんな事を考えつつシャルルが頷いているとニーナは言った。


「ほら、シャルーもぼけっとしてないで薪になりそうな木とか、食べられそうなきのこでも集めてきて」


「薪はともかく、食べられるきのこなんて私にはわからないぞ」


 そもそもそれがわかるなら森で食糧難になってない。


「あとで仕分けるから適当に取ってきて」


「まあ、そういう事なら……ステラ行くぞ」


「はーい」


 こうしてニーナとレティは狩り、シャルルとステラは薪ときのこ集めを始めた。


 シャルルたちはなるべく馬車から離れないようにしつつ、薪になりそうな木の枝やきのこを集めては戻るという事を繰り返す。


 ステラも手伝ってくれてはいるのだが、危なっかしくてシャルルはどうしてもそのフォローに時間を取られる。正直いない方が効率が良い状態だ。


 とはいえ一人で馬車においておくわけにもいかず、何もさせないと逆に何をするかわからないため効率が悪くてもこうせざるを得ない。


 こうしてシャルルたちはしばらくの間、やや効率悪く作業をした。


「まあ、これくらいで良いだろ」


「うん。いっぱいとれた」


 適当なところで作業を終えたシャルルはとりあえず薪をまとめて荷車に積む。


 そして、あとはきのこの選別か……などと思っていると、数匹のウサギを縄で吊るしたニーナがレティと共に戻ってきた。


「この短時間にそんなに……すごいな」


 シャルルが感嘆の声をあげるとニーナは笑う。


「運が良かったのもあるけど、レティのおかげね」


 ニーナの言葉にレティは誇らしげに胸を張った。


「うさぎさん?」


 ニーナが吊るしているウサギを見てステラが首をかしげる。


 その様子を見てシャルルは、あ、これは小さい子にはあまり見せてはいけないものだ……と思う。


「ニーナ、きのこがいっぱい取れたぞ。ステラ、ちょっと持ってきてくれ」


「はーい」


 シャルルに言われステラはきのこの入ったざるを取りに行く。


 シャルルのちょっと不自然な動きにその意図を察したニーナはウサギを馬車の陰に隠すと言った。


「私はちょっとあれの処理をするからきのこはレティに仕分けてもらって」


「ああ、わかった」


「まかせて!」


 シャルルとレティの返事を聞くと、ニーナは馬車の陰に消える。


 そしてすぐ、ざるを持ったステラが戻ってきた。


「しゃるー、きのこ」


「ああ、ありがとう」


「えへへ」


 シャルルはざるを受け取りステラの頭をなでる。そしてざるをレティの前に置いた。


「じゃあ、頼むよ」


「はーい」


 レティはきのこを一つ一つ手に持っては顔に近づけ、それから捨てたりざるに戻したりする。それを見て、種類を見て分けているというより嗅ぎ分けているように見えるな……とシャルルは思う。


「なあ、レティ。それ、どうやって仕分けてるんだ?」


「やなにおいがするのと、しないのを分けてるのよ。やなにおいのは食べちゃダメなやつだから」


 その答えに自分では食べないのに食べちゃ駄目なやつがわかるのか。なんか不思議だな……などと思いつつ、シャルルは再び聞く。


「これも風のエレメンタルの能力ってやつなのか?」


「そーよ。すごいでしょ」


「ああ、すごいな……」


「すごーい」


 二人にほめられレティは誇らしげに胸を張る。


 とはいえステラがすごいと言ったのは、レティが自分ですごいでしょと言ってシャルルもすごいと言ったからであって、何がすごいのかはわかっていないのだが。


「どう? 終わった?」


 声に振り返ると荷車には首の無い肉の塊と毛のついた皮が吊るされているのが見え、ニーナが濡れた手とナイフを布でぬぐっていた。


「ああ」


「じゃ、そろそろ出発するわよ」


『はーい』


 ニーナの呼びかけにステラとレティは元気良く答える。


 そしてシャルルは馬車に乗り込みつつ、吊るされている肉の塊を見て思った。


 既にほぼ原型の無いこの状態ならステラもショックを受ける事は無いだろう。 しかしさすが元猟師。すごい手際の良さだな。

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