馬車の旅 その2
空が茜色に染まりだすとニーナは見晴らしの良い場所に馬車を止める。そしてブランから荷車を外し桶に水を貯め、それをブランに与えながらレティに尋ねた。
「どう? 周りに何かいる?」
「ちょっとまって」
レティは馬車を中心に少し飛び回る。
「大丈夫みたい」
「じゃあここでいいわね。シャルー、焚き火の準備をするから何か燃えそうなものを探してきて」
「わかった」
ステラと共に荷車から降りたシャルルは辺りを見回すが、森は遥か彼方でこの辺に薪になりそうな木は無い。それでも何かないかと探しているとニーナが言う。
「まだ? 早くしてよ」
「いや、薪になりそうなものなんてなかなか無いぞ」
「そりゃこんなところにそんなの無いでしょ。種火にするんだからその辺の枯れ草で十分よ」
そう言いながらニーナは馬車に積んでいた薪で焚き火の準備をしていた。
「あ、それでいいのか……」
「すてらもおてつだいする!」
「そうか。偉いぞ」
「えへへ」
シャルルにほめられ張り切るステラ。そしてシャルルたちは両手一杯の枯れ草を持ってくるが――
「枯れ草なんてすぐ燃えちゃうんだからそんなにいらないわよ……」
「言われてみればそうだな」
苦笑しつつ持ってきた枯れ草を敷くと、ニーナはその上に薪を乗せ火をつけた。
日がすっかり落ち空が闇色に染まると、少し離れて草を食んでいるブランを除く全員で焚き火を囲む。
夕食は昼に食べたのと同じ水分の少ない固いパンと、お湯に味のついた粉を溶かし干し肉を加えたいわゆるインスタントスープ。お湯はニーナが出した水をなべに入れて焚き火で温めたものだ。
あぐらをかいたシャルルの上に座ってご飯を食べていたステラは、黒い石のようなものを口にあてているレティを見て聞く。
「それなーに?」
だが、レティはその石のようなものに夢中で返事は無い。
「魔石のように見えるが……」
「ええ、魔石よ」
「エレメンタルの食事って事か?」
シャルルの質問にニーナは少し首をかしげてから答える。
「間違いじゃないんだけど正確には違うわね。エレメンタルのエネルギー源ってマナらしいんだけど……魔法が使える人類と同じで必要な分のマナは自然と吸収するんですって。だから食事は取らなくても平気みたい」
「なら、なぜ魔石を?」
「そりゃ、私たちだけ食べてレティに何もなしじゃかわいそうでしょ? まあ、食事と言うより嗜好品って感じかしら。エレメンタルはドラゴンと一緒で大別するとマナイーターって生き物なんだけど、人類と違って魔石からもマナを吸収できるのよ」
「へぇ」
なるほど。エレメンタルはドラゴンと同種の生き物なのか。どおりで気配が似ているはずだ。シャルルが感心していると、ステラがローブを引っ張って聞く。
「しゃるー、しこーひんってなーに?」
「んー、おやつみたいなものだな」
それを聞くとステラは目を輝かせる。
「おやつ! すてらもおやつほしい!」
ステラがそう言うと、今まで我関せずで魔石に夢中だったレティがすーっと離れながら言った。
「あげないわよ」
「けちー」
頬を膨らませるとステラはシャルルを見る。
「すてらのぶんは~?」
「ステラは魔石を食べられないし、食べてもおいしくないぞ?」
「そーなの?」
「ああ、たぶん人参みたいな味がすると思うぞ。知らないけど」
人参と聞いてステラは嫌そうな顔をして言う。
「じゃー、いらない」
「今度甘い物を買ってやるからそれまで我慢な」
「はーい」
二人のやり取りを見てニーナは微笑む。
「どうかしたか?」
「いや、仲が良いなと思っただけ」
「えへへ。すてらとしゃるーはなかよし~」
シャルルに寄りかかるように体を預けると、ステラは嬉しそうに笑った。