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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード1 エルフの行商人
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ユニコーンの馬車 その3

 シャルルが馬車のそばまで行くとニーナが言う。


「ちょっと、そこで待ってて」


「ああ」


 シャルルは寝ているステラを一度草の上に下ろし、その場であぐらをかくとその上にステラを乗せる。


「ふにゅ?」


 ステラは動かされたせいか良くわからない言葉をつぶやき少しふらふらと動くが、シャルルの胸に背を預けると再び目を閉じた。


 シャルルは待つ間、ステラの頭をなでつつ辺りを見回す。


 幌のついた荷車は特に変わった様子もなく、普通に荷物が積まれているように見える。ユニコーンや狩人風の格好をしたエルフなど行商人らしからぬ部分も散見されるが、荷車を見る限りやはり行商人か何かなのだろう。


 ユニコーンは最初見たときからずっと、シャルルたちに興味を示さず草を食み続けている。一方、風のエレメンタルは興味津々といった感じで、荷車に隠れつつシャルルたちを観察していた。


 さっきの子供のような声はあいつか……などとシャルルが思っていると、ニーナがシャルルの前に箱を置く。


 箱の上には木の皿が置かれ、皿の上にはパンと魚の干物があった。


「とりあえずこれでも食べてて」


「ありがとう」


 とりあえず、という事は他にもあるという事なのだろう。シャルルもかなりの空腹だが、まずはステラから……と思い彼女を起こす。


「ステラ、起きろ。ごはんだ」


「にゅ? ごぁん?」


「そうだ。ごはんだ」


 そう言ってシャルルがパンを持ち上げステラの顔の前まで持って行く。すると寝ぼけ眼だったステラの目がカッと見開かれた。


「ごはん! いっただきまーす」


 そう言って両手でパンを持ちかじりつくが、一口かじったところで何かを思い出したように手を止める。そして手に持ったパンを見つめると、それを二つにちぎって片方を持ち上げた。


「しゃるーのぶん」


 いつの間にか戻っていたニーナはその様子を見て微笑む。


「ふふ、優しいのね。でも、まだあるからそれはあなたが全部食べていいのよ」


 ニーナの言葉にステラは『そうなの?』といった感じで首をかしげながらシャルルを見た。


「私は私の分を食べるから、これは全部お前の分だ」


 ステラはシャルルが干し肉を食べなかった事に気づいている。


 だからまた自分の分を食べさせようとしているんじゃないかと考えパンを食べるのをためらうが――シャルルがニーナからパンを受け取るのを見て笑顔で頷いた。


「うんっ」


 シャルルの分があると知って憂いがなくなったステラは、がっつくようにパンを頬張る。だが勢い良く食べたせいで喉に詰まらせてしまった。


「んっ! んー」


「たいへん! はい、お水」


 レティがあわてて水の入った木のコップを持って来る。ステラはそれを受け取ると一気に飲み干し、人心地つくと目の前に居るレティを見て目を輝かせた。


「しるふぃ!」


「わっ! なに!?」


 ステラはレティを思いっきり抱きしめる。急に捕まえられたレティは驚き体をよじって逃げようとするが、ステラはそんな事お構いなしだ。


「ニーナ! たすけてニーナ!」


「こらっ、乱暴しちゃ駄目でしょ」


 助けを求められ、ニーナはステラからレティを取り上げた。


「あー、しるふぃ……」


 ステラは懸命に手を伸ばすが、レティはニーナに抱きつきながらステラを見て『プンプン』といった感じに頬を膨らませる。


「しるふぃ……おこった……」


 レティの態度に困惑するステラを見てニーナは聞く。


「しるふぃって何?」


「えっとね、えっとね。しるふぃは――しるふぃ!」


 要領を得ない答えにニーナが首をかしげると、シャルルはステラに代わって答える。


「シルフィは私がこの子に買ってやった風のエレメンタルのぬいぐるみにつけた名前だ」


「ああ、そういう事ね」


 シャルルの返答にニーナは納得したように頷くとステラに言う。


「この子はレティ、シルフィじゃないわ。ぬいぐるみでもないから乱暴にしちゃ駄目よ」


「えっと……しるふぃはれてぃ?」


 ステラが首をかしげると、ニーナから離れたレティは腰に手をあてまた頬を膨らます。


「わたしはレティよレティ! シルフィでもなければぬいぐるみでもないの!」


「えっと……れてぃ?」


「そう、レティ。ちゃんと言えるじゃない」


 ようやくちゃんと呼ばれ、レティは満足げに頷き胸を張る。


「で、あんたはなんて名前なの?」


「えっとね。すてらは……すてら!」


 そんな二人のやり取りを微笑みながら見ていたニーナはついでとばかりに言う。


「あなたはステラって言うのね。私はニーナであの子はブラン」


「おうまさんがぶらん?」


 ニーナの視線を追いステラが尋ねる。


「そうよ。でも、あの子はただのお馬さんじゃないわ。ユニコーンよ。ほら、角が生えてるでしょ?」


「おおー、かっこいい!」


「ブルル」


 今までシャルルたちにまったく興味を示さなかったブランだったが、ステラに『かっこいい』と言われたのが嬉しかったのかステラの方を見た。


 パンを食べながら一連の流れを黙ってみていたシャルルも、ここは自己紹介の流れかと口を開くが――


「私は――」


「しゃるー!」


 シャルルが言い終わる前にステラが重ねた。


「あなたはシャルーね」


「あ、ああ」


 思わず肯定してしまったシャルルは、ちょっと違うんだがな……と思いつつ、大して変わらないからいいかと流す。


 そしてそのあとはたいした会話もせず、とりあえずシャルルとステラは分けてもらった食料を平らげた。

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