西の森 その4
シャルルたちが森に入ってから二度目の夜が明ける。
それはつまり森に入って三日目という事なのだが、一日目が深夜なので経過した時間はまだ一日半と言ったところ。
とはいえ食事もとらず休憩は軽く仮眠を取った程度。ほとんど寝ずに歩いているシャルルはもちろんの事、おぶられ寝てばかりのステラとて疲労はかなりたまっている。
いつになれば森を抜けられるのだろう……いっそフォースを使って駆け抜けるべきか? シャルルは一瞬そう考えるが、すぐにその短絡的な考えを振り払う。
確かにフォースを使えば早く移動できる。だが、それは走れば速いというのと同じ事で、無駄に体力を消耗してしまう。
目的地が近くはっきりしている状態ならともかく、あとどれだけ進めば良いかわからない状態でそれをやるのは自殺行為。魔術なら体力を消耗しないのだが、シャルルの使える魔術に移動用のものは無い。
食事と睡眠さえ取れれば、体力さえ回復すれば……そうすればもっと早く移動できるのに……。そうは考えるも無いものはしょうがない。
果実やきのこ、小動物などを見ては、焼けばいけるんじゃ……そんな誘惑に駆られるが、背中に感じるステラの重さとぬくもりに、万が一があってはいけないとシャルルは我慢してひたすら歩く。
そして、そろそろ限界かと思われた四日目の朝。ようやく森を抜け、秋らしく黄金色に輝く草原に出た。
前方に広がる草原は、草の丈が長いだけでなく起伏もあるらしく遠くまで見通せない。とりあえずシャルルはその草原をひたすら西に向かって進んだ。
しばらく進むとだんだん草の丈が短くなり、そして日の位置がだいぶ高くなった頃には自然とできたと思われる道に出た。
それが本当に道なのかはわからないが、そうだとしたら人里に繋がっている可能性も低くないだろう。そう考えシャルルは道なりに進む。
そしてしばらく歩いていると、遥か遠くに止まっている馬車が見えた。
馬車には幌がついていて、商人が荷物を運ぶのに使う感じのものに見える。
馬車の感じから荷物の輸送か行商人といったところだろうか。休憩中らしく馬は外され荷車のそばで草を食んでいた。
シャルルはもちろんの事ステラもここ数日ほとんど何も食べておらず限界は近い。
行商人なら食料を運んでいるかもしれないし、少なくとも自分用の食料くらいは持っているはずだ。金はあるし交渉すれば少しなら分けてもらえるかもしれない。
そう考えシャルルは馬車に近づいた。
だいぶ近づくと、遠くでは単なる白馬に見えた馬に角が生えている事に気づく。
いわゆるユニコーンという奴で、希少種であるそれは貴族が軍馬や馬車に使う事が多い。それを見て、もしかしたらこの馬車の持ち主は商人ではないのかもしれないな……とシャルルは思う。
本来なら知らぬ土地の未知なるものは避けるべきだが――この期を逃せば食料を入手する機会はもう無いかもしれない。
そう考えたシャルルは眠っているステラをおぶったまま、警戒しつつゆっくり馬車に近づいた。
馬車の周りには三つの気配がある。
一つはさっきのユニコーン。もう一つは馬車の持ち主であろう人と思われるもの。最後の一つはドラゴンやゴーレムに似た気配だが、それとは比べ物にならないほど小さな気配。
人らしきものからはフォースの力を感じるが、他の二つを足したとしてもシャルルの敵では無い程度。仮に戦闘になったとしても、ステラをおぶったままで十分対応できるだろう。
警戒を緩めずシャルルは馬車に近づく。すると彼の数歩先に一本の矢が突き刺さる。
「止まれ!」
シャルルが声の方に視線を向けると、そこには馬車の陰から半身を出して弓を構える緑髪のエルフがいた。
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