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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エクストラエピソード
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特別じゃない日 その1

 うだるような暑さの夏も過ぎ、少しずつ秋を感じるようになってきたある日の夜。


 シャルルは月極めで借りている宿屋の一室で、ステラと共に寝る前ののんびりとした時間を過ごしていた。


 洗濯物を干すために対角線上に張られたロープには、黒いワンピースと共にドロワーズ、キャミソールといった下着類、そしてこの部屋の光源であるライトの魔術が付与され光っている二枚のタオルがかけられている。


 その光に照らされながら、イスに座るシャルルは黙々と少し大きめな懐中時計のねじを巻く。


 これは寝る前にいつもやっている事で、これをやらないと時計が夜中に止まってしまうのだ。


 白いワンピース姿でぬいぐるみを抱きしめながらその様子をぼけーっと眺めていたステラは、急に何かを思い出したような『そういえば』といった感じの顔をすると言った。


「ねーねー、しゃるー」


「ん?」


「あしたはおべんきょーなしだよね?」


「ああ、そうだな」


 いつもステラは午前中にハンターギルドでソフィに魔術の基礎を習っている。


 但しこれはソフィにハンターの仕事が無い場合に限り、ある場合は休みだ。


 彼女に仕事があるかどうかは基本的に当日の朝にわかるので、とりあえずギルドに行き本人かいなければ受付に聞く。


 だが、明日は仕事だと既に聞いているのでギルドに行く必要はない。


「じゃーさ、じゃーさぁ」


「うん?」


「あしたはどーするの?」


「そうだな……」


 首をかしげるステラを見てシャルルは考える。


 最近ちゃんと勉強がんばってるし、たまにはご褒美をあげる必要があるんじゃないだろうか。


 となるとステラの喜びそうな事は――


「中央広場にでも行くか」


「おおー! じゃー、ぼーる! ぼーるであそぶ!」


 興奮気味に言うステラにシャルルは優しく微笑む。


「そうしよう」


「やくそく!」


「ああ、約束だ」


「やったー!」


「じゃあ、明日のためにそろそろ寝ようか」


「はーい」


 ボール遊びはギルド裏の鍛錬場で良くやってやってるんだが……広場だとまた違うのか? 広いと開放感があるからだろうか。


 嬉しそうに笑うステラを寝かしつけながらシャルルはそんな事を考えていた。





 翌日の朝。就寝時とは逆の方角を向いて寝ていたステラは半身を起こすと辺りを見回す。


 そして閉じられた木製の窓の隙間からかすかに差し込む薄い光りを見て、ぼんやりと朝である事を認識する。


 目を覚ましたあともしばらくぼけーっとしながら、きょーのあさごはんはなんだろー? などと考えていたが、中央広場に行く約束をした事を思い出すと嬉しさと興奮で顔をほころばせた。


 いつものギルド裏の鍛錬場ではない。今日は中央広場という広い場所で思いっきり走り回ったり、ボールを投げっこできるのだ。


 寝るときは隣だったが今はベッドの端で落ちそうになっているぬいぐるみ。それをつかんで抱き寄せるとその頬にキスをしてステラは言った。


「おはよー、しるふぃ。きょーはいっぱいあそぼーね」


 ステラは体をゆっくりと左右に揺らしながら広場でする事を想像する。


 追いかけっこしたり、ボールで遊んだり……露天でおいしいものを買ってベンチでシャルルのひざの上に座って食べたり……。


 想像の中ではステラとシャルルだけでなく、宙に浮いたシルフィもそれに参加していた。


「しゃっるー!」


 ステラはしばし妄想に浸ったあと、隣のベッドでまだ寝ているシャルルを起こそうとダイブする。


 シャルルはその気配を察するが、いつも通り避けたりはせず素直に受けると半身を起こした。


「朝から元気だな……」


「えへへ。おはよーしゃるー」


「ああ、おはようステラ」


 ステラがシャルルの頬にキスをすると、シャルルもステラのおでこにキスをする。


「きょーはひろば。ひろばであそぶの」


「そうだったな」


 興奮気味に言うステラにシャルルはそう答えたが、閉じられた窓の隙間から差し込む光はやや弱く感じた。


 今……何時だ?


 テーブルの上に置いた懐中時計を見ると時刻は7時半。早朝と言うほどの時刻ではない。


 にもかかわらず外がそれほど明るくないという事は――


 木の窓を開け外の様子を見るとシャルルは言った。


「広場は中止だ」

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