最高貴族会議 その3
ラーサーの責任がない事とシャルルの無罪が確定し、審議は次の段階に移る。
今後の対応とマリオンの処分だ。
警察権を持たないマリオンがエトワールを連れ去ったのは『誘拐罪』。
証拠もそろっているため無罪を主張するのは無理がある。
そして事件が起きたのがマギナベルクである以上、領主であるラーサーの意見が最も尊重されるのは間違いない。
彼は自分を断罪しようとしていたマリオンに厳しい処分を下そうとするはずだ。そう、その場の誰もが思ったが――
「『真王血統維持法』には『真王の血筋に免罪符を与えるものではなく、その者が法に背く行動をした場合に限り法に基づく制裁が許される』とある。私は――」
ラーサーの発言が終わる前に、真っ青になったシーラン大公が割って入る。
「ま、まってくれ。マリオンの行動は確かに越権行為であったかもしれんが理由あっての事。死者も出ていないのだから厳しい処分を与えるほどではないはずだ」
彼があわてるのも無理はない。
誰もが厳しい処分を訴えると思ってはいたが、ここまでとは考えもしなかった。
『真王血統維持法』は真王の血を引く者を絶やさないための法。その条文を出してくるという事は、つまり極刑を考えているという事だ。
「余もそこまでの罪とは思わぬが……マギナベルク公はなにゆえそのような考えを?」
「マリオン卿の身勝手な行動により、今、リベランドは滅亡の危機にあると言っても過言ではないのです。それを回避するためにできる事はやるべきでしょう」
「滅亡の危機?」
ラーサーの返事に王をはじめ大公爵たちは首をかしげる。
それを見てラーサーはため息に似た息を吐くと言った。
「マリオン卿は公子。 リベランドでも王に次ぐ権力を持つ大公爵の継承権を所持する最高峰の権力者。 その彼がシャルル――英雄、紅蓮の竜騎士を敵に回したという事は、国が彼と敵対しているのと同じ意味になる。 つまりこの国は現在、いつ彼から攻撃を受けてもおかしくない状況だ。 ドラゴンすら容易く葬る彼がその気になれば中小都市はもちろん、大都市ですら守りきるのは困難。 襲撃を繰り返し受ければ都市は滅び、大国リベランドといえどいずれは滅亡の憂き目にあう」
ラーサーの言葉に王や大公爵たちにもようやく現状が飲み込めてくる。
身内を国の高位権力者に誘拐され、それを助けたがために無実の罪で追われたシャルルの心情を察すれば、彼がリベランドに恨みを持つのは当然の事。
それに今でもリベランドが彼やエトワールを狙っていると考えているとしたら、自身や身内を守るためにリベランドを滅ぼそうと考えてもおかしくはない。
「リベランドはドラゴンすら凌駕する英雄を敵に回してしまったというのか!?」
オブシマウン大公は思わず声を上げる。
英雄が敵になる――そんな想像した事もなかった事態に皆、動揺を隠せない。
「だ、だが……わが国には英雄公と呼ばれるマギナベルク公がいるのだ。紅蓮の竜騎士とて簡単に手出しできぬのでは?」
フリーダン大公の発言に皆がラーサーを見る。
だが、彼の答えは期待とは違うものだった。
「私のいるところに正面から来るのなら対処は可能かも知れないが、甚大な被害は免れないだろう。それに奇襲を仕掛けられたり、私の手の届かない場所……例えばフリーダンを攻撃されれば対処はほぼ不可能だ」
ラーサーの答えにフリーダン大公は青くなる。
確かに襲撃するのなら、脅威となるラーサーを避けるのは当然の事。となると彼のいるマギナベルクから最も行くのに時間がかかるフリーダンやその周辺都市は絶好のターゲットだ。
対魔導帝国の防衛最前線であり軍備も充実しているとはいえ、英雄に奇襲を仕掛けられれば対処のしようがない。
「どうすれば……」
皆が頭を抱える中ラーサーは言った。
「それを回避するために彼と敵対している者を処分し、リベランドに敵対する意思がないという事を示す必要がある。 それに彼がいた事でマギナベルクは守られていた。 私が不在のとき、彼がドラゴンを倒してくれたおかげでマギナベルクは一人の犠牲も出さずに済んだ。 だが、今後同じ事があれば犠牲者が出るのは避けられないだろう。 マリオン卿の身勝手な行動により、今後、失われずに済んだはずの命が奪われる事になる。 そもそも最初から私にエトワールについての報告があれば彼と敵対する事などなかった。 マリオン卿がなぜそうしなかったのか、それをここではあえて言わないが――おおよそ察しはついている。 確かに現在明らかになっている罪状だけを見ればそこまでのものではないかもしれん。 だが、それによって引き起こされた問題はあまりに重大だ。 その観点から考えれば私は極刑であっても厳しすぎるとは思わない」
「マ、マギナベルク公。相応の賠償はする。だからそれだけは……それだけは……」
シーラン大公は机に額をつけるほど頭を下げ懇願し、マリオンは土気色になった顔を下に向けたままかすかに震えている。
「確かにマギナベルク公の言う事にも一理ある。マリオン卿の責任は重大だろう。だが貴公の言う通り、少なくとも現在明らかになっている罪はそこまでのものではない。恐らく起きるであろう事や、まだ起きていない事で極刑はさすがにできないのではないか?」
王の言葉にラーサーは少し笑みを浮かべると言った。
「陛下のおっしゃる通りです。確定していない事で罪に問うというのは難しいでしょうし、私も極刑まで望んでいるわけではありません。ですが最低限、リベランドが英雄、紅蓮の竜騎士に敵意を持っていない事は示す必要があります」
「では貴公はどうすれば良いと考えている?」
王をはじめ、頭を下げているシーラン大公と下を向いたままのマリオン以外のそこにいる者がラーサーを見た。
その視線を真っ直ぐ受けながらラーサーは言う。
「大公爵の継承権、つまり公子の権限を剥奪するのが良いと考えます。 今回の件で権限を剥奪したという事実はマリオン卿のやった事にリベランドは賛同しないという意思表示となり、国はシャルルに対して敵意が無いという意思表示にもなるでしょう。 彼も自分や身内に敵意を持たない相手、大国リベランドに対し戦いを挑むほど愚かではないはずです。 無論、極刑にした方が効果は高いでしょうが……さすがにね」
その後、ラーサーへの反対意見は出ず、マリオンの公子としての権限を剥奪するという事で事態の収集をはかる事となった。
不満はあれど拒否した場合『ならば極刑に』となる可能性がある以上、シーラン大公はもちろんマリオンも反対できない。
シーラン大公が反対しなかったのには、そもそもマリオンがシーランを継ぐ目がかなり薄かったという事情もある。
それから王の提案でラーサーにも自分の領内における遺跡調査権が与えられる事になった。
そもそもが法の不備であり、解釈次第では真王の血筋でないラーサーにも調査権があるとも取れるものだったのだが、今回それが正式に認められたという形だ。
それと同時に王は今回の事件の発端となった侘びとして、法により一部を献上する事が義務付けられている遺跡から発見されたものの権利を今回は放棄すると宣言。マリオンを派遣した事により同様に一部を受け取る権利を有していたシーラン大公も、それに乗っかるように侘びとして権利を放棄した。
二人とも侘びという形を取ったが、あの遺跡はまだシャルルやエトワールとなにかしらの係わりがある可能性があり、この件にこれ以上係わりたくないという心情からである。
そして最後に決議が行われ、今回の会議で話し合われた事は全会一致で決定。シャルルの処分解除とマリオンの処分は即日リベランドの全都市に公布された。
今回の話はいかがでしたでしょうか?
会議で一人が発言し、それを周りが黙って聞くという状況であるため、長文をうまく分割できませんでした。
会話文の分割や「」中に段落をいれたりはしたくなかったので、あまりに長い場合は『。』の下にスペースを入れるという方法を取っています。
かえって読みづらいとか、割と読みやすかったなど、ご意見を『感想』の方にいただけないでしょうか?
アドバイスやご指摘はもちろん、面白かったとか、いまいちだったなどの一言だけでもご感想をいただけたら嬉しいです。
お読みくださりありがとうございました。
次回はシャルルとステラの日常を書いたエピソード『特別じゃない日』の『その1』を投稿します。